第41話 公爵の企み
11/14 一部訂正しました。
朝、目が覚めると横にいるはずのリナがいなかった。そう言えば、朝から用事があるって言ってたな。
俺はまだリナの温もりが残っているベッドに暫く横たわりながら考える。
それにしても、昨日のリナは大胆だったな。あんなところをあんなふうにして、○○で××だったし、何よりも声がかわいいよな。と、昨日のリナとの情事を思い出しながらニヤニヤしていると。
コン・コン ドアをノックする音が聞こえる。
「どうぞ。開いてるよ。」
「おはようございます。勇者様。」
入ってきたのはいつものお付きのメイドだ。そう言えばこの娘の名前なんだっけ? かわいいのだが相変わらずの普通の服だから、かわいさ半減だよな。もったいない。
「おはよう。どうしたの?」
「朝早くから申し訳ございません。公爵様が勇者様をお呼びでございます。」
「ベルナドッテ公爵が? なんだろう。」
俺、何かしたっけ? 公爵にこんな朝早くから呼び出されるようなことは何もしてないと思うけどな。
ちょっと嫌な予感が脳裏を掠めたが、とりあえず行かないわけにはいかないので俺はベッドから起き上がる。
「着替えたら行くよ。どこに行けば良いの?」
「公爵様の執務室までお越しいただければ……。あの、場所はおわかりになりますか?」
「いや。ごめん。わかんないわ。つれてってくれる?」
「畏まりました。それでは、私は外でお待ちしておりますのでご準備くださいませ。」
そう言って、メイドは部屋から出て行った。
なんだろうな? 心当たりがとんと浮かばない俺は、ベッドのそばに脱ぎ散らかしていた服に手を伸ばす。
「あぁ、昨日買った服の方が良いか。」
そう、独り言を言いながら、昨日服屋から届けられたばかりの服をとり袖を通すと、同じく昨日買った黒のワイバーンのコートを羽織って廊下に出た。
「おまたせ。じゃ、行こうか。」
そうメイドに告げると、メイドが歩き出したので俺はその後をついて行った。
☆
「うむ。来たか勇者。」
「公爵様。おはようございます。」
「あぁ。……それでだな。来てもらったのは他でもない。おまえに仕事だ。」
「!」
え? 何言ってのこの人。まさに頭の中に「!」が浮かんだよ。ビックリマークだよ。感嘆符だよ。エクスクラメーション・マークだよ。唐突に何言ってんだろ。マジ、自分勝手なおっさんだな。
俺は至って冷静に口を開く。
「公爵様。私は王都より召喚されておりますので、そろそろアガルテを立つ準備をしなければならないのですが……」
「わかっとるよ。しかし、そんなに急がなくとも良いじゃろう。で、仕事というのはな、ゴブリン退治だ。」
へ? 何勝手に話進めてるんだよこのおっさん。しかも、ゴブリン退治? 意味わかんないんだけど。
「王都まで馬でも数日かかると聞いています。それに、ゴブリン退治なら冒険者にでも依頼すれば良いんじゃないですか?」
俺はいらだちを隠すことなく公爵にそう言う。聞く人が聞けば無礼な物言いになっていただろう。だってこのおっさんむかつくんだもん。
それでも公爵は気にも留めぬ様子で話を続ける。
「なんだ。おまえは人が困って助けを求めてきておるのに、放っておくのか? 勇者ともあろう者が。」
「そういうわけではないのですが、別に私でなくてもいいんじゃないですか?」
「その村の者たちが、勇者に助けて欲しいと言ってきているのだ。まさか、嫌なのか?」
「嫌というわけではないですけど……。ゴブリン退治ならもっと適役がいるのではないかと思います。私はゴブリンについて詳しいわけでもありませんし。」
「そうか。わかった。『勇者殿は多忙ゆえ、村の民ごときの願い事は相手にしてはおれん』と伝えておくとしよう。ご苦労であったな。下がって良いぞ。」
イヤイヤイヤそんなこと言ってないでしょ? それに、これって完全に俺が悪者だよね。高慢ちきな自己中勇者のイメージまっしぐらじゃん。こいつマジウザいな。
「私は、別にそのようなことは言ってませんが。」
「うむ。では引き受けてくれるのだな。」
「いや、そういうわけでは……」
「ジェーン。クレッグに勇者は仕事を引き受けてくれたと伝えてこい。」
「はい。畏まりました。」
そういって、メイドが部屋を出ようとする。
「ちょっと!……俺はまだやるとは言ってませんよ。」
「なんだ。はっきりせんヤツだな。どうなんだ。村の民を見捨てるのか見捨てないのか、どっちだ?!」
くそ! 問題をすり替えやがって、そう言われると俺のとれる選択肢がなくなっちまうじゃないか。
「見捨てるつもりはありません。」
「なら、良いではないか。ジェーン。」
公爵は、顎でメイドに合図する。それをみて、一度部屋にとどまっていたメイドは軽く会釈をして部屋を出て行った。
してやられた。公爵に良いようにあしらわれてしまったな。公爵の意図するところが何であるかは分からないし、ヤツの思い通りになったのはかなりしゃくだ。けれど、王都に行く必要がなかったら、村の人が困っているのは確かなんだろうから、端から引き受けてただろう。しゃくだけど、ここは引き受けておくか。
しかし、俺も意志が弱いよなぁ。嫌な仕事ははっきり断れってゴン太先輩にもよく言われてたもんなぁ。
それにしても、あのメイド、ジェーンって言うんだな。覚えとこ。
☆
勇者殿。彼が村までの案内役を務めますトマスです。
「ジョン・トマスでございます勇者様。よろしくお願いいたします。」
「よろしく。……って、これだけ?」
俺が公爵の家臣クレッグに、案内役として紹介されたのはトマスと呼ばれた若い兵士だ。それは別に良い。男なのも、若いけど女じゃないのも、それは別に良いのだが、問題はその人数である。
どう見てもそこにいるのはトマス1人だけ。
「え? 2人で行くの?」
俺は思わす口に出していた。
「クレッグさん。村にゴブリン退治に向かうと聞いたのですが?」
「そうですが、何か問題でも?」
「いやいやいや。問題って言うか少なすぎない? だって、2人だよ。」
「あぁ、申し訳ありませんな。退治するのは2人ではありませんよ。」
「だよね〜。いや、ビックリしちゃったよ。だってさ、いくらゴブリン退治だからってたった2人で行くなんていくらなんでも無謀だよね。」
「退治なさるのは勇者殿お一人です。」
クレッグが真顔でそう言った。
「へ? いや、今なんて?」
「ですから、退治するのは勇者様お一人だと申しあげたのです。」
「いや、だってトマスは?」
「トマスは、案内役でございます。戦闘の経験などまだありませぬ故。」
「はあ?」
何だよこいつら。これでも俺は一応勇者だぞ? もうちょっと扱いようがあるってもんじゃないのか?
その時、俺の脳裏にリナの言葉が浮かんできた。
『そうね。ここの国の人たちは、転移者はモノだと思っているわ。自分たちの都合の良い道具ってとこね。』
リナが言っていたのはこういうことか。たとえ勇者であっても転移者がモノ扱いなのは変わらないんだな。こりゃ心して対応しないとブラック企業並みに働かされるぞ。
はぁ。ヒデオは深いため息をつきながら、今更ながらにアガルテに来たことを後悔し始めるのだった。




