第六話 ビーガートvsディーガード。時々魔獣
平和だねぇ。と俺が呟くと。
平和ですねぇ。とマリンが応えてくれた。
のんびり街道を行く。だらだらとした、長い坂を下る。左右は背の高い深い森。この辺の道は魔王戦の後に直されたばかりなので、むしろ綺麗で歩きやすいようだ。
村を出発してから、昼を挟んで、今はもう14時くらいか。特に何事もなく隊列は進んできた。
ピザンの乗るジークエーバーを先頭に、猪型B級ビーガード4体が、貴族家の紋章入りの旗を掲げて先に進み、グラナの運転するコンテナトラック、更にその後ろに続くのは、なんかごつい猫耳型、犬型、アライグマ型、狐型のビーガード。そして最後尾にシールドライノ。という隊列だ。ローレライはコンテナの上あたりに浮いてる。
しっかし、なんだろうな、あのごつい猫耳ビーガード。ノゾミ機なんだが……猫型ですよ? 名前は『フェリシア』です。って言ってたけど、俺知らないぞ、あれ。
頭部だけ見ると確かに猫型ビーガードの『リンクス』っぽいんだが。リンクス自体は、山岳猟兵なんかが好んで乗るB級量産機で、高機動を売りにしてる機体なんだけど。
リンクス作ってる工廠の新作か……? んー……まぁ、いいか。なんか火砲みたいなの持ってるし、後方支援機なんだろ、たぶん。
で、犬型。こいつはよく知ってる。名機って言われてる、『ハウンド』だ。一度フルモデルチェンジしてるから、正確には『ハウンド2』だが、あまり2を付けては呼ばれない。
いわゆる「ロボアニメで最初から最後まで出てくる量産機」だな。当然『ハウンド水中戦対応型』とか『ナイトハウンド』とか『ハウンド砂漠戦仕様』とかバリエーションも沢山ある、『前線兵士なら結局これ』な名機だ。
その中でもあれは近接戦強化タイプだな……武装もそんな感じだし。足回りかなり強化してるなー。あのキリッとした、犬獣人のちびっ子が乗ってるんだろう。
余談だが、俺が潰した傭兵崩れが乗ってた犬型ビーガード、あれは『旧ハウンド』だった。つまり、古くなってもまだまだ現役なわけだ。名機だろ?
アライグマ型の『ラクーン』は珍しい機体だな。レアというほどでは無いけど。運用思想が『後方火力支援』だから、お値段高めであんまり出回らなかったんだよな。
機体接続可能な大型ボウガン装備のスナイパータイプに、追加装甲……じゃないな、あれは。静音性とステルス性を高めるためのソフトアーマーか。ライノのレーダーから時々消えるんだよなぁ。特殊塗料も使ってるんかね。
器用な指を持っているから、大型ナイフだって器用に扱う。観測能力は当然高いし、意外とパワーもある。近接が弱い。なんて侮ると噛みつかれて大怪我する機体だ。
機体ペイントで狸っぽく見せてるのが、愛嬌あっていいなぁ。あの、のへーっとした狸っ子が乗ってるんだろうな。……スナイパーだったんか、あの子。
レアなのは狐型だ。確か名前は『フォクシア』だったか。
機体そのものは器用貧乏なんだよな、あれ。中距離戦を得意とするって何だよ。と思うじゃん? 腰にマウントされた短杖が曲者なんだよなぁ。
魔法を行使できるロボ。って何だよ。あの小悪魔狐娘、魔法使いなのかよ。射線が読みにくいマジックミサイルとか、地形を一時的に沼にしたり隆起させたりとか。いかにも厄介そうだろ?
これで攻撃も、電撃とかの初見殺し持ちだったりすると、マジで怖いんだよ、本当に。
いやしかし面白いな。ピザン配下のラウド隊は『軍団』だ。揃いのビーガードに、揃いの武装に、揃いの訓練。わかりやすく強いタイプだ。
対してノゾミの配下は『冒険者』だな。個性の組み合わせで最大効率を狙ってるんだろう。
にしても、ぶっちゃけ戦力過剰だなぁ。これにちょっかいかけようなんて野盗は、まず居ないだろ。まぁ大型魔獣や魔王軍残党でも出れば話は別だが。
《こちらローレライ。ソナーに感あり。前方から一体来る……音紋解析中、魔王軍残党のディーガードと予測》
おぉう。しまった、フラグったか。
《ピザンだ。進軍停止、全機警戒態勢。シールドライノは後方警戒、だが戦うな。街道が割れる》
「こちらヨウスケ、解せる。お手並み拝見、高みの見物としゃれこみますかねぃ」
言いつつ、ライノの肩部キャノンにエネルギーチャージを開始する。念のためね、念のため。油断してると後でうるさいからなー、ライノ。
ジークエーバーは街道から少しはずれて草地に……あー、あいつの戦い方も、地面に大穴開けるからなぁ。
《音紋解析終了。パキケファロとデータ一致》
《ピザン了解。視認と同時に仕掛ける、ラウド1と2は続け。3と4はそのまま護衛》
《ラウド1、デニス了解》
《ラウド2、イェッサー》
《ラウド3了解》
《ラウド4、フリッツ了解っス!》
まずは、待機。そして、敵が見えた瞬間に、ジークエーバーが超高速で突進した。後に猪型ビーガードの『ボア』が二機、続いて突進していく。
軍の強い所はこれなんだよなー。自分の得意な戦法を、問答無用に押し付けてくるんだよ。
何がどう来ても乱れない。想定外が来ても、だからどうしたと言わんばかりに、だ。
そして恐らく、今回は想定外は来ないとは思う。魔王軍はそんなに頭が良い連中ばかりじゃないからな……例外は居るが。
「キアァァァァァッ!」
《ふん。確かに硬いな、だが――》
下段に構えた大剣を、突進の勢いのまま、逆袈裟に斬り上げるジークエーバー。だが、魔王軍のパキケファロサウルス型ディーガードは頭で受け止めた。
だよな。すげぇ硬いんだ、あのハゲ頭。ギキィィィッ!!ってな感じの音が鳴り響く。
あー、リョウが恐竜博士な所があって、恐竜に詳しかったから助かったなぁ、魔王討伐。
昔、マリンをいじめてた嫉妬女な魔王軍幹部の、スピノサウルス型なんてのも居たんだけど……地上での機動力が弱いって事前に教えてもらってたから、水中に戻さないよう、地上で粘ったなんて事もあったっけ。
そういや、あの後から急にマリンが柔らかくなったんだっけなぁ。
だから、これもう大丈夫か? と、アユミと交流をしはじめたら、また機嫌が悪くなったり。……女の子って、よくわからんよな。
ま、それはともかく、ピザンは振り上げた大剣を手の内で回し、そのまま振り下ろした。一撃必殺、二撃確殺。それがジークエーバーの得意戦法だ。
振り下ろした大剣は、パキケファロサウルスの肩口の辺りに食い込んで、そのまま地面に引き倒す。まだ致命傷ではないが、終わりだ。
一撃必殺、二撃確殺。三撃不要。なぜなら、ほら、追いついた隊員が倒されたパキケファロサウルスに、剣を突き立てている。一撃、二撃、三撃……あー、数える意味なんて無いな……あぁ、おっかねぇ。
パキケファロサウルス型ディーガードの断末魔が途絶えたあたりで、通信を繋ぐ。
「こちらヨウスケ。ローレライ?」
《索敵中…………3時方向に不信な音…………パキケファロがもう一体?》
3時方向? 機体をそちらに向ける。
《森の中ですわね》
ノゾミが呟く。なるほど、度胸もあるお嬢様だ、少なくとも声音は落ち着いてる。
機体にもそれなりの傷はあったし、練習くらいはちゃんと積んでいたはずだ。ここまで旅して来て、初陣でもないだろうしな。
特にハウンドは、実戦じゃなきゃ付かないような傷もあったからなぁ。
《でしたら、猟犬の出番ですわ。ワンコ、ハイ・オン! トレイン! ですわ!》
《がるるるるるるーっ!》
ノゾミが命令すると、即座に飛び出し、森に飛び込んでいくハウンド。…ちょっと待って。今、ワンコって言った?
森の中からガサガサバキバキ音がしてる。おいおい。ローレライの索敵の邪魔に……いや、犬の嗅覚の方が頼りに……? いやいや、ロボだぞ?
《見っけたー! 見っかったー!》
マジでか。本当に見つけたよあのワンコ。犬獣人の嗅覚すげぇな……いや、んなわけねーな。なんかのセンサー強化してんな、あのハウンド。
盛大に派手な音がこっちに向かってくる。ノゾミは落ち着いて、矢継ぎ早に指示を出す。
《マミは狙撃準備、頭じゃなく両肩の中心あたりを狙いなさい。ココは出会い頭にフラッシュを。ワンコ、敵が森の外に出たら、バイトの準備ですわ》
《もぐもぐ……ふぁい》
《はぁい!》
《わんわんっ! 噛みつくぞー! がるるー!》
三者三様だな……いやでも、良いチーム……なのか?
にしても。あのワンコ、キリッとしてるの見た目だけか……そういやシベリアンハスキー系の顔立ちだったな……。
ふむ、パキケファロなら、これで終わりだな。
……パキケファロだけなら、だが。
マリンに秘匿回線をつなぐ。
「マリン、ローレライ、少し離れた所まで警戒してみてくれ」
《はい。ローレライ、おねがい。……ヴェロキラプトル型ですか?》
《正解。居たら絶対、後方で狙ってる。……居なければ、それでいい》
《こちらローレライ。雑音が多すぎて時間がかかる。今のところソナーに感無し。……あ、後方遠くに、大型魔獣。一応警戒しとく》
森から飛び出してくるハウンド。遅れて現れたパキケファロの頭部に、フォクシアの閃光。怯んだ所にノゾミの「ショット!」の命令で放たれたラクーンのボルトが命中。
すかさず踵を返して突っ込んだハウンドが、大振りダガーの二刀流で滅多刺しにして……おぉ、一発撃ったラクーンがすかさず移動してる。
あぁ、良いチームだな……というか、良い指示だな。
《ワンコ! ハウスです!》
《わんっ!》
ノゾミの命令で、ハウンドが下がる。なるほどね、忠犬な狂犬か、良い配下持ってるなぁ、ノゾミ。でもハウスて。それでいいんかワンコ。
しかし、あのごつい猫耳機体、後方火力じゃないな。ごついのはセンサー類強化してるからで、戦闘指揮車両みたいな役割なのか……?
見た目の割に防御力は薄い可能性があるな。注意して見ておいてやらんと。
パキケファロサウルス型ディーガードはもはや死に体だ。そこにノゾミの《マミ、撃ちなさい》で、完全に沈黙した。
――さて、来るとしたら、そろそろか?
「ローレライ?」
《来る。後方坂上、大型魔獣。視覚でも確認……ギガアルマジロ黒色変異個体》
「ライノ、エネルギーキャノンで抜けると思う?」
「転がってくるのだろうからな、無理だ」
硬ってぇからな、アイツも。しかも変異個体と来た。
まぁ、こーゆー時の為に、一番防御力があるシールドライノが、一番後方だったわけでな。
最初はゆっくりと、徐々に加速しながら転がってくる、巨大なアルマジロの魔獣。
「ピャァァァァ」って小さい悲鳴はココか? 結構ビビりなのかね? 良い事だ、生き残れる。
「ライノ! サッカーしようぜ! あいつボールな!」
「了解。シールドエネルギーを脚部に。蹴撃形態へ移行」
「くらえ! これがネオライノーショットだァ!!」
――何がネオなのかは俺も知らん。蒼天に響いた大音響は、それはそれは凄かったらしい。ローレライに「うるさい」と文句を言われた。
ちゃんと魔獣を倒したし、味方も守ったし、街道も壊さなかったのになぁ。
なのにノゾミもプリプリしてた。「子供たちが真似したらどうするんですの!」と。解せぬ……いや、解せる。
「かっけー! ヨースケかっけー! サッカー教えて!」
でもワンコには懐かれた。
なんだろう、この、近所で飼われてた、人懐っこい大型犬感。……元気かなぁ、田中さん家のボンテンマル。
「懐かれてますねヨウスケさん……」
天丼ですよマリンさんや。
さぁて、夜までに次の街に着けるかなー。




