第42話 ゴブリンの話
クレッグから無謀とも言えるプランを聞かされた俺は、暫し考える。
先日の会戦の感触からすると、数十匹のゴブリンくらいなら何とか対処できそうな気はする。しかし、あの時相手にしたのは、多くて一度に3匹程度だった。しかも、俺以外にも多くの人がいた。もし、数十匹が一斉に襲って来たら、流石に1人では無理かもしれない。そもそも、俺はゴブリンに関しては、地球のファンタジー小説で得た知識くらいしかない。あれだって、色々設定があってその生態は一様じゃなかったしな。
「クレッグさん。百歩譲ってゴブリン退治を1人でやることにしたとしても、俺はそれほどゴブリンに詳しくはありません。だれか、ゴブリンに詳しい人間に同行して貰えませんかね。」
そう俺に言われたクレッグは、然もありなんといった感じでしばし考え込む。
「いや。勇者殿。申し訳ないが同行者はトマスのみしか許可されていない。」
マジか。こいつらどこまで嫌な奴らなんだ。許可って何だよ許可って。アイツだな。
俺が隠すことなくその感情を表に出した表情をしていると。
「しかし、貴殿が仰ることもまた然り、そこでだ。ゴブリンに詳しい者をここに呼ぶことにしよう。その者からゴブリンの情報を得れば良いのではないか?」
要は、詳しい奴を呼んでくるから良く話を聞いてくれって事かよ。一緒に行ってくれたって良いじゃないか。と言っても、無理な物をねだっても埒があかないだろうな。
「分かりました。ありがとうございます。それで、お願いします。」
俺がそう答えると、クレッグは1人の男を呼びつけた。
彼の名はジョン・トールキン。意外とがっちりとした体の色黒の青年だ。クレッグによると冒険者をしていたが、傭兵として参加した先日の会戦での活躍が認められて、正規の兵士として要塞城に雇い入れられたばかりだという。ほぼ現役の冒険者か。それなら有益な情報が得られるかもしれないな。それにしてもこいつもジョンなのか。
俺はトールキンと軽くあいさつを交わすと、早速本題に入る。
「これから、ゴブリン退治に向かうに当たって、ゴブリンの生態やら気をつけるべき点を教えてもらいたいのだが。」
「ええ。わかりました。ところで勇者殿はどの程度ゴブリンのことをご存じですか?」
元冒険者だからもっと粗野な話し方をするのかと持ったが意外とまともだな。まぁ、そうでもなければ正式な城付きの兵士にはなれないのかもしれないな。そんなことを考えていたら。
「勇者殿? 勇者殿!」
「あ、あぁ。すまない。ゴブリンだな。俺が知っているのは家畜や女子供をさらったり農作物を荒らしたりして人に害をなす魔物で、それにはゴブリン戦士、ゴブリンシャーマン、ゴブリンロードなど、色々種類がいる。って事ぐらいだ。」
「なるほど、全くの無知というわけではないのですね。」
俺は、トールキンを見る。
「失礼しました。決して馬鹿にしたわけではないのです。逆に感心したのですよ。」
「ならいいんだけど。」
俺はそうぶっきらぼうに答えてみせた。どうも、こっちの人たちとの会話はスムーズに行かないな。
「勇者殿の認識は大体合っています。付け加えますと、ゴブリンにはゴブリンキングと呼ばれる者がいます。その名の通りゴブリンの王です。といっても国家を形成しているわけではなく、大きな群の統率者です。ゴブリンは基本は数体の群れで活動します。統率者のいない群れは大して怖くはありません。1匹1匹の力も弱いですしね。しかし、統率者がいるとなればそれはまた別の話となります。」
「どう変わるんだ?」
「統率者がいるゴブリンの群れは、組織的な戦い方をしてきます。弓矢を使ったり罠を仕掛けたり戦術的にもそれなりの戦い方をします。統率する者が強力であればあるほどその力も強力なものとなっていきます。」
「群れを統率するのはゴブリンキングだけか?」
「いえ。ホブゴブリン、ゴブリンシャーマン、ゴブリンロードそしてゴブリンキングです。強さもだいたいこの順で強くなっていきます。」
「それ、ほとんどじゃん。」
「そうですね。でも、普通のゴブリンと違ってこいつらは数がそんなに多くありません。特にゴブリンキングに至っては数十年に一度確認されるかどうかの個体です。先日の会戦でゴブリンロードが確認されましたが、あれも希有な例です。ですから、ゴブリンロートやゴブリンキングに率いられた群れに出くわすのは、運が悪いと言えるかもしれませんね。」
「それじゃあ、対処の仕方を教えてくれ。そいつらは、どうやって退治したら良いんだ?」
「あの。勇者殿? 先ほどクレッグ様より勇者殿1人で退治に向かうと聞いたのですが、それは本当ですか?」
「あぁ。本当だ。だから対処の仕方を知りたいんだ。」
「そうですか……。申し訳ありませんが、対処の仕方はありません。」
「え? ないって? 一体どういうことだ?」
「統率者がいないゴブリンなら例え数十匹いたとしても勇者殿なら退治できるやもしれません。しかし、統率者がいるゴブリンの群れに1人で対処するのはかなり難しいと言えるでしょう。もし、その統率者がゴブリンロードであったとしたら、1人で行くのは自殺行為です。冒険者なら絶対にしない行為です。」
マジか! 俺ちょっとゴブリン退治舐めてたぞ。この間の感じからすると結構やれるんじゃないかと思っていたんだが、今の話聞くと、もし統率者がいたらマジやばいじゃん。これって、今更断れないよね。
クレッグを見てみる。
「勇者殿はそれでもお一人でゴブリン退治に行かれるとおっしゃっている。それこそが勇者の勇者たる所以である。」
イヤイヤイヤ俺そんなこと一言も言ってないし!
「そうですか。勇者殿がそこまでおっしゃるのなら私には止める権利はありませんね。」
イヤ! 止めてよ! お願い! 止めてください!!
なんだよこの流れ。きっと断れないんだろうな。仕方ない。切り替えよう。
「何かないの? 例えば、そのゴブリンロードが率いているかどうかだけでも見分けられるとありがたいんだけど。」
「そうですね。それならありますね。」
「本当か? 是非それを教えてくれ。」
「もし、群れの中にゴブリンシャーマンがいれば、まず間違いなく巣穴の入り口に動物の頭骨が飾られているはずです。ゴブリン・トーテムと呼ばれるそれは、ゴブリンの強い群れの象徴です。ゴブリンロードや万が一ゴブリンキングが率いていたとしても、その中にゴブリンシャーマンもいるはずですから、その場合もゴブリン・トーテムは置かれているはずです。」
「ということは、逆にゴブリン・トーテムが入り口に置かれていない巣穴は統率されていてもホブゴブリンってことになるのか。」
「その通りですね。ホブゴブリンならきっと勇者殿なら大丈夫でしょう。先日の会戦でのご活躍は私も聞き及んでおります。」
「じゃぁ、そのゴブリン・トーテムの有無が作戦実行か回避かの判断基準となるんだな。」
「そうですね。」
トールキンがそう答えところでクレッグが口を挟む。
「勇者殿の作戦に回避の言葉はない。」
おまえが勝手に決めるなよ。俺はそう思いながらもここでは口に出さない。どうせ言っても面倒なことになるし、最終的には現場の判断が一番大事だからね。
それにしても、トールキンと話ができて良かった。だいぶんイメージができたな。ホブゴブリンはまだ見たことないけど、ゴブリンシャーマンはこの間の会戦でも倒したしな。ロードやキングが出てこなければ何とかなりそうだ。いざとなれば、一旦あきらめて増援を願い出れば良いことだしな。
トールキンの話を聞いた俺とトマスは、馬を使って目的の場所まで移動することになった。
さて、どうなることか。まぁ、何とかなるさの精神で頑張ってみますか。そう考えながら、俺が馬を走らせ始めた時、太陽は俺の頭上高くから照らしつけていた。
明日は、6時、12時、18時に一挙3話投稿の予定です。
今後もどうぞよろしくお願いいたします。




