南部防衛戦線
八方位―――――南
南部防衛隊三万人。
ここには特に能力強化属の魔導士が多く配置されていた。
そして魔導士一万人の中の約半分、五千人は精鋭の能力強化属魔導士だ。
この方面では剣と剣の衝突が予想される。
八方位に分かれた魔導士達の内、すでに七つの戦闘に決着がつき、ここが最後の戦場となっていた。
南門を守る魔導士、そして攻め込む敵軍もまだ仲間の様子を知らない。
斥候を飛ばせばすぐにどうなっているか、敵軍はつかめたはずだが、仲間の負けるはずがないとたかをくくっていたために飛ばすことはなかった。
この場所には英雄ヘラス、またの名を太陽の騎士ヘラスが援軍としてやってきていた。
誰もが知る伝説の英雄の登場に魔導士達はざわつく。
「たった千五百万人か。いけるな。」
ヘラスは三万の魔導士達を後方に置き、一人進軍してくる兵士たちの前に躍り出る。
「俺の名前はヘラス!! 太陽の騎士ヘラスだ! 太陽が空にある限り俺に敗北はない!」
その声は進軍する音にかき消されることなく戦場に響いた。
その声と荒野に一人立つヘラスにその場にいるすべての人間が釘付けになる。
「それでも挑んでくるなら命捨てるつもりでかかってこい。」
ヘラスは千五百万の軍をにらみつけ、剣を抜く。
彼の伝説を知らぬものはこの世界に一人としていないだろう。
ずっと昔から語り継がれてきた伝説。
たった一人で神の先兵を撃破し神をも討ち取った英雄。
敵軍の兵士たちの中にも彼のような騎士になるために兵士を志した者も多い。
そのような者たちは次々と足を止め、それ以上ヘラスに近づこうとしない。
いや、ヘラスの覇気によって近づけないのだ。
そんな中、敵軍の中から一人の騎馬兵がヘラスの前へと躍り出る。
「英雄ヘラス! 俺はあなたをのような騎士になりたく今まで腕を磨いてきました! 一騎討ちをしていただきたい!」
兵士は馬上で声を挙げる。
「あぁ、かかってこい!」
ヘラスは剣を構える。
騎馬兵は手綱を片手に槍を握り、馬を走らせる。
勝てるかどうか、を求めているのではない。
この騎馬兵は伝説の英雄の強さを知りたかった。
すれ違いざまに互いに渾身の一撃を放つ。
馬はそのまま数メートル走り、馬上の兵は音もなく地面に落ちる。
「さぁ纏めてかかってこい!」
ヘラスの覇気を纏ったその声に敵軍の兵たちは隊列を崩して突撃した。
背後には指揮官が剣を構え逃げる者の首を跳ねるだろう。
だからと言って前に進めば英雄ヘラスの手で確実に殺される。
敵兵たちは千五百万という大軍勢ながら英雄ヘラス一人に誰一人勝てると思っていなかった。
きっとヘラスならこの大軍勢をも一人で壊滅させるだろう。
最悪の結末しか描けない兵士たちに勝利は無い。
突撃した兵士たちは次々とヘラスの剣技によって屍と化してゆく。
東方からも西方からも既に各方面隊の魔導士たちと従者が到着していたが、皆ヘラスの戦いに魅入っていた。
それほどまでに彼の戦いは美しかった。
流れるような剣裁き、返り血を一滴も浴びない身のこなし、そのすべてが英雄の中でもトップクラスの彼の力だ。
南部防衛隊の魔導士たちも援護を忘れ、ただただ物語の中のような戦場をただただ見つめている。
二十分、たったの二十分で敵軍の前衛部隊一千万人が骸になる。
純白の鎧は未だ純白のままで剣に付いた血糊を拭うヘラスを見て敵兵たちはとうとう戦意を失った。
まず指揮官が逃げ出した。
そして攻城兵器を担当していた兵士が逃げ出した。
次に弓兵が逃げ出した。
彼らが放った億の矢は一本もヘラスの鎧に傷をつけることができなかったのだ。
後方から崩れていく軍隊というのは滅多にない。
やがて荒野から敵軍が姿を消した。
そしてヘラスの戦いを見ていたすべての者が歓声を上げる。
彼はそれを見て照れくさそうな顔をして味方のもとへと帰った。
これで八方位すべての戦いが終わったのである。
賢者たちによって引き起こされた戦争は幕を閉じた―――――――――――――――




