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ハチミツ魔道譚  作者: 夏玉 希
第二章 魔導国家の根
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二人の夜

「うああぁああ、師匠ぉぉぉお!!」


魔導協会がその地下に持つ牢獄。

主に強盗犯や窃盗犯達が投獄されており、刑に服している。

牢獄の数は四十。むき出しの石と土によって造られた何の装飾もない簡素で堅固な牢獄に備え付けられているものも最低限しかない。

出そうで出られない鉄格子の隙間が囚人たちをあざ笑うかのようだ。



「おぉい!! 私は女だぞ! 個室が常識だろうがぁ!」


「おい、静かにしてくれ。 寝れねぇだろうが。」



鉄格子を両手で握りガンガンと揺らして叫ぶ九林。

そしてその奥で一つしかないシングルベッドの上で横になって目を閉じている八道。



そう、二人はマイチによって投獄されることになったのだが、空き部屋がないということで二人一緒の牢屋にされたのだ。


その経緯は数時間前に(さかのぼ)る。











「これに録音されてる会話にはお前たち二人の声がしっかり入ってる。 これを証拠として公開し、腐った賢者達二十五人を追い出すにはお前たちにもそれなりの処罰を与えておかねばならない。」


「俺たちは何も悪いことはしてないだろう。」


「そうですよ。私たちは何も罰を受けることは無いでしょう?」



「まあ直接は無いんだがな。 まだこの録音を聞いては無いが、何を言ってたのか予想できる。 九林は地下組織であることを認め、八道は賢者に向かってちゃんとした言葉遣いをしなかった……。どうだ、当たってるか?」



マイチの的確な予想に二人は椅子に座ったまま下を向く。

その通りで何も言い返せなかった。


「バンパー、当たってるか?」


「はい……」


バンパーも気の毒そうに返事をする。



「はっはっは!やっぱりな。 だがそうなればこの録音を聞いた国民の数割はこの事を不満に思い、文句を言ってくるだろう。 だからそうならないように今から牢に入ってもらいたい。 もしかすると何か他にも罰が増えるかもしれないが。」


「増えるかもって何だよ……。」


「牢屋に入るなんて予想もしてなかった……あぁぁーなんてことだー……。」


「ま、数日の辛抱だ。 二人で頑張ってくれ。」



「「 は! 二人!!? 」」



八道と九林は同時に立ち上がる。



「じゃ、バンパー頼んだよ。」


「はい。」



「「 お、おい! 」」



マイチはそう言い残すと暗い曲がりくねった通路へ続くドアを出て行った。

呆然と立ち尽くす八道と九林。

そして同情の目で二人を見守るバンパーとその副官。



「行きましょうか。」


「「 …… 」」



二人は心ここにあらずという顔でバンパーについていく。

副官は賢者二十五人に一人ずつ手錠をかけ、更に手錠を鎖でつないでいく。











「おーい! そこの刑務官! 私たちにはそれなりの待遇をしてくれてもいいだろうが!」


九林は鉄格子の間から休憩室でコーヒーを飲んでいる刑務官に懇願する。


「申し訳ございません。 マイチ様により囚人生活を楽しませろと聞いておりますので。」


刑務官は淡々と九林の願いを弾き飛ばす。

ガクッと九林は鉄格子を掴んだまま膝をついてうなだれる。

後ろにいる八道は既に寝息を立てている。


「くそぉっ!」


九林は自分が馬鹿らしくなってきたのでとりあえず寝ることにした。

だがそう思ってから気づく。


ベッド一つしかない!


しかもその一つを八道が占領しているではないか!



「私はどこに寝ればいいんだよ!」


九林は一人で不満をぶちまけると八道が頭から被っていた毛布をはぎ取って床に敷いてその上に横になった。しわにならないように羽織っていたスーツを脱いで、白いブラウスの上から毛布の代わりとして体にかけた。

だが薄っぺらい毛布と本来の用途ではない黒スーツでは寝心地を良くすることなんてできない。


「うぅ……石が固い……。」



べそをかきながら目を閉じる。

次は絶対ベッドを取ってやる。

そう九林は心に誓って冷たい石の床に我慢した。












「ん、やわらかい……」


どれくらいの時間眠っていただろうか。

地下では時間の感覚がわからない。

九林は目をあけて体を起こす。


すると、九林は何故かベッドの上にいて、ベッドの上で寝ていたはずの八道が床で眠っていた。

毛布とスーツも九林の体にかかっていて、八道は魔導士のコートを体に巻き付けて石の床に腕をまくらにして寝ているのだ。


「どういうことだ……?」


九林が寝起きの脳で考えながら首をかしげていると、牢屋の外から声が聞こえた。



「三十分くらい前に八道さんが起きて、床で寝ている九林さんを抱えてベッドの上に運んだんですよ。 毛布も取らずにその後すぐに床で丸くなりましたけど。」



ふぅんと九林は床で丸くなっている八道を見る。

「これだからコイツはモテるんだよ……」とため息とともに吐き出すと、自分より小さい八道を抱えてベッドの上に寝かせた。

八道の口からヨダレがでろーんと垂れる。


「汚ねぇなぁ。」


九林はシングルベッドの奥に八道を寝かすと、自分は手前に横になって一枚の毛布を二人で半分ずつになるようにかけた。

だがすぐに九林は自分のやっていることに気づき、ボンッと顔を真っ赤に紅潮させる。



(ななななにしてるんだ私はっ!! おおおおお男と二人で寝るなんて……!)



大胆な事をしでかした自分を責める。

刑務官は鉄格子ごしに興味深そうにこちらを見ている。ニヤニヤしているわけでも驚いているわけでもない。普通に見えているようなのだ。


ならば平常心で寝るしかない!ここで離れれば逆に不自然に見えるかもしれない。

でも男と寝ているなんて知ってる人に見られたら何といえばいいんだろ。

八道なら変なことしない自信もあるし大丈夫だと思うけど三葉ちゃんに申し訳ないというか……。


でも、でも!


九林の目はグルグルと回っていた。



既に九林は眠れる状況じゃなかった。

横で八道がすやすやと眠っているのに九林の目は覚めて行く一方である。


(ベッドがひとつしかないのが悪いんだ! 私は悪くない!)


そう言い聞かせ目を閉じるも、よく考えれば鉄格子は壁ではない。

公開処刑と同じだ。



そんなこんなで九林がもぞもぞと動いていると八道が「うぅっ」と声を出してむくっと起き上がる。


(最悪だっ……!)


九林は必死に寝たふりをする。

体を起こした八道は隣で体半分はみ出して眠っている九林を見て首を(かし)げる。



「なにやってんだコイツ……。」



(ううぅぅ、最悪だ、最悪だ……)



「半分落っこちてるじゃねぇか。 まったく……ベッドくらい二つ用意しておけよな。」



(そ、そこかよっ!)



八道はそういうと、九林を乗り越えてベッドを降りると必死に顔を隠している九林の体をゴロゴロと押して奥へと転がす。



(な、なにやってんだよ……)



そして奥へと押して九林が体を伸ばして眠れるようにすると、八道は手前に横になる。

そこまで体の大きくない八道なら工夫すれば体半分出ないで済む。


その工夫とは……。



(ええええええええ!!? な、なになになに!?)



九林の腕を抱えるように横になっているのだ。

しかも既に八道は眠っている。


八道の肌と九林の肌が今、直に触れている。


九林は八道の気づかいと、右手への感触にいよいよ眠ることができなくなった。



嬉しいような悪いような、とにかく胸の鼓動が高まるばかりの九林だった。




「あぁっ!ダメだっ!」





九林はバッと起き上がると床に毛布を敷いてスーツを体にかけて丸くなった。

少々固いけどこれが一番落ち着く。


明日からは交代制にしよう。


そう決めて眠りについた。

牢獄……魔導協会の地下に造られている犯罪者達を拘束、更生させるための施設。四十部屋ある牢屋全てが個室になっていて、そのほとんどが一人部屋に二、三人入っている状態である。囚人の生活は労働であり、魔法ではできない力仕事をする。それにより更生した時には確かな技術を身に着けて釈放される。釈放できないほどの重罪人はこの場所ではなく魔界の底にある魔監獄へと投獄される。



八道犯罪者の一言

「せめて寝具くらいは用意しろよ……」


九林犯罪者の一言

「せめて性別で分けようぜ……」


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