終話(仮)
魔導国家は戦争に周辺諸国連合軍に勝利し、その名を広く轟かせた。
大賢者マイチは魔導協会内部を再構築し、賢者を二十五人を選定した。
s級魔導士の八道は大賢者マイチと並ぶ最強の魔導士、救国の英雄として人々の記憶に永遠に残ることになっていた。だが彼がどこに住んでいるのか、普段何をしているのかを知るものは未だ少ない。
「いらっしゃいませー!」
「……ませー」
いつも通りハチミツ魔導具店はほどほどの客で賑わう。カウンターでは店員の三葉と九十九が笑顔を振りまき、男たちの注目を集める。
そしてその後ろでは八道がいつものように新聞を読むか、眠っている。
「七雀さん、こんにちは!」
「……こんにちはー」
「あぁ、こんにちは」
七雀と呼ばれた魔導士は三葉に案内され、カウンターの奥へと通される。
「やっと来たか」
「そりゃ救国の英雄様に呼ばれたら来ないわけにはいかないでしょ」
「うるせー」
「七雀、お前一体今まで何してたんだ? 魔族達を殺して回ってたそうじゃねぇか」
「あれは僕を殺そうとしていた魔族たちでね。 僕はなんとしてでもここに帰ってきたかったからやむを得ず……ね」
「お前、あの時死んだんじゃなかったのか?」
そう、七雀という人間は魔導士見習いアカデミー卒業の日、魔物に食い殺され、無残な姿で墓に入ったのだ。
「あれは偽物さ。 卒業式の朝、僕は魔界に連れ去られ、人間界への人質と、魔導士の研究の実験台にされたんだ」
「で、魔族を倒すだけの力、どうやって手に入れたんだ?」
「ほとんど罠さ。 魔界にだって毒はある。毒草を見つけ酒に混ぜたり、麻痺効果のある劇物を食事に混ぜたりした。 魔法なんて使えてもA級程度だよ」
七雀は先の戦争での指揮が認められ、飛び級でA級魔導士の名を与えられた。数年経ってやっと七雀は魔導士のコートを羽織ることができたのだ。
「それにしても八道、君今魔法が使えないんだろ?」
七雀は魔導書を近くに置いていない八道を見てそう確信した。
「俺にはもう必要ない」
「嘘つけ」
八道が強がっているのは目に見える。現在の八道はs級の称号こそ持つものの、現在魔力を持たず魔法が使えないただの一般人なのだ。彼自身が一番歯がゆく思っているはずだ。
「まああれだけの従者を一度に召喚して同時に操ってたんだから仕方ないと言えば仕方ないか。 普通の魔導士じゃあんなこと何度命を捨ててもできないよ」
「……」
八道はムスッとしたまま黙り込む。
八道はあの戦争の後、魔力が底を尽き、廃人になるか魔法が使えなくなるかの境をさまよった。だがなんとか精神状態は回復したのだ。代わりに魔力を失ったのは良かったほうなのだ。
「いいんだよ、戦う前に覚悟してたからな」
「今は今で楽しそうじゃないか」
客がいなくなった合間を見て三葉が二人の元へとやってきた。
三葉も最後の北門での戦いを評価され、B級伝導士からA級魔導士に昇級していた。
「ハチ、七雀さん、お茶どうぞ」
二人の間にあるテーブルにグリーンティーを持ってくると、三葉は八道の隣に座る。
「まるで夫婦みたいだね」
「うるせー」
「別にいいじゃん、私は嬉しいよ」
戦い以来二人の絆はさらに深まったようだ。
「そろそろ九林さんも来ると思うんだけど……」
カランコロン……
いつもと同じ、古めかしいベルが鳴る。
「おう元気か八道、三葉ちゃん! お、七雀、久しぶりだなー!」
相変わらずの黒スーツ。九林の引きしまった身体を魅せるには一番適した服装である。
「九林、久しぶり。 最近どう?」
「ああ、九林グループが魔導協会の子分組織として認められて忙しくなったよ。 地下と協会への行き来は疲れるし、八道の移動魔法があれば良かったんだけどなー」
「……」
「ちょっと九林さん!」
「あ、ああごめんごめん!」
「で、九林もs級魔導士になったのか?」
「一応な。 グループが協会の組織として運営として運営していくにはトップが魔導士の方が良いだろ? だからだよ」
「よかったじゃん、長年の努力が実を結んだんだね」
「まあお前の苦労の方が遥かに上だと思うけどな……」
「なあ三葉ちゃん、これからここの依頼はどうなるんだ? 八道が魔法使えないんじゃ解決できないだろ」
「それはぬらりひょんから頂いた刀があるから大丈夫です。 あの刀は魔力を持つ者、怨霊の類を斬ることができるのでそれでなんとか」
「まるで剣士だなぁ……」
「……いずれお前を越してやるからな」
「あははは! おおやってみろ! いつでも受けて立つぜ!」
「三葉さん、いつもこんな感じなの?」
七雀が言い争っている九林と八道を見て苦笑いしながら三葉に聞く。
「はい、楽しいですよー」
「ホントだ、楽しそうだ」
この光景こそが八道の望んでいたものなのだろうか。
九林が再び地上に顔を出せるようになり、死んだと思われていたはずの七雀が生きていた。
アカデミー時代マイチの弟子として共に学んでいた三人が再び集まっているのだ。
三葉はなんだか心が温かくなった。
カランコロン……
古めかしいベルが鳴る。
三葉がカウンターのほうへと駆けていき、短い驚いたような声をあげる。
「どうした!?」
八道、九林、七雀の三人は身構える。
「私は神託を伝えし者」
「へ……ヘルメス」
四人の前に現れたのは神の予言を伝えし者、ヘルメスだった。
「八道、九林、七雀、三葉。 再びお前たちが世界を動かす日が来るだろう」
それだけ言い残すとヘルメスは空気に溶けて姿を消した。




