第四話 貴族の思惑と、小悪魔系狐っ子
「何ですか。私は平気です」
あぁ、また夢を見ている。
これはいつの事だろう。……マリンがこうツンツンしてるって事は、まだこっちに来たばかりの頃か。
「……馬鹿じゃないですか? 遊間さん、ひょっとしてロリコンですか? ……なら、ほっといて下さい」
なんか曇り顔してるマリンがほっとけなくて、色々とちょっかいかけてたんだよな、この頃の俺って。
後で聞いたら、なんか芸能界の闇的な営業の話が来て、学校に行く気にもならず、通学途中の公園のベンチに座っていて――ふと気が付いたら、こっちの世界に来ていたんだとか。
……無事に帰ったら、マリンの親の顔面に一発ぶち込んでやるつもりだったんだけどなー。
「ヨウスケさん?」
まぁ、ノゾミの話だと、因果は応報したらしいから、良いか。
「ヨウスケさん? 朝ですよー?」
実際やってたら大問題だったろうしな。高校生が大物芸能人夫婦を襲撃! とか、朝とか昼とかの情報番組の格好のネタだわ。
「うーん……あと5年……」
「封印期間より長いじゃないですか!」
さて、起きますかね。
起きたらマリンが両手で自分の顔を覆っていてビビった。
また私を一人にするんですか……とか声を震わせていて焦った。
そう言って肩を震わせるマリンに、必死に弁解していて……違和感を感じたのでよく見たら、笑いをこらえていた。
「てへペロ♪」
すげぇあざと可愛かった。まぁ俺も悪かったし、許さざるを得ない。くそ。美少女は美少女というだけで、それだけで得だな!
「ノゾミさんが、また朝食をどうですか? って言ってましたよ」
「そいつは是非お世話になりたい所だなぁ。先に行って待っててくれ、ちょいピザンと話してから行くわ」
「……私は居なくて大丈夫ですか?」
「単なる業務連絡みたいなもんだし。すぐ行くから……置いて行ったりしねーよ」
顔を洗って、マリンと別れて一人、村の広場を歩く。壊された壁なんかも一応直ってるが……出発は明日かね、これは。
昨日は結局、ノゾミの話に付き合わされるような形になったんだが……まぁ色々と聞かれたわ。で、まぁ、頭いいなぁこいつ。ってのが俺の素直なノゾミ評だな。
リョウみたいに少ない材料からでも真実を見抜いてくる天才じゃなく、理屈を積み上げて真相に近づくタイプの天才だな、あれは。
村の様子は……昨日よりは、村の連中に活気が戻ってる、かな……空元気かもしれないが。あぁ、でも、空元気を出せるようになったのは良い事だ、きっと。
「おーう、ピザンさんや。ちょっといいかね?」
「貴様か。なんだ」
小太りの貴族然とした、若い男に声をかける。コイツがピザンだ。
ピザン・ド・フェルナルドーク、侯爵家嫡男、数えで18歳とか言ってたから、俺と同年代なはず。
俺はむしろ、コイツの親父との面識の方が深い。宮廷貴族じゃなく領地持ち貴族だったので、軍を率いていたからな。
猪型アークビーガード、ジークエーバーと肩を並べて戦ったこともある。
「……なんだ、ジロジロと」
「いやぁ、バルザン侯爵に似てるなぁ、と」
「父か。まぁ、よく言われる。……それで、なんだ。私も暇ではないのだぞ」
「あー、まぁ、業務連絡? 俺とマリンは、ノゾミと一緒に行動することにしたから」
「そうか」
…………あれ? それだけ? なんか貴族的な思惑あったんじゃないの?
なんか思惑があって、マリンの護衛してたんじゃないのか?
「……ふぅ。言っておく。宮廷雀どもは何やら画策しているようだが、我らのような武門の貴族は、戦友を利用するような真似はせん」
「あぁ……なるほど、そうだろうな」
後ろ指をさされるような真似はしないな、あの連中なら。気風の良い連中や、気の良い馬鹿みたいな連中も多いし。
なにより、馬鹿にされるような事は、軍閥貴族には致命的瑕疵になるそうだからなぁ。言い方悪いが、ヤクザみたいなもんだ。
「まともな理由で「マリンを嫁に欲しい」。という者も確かに居た。居たが――当たって砕けていたな」
「なるほど?」
「むしろ英雄なぞいらん。好きに生きろ。……帰る方法でも探したらどうだ?」
「あー、わかった、ありがとよ」
「何に対しての感謝だそれは」
「宮廷貴族からも護衛してくれてたんだろ? マリンをさ」
「……あぁ、なるほど。父上が言っていたのは、これか」
「お? バルザン侯爵がなんて?」
「馬鹿で間抜けでスケベでお人好しだが、時々異様なまでに鋭い。と」
「……よく言われる」
ホントよく言われるんだ、これ。後はよく言われるのは「お友達でいましょうねぇ」とか。「良い人なんだけどねー」とか。
くそう。
「では、こちらからも業務連絡だ。出発は明朝0900で良いか、クドウ令嬢に確認しておいてくれ」
「あぁ、ついてきてくれるんだ?」
「当然だろう。……そもそも、女性ばかりで旅をする、クドウ令嬢が異常なのだ」
「まぁそれはそう。わかった、聞いておく、んじゃまた後で」
おそらくビーガードの護衛と、輸送車両の組み合わせで移動してきてんだろうけどなぁ……交易商なんかが、よく使う編成だ。そんで、街中は高級な旅籠にでも泊まったか。
さっきチラっと見たが、コンテナの中には、なんかやたらゴツい、まだまだ新品同然の猫耳ビーガードが居た。あれは何型ビーガードなんだ?
……後で見せてもらえないだろうか。いやほらさ、俺も男の子なわけで、そーゆーロボとかメカも好きなんよ。
「お待たせマリン、さてさぁて、今日の朝飯はなんじゃらほい、と」
「あ、おかえりなさい、ヨウスケさん」
「今日の朝食はピザトーストですよ、英雄様」
マリンに一声かけて、昨日と同じ席に座ると、聞き慣れない声と共に、目の前にコーンスープが入ったマグカップが置かれた。
お? と、横を見ると、昨日見かけた狐獣人のちびっ子だ。狸っ子はのへっとしてたけど、この子はしゃきっとしてんなぁ。
てきぱきと配膳をするちびっ子狐をなんとなし見てると、ついにピザトーストが登場した。
……おぉ……うまそう……なんでチーズの溶ける匂いってこんなに暴力的なんだ……。
ちびっ子狐はさらに赤い小瓶を置いて、お好みでどうぞ。と言った。これは……タバスコ的なものかな?
タバスコって登録商標だったよな……タバスコで通じるかな? この辺の異世界言語翻訳、どうなってるかよくわからんのよな。
通じたり通じなかったりするんだよ。四面楚歌は通じてた。馬の耳に念仏は通じて無かった。なんか法則でもあるんかね。
「……ところで英雄様は、マヨネーザーですか?」
「まよ? あぁ……マヨネーズはいらないかなぁ。あ、あと英雄様はやめてくれ。ヨウスケで良い。君は?」
「……私の名前知りたいんですか? あ、ひょっとして口説かれてます? ……私、えっちな目で見られてます?」
「名前くらい普通に挨拶じゃろがい! それに俺はロリコンちゃうわい!」
「にひひっ、ココですよぉ、ヨウスケ様」
「様もいらねー、普通に呼び捨てでいい」
「にひ。はぁい、わかったわ、ヨウスケ! お嬢様呼んでくるね!」
元気にふさふさ尻尾を揺らして、軽やかな足取りで駆けていくココ。
前言撤回しとこう。小悪魔系だわ、あの狐っ子。……まぁ、あの程度なら可愛らしいから、別にいっか。
「仲良さそうでしたね……ヨウスケさん……」
それはそれとして、湿度のある目で見るのやめてくれませんかねぇ、マリンさんや。
「お待たせしましたわ。……ふふっ、ココも落とすとは、流石ですわね、英雄様」
火に油を注ぐような発言もやめてくれませんかねぇ、ノゾミさんや。
「さぁ朝食だ! わーい! ヨウスケ、ピザトーストだいすき!」
「じー」
ピザトーストもコーンスープも絶品だった、とだけ記しておく。
「ところでヨウスケさん、こちらどうぞ」
「お? フリスビーか?」
「はい。フライングソーサーですわ」
「……ひょっとして、フリスビーって登録商標?」
「ですわね。まぁフリスビーでも通じるみたいですけど。複数あるので、村の子供たちにも配ってあげて下さいな」
「おー。ガキども喜ぶかな! ん? ……なんか一個、噛み跡がついてるぞ?」
「あ、それは返して下さい。私のワンコのお気に入りの遊び道具ですわ」
絶品! グラナのピザトースト! を食べた後の、食後のまったりお茶タイムである。
ピザンの伝言は既に伝えた。ノゾミ曰く「これから直接出向いて話し合ってきますわ」だそうだ。
ただまぁ、明日の9時に出発になるだろうとは言われた。ガキどもに遊び教え切れるかなぁ。
しかし犬飼ってるのか。猫より犬派の俺としては、会ってみたいものだが。
「そういや、鹵獲ビーガードはどうなったんかなー」
「そっちはピザンさんの配下が直してます。犬型が二機、牛型が一機は直りそうだとか」
「牛型?」
俺の疑問に、マリンが答えてくれた。
「こっちで出たんですよ。戦闘用じゃなくて重作業・運搬輸送用だったみたいです」
「へー」
「操者狙いの一撃で、重要パーツに損傷無しだったそうですから、直すのも楽なんじゃないでしょうか」
「犬型の方は派手にバラバラで、ピザンさんの配下が、直すの大変だとぼやいてましたわ」
「しかたねーだろ、手加減して、こっちが怪我したら馬鹿らしいじゃん」
「です。ヨウスケさんの安全が第一です」
そもそも精密な一撃で行動不能にさせる。ってビーガードじゃないんだよな、シールドライノは。
圧倒的なパワーを叩きつけるタイプの機体なんだ。だから、奴らの末路は……仕方ない事、なんだ。
――よし。優先順位を間違えるなよ俺。後悔できるのは、生き残ったからだ。
「じゃぁ俺は遊びに行ってくるかな! ガキども、ちらちらこっち見てるし!」
「お供しますヨウスケさん!」
「あ、マリンさん、待ってくださいまし。ちょっと女の子同士の秘密のお話が」
「え? あ、はい。じゃぁヨウスケさん、行ってらっしゃいです!」
「おう。おーい、ガキどもー! 待たせたな! お遊びは此処からだ!」
二人っきりにするのに、ほんの少しの不安を覚えたが……まぁ、大丈夫か。
ノゾミはまぁ、信用できそうってのもあるが、マミやココ、グラナがあれだけ信頼してるんだ。
……女の子同士の秘密のお話。って結構なパワーワードだなぁ!




