第40話 お買い物デート その2
俺とリナは、服屋の前に立っている。今、俺が持っている服は、地球から着てきた服と、異世界でもらった普段着の2着だけだ。これから旅をするのに少なくとも、もう1着はほしいところだ。
「これはこれは、勇者様。早速のお越し誠にありがとうございます。」
揉み手でもする様子で現れたのは、この服屋の店主と名乗る小太りの男。
なんだか俺のこと知っているみたいだが?
「昨日の面会の折りのご来店の約束を早々にお守りいただけるとは、夢にも思っておりませんでした。で、本日は何をお買い求めに?」
あぁ、昨日面会した商人のうちの1人だったか。それにしても、俺は来店の約束なんかした覚えはないのだが? まぁ、適当に相づちを打ってたからなぁ。
「服を1着欲しいと思って。」
「どのようなお召し物がご所望でしょうか。」
「動きやすくて、丈夫な感じが良いかな。そうそう、今、着ている革ジャンみたいな感じのはないかな。」
「カワジャンでございますか? カワジャンはよく存じ上げませんが、今お召しの物ということは、獣や魔獣の皮を鞣して作った物と言うことでよろしいでしょうか?」
「そうだね。軽くて丈夫な物なら何の革でも構わないから、適当にいくつか見繕ってくれないかな。」
「畏まりました。少々お待ちくださいませ。」
店主は、そそくさと店の奥に引っ込んでいった。
話を黙って聞いてたリナが声をかけてくる。
「なに? 革ジャンがいいの? 手入れが大変じゃない?」
「そこはそれ、何とかするよ。俺も、そのうち生活魔法覚えるつもりだしさ。」
「え〜? 勇者が生活魔法? どうせ魔法覚えるなら攻撃魔法とか回復魔法の方が良いんじゃないの?」
「回復魔法は、覚えたいな。でも、攻撃魔法より生活魔法の方が俺にとっては優先順位が高いよ。」
「変わった勇者様だこと。」
「といっても未だMP0の俺が魔法のことを口にするのは烏滸がましいけどな。」
リナとそんな会話をしていると、店の奥から店主が革の生地のような物を両手いっぱいにかかえて戻ってきた。
「勇者様。大変お待たせいたしました。」
店内にある大きめのテーブルの上に、革を置きながら店主が言う。
それを見て俺が
「これって、生地じゃないの?」
「はい。革の生地でございます。こちらが牛革、これは、羊、こちらはワイバーンの腹、これが……」
「あの、店主? 生地からと言うことはオーダーメイドって事ですか? 革ジャンのオーダーメイドなんてめっちゃ高くなるんじゃないんですか? しかも、ワイバーンって……。」
そもそも、ワイバーンの革なんて固そうなんだが服を作るのに適してるのか?
「いえいえ。お代は生地代だけで結構でございます。勇者様の服を誂えることができるだけで光栄でございますから。」
あぁ、ここも勇者御用達の店とかってキャッチコピー付けるのかな? まぁ、安くなるんだったら良いか。
「安くしてくれるのは結構だけど、ヒデオは近いうちに王都に行くのよ。オーダーメイドで作っている時間は無いわ。どれくらいでできるものなの?」
ちょっと高飛車な雰囲気を醸し出しながらリナが言う。
「通常は30日ほどお時間をいただきますが、特急で作らせますので15日ほどで仕上げられると思いますよ。」
リナと目が合う。約2週間か。確実にそれよりは前にアガルテを出立することになるだろうな。となれば、オーダーメイドはないな。リナも同じ意見のようだ。
「いや。そんなには待てないよ。少なくとも2,3日で王都に向かうことになるだろうから。」
「そうですか……。」
意気消沈する店主。きっと、勇者御用達のキャッチコピーが使えないのが残念なんだろうな。
「なにか、既製品でないの?」
「革を使用した上着というのは、そんなにでる品物ではないので当店では基本、オーダーメイドになってしまいます。……あ、そういえば革製の外套ならございますが。」
そう言いながら、店主が持ってきたのは真っ黒い革のロングコートだ。
「コートか。形は悪くないなぁ。」
そう言えば、この世界には季節はあるのか? 普通に快適だったからあんまり気にしてなかったけど。
「リナ。異世界の季節はどうなってるの?」
「日本みたいには、はっきりとはしてないけど一応四季みたいなものはあるわよ。今は、秋って感じかな。これから、少しずつ寒くなってくるわ。それに、王都はここよりも少し寒いからコートって選択は有りだわね。」
「そっか。それじゃぁこれ候補に入れておこうか。」
「それよりも、一度着てみなさいよ。」
「え〜? 別に良いよ着なくても。」
「だめよ。服はちゃんと着てみなきゃ。ほら。」
リナが俺の革ジャンを脱がそうとする。
「いいよ。自分で着られるから……。」
「そんなに恥ずかしがらなくても良いのに♡」
「また、そういう顔する。」
といいながらも、悪い気はしない。なんだか楽しい。
俺は、革ジャンを脱いで革のロングコートを羽織ってみる。
羽織った感じでは思ったほど固くない。
「あら。結構似合うじゃない。」
「そう? 店主。このコートいくらなの?」
「10万アウルムでございます。」
「結構するなぁ。でも革だしそんなものかな。」
「いえいえ、勇者様ですので。特別価格でのご提供でございますよ。」
「え〜?! じゃあ本当はもっと高いって事なのか……。ところで、これ、なんの革なの?」
「はい。これはワイバーンの革を使用しております。」
でた! またワイバーン。異世界素材だね。こうなると、俺には全く判断が付かないよ。どうなの? って目でリナに聞く。
「ワイバーンだと固くて動きにくいんじゃないの?」
リナが店主に聞く。リナもワイバーンの革に関してはそれほど詳しくないようだ。
「これは、ワイバーンでも小型の部類になるパルウムワイバーンでして、しかもその子供の腹の革を使用しておりますのでワイバーンの革の中ではかなり柔らかい物でございます。しかも、他の革に比べて防御性能にも優れております。」
なるほどね。どうやら革という物は大きい物ほど固くて丈夫になり、小さい物ほど柔らかくて服に適している物になるそうだ。ちょっと高い買い物のような気もするけど、これから寒くなるって言うし旅するのにちょうど良いかもね。それにしても、もうちょい詳しい情報ないかなぁ。そんなことを思いながら、ワイバーンのコートをまじまじと眺めていると。
『条件を満たした為
スキル『鑑定識眼』を取得しました。』
なんか突然テキストが目の前に現れた。あ、スキルを得たのか。『鑑定識眼』ようは『鑑定』スキルなんだな。そういや、ピロン♪ って言わなかったな。ちゃんと設定が機能してるって事だ。代りに文字が出たけど……。
俺は、改めてワイバーンのコートを意識して見てみる。
ーーーーーーーーーーーーーー
【パルウムワイバーンのコート】
パルウムワイバーンの子供の
革を使用したコート。
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鑑定ステータスが表示された。先程店主が言ってた情報以外何も得るものが無い。っていうか、逆に情報少なすぎ……。ま、どうせレベル1だろうから仕方がないか。でも、これで、店主の言うことが正しいことは分かったな。
俺は、コートから目線を上げてリナを見る。
「いいんじゃないかしら。」
「リナにそう言ってもらえると、踏ん切りがつくな。それじゃ、これを貰います。」
「ありがとうございます。今日、このまま着てお帰りになりますか?」
「う〜ん。今はそんなに寒くないし持って帰るよ。」
「それでは、要塞城までお届けいたしますが?」
お? そんなセレブなサービスもあるのか。普段の俺なら断りそうな申し出だけど、まだリナと買い物を続けたいし荷物になるのもな。
「それでは、お言葉に甘えてお願いします。」
こうして、俺は予定外ではあったがワイバーンの革で作ったコートを購入した。その他、普段着や下着など必要そうな物、それに戦闘でも使えそうなインナーをリナに見繕ってもらった。もちろんすべて、要塞城へ届けてもらう。勇者割引とでも言うのだろうか。結構買い物したのに合計で12万アウルムちょうどであった。
リナのおすすめの店で遅い昼食をとった後、色々店を廻りながら、旅に必要になりそうな細々した物を買い求めた。リナとの買い物はとても楽しかった。まだ出会って数日だというのに、随分前からの知り合いのような気がする。とっても不思議な感覚だ。これも、同郷だからだろうか。
楽しい時間ほどあっという間に過ぎてしまうものだ。気がつけば、沈みかけた陽に照らされた石畳の道路が黄金色に染まっていた。
もっと色々買い物シーンを書いていたのですが、長くなりすぎたので大幅カットしました。
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