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ハチミツ魔道譚  作者: 夏玉 希
第二章 魔導国家の根
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賢者達の部屋

女性魔導士の警告は、空しく魔導協会の屋外ロビーに響いた。


ちょうど大賢者の部屋から出てきた二人をロビーにて待ち構えていたのは、九林とは対称に白いスーツに身をつつんだ男女十五名だった。

彼らはロビーから門にかけて包囲網を作り、九林と八道へと視線を向けている。

彼らは既に魔導書を開き、魔導剣・棍・槌・槍・弓をそれぞれ構え、杖に魔力を込めて戦闘準備を整えている。



「なんだこりゃ……、早速かよ。」


「アイツらは……確か賢者直属の魔導士たちだ。 明らかに私たちが狙いだよな。」



白いスーツの襟、ネームタグの反対側には魔導書と杖をモチーフにしたバッジ。

魔導士ならば魔導書、伝導士ならばペン、そしてその中でも特殊な職に就くとバッジも少し変わったものになる。

魔導士を表す魔導書にその中でも高位にあることを表す杖。


現在八道と九林を囲んでいるのは賢者直属のエリート魔導士達なのである。

選ばれる条件はA級の中でも特に腕の立つ者、そして賢者による選抜だ。

賢者たちに忠誠を誓う賢者の命にだけ動く部隊であり、大賢者でさえこの部隊に命令することはできない。



「これはこれは八道S級魔導士ではありませんか。 後ろにいるのはお知合いですか? もし違うのであれば彼女と少しお話をしたいのですが。」



部隊の隊長だと思われる、白い勲章の輝くベレー帽を被った魔導士が前に出る。


どうやら彼らの狙いは八道の後ろにいる九林らしい。

九林の服装は地下組織の一員である証。

地下都市はこの国の中でも立ち入ることを禁止されている場所であり、その罪は不法滞在にも該当する。

いくつかある地下への入り口は九林の部下によって見張られ、九林グループの存在が知られているはずはないのだが、何らかの手段を使って調べたのだろうか。



「八道魔導士の後ろにいる君、それは地下組織の連中が着ている服ではないのか? 地下にいる者は税金を納めぬ不法滞在者共でありこの国に危険をもたらす可能性がある。 違わないのなら我々と一緒に来て貰おうか。」


「…………」



地下組織の情報をどこから得たのか九林グループのメンバーが着る黒いスーツのことを知っている。

ということは九林のことも知っている可能性がある。


八道は頭を回転させ、この場をどう乗り切るか考えを巡らせた。


ここで九林とは無関係者だと言い切ってその場を逃げることはできる。

だが恐らくこのタイミングでコイツらが現れたということは自分との関係も調べているのだろう。

結果は同じだ。たとえマイチでもこの場でこの部隊を止める権利は無い。

さてどうするか。


九林は自分が地下組織であることを認めるだろうか。

認めれば重犯罪者として魔界裁判官二名の参加する魔導裁判が行われ、トップである魔監獄へと投獄されるだろう。そして地下に住む者全員は追い出され、人数の多さにほとんどが処刑される。

たとえ認めなくても徹底的に調べ上げられボロが出ればそこから全て暴かれる。

賢者たちの私団(しだん)であるコイツらは国中を自由に動き回れるだろうから止められる術は実質的にない。


唯一この事態を解決する手段はマイチが持っている。

マイチが地下を国の一部とすることを認め、地下の住民に居住権を与える。

そうすれば九林も地下の人々も堂々と地上を歩くことができる。

だが早く施工されなければその前に九林の裁判が始まるだろう。

一刻も早い動きが必要だ、どうにかしてマイチに伝えないと……。



結論は出たのだが、八道には腑に落ちないことがあった。

賢者たちは九林達を含め地下を暴いて何の利益があるのだろうか。

今まで地下に踏み込まなかったのは、地上にいる者では地下を完全に統治できず、そして地下に人が居ることによって地下からの侵略に対応しやすいからだ。

それがただの時間稼ぎかどうかは別として、だ。


九林達の存在を知っているのであれば、むしろ国の防衛機関として認めるべきである。


マイチが言っていたのはまさか……。






「わかった。 行こう。」



九林はそう言うと八道の前へと歩み出た。

その姿はやはり九林だった。

臆することなく胸を張り、包囲されているにもかかわらず前に進んでいく。



「八道、巻き込んで悪いな。 早く師匠へこのことを伝えてくれ!」



九林は振り返って八道を見るとニッと笑う。

これは八道と同じ結論へ辿りついたからこその判断だ。

ならば八道も乗るしかない。


「仕方ねぇな、巻き込まれてやるよ。」


八道も笑い魔導書を開いて手をかざしたことで、戦闘を予想していなかったのか賢者直属部隊の魔導士たちは急いで構えなおす。S級の魔導士を相手にするということで彼らの顔は一気に強張る。



「八道魔導士何をやっている!? 犯罪者と肩を並べる気か! 違うなら書を閉じよ!」



隊長が顔を真っ赤に紅潮させて怒鳴る。

彼らの当初の目的は無抵抗で拘束することであり、戦闘に持ち込むつもりはなかったのだろう。

戦いを覚悟している顔つきではない。

日頃から八道の勝手さを知り、陰口を叩いていた彼らは今回もどうせ「無関係だ」と言い張るとたかをくくっていたのだ。



「やだね。 閉じねぇよ。」



「そ、それでは我らと戦うというのか!! いくらS級魔導士でもこの数のA級魔導士達を相手に勝てるなどと思うのは無謀というものだぞ!!」




「……魔導譚 魔界記者の影烏(カゲカラス)



八道は魔導書に魔力を込める、するとページの小さな魔法陣から一羽のカラスが現れ、八道の右手にとまる。

このカラスは影の中を飛び目的地まで伝言を届ける魔界に数多く生息しているカラスで、魔界のスクープを奪われないために魔界記者たちが使う伝書鳩のようなものだ。



「仕方あるまい。 皆攻撃せよっ!!」




八道たちがまだ戦闘態勢に入る前に賢者直属部隊は攻撃を仕掛けてきた。

結成して長い部隊の連携は完璧で、各魔導士属性の弱点を補いあった一本の糸のような攻撃を二人に浴びせる。


前衛を身体強化属五人が務め、接近戦で九林を攻める。

そしてその死角を縫うように自然操作属が矢のように圧縮して威力を高めた魔法を繰り出す。



「しゃらくせぇ。 下がってな、八道。」



九林は魔導剣を抜かず素手で構えると、最初に迫っていた魔導槍の矛を避け柄を掴むと、それを右手の腕力だけでへし折って左手で顔面を殴打する。


昏倒して倒れる魔導士の背後とその横から続いて剣と棍が襲い掛かる。

その剣を槍の矛で受け止め、棍を腕で防ぐと、九林は棍を相手の手から抜き取って武器に変え、一人は首筋に、もう一人は振り向き様に背後へと繰り出された突きを胸部に喰らい、その場に崩れ落ちる。


その死角をかいくぐってくる魔法の矢を紙一重で躱しながらその間を本物の矢が飛んでくる。

身体強化を施した九林の早さは矢よりも速く、弓を持つ魔導士の首を掴むと地面に叩きつけた。


「ふぅっ……」


息をつくのも一瞬、自然操作の魔導士が次の魔法を三段撃ちの要領で撃ち込んでくる。

九林は追尾する魔法の連撃を見ると、剣を抜き、その鞘で打ち消しながら進んでいく。

九林の持つ魔導剣の鞘には八道の工夫により、少々の魔法や攻撃になら耐えうる盾のような役割が付加されている。

そして魔法をかいくぐり、接近戦に弱い自然操作属の魔導士達の懐に潜り込むと、その速度で勢いの増した拳と蹴りが八人の魔導士たちを瞬く間に黙らせた。


門の外からその光景をみていた野次馬達が歓声を上げる。

屋外のロビーの至るところが賢者直属魔導士たちの魔法で壊れていた。

まさか魔導協会のロビーで魔導士同士の戦闘が行われるなど数十年の間に一度もなかったことだろう。


新聞記者たちも多く駆けつけて写真やら野次馬へのインタビューを始めていた。









「―――――――と伝えてくれ。」


一方影烏にマイチへの伝言を伝え終わった八道は自分の影に影烏を飛ばすと、三分足らずで十三人の魔導士を戦闘不能にした九林を見る。


九林は意見は同じだ、という風に頷く。




「参った、大人しくお前らについていこう。」




八道は魔導書を閉じて、目の前で副官の魔導士と一緒に逃げようとしていた隊長に告げる。

九林も剣を鞘に納めてベルトに差しなおしている。地面に倒れている魔導士たちも誰一人として死ぬどころか、大きな怪我すら負っていない。



「へ?」



この圧倒的な状況で何故そんなことをいうのか理解できないという様子だ。

二人とも動きが止まっている。



「最初から俺たちは反抗する気は無かった。 ただお前たちが襲ってきたから反撃したということだ。」



八道は頭の混乱しているうちに記憶にそれを植え付けようと考えた。

自分が影烏を呼んだことに、九林の戦いのお陰でこの二人は気づいてはいない。



「そ、そうか。 ははは……。 なら最初からそう言えばいいのだ。 はははは……」



隊長は副官に「いけ!」と命令すると、手錠を持った副官が八道の手に手錠をかけた。



「おい! この受付の魔導士は解放してやってもいいだろう?」



九林が眼鏡をかけた後輩の女性魔導士を捕まえていた縄をほどきながら言った。

既に止められる状況ではない賢者直属部隊の隊長はコクコクと頷くばかりだ。

そして女性魔導士の縄をほどき終わり、避難させると、九林も手錠をかけられた。



「はっはっはっは!! 貴様らのような反逆者は魔監獄で死ぬまで拷問を受けるがいい!」



二人を拘束した途端、調子を取り戻した隊長を九林は後ろから手錠で殴った。


「拘束したからって調子に乗るなよ。 このままでもお前らくらいいつでもやれるからな?」


九林が射殺しそうな剣幕で睨みつけると「はぃぃ!」と再び縮こまった。





二人はなんとか女性魔導士の証言を元に魔導士たちの指示を味方につけたいと考えていた。

それで時間を稼いでマイチの策を待てば希望が見える。

それが失敗したなら力ずくでの脱出を考えていた。





「おい、今からどこに行くんだ?」


八道たちは魔導協会の裏口から入り、八道でさえ入ったことのない通路を曲がりくねりながら進んでいた。いくつかの分岐点があるのだが通路は延々と同じ模様同じ装飾で、どの道をそれくらい進んだかは分からなくなっていた。

先頭を歩く賢者直属部隊隊長はそれでも迷うことなく足を進める。


「それは話せない。 命令でね。」


「あぁん!?」


「ひぃっ! 話せないことは話せないんだ! 話す権限は私にはない!」


九林による最凶の脅迫でも答えないということは本当に答えられないんだろう。

二人は隊長に黙ってついていくことにした。




それから何分ほど歩いただろうか。

何十分にも思えたが魔導協会はそこまで広くは無い。


何度もまがってきたのと同じような角を曲がると、まぶしいほどの明かりが見えた。

今まで長い時間暗い通路を歩いていた八道と九林には辛かったが、賢者直属部隊の二人は何ともないようだ。



「着いたぞ、賢者様の部屋だ。」



二人が連れられて中に入ると中に居た人間達が一斉に注目する。

部屋の中の光景に二人はある程度予想はしていたが、それでも目を疑った。




「ようこそ、八道S級魔導士。 そして 九林 魔導士。」




協会内とは思ないほどの宝石や装飾が散りばめられ、それは大賢者の部屋の比ではなかった。

そして至るところに食べかけの食事や酒瓶が置いてあり、何百万エルもしそうな絨毯には食べこぼしや飲みこぼしが見える。

そこは正に私欲の部屋だった。



そんなところにこの国の中枢を担う"賢者"たち総勢25人が揃っているのだ。

それも皆が家畜のように脂肪をたくわえ、その姿からは賢者としての気品の欠片も伺えない。

アカデミーの頃から賢者の姿を見たことは無く、表舞台には大賢者であるマイチが出席していたので、八道も九林もその姿を直に見るのは初めてだった。

そして見た者全てが抱くであろう感情が二人に重くのしかかった。


『失望』

賢者……この国に存在する魔導士達を管轄する司令部の中枢である魔導士達。総勢二十五人という情報だけしかなく、その姿を見せることは無い。この国の中でも屈指の魔導士が選ばれ、魔導士達を善き方向へと導く存在である。顧問に大賢者であるマイチ魔導士を置く。


賢者直属部隊……選りすぐりの魔導士を集めた賢者直属の部隊。大賢者でもさえもこの部隊に命令することはできない。情報は少ないが十人程度の少数精鋭との噂がある。



八道魔導士より一言

「そういや賢者の姿なんてみたことねぇなぁ。都市伝説とも言われてるぜ。」


三葉伝導士より一言

「アカデミーの校長先生もマイチさんだし、他にも様々なところで代表として見るのはマイチさんばかりだね。本当に賢者様って居るのかなぁ……。」

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