表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハチミツ魔道譚  作者: 夏玉 希
魔道国家防衛戦
PR
22/27

英傑達の到着

「九林! 俺は店に向かう。 お前はどうする?」



八道が敵の大軍勢を見て真っ先に思い浮かんだのは三葉だった。

三葉を置いて戦場へは行けない。

八道は気づくとロウロと共に店へと走り出していた。

国中は混乱状態で、それを治めるべき魔導士たちも前線へと赴いているため、人々は状況がつかめないまま道路に出て壁外から中心地まで聞こえてくる騎兵の馬の(ひずめ)の音に怯えている。



「私も一度地下へ戻って人数をかき集めてくる!」



協会から出てきた八道と九林に遠く市街区からやってきた人々は群がり「何があったのか?」と詰め寄ってくる。

二人は身動きができず、体にまとわりついてくる人を払うので精いっぱいだった。




『皆のもの、私は大賢者マイチだ! 現在この国には数十か国から敵軍が迫ってきておる! しばらく使ってはいなかったが地下都市を解放する! 地下に逃げよ!』




拡声器によって国中どこにいても耳を塞いでしまうくらい大きなマイチの声が国中に響き渡る。

八道と九林、そして二人を囲んでいた人々は動きを止め、町の各所に設置されている拡音器に注目する。

賢者との戦闘で魔力を使い切った大賢者マイチと賢者の部下と魔物の残党を殲滅した直属部隊は、指揮系統の構築に取りかかっていた。



「地下か……、確かに地価の本来の役目は緊急事態の時の避難場所と聞いたことがある……! ならば私の役割は誘導か!」



九林はマイチの考えを予測すると、群がっていた数百人の人達を連れ、地下へと誘導を始めた。

地下への入り口は国中に数十か所あるが、その入り口は知っている人にしかわからない。

先ほどのマイチの声の大きさなら地下の入り口にいる九林グループのメンバーには聞こえているはずだ。

九林は協会から最寄りの入り口に向かって先導する。



「八道! 誘導が終わったら私たちも戦場へ向かう! 先に行っててくれ!」




八道は頷くと、自分の店へと再び走る。

九林が引き連れて行ってくれたおかげで魔導街に人はいない。

長く人気(ひとけ)の無い道を八道とロウロは駆けていく。



やがて掲示板を通り、石造りの階段が見え、「OPEN」の札が見える。

こんな時にまで店を開けてやがるのか、と八道は呟いて速度を上げる。



ロウロを階段の待たせ魔導書を預けると、八道は階段を駆け上がる。

息を切らした八道は店のドアノブを掴むと、思いきり開く。



店の奥、共通スペースに三葉と九十九が二人揃っていた。

九十九は八道に言われた通り魔法の練習を、三葉はいつも八道が座っている椅子に腰かけて九十九を監督していた。

二人とも外の騒ぎなど知らない、という様子だ。




「あっー!! ハチッ! 牢獄にいるなんてなにしたの、悪いこと!? 」


「それは後だ! 早く荷物をまとめろ! 逃げるぞ!」


「逃げる? 何でよ! やっぱり悪いことしたんじゃっ……!


「な訳ねぇだろうが! 今この国は危ないんだよ!」


「危ない?どういうこと……?」


「後でいうから早くしてくれ! 時間がねぇんだ!」



「何言って――――――」


「あぁもうッ!」



八道は息を切らしながら中へと入り、三葉を抱きしめる。

三葉は驚きのあまり言葉に詰まり、目を丸くしている。

言葉で説明しきれなかった八道は咄嗟に三葉の体を自分の体に引き寄せた。

二人の身長はほぼ同じ。

八道は三葉の耳元で小さく囁く。



「頼むから……早くしてくれ。」


「う、うん……」



八道は三葉から離れ、すぐに三葉は自分の部屋に駆けこんで白いコートと肩掛け鞄を取ってきた。

どうやら八道が牢獄にいると知った時点で準備はしていたらしい。

ブラウスと薄手のロングスカート上から白いコートを羽織り、伝導士の装いになる。



「ねぇ、ハチ。何があったの?」



八道に抱きしめられるなんて初めてだった。

三葉はうれしくもあったが同時に、なにがあったのだろうと強い不安を感じた。

普通にいい雰囲気で抱きしめてもらったのならうれしくて倒れてしまいそうだが今はそうじゃない。

三葉は気を引き締めた。



「この国には今、数十か国からの軍勢が押し寄せている。その数は数百万、数千万かもしれない。」


「え……!?」


「説明している時間は無い。 地下に逃げるんだ。 九林が誘導してくれる。」



八道は棚にあった魔力紙に自分のペンでさらさらと魔法陣を描くと三葉に手渡す。

地下へとつなぐ魔法陣だ。

だが三葉はそれを受け取ろうとしない。



「い、いやだよ! ハチはどうするの!?」


「俺は魔導士だ。 前線へ行く。」


「なら私も行くよ! 助手だもん!」


「だめだ。」


「なんで!? 私も伝導士! 役に立ってみせるよ!」


「だめだ。」


「なッ……なんで……私がまだ弱いから?」


「……あぁ、その通りだ。 お前はまだ弱い。」


「ッ……!」



三葉は大粒の涙を目から零す。

唇を強くかみしめ、身を震わせながら悔しさに耐える。

自分は助手として認めてもらっていない。

三葉は八道の言葉をそう解釈した。



「ハチの……バカ! じゃあ優しくなんてしないでよ!!」



三葉は八道の頬を思い切り平手打ちすると魔法陣に魔力を込め、床に開いた穴から地下へと飛び降りた。

最後まで三葉は泣いていた。



「………八道、あれはひどいよ…………」



九十九が八道に言う。

確かに今のは八道の勝手だった。



「仕方ねぇだろ……アイツを、三葉だけは死なせるわけにはいかねぇんだよ。」



「それでも…………三葉ちゃんは助手として八道の隣にいたかったと思うよ…………」



「…………これでいいんだ。 それより、お前はどうするんだ?」



「……お父さんが心配…………」



九十九は雑貨屋の父の事を心配していた。

でも心配はいらない。

市街区の人々なら九林が連れて行ったはずだ。



「まだ、お父さんは地上にいるよ…………私、行ってくる……」



そう言って九十九は店を出た。

九十九は付喪神。一人でも大丈夫なはずだ。

それよりも八道は九十九の言葉が心に突き刺さる。

「三葉ちゃんは隣にいたかったと思うよ…………」

隣にいてほしかったのは八道も同じだ。

だがもしものことがあって失った時、自分は多分立ち直れない。


それは八道にとって三葉は初めてできた大切な人だからだ。



「これで……いいんだ。」



まだ頬には痛みが残っている。

かなり思い切りたたかれたのだろうか、痛い……。



八道は誰もいなくなった店を出て、自分も持っているカギで店のカギを閉める。

また孤独になった気がした。

三葉に嫌われたのだろうか。

それは嫌だ……。



そして札を「CLOSE」に変えると二度と戻ってこないかもしれない店を眺めた。

敵は刻一刻と迫っている。行かなければならない。


石の階段の下で待っていたロウロは準備出来ているようだ。

預けたままだった魔導書を受け取って、ロウロのコートに掴まる。



「ジャンヌシラゼルカ。(城壁の上まで頼む。)」


「ギャルディ。(承知しました。)」



ロウロは地面を軽くけると、どんどん上昇していく。

やがて家々が小さくなり、本部や王城でさえも豆粒の様になる。



「ラガイアルドウラム。(ここまで来れば敵軍の様子が見れましょう。)」





上空からは国の全方位が見えた。

敵は国外に広がる荒野を埋め尽くし、地平線の向こうの草原にまで広がっている。


その数は数千万どころではない。もしかすると数億人の規模かもしれない。


敵はこうしている間にもじわじわと包囲の輪を狭めてきている。



数億と手負い数十万。いくら単体で強力な魔法を使う魔導士達でもこの数に打ち勝つことは不可能だ。




八道はこの状況を打破すべく、マイチと同じ"覚悟"を決めた。




そして城壁の上に降り立つと、前面から風が吹き付ける中、魔導書を開く。

八道の黒い髪と魔導士のコートが風になびく。





『八道、聞こえるか?』





マイチの声だった。

どうやら無線網は出来上がったらしい。

魔導士同士の連携が取れるなら多少抵抗できるかもしれない。




「あぁ聞こえる。 敵を確認した、全方位囲まれてその数は数千万どころじゃないぞ。荒野を埋め尽くしてる。」



『知っている。 現在十万の魔導士と十五万の伝導士を八部隊に編成し八方向へ分けた。 三万程の部隊だが籠城戦に持ち込めば数日は持つだろう。』



「九林率いる九林グループのメンバー総勢三万が国民の避難誘導の後、援軍としてやってくる。 身体強化の軍隊のようなやつらだ、前線での活躍は見込める。」



『なるほど。 だが地下の守りが手薄になるんじゃないか?』



「いや、二万のメンバーが厳戒体制で見張っている。何かあればすぐに伝わってくるだろう。」



『私も魔力が回復次第援軍を送るつもりだ。それまで耐えてくれ。』



「老いぼれは指揮でも執ってろ。 俺が全て片づける。」



『な、何を――――――――』




魔導書のページをめくり手をかざす。

目の前に広がる敵の大軍勢を前に、八道は自身の魔力を解放し、従者たちを召喚する。


城壁の上にいる八道を橙色の魔力の光が包む。

その姿は一番の高所にある本部の屋根にいるマイチからも見えているはずだ。







「妖怪譚 大江戸の百鬼夜行」



魔王にも劣らない百鬼の豪傑達を呼び出すための詠唱を始め、終えるとすぐにページをめくる。




「英雄譚 太陽の騎士ヘラス」



本当は"七雀"と戦うときのためにより強い契約を結んでいたのだが、今、この時に召喚するのが最善策だ。

太陽の騎士ヘラス。彼は伝説の中で、たった一人幾千の敵と戦い、その末に神を打ち取った。

一対一よりは多対一の方が真価を発揮する。




「地獄譚 獄門鬼兵軍」



地獄の治安を守る鬼によって構成される閻魔の軍隊。

全ての世界の死者がやってくる地獄には力のある統治者と執行部隊がいなければあっという間に反逆に遭ってしまう。

魔族や魔物、犯罪者たちを抑え込む程の力を持つ鬼たちの軍隊は普段は地獄から出てくることは無い。




「神譚 オリュンピアの神兵隊」



神界の主神城オリュンピアを警備する神兵隊。

神々にはそれぞれ直属の部隊がいるが、この神兵隊はオリュンピアと言う聖域を守る由緒ある兵士たちであり、全員の力は神にも匹敵すると言われている。




「魔界譚 タイタロスの魔物達」



どの魔界にいる魔物達も全てはタイタロスという混沌の穴から現れたといわれている。

そしてその穴に近くなるほど魔物の力は強く、狂暴とされている。

だが主人に忠実で命を投げ打ってでも命令を果たすという。




「精霊譚 射手座の天使隊」



射手座。天に輝く射手の星達。

半人半馬の体を持つ彼らは優れた身体能力と視力により、寸分違わぬ射撃を行う。

彼らの伝説では、英雄殺しの魔物を討つために星となり、天からその魔物を探し、いつでも射ることができるよう、弓を引いている姿となっている。

彼らはどんなに遠くにいる目標をも討ちぬくことができると言われている。




「霊獣譚 神獣軍降臨」



神や精霊とはまた住む世界が違う動物たちの暮らす世界、霊獣界。

そこには神獣と呼ばれる獣が統治する平和な世界でその伝説に登場する一角獣(ユニコーン)天馬(ペガサス)も住んでいるとされる。

神秘的な能力を持つ霊獣たちは人間界に住む動物達の神のような存在だと言う。

その力も精霊や神に劣らない、普段別世界と交わることの無い聖なる軍隊である。






八道は自分の立つ城壁の目前、そこに偉大なる別世界の軍隊を召喚する。

歴史上一度も顔を合わせたことがない軍隊は互いを見合い、力量を図る。

だがどの軍隊もその世界で最強と言ってもおかしくはない力を持っているのですぐに納得して壁の上にいる(あるじ)、八道を見る。




「各世界の偉大なる軍隊たちよ! 今、魔導士の国は危機にある! 後ろには既に数億を超える兵たちが迫っている。各軍隊には国の各所八つに分かれてもらい眼前の敵軍を殲滅してもらいたい!」




八道は深く頭を下げる。額には汗が浮かび、魔力の消耗が体に表れている。

従者たちは後ろを振り向くと、確かに歩兵隊を先頭に、騎馬兵、弓兵、攻城兵器と圧倒的な兵力が押し寄せてきている。




「ほう、これはまた。 面白い戦が味わえそうだな。」



百鬼夜行を代表してぬらりひょんが口を開く。

流石(さすが)一騎当千の妖怪たち、恐れるどころか戦闘が楽しみで仕方ないという顔をしている。



「僕は準備出来てるよ。 こんな敵を相手にするのはあの時以来だ、あの時と同じく太陽も沈みかけてる。」



唯一軍隊ではない英雄ヘラスが太陽神の防具を身に纏い、腰に太陽神から贈られた剣を差した完全装備で立つ。

たった一人だがその姿には怯えは微塵も感じられない。

太陽の騎士はその身を盾に主君を守る。いくら強大な敵を前にしても踏み出すのを止めることは無い。



「我々の仕事がもっと増えるのだな……」



地面の底から響く鬼兵長の率いる鬼たちの装備は皮の腰巻に血錆のこびりついた身の丈程もある金棒。

その超重量級の一撃を無数に繰り出す鬼たちは自分達の仕事が増えると喜んでいるものもいれば面倒そうにしているものもいる。

だが一度(ひとたび)戦闘となれば無双の働きをするという。



「シャルンテ、ヒアル(第二の主のためならば、どんな敵でも討ちとって見せましょう)」



オリュンピアの神兵たちは純白の甲冑に身を包み、白銀で造られたハルバードを手に規則正しく整列し、一ミリも歪んではいない。

その姿は凛々しく、神々しさも感じる。



「グルルルル、グァルゴ! (我らの餌はたっぷりあるようだな、喰らいつくしてやろう!)」



おどろおどろしい姿をした魔物達は言葉にならない雄たけびを上げ、遠くに見える敵軍を威嚇している者もいる。

この様子では味方まで食い殺してしまいそうなので、八道は仲間を攻撃しないよう「頼む」と頭を下げる。



「我らの弓折れ矢尽きるまで使命を果たしましょう。」



半身半馬の天使達は自慢の星屑の弓を構え、矢を番える。

彼らの機動力とその射撃の命中率はどの世界の軍隊よりも確かである。

数は八十八人と少ないが弓の名手一人が戦況を覆すことはよくあることだ。



「魔物と背中合わせと言うのも悪くは無い。 我らの軌跡を人間界に残して見せよう。」



霊獣たちを束ねる神獣レオナは魔物に劣らない雄たけびを上げる。

それに続き後ろに控える数十万の霊獣たちも雄たけびをあげる。

その声は透き通るようで美しい音色の様だ。




「皆、本当に感謝する。 俺の魔力でよければ好きなだけ持って行ってくれて構わない。だがこの戦争だけは勝利に導いてくれ。」




八道の声に数百万の精鋭が雄たけびを上げる。

早く戦いたくてたまらないのか、皆後方に迫る敵を見ては体を動かしている。

ここに集まったのは八道が率いる世界最強の軍隊だ。

この軍隊と魔導士が手を組めば負けることはあり得ない。




「では各方面への転移させる魔法陣を造る。 移動を始めてくれ、健闘を祈る。」




八道は魔法陣を八個描くと、詠唱を始め、三万の魔導士が待機する八か所へと転移を開始した。



「もう少し持ってくれ……」



自分の魔力の減少の早さを感じながら、八道は各方面への転移を終えると、城壁の上に座禅を組み、九林のように魔力の錬成を始めた。

魔導国家対周辺諸国の戦いの幕が開く。




魔導国家の総戦力……魔導士十万、伝導士十五万の計二十五万。

地下の九林グループ三万を含めると二十八万。そして八道の召喚した異世界からの軍隊を合わせると、一千万程になる。



敵国の総戦力……詳しくは不明。だがその国旗の数と数の多さから目視で確認できるだけで数十か国あると予測できる。総兵数数億。構成は歩兵、騎馬兵、攻城兵器、そして各国の特殊兵種。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ