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第26話 出陣の朝

 翌朝、日の出前。俺は出陣の準備をしていた。


 と言っても、装備は軽めの防護服だ。魔物の皮をなめした胸当てに籠手くらいしか着けていない。魔物の胸当ては軽い割には、そこそこの強度があるらしい。


 重装な鎧は、慣れてなければかえって危ないと言われた。体術を使う俺としても、これの方が都合が良い。


 木刀ならまだしも刃の付いた剣は扱ったこともないので、武器庫から適当に持ってきてもらった軽めの片手剣を腰にぶら下げる。素材なんてなんだか知らない。どうせたいした武器(もの)ではないだろう。


 今のところ、使えそうな魔法も見当たらないので、地球(むこう)で培った体術か、異世界(こっち)で貰った勇者のポテンシャルで勝負するしかないようだ。


 正直ここにきて、ちょっと……イヤ、かなりびびってきている。

 子供の頃から、合気道を嗜んでいたし、若い頃はそれなりに喧嘩なぞもしていた。


 自分なりに腕にはそこそこ覚えがあるつもりだった。しかし、そこはそれ、スポーツと化した試合であったり子供の喧嘩であったりで、生き死にのかかった死合い(しあい)なんてものは一度もしたことがない。


 そんな俺を気遣ってか、リナは明るく振る舞いながら俺の準備を手伝ってくれている。


「俺、どんな戦い方したらいいんだろうな。」


「ヒデオは余り前に出ちゃダメよ。格好悪くても何でも良いからさ、後ろに下がって、できれば戦わないくらいが良いと思うわ。危なくなったら逃げても良いから、とにかく生きて帰りなさい。死んじゃダメよ。」


「そういうわけにも行かないんじゃないのか?」


「何言ってんの。死んだら元も子もないじゃない。ヒデオはこういった戦いは初めてでしょ? 格好つけて死ぬより、格好悪くても生きてた方が良いのよ。そもそも、勇者の力がどれくらいのものかなんて、だれにもちゃんとは分かってないんだからね。」


「勇者のことはあんまり分かってないのか? 今までの召喚勇者はどうだったんだ?」


「私もそれほど詳しいわけじゃないわ。でも強いのは強かったみたいよ。ただね……これは今でなくて良いわ。」


「なんだよ。そんな言い方したら気になるじゃないか。」


「う~ん。そうね。言いかけた私が悪いわね。……以前の勇者はね、どこに行ったか分からなくなってるのよ。」


「なんだそれ。行方不明って事なのか?」


「詳細は私も知らないけど、この300年で異世界(地球)から召喚された勇者はあなたを含めて4人ね。そのうち2人は行方不明なのよ。いつの間にか、いなくなってたらしいわ。」


「2人? じゃあ、残りの1人は?」


「1人は死んだはずよ。例のやらかした勇者よ。こっちの勇者と戦って最後には死んだって言われてるわ。」


「そうか……。それじゃぁどんな戦い方をしてたのかは分からないのか?」


「全く分からないわけでもないけど……なんでも、魔法じゃないすごい力を持ってたって話よ。とくにやらかした勇者は強かったみたい。」


「魔法じゃないのか。俺も今のところ魔法はダメっぽいしな。」


「転移者は、魔法が苦手な人が多いみたいね。そのかわりにスキルが付与されてるんだと私は思ってるんだけどな。」


「武器とかは? 異世界だと聖剣とか神剣とかあるんじゃないのか?」


「あるにはあるけど、それはこっちの勇者が使うことはあっても召喚勇者が使うってのは余り聞かないわね。」


「こっちの勇者?」


「あぁ、それも知らないのね。勇者には2種類あってね。召喚勇者と元々こちらの世界で生まれた勇者がいるの。こちらの世界の勇者には転生勇者も含まれてるみたいだけど。」


「なんだそれ。勇者ってもう既にいるのか! どこにいるんだ?」



「ここ、ベルグランデ王国に1人、隣のアルデス首長国に1人よ。」


「2人もいるのか!」

俺は驚いて思わず大きな声を出す。


「今、確認されている勇者は2人(ふたり)。あなたを入れると3人ね。」


「たぶん1人は、今、王都にいると思うわ。だから、ベルナドッテ公爵は、是が非でもあなたにここにいて欲しいと思っているはずよ。」


「その割には尊大な態度だと思うけどな。」


「あれは、もうどうしようもないわよ。……とにかく、ヒデオは無茶しちゃダメよ。ちゃんと生きて私の所に戻ってきて。戻ってきてからもっと色々教えてあげるわよ。」


「分かったよ。誰も俺の力なんて当てにしてないだろうし。いざとなったらスタコラサッサと逃げて帰るよ。」

何ともない風を装って、俺はリナにそう言う。


「うん。それで良いよ。」

そう言いながらリナが俺を抱きしめる。


「必ず生きてかえってね。ヒデオの異世界(こっち)の人生は始まったばかりなんだからね。」


「あぁ、分かってるよ。」

俺はリナに口づけをする。


 正直リナがいてくれて助かった。例え、それが一夜限りの関係であったとしても、今の俺を支えてくれているのは間違いなくリナだから。そうでなかったら、こっそりと抜け出して逃げてたかもしれない。


 ダンダンダン!

 激しくドアがノックされる。

「勇者殿。ご出立の準備の程は整いましたか? であれば、御出立を!」


 伝令役の兵士が、そう告げに来る。


 俺はリナに目を向ける。

「それじゃぁ、行ってくるわ。」


「ご武運を。」

リナはそう言いながら、俺の頬にキスをした。

本日12時に次話投稿します。


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