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ハチミツ魔道譚  作者: 夏玉 希
第二章 魔導国家の根
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牢獄デイズ

牢屋に入って三日が過ぎた。

二人も大分(だいぶ)牢屋での生活にも慣れてきて、快適ではないものの、そこまで苦もないようになっていた。


それにしても二人は助手や部下を置いてきたままなのである。

昨日の朝、許可をもらってこっそり連絡したものの、その心配は大きく、特に九林グループの幹部たちは九林が協会に捕らえられたと勘違いして危うく地上に奪還作戦を始めようとしていた。


二人が牢獄から出られるにはおよそ一週間だとマイチに言われた。

今まで集めてきた証拠品類をまとめ、国民へ公表し、賢者たちの魔導裁判が終わるまでの最速の時間を求めた結果だ。


七日間でここまでやりきるということにマイチの周到さとその手腕が伺える。

昨日会った時、「国にはびこる(がん)を取り除く第一歩だ。」とマイチは言っていた。

どうやら大賢者は他にも国内に危うくするものが存在すると考えているらしい。

国外からの圧力だけでなく、国内の敵にも対応策を講じているマイチの凄さは敵に回すと恐ろしいだろうな、と八道は思った。





「トイレには入ってくんなよ!」



九林はそう八道に言うと、マイチに頼んで特別に作ってもらった個室に入る。

さすがにトイレがオープンなのは女性に死ねと言っているようなものである。完全防音でカギ付きのトイレが唯一九林の安心できるところにもなっていた。


「入らねぇよ……。」


八道はハチミツ魔導具店での生活と一切変わりなく、ずっと眠っている。

彼が眠るのは魔力の補給と錬成のためであり、今は別に眠る必要はないはずだが相変わらず眠っている。


魔力の錬成には基本休養が一番だが、九林が以前魔族との戦いの前に行った瞑想のように戦闘前に作りだすこともできる。

九林のように体に蓄えることのできる最大魔力量が少ない場合は直前の錬成の方が爆発力があり十分(じゅうぶん)だが、最大魔力量が膨大な八道は錬成では追いつかない。睡眠と集中によるゆっくりとした錬成が必要なのである。




「なぁ八道。暇だしなんかしようぜ。」



トイレから出てきた九林が洗った手をタオルで拭きながら戻ってきた。

そしてベッドの下に座ると横になっている八道になぁなぁと話しかける。

八道はめんどくさそうに振り向くと横になったまま九林を見下ろす。


「なんもないぞ。 なにするんだよ。」


確かに。

ここには何もない。

魔導書も魔導剣も取り上げられ二人が持っているものといえば着ていた服、八道でいえば魔導士のコートとその下に着ていたシャツ、そして麻布で造られたズボン。

九林は上下揃った黒いスーツ。そのスーツはいまや皺が至るところに出来、みっともない姿になっている。今は上着を脱ぎ、ブラウス一枚になっている。


「んー、『魔導しりとり』とか?」


「おぉ……いいぜ。 俺は一度も負けたことないがな。」


「進化した私を見せてやるよ。」


魔導しりとりとは、魔導士の知識だけを使ったしりとりであり、知識が多いほうが勝つ。

要するに勉強にもなって楽しめる一石二鳥のゲームなのである。

アカデミーで流行る遊びの一つである。


「じゃあ行くぜ。 『魔導士』。『し』だ!」


「『神界』。『い』だ。」


「『異世界』!どうだ、『い』だぞ。」


「なめるなよ。『異界の従者』。『や』だ。」


「『八道』。お前だよ、『ち』。」


「『血塗られた王国』。『く』だ。」


「くっ、『狂いの霊王』! 『お』。」


「『オルバニアの神殿騎士』、『し』だぜ。苦しくなってきたんじゃないのか?」


「何を! 『シャンドロート』。『と』だ!」


「おい、シャンドロートは国の名前じゃねぇか。 魔導士関係ないぞ。」


「あっ! そうか、また負けた~。 もう一回だ。」


・・・


・・



「くそっ! また負けたー!」


二人は年甲斐もなくしりとりで盛り上がっていた。

だが六回目に入った時、上から大きな爆発音のらしき音が聞こえた。

二人はしりとりをやめ、刑務官を呼ぶ。


「おい! なんだ今の音は?」


「ただいま連絡を取っている所です。 少しお待ちください。」


相変わらず無感情な口調の刑務官に、九林は苛立ちながらスーツを羽織る。



何かあった時はここを脱出しなければならない。

その場で座禅を組むと、鉄格子を突き破るために九林は瞑想に入る。


上階では先ほどの爆発音を皮切りに爆音が絶えない。

その衝撃は地下にある牢獄まで届いてきている。

この音は恐らく戦闘音で上で誰かと誰かが戦っているのだろう。魔導協会のど真ん中で戦闘が起こるということは大きな事態である。



瞑想は周りがうるさいと集中できない、という人もいるが、その人は集中力がないだけにすぎない。

境地に至った者は瞑想に入ると聴覚が遮断され、その他の感覚が鋭くなるという。

遥か昔、東方で栄えた国の瞑想を忠実に、無に没頭するのが九林の瞑想であり、集中である。



「おい、まだか。 マイチなら真っ先に連絡を寄越すはずだ。」


「すいません。まだです。」



八道は刑務官を睨みつけながら言う。

刑務官は黙っているが、八道は聞いていた。先ほど無線で連絡を受けていたことを。


「九林、行け。 あの男は敵だ。」


「ああ。」


九林はニッと笑いながら目を開くと立ち上がる。

そして鉄格子を両手で握り、思い切りこじ開けると、鉄の格子がぐにゃりと曲がり、一人が通れるくらいの穴になる。



「貴様らは出さぬよう賢者様に頼まれている。 ここで死んでくれ。」



刑務官は自分がいる見張り部屋の机に置いてあった九林の魔導剣を抜くと、九林へと斬りかかる。



「私の剣だと勝てると思ったか?」



九林は刃を躱し、刑務官の胸に、身体強化を施した拳を叩き込みながら耳元でささやく。



「道具に頼ってるようじゃまだまだだな。」



九林はとどめに腰を落としてアゴへ拳を振り上げる。



「ぐ……っ……!」



眼玉がぐるんと回り脳震盪を起こした刑務官は口から泡を吹きながら仰向けに倒れる。

手から離れた魔導剣を九林はパッと手に取ると、机に置いてあった鞘に収めて腰に差す。



「ホラよ!」



九林は魔導剣と一緒に置いてあった八道の魔導書を取ると、後ろにいる八道へと渡す。


「行くか。」



二人は上へと続く階段を上がってこの音の正体を掴むため、走った。

魔導しりとり……魔導士に関係のある言葉だけを使って行うしりとり。勉強にもなるため、アカデミーでも教師たちが薦める。教師に勝つことができればご褒美がもらえ、負けた教師は上の人に怒られる。生徒からの挑戦は断れない。なかなかシビアな遊びである。



八道S級しりとり士の一言

「今まで一度も負けたことは無いぞ」


三葉B級しりとり士の一言

「私はそこそこできるよ。 そ、そこそこ強いもん!」

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