第21話 謁見
「おまえが勇者か。」
ここは城塞都市アガルテの要塞城。
25mプールが入るのではないかと思うほどの大きな部屋。床は総大理石で左右には等間隔でバロック調の柱が立っている。四方の壁には豪華な壁画が一面に描かれているが、一切窓がない。敵の侵入を防ぐために、窓はあえて設えていないのだろう。流石は要塞城である。
中央には太い帯状の真っ赤な絨毯が敷かれており、数段の階段を経た上段、そこにある豪奢な装飾を施した椅子。先程の言葉の主は、そこに鎮座していた。
そう。俺は今、アガルテの要塞城内にある謁見の間でベルナドッテ公爵に謁見している。
「うむ。思ったより華奢だな。ジェームズ。これは、本当に勇者なのか? 何というか、こう……通力が感じられんな。もっと、溢れんばかりの力が漲っておるのかと思っていたのだがな。」
「恐れながら公爵閣下。彼はまだ召喚されて間もない身。仰せのような姿になるには、しばしの時が必要ではないかと推察いたします。」
「そうかのぅ。まあよい。聞けばソリスの長老も勇者だと認めておるらしいではないか。
まぁ、奴がそう認めるのなら、ここは信用しておくとするか。」
ゆっくりと公爵が俺の方を見る。
「いずれは王都アクワに出向いてもらうとして、それまでは、我がアガルテに滞在すれば良かろう。部屋はこの城に用意してやろう。」
なんかこの人勝手に話進めちゃってるけど、俺の意思は関係ないのかね。
実際、異世界のことも、もっと知りたいから色々見て回りたいんだけどなぁ。
「ここに 滞在しろってことですか?」
そう俺が言うと、周りから騒めきが生じた。
公爵が決めたことに意見するやつなんかいないんだろうな。
「公爵様。勇者殿とて人の子。ここまでの移動でお疲れのことでしょう。
何か心や体を癒やすものが必要なのではありませぬか?」
ベルナドッテ公爵のそばに立っていた家臣のひとりが、見当違いのことを進言した。
「それもそうだな。おい、勇者。そちは何が望みだ? 金か? 女か? まさか名誉とかほざくのではあるまいな。」
ベルナドッテ公爵は、嫌らしい笑みを浮かべながらそう俺に問い糾す。
周りの臣下たちも、何やらニヤニヤしている。
「いえ。私は何も。……そうですね。
とりあえずは、ゆっくりのんびりと過ごしながらこちらの世界を見ていけたら良いかなと思っています。」
公爵はキョトンとした顔をし、臣下たちは互いに見合った。
何もいらないと言うとは思わなかったのだろう。
「ワハハハハハハ。勇者がのんびり過ごすとな?
おまえにそんな時間はありはしまいよ。」
いやいや。そっち?
おまえとか言われてもさぁ。あんた何様? まぁ、公爵様なんだろうけど。
俺、こいつ嫌いだ。
その時、謁見の間の大きな扉が開き、ひとりの臣下が足早に入ってきた。
「何用じゃ。」
ベルナドッテ公爵は、不機嫌な様子を憚ることなく入ってきた臣下に睨みをきかせる。
「はっ。謁見中ご無礼いたします、なにぶん急を要します事態が……」
そう言ってその臣下は公爵になにやら伝えるため近づこうと動く。
「構わん。 そこで申せ。」
「は!」
その臣下はちらりと俺を一瞥した後、口を開く。
「先程、デューンの砦から魔族と思われる群勢が、こちらに向かってきているとの報が入りました。」
「なに? 魔族が? 先だって蹴散らしたばかりではないか? あれはいつの事だったかの?
しばらくはおとなしくしているかと思ったのだがな。……して、どの辺りまで来ているのだ。規模は?」
「は、ワドゥム諸島には到達しているとの報告です。規模はまだつかめておりませんが、それほど多くは無いと思われます。」
「ふん。いつもの烏合の衆か。しかたがない。直ちに迎え撃つ準備をせよ。」
「はっ!」
「おお、そうじゃ。ちょうどよい。其処の勇者も連れて行け。」
「しかし、彼はまだ……」
公爵の言葉にジェームズがすぐに反応する。
「構わん。折角の勇者じゃ。使ってなんぼだろう。
心配なら、アルファー騎士団から数名連れて行け。そうすれば、万が一の時にも安心じゃろう?
ジェームズ。人選は任せた。……勇者もよいな。」
俺は公爵の余りにも自分勝手なやり方に言葉を失いつつ、呆れ顔でジェームズを見る。
ジェームズは俯きながら首を左右に振っていた。
どうやら逃れられないようだ。
マジかよ! こいつ!! 超ウザイ。
異世界に来てまだ2日目。
なんか良い雰囲気を醸し出し始めた矢先にこれかよ。やっぱ公爵の誘いなんて乗るんじゃなかったなぁ。
かくして俺の意思とは関係なく、生まれて初めて戦場に赴くことになるのであった。
ご意見いただければ喜びます。
評価・ブックマークをどうぞよろしくお願いいたします。




