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ハチミツ魔道譚  作者: 夏玉 希
魔道国家防衛戦
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23/27

北部防衛戦線

八方位――――北



そこには八道の従者、獄門鬼兵隊が守備についていた。

目の前には既に北方面攻撃軍およそ千五百万の敵軍が近づいていた。

その距離およそ三十キロメートル。


対し魔道国家北部防衛隊およそ三万、魔導士約一万と伝導士約二万の編成である。

それに加え、獄門鬼兵隊およそ三百万。

敵軍との数の差はおよそ五倍だ。

彼らの背後には国へと繋ぐ八つの門のひとつ、北門があり、それを死守するのが北方部隊の役目である。




「突撃は俺らに任せな! おめぇら魔導士と伝導士は指揮と援護を頼むぜぇ、能力強化なんてもんがあるとありがてぇ!」




***




数分前、突如魔法陣から現れた鬼の軍団に魔導士たちは一時、死を確信した。

だが鬼兵隊の隊長が、「助けに来たぜ。」と一言発したことにより、恐怖は一気に消え、逆に魔導士達の士気は数倍へと跳ね上がった。



「誰があなたたちをここへ?」



魔導士部隊の先頭に居た青年が一人の鬼に恐る恐る聞いてみた。

鬼の一人は見るものを震え上がらせる顔で振り向くと、こういった。



「ヤミチって魔導士だ。 ここ以外にも全ての方角に援軍を送り出してる。 すげぇヤツだぜ。」



「ヤミチ……あの天才魔導士八道さんですかっ!? す、すごい! さすがだ!」



魔導士たちは迫りくる敵軍の足音に負けない雄たけびを上げると、魔力が底を尽きるまで戦おうと互いに誓い合った。



「俺たち鬼は死なねぇ、死んでも地獄へ帰るだけだからな。 でもお前たちは地獄(コッチ)に来てもらっちゃ困る。 なんせ今からアイツら全員が地獄(コッチ)へ来るんだからなぁ!」



鬼の粋な一言で魔導士達の士気は更に上がる。

そんな魔道士達を背中に、最前線を務める鬼たちも自慢の金棒を振り準備を整える。




***




鬼たちは魔導士と伝導士に援護を頼むと隊列の先頭に並び、前方に迫る敵軍を見据える。


魔導士の攻撃範囲は中距離から遠距離、援護の位置が最も力を発揮する。



「聞いたか、みんな! 俺たちは鬼たちを援護するんだ! 能力強化が使える者は鬼たちに唱えてくれ! 自然操作属は先鋒として攻城兵器の破壊と敵密集地への集中砲火、召喚属は今のうちに最も強力なヤツを呼び出しておいてくれ!」



即席の指揮官となったA級魔導士の青年が、後方まで聞こえるように大声を上げて指示をする。

そしてそれを聞き取った中間層が後方へと伝えていく。


最後尾まで伝わったという証拠に最後尾は聞こえたら手を上げる。

鬼たちが来る前に決めた即席の戦略だ。



そして指示が伝わった魔導士たちは次々と詠唱を始める。

鬼たちを様々な色の魔力が包み、それぞれの能力を飛躍的に高めていく。

元々打撃力と防御力の高い近接攻撃系の鬼たちに身体能力をかければ『鬼に金棒』以上のものとなる。


次いで召喚属の魔導士達が己が契約しているもっとも頼りになる従者を召喚する。


「魔界譚 地獄の番犬エルベロス!」


「地獄譚 獄門騎士リンギリア」


「魔界譚 魔族ルーモア……」


「魔界譚 豪魔ギンギアス!」


「地獄譚 ―――――――」





数千の従者が鬼たちと共に最前線に加わる。

召喚属の魔導士のほとんどは魔力を糧とする魔界譚か地獄譚の扉しか開くことはできない。

そこから様々な世界の扉を開くには、従者の関係を辿って契約を交わしていくか、魔力量を底上げして扉を開くか、である。

だがその道は険しく遠いため、ほとんどの召喚属魔導士は魔界譚と地獄譚のどちらかを究めて行く道を進む。





「敵歩兵隊、自然操作属の攻撃範囲内に入りました! 攻撃可能です!!」



敵との距離はおよそ十キロメートル。

かなり敵の姿も目視で確認できるようになり、魔導士の攻撃範囲に入る。





「戦闘開始だ!! 撃てぇーーー!」





指揮官の合図により、魔導士側より雄たけびが上がり、一斉に空中に炎球や氷塊、雷雲が出来上がる。

だが既に先の戦闘で魔力を消耗している魔導士達は炎球も氷塊も雷雲も直径十メートル程で精いっぱいだった。


それを次々と敵軍へと放つ。

目標は敵軍後方に位置する攻城兵器。

その中の一つ、投石機が起動すれば、従者を越して魔導士への直接攻撃が可能になる。

矢程度なら軽い魔法壁で防ぐことができるが投石ともなると防ぎきれない。




魔法が放たれ、地震のような揺れが断続的に続いて敵陣の各地で炎が上がり、雷鳴が聞こえ、敵軍の兵士たちは両隣を仲間に挟まれ身動きできぬまま命を落としていく。


そして数秒のインターバル。


その間にも遠くで地響きが鳴っている。

他の方面の部隊も戦闘を開始したのだった。



渾身の魔法により一度に数千人の命が消えていく。

だが敵からすれば予想内の犠牲、すぐに仲間の穴を埋め、進軍を再開する。


そして遂に敵弓兵の攻撃範囲に入る。

八百万以上の弓兵から放たれる一斉射撃は、もはや豪雨に近い。

避ける隙間もなく、降り注ぐ矢の雨に一度当たれば必死。



「伝導士達!魔法壁を! 鬼達も含めて張ってくれ!」



伝導士達は既に準備を整えていたため、地面に描いていた魔法陣に両手をついて魔力を込め、辺り一体をつつむ大きく厚い魔法壁を作り出す。


今は亡き賢者たちの作りだした魔法壁は数日絶え間なく投石を続けてもヒビひとつ入らない強度を持つ。

そして伝導士の技の中でも最上級の魔法である魔法壁に防げないものはほぼ、ない。


更に伝導士達は国内での戦闘時、マイチの別命で魔力の錬成をしていたために、魔力の減少の心配はない。



「魔法壁、完成しました! どうぞ自然操作属のみなさん、攻撃を続けてください!」



伝導士十五万人を代表して数人の伝導士が声を上げる。

それはすぐに前線の自然操作属の魔導士に伝わり、攻撃を再開する。


敵は弓兵による攻撃の間も一歩ずつ歩を進め、数キロメートルの所まで迫ってきていた。



「指揮官さんよぉ! 俺たちはもう出てもいいかい!?」



獄門鬼兵隊達は既に戦いたくてうずうずしていた。

敵はすぐそこまで迫っている。

彼らにとっては矢の雨なんて痛くもかゆくもないのである。

そして伝導士による能力強化が施され、防御力も普段の数倍強化されているのだ。

そんな彼らはこの矢の豪雨の中飛び出して行っても無傷で敵陣まで辿りつくだろう。

なぜ早く攻めないのかと不満が少しずつ現れる。



「まだダメだ!! いずれ敵の矢は尽きる。どうかそれまで耐えてくれ!」



指揮官は鬼兵隊に呼びかけるが、その制止を聞かなかった鬼兵隊の一人が魔法壁を飛び出していった。

他の鬼たちも止めたが既にその鬼の足は止まらない。


鬼は矢の雨を恐るべきスピードでかいくぐり、あっという間に数キロメートルの差を埋める。

そして金棒を振り回し、兵士たちの頭蓋ごと粉砕していく。


その鬼を中心に敵の陣形に穴が開き、金棒の一撃で数十人の命を刈り取っていく。


まさに鬼神のごとき活躍に仲間からは賞賛の声が上がる。

そして他の鬼達も指揮官の魔導士の指揮を無視して走り出そうとする。


だが彼らが魔法壁を抜けだそうとしたとき、敵陣で金棒を振り回す鬼の体を槍が貫いた。



「そうだ! 聞いたことがあるぞ、この国に対抗するために魔法を無効化する武器が造られていることを!気をつけろ! 数は少ないだろうがその武器に貫かれれば一気にハチの巣だぞ! 」



指揮官が叫んだ通り、敵陣にて背後から腹を貫かれた鬼は次々と槍で体を貫かれ、敵兵の中に埋もれて見えなくなった。



「敵の矢が切れる時を待つんだ! その時が来れば反撃に出る!」



今度ばかりは鬼たちも指揮官の作戦に頷く。



数分経っても矢の豪雨は止まない。


敵軍はどうやらこちらの魔力が先に限界を迎えるとたかをくくっているようだ。

でも、それは大きな間違いだ。

魔力が最大時の伝導士をなめてはいけない。

彼らは魔導士へ魔力を補給する時もあるのだ。

魔力を補給する飲み物と食べ物もあり、魔力量だけでいうと魔導士を超える者もいる。

一日中魔法壁を張っていることだってできる。



「自然操作属の魔導士達! 投石機を優先して破壊してくれ!」



指揮官が恐れるのは投石機の存在だ。

一発一発が相当な威力を持つ投石機に打たれ続ければこの魔法壁は数分と持たない。


投石機の破壊を最優先に指示する。



「了解です!!」



自然操作属で指揮官から一番遠い魔導士が了解の手をあげる。



それを機に、巨大な炎球や氷塊、雷鳴は次々と後方に待機する投石機を破壊していく。

数千機程しかない投石機は次々と破壊されていくが、敵も狙いに気づいたのか、攻城鎚を盾に投石機を守り始めた。



「魔力はまだ持つか!? 補給剤もあるから無くなりかけたら言え! このまま攻城鎚もろとも破壊する!」



指揮官は伝導士達が全員に渡るよう準備していた霊水瓶を自然操作属の魔導士達に回していく。

自然操作属の魔導士の中でも、火、水、雷を操る者達は霊水瓶の蓋を開け、連続詠唱を続けながら、区切り区切りで魔力を補給する。地、木、風の魔導士達は何かの準備をしているのか座禅を組んで魔力を錬成している。




「召喚属と地、木、風の魔導士はアレの準備を頼む! 水の魔導士は一時攻撃の手を止め、魔力の錬成にかかれ!」





遂に敵の歩兵隊は数百メートルまでやってきた。歩兵たちの間から約五百万の騎馬兵が飛び出し、味方への流れ弾を防ぐために弓兵が攻撃を停止する。


反撃の時がやってきた。





「獄門鬼兵隊!! 今だ! 攻撃開始!!!」




「「 ウォオオオオオオオオォオオ!! 」」




獄門鬼兵隊は我先にと魔法壁を飛び出し目の前に迫る騎馬兵の馬に金棒を叩きつける。

能力強化された獄門鬼兵隊に近距離戦を持ち込むのは間違いだった。


一人一人が一騎当千の働きをする鬼たちは、次々と騎馬兵を打ち落とし、粉砕し、血の花を咲かせていく。



「能力強化属の魔導士! 我ら全員の聴力を上げてくれ!」


「了解です。」



能力強化属の最奥部の魔導士が手を挙げる。

するとほどなくして鬼たちの嗤い声が聞こえるようになった。


彼らは敵兵を潰しながら笑っているのだ。

彼らの体に剣は通らず槍は刺さらない。


魔法を無効化する武器を誰がもっているのかはわからないが、今の彼らはただただ眼前の敵を叩きつぶすだけである。


おそらくその武器も地面に転がっているのだろう。




「地を操る魔導士たちよ! 敵騎兵と敵歩兵が合流する時にアレを発動してくれ!」



「了解です!」



聴力が上がっているおかげで指揮官に声が伝わる。

指揮官は頷くと、約百メートル先で敵兵たちを圧倒している鬼たちの活躍を見守る。


自然操作属による攻撃も敵後方の弓兵と攻城兵器に向けて撃ち続けられている。



騎馬兵の数が百万を切った辺りだろうか、騎兵と歩兵が合流する。

敵兵は援軍により指揮が上がり、鬼たちを押し返そうと奮闘する。



「獄門鬼兵隊! 一旦下がれ!!!」



命令は絶対。

それを本能に植え付けられている彼らは先ほどからの指示でA級魔導士の青年をこの場の指揮官として認めていた。


敵を確実に減らしながらじわじわと交代する。



敵騎兵も再編成するため、追っては来ない。


この時を待っていたのだ。


戦況を覆すこのチャンスを。




「地の魔導士達よ!! 地面を割ってくれ!!」



指揮官の指示に地の魔導士達はありったけの魔力を込め、地震を起こす。


それは国門を境に右と左で地震の向きを変えている。



敵騎兵は馬から振り落とされ、敵歩兵はその場に武器を支えにしゃがみこむ。

獄門鬼兵隊は作戦を察知し、退却の足を早める。

そして他の伝導士、魔導士達は次の技へと魔力の補給と錬成を続ける。



地面の底から徐々に大きくなる地響き、やがて敵軍を中央で分断するように地面が大きく割れた。

地割れの中心に居た兵士数万人は地の底へと落下し、尖った岩盤に突き刺さって息絶えていく。






「今だ!! 召喚属の魔導士、水の魔導士、風の魔導士! 放て!!」



「了解! 精霊譚 水の大精霊 ウンディーネ!!」


「了解!」


「了解!!」



それぞれの代表が返事をする。

召喚属の魔導士は水を司る精霊ウンディーネを召喚し、荒野に水を呼び起こす。

先程の地震によって出来た地面の隆起によって、いつの間にか敵軍を囲う様に地面の壁が出来ていた。



「木の魔導士! 地面の隆起を利用して敵軍を囲む壁を作れ!」



「了解!!」



そしてその隆起と木の魔導士によって作られた壁の中にウンディーネが呼び出した清らかな水が満たされていく。

水の魔導士がウンディーネが呼び出した水に流れを起こし、水は津波となって敵軍へと襲い掛かる。津波の辿りつく先は……地割れでできた地面の奥底だ。




最後に風の魔導士が周辺に何十億と突き刺さっている矢を風に乗せて浮かせた。


そして津波を逃れた敵軍へと向けると、突風を起こし、矢を発射した。


敵軍の矢で敵軍を滅す。



津波、地割れ、そして敵が自ら放った矢によって、千五百万の敵軍が数千人にまで減った。


いくつの国が参戦していたのかはわからないが、そのほとんどが水に飲まれ、地の底に沈んだのである。




「よし! 今だ! 獄門鬼兵隊、残りを叩きつぶせ!!」



戦意を喪失した敵軍が壊滅するのは一瞬だった。


最後まで仲間に守られ、生き残っていた敵総大将であろう騎兵は鬼によって喋ることができないほど殴られた後、引きずられて魔導士達のもとへとやってきた。




「こいつが総大将だぁ! 捕まえてきたぜぇ! 今は喋れねぇがなぁ、ガハハハハハハハハ!」



鬼兵隊は勝利の凱旋を果たした。

北部防衛隊は指揮官による見事な作戦により飛び出していった鬼一人が犠牲になっただけに終わった。




「皆! 我らの勝利だ!!!!!!」



「「「 オオオオオオォォォォォォ!! 」」」




魔導士達は歓喜に雄たけびを上げ、ある者は鬼と肩を組み、ある者は地面を転がって勝利を喜ぶ。

鬼たちも怒鳴るような声で魔導士達と勝利を喜んでいる。




「皆、まだ戦いは終わっていない。 援護に向かうぞ。」



「「 おおっ!! 」」



「獄門鬼兵隊、助かった。 本当にありがとう。」



魔導士達は全員、鬼たちに頭を下げる。

鬼の形相とも言われるほど恐ろしい鬼たちは微笑む。もちろん微笑む顔もこわいが……。



「おめぇの指揮と作戦があったからこそだ! 八道にも劣らねぇ指揮だったぜ、名前、なんていうんだ?」



鬼たちは指揮官の名前を覚えておこうと指揮官に問う。



「僕の名前は、"七雀"だ。」


「七雀……どこかで聞いたことがあるような気がするが、まぁいいか! 次の戦場へ行こうぜぇ!」


「そうだな、ここから近いのは北東か北西だがどちらに向かえばいいと思う?」


「北東は魔導士達の声が大きく聞こえるが、北西は馬の蹄の音がでけぇ。 北西だな。」


「わかった。 皆! これから我ら北部防衛隊は数人の見張りを残し北西の敵を側面から叩く! 次は一気に攻め込むぞ! 見張りは何か合った時、すぐに我らに知らせてくれ!」



「「「 おおっ!! 」」」




"七雀"指揮官の元、北部防衛隊は、北西部防衛隊の援護へと向かった。

獄門鬼兵隊……地獄の警備、拷問、尋問、執行全てを行う鬼の兵士たち。閻魔直属の部隊でその力は地獄にやってきた極悪人、魔族、魔物を抑え込める力が求められるため、基本強い。武器は身の丈程の長さ、石柱ほどもある太さの金棒で、ごく普通の打撃攻撃が強烈である。表皮は鉄の様に硬く、その図体からは予想ができない俊敏さを持つ。

兵士としては最高峰の軍隊である。



八道S級魔導士より一言

「獄門鬼兵隊の兵士一人一人が一騎当千だ。あと頭の良さと回転をなめちゃいけねぇ。アイツらは頭がいいんだ。そして忠実だ。」


三葉B級伝導士より一言

「お、鬼!? 怖いよ! 普通に!!」

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