第三話 疲れた体に美味いメシ、つまり最強
「ローレライ経由で聞いていた。……私はそっちの世界の事はわからんが、確かに有能さは感じたな」
「実際有能だよ。政治経済方面だと、俺じゃ逆立ちさせても勝てないね」
《……ヨウスケさん、その慣用句は、逆立ちしても勝てない、です》
《くす》
「わ、わざとですー冗談で言ったに決まってるだろー……笑うなローレライ!」
早速機体の中で、通信を使って内緒話してるのだが……。
くそぅ、ローレライめ、普段ぜんぜん喋らないのに、こういう時だけ……可愛いなこんちくしょう!
「まぁ、ヨウスケの馬鹿さ加減はどうでも良いとして。現状、ついて行くしか無かろう。彼女を頼るか、貴族連中を頼るかの二択だ」
どうでもよくない! よくないが……まぁ、だよな。いくら自己回復能力があるライノやローレライでも、まったくの無整備じゃいずれ限界が来る。
そして、人間の俺やマリンは、衣食住の限界はもっと早く来る。冒険者ギルドや傭兵ギルドに所属する、という手が無いわけでもないが……。
冒険者も傭兵も、人間相手に戦う事があるんだ……俺はいい、俺はもういい。だけど、マリンに戦わせるのは――それは、俺が嫌だ。
《貴族の人たちは……だめ。マリンを連れ去ろうとしたり、してた》
「おい。それは初耳だぞローレライ。何があったんだ」
《ちょ、ちょっと、ローレライってば、あのですね、ヨウスケさん――》
《是非とも当家の嫁に……とか。ヨウスケはもう帰ってこない……とか。マリンに言って……あいつら、嫌い》
「うん。よし。ノゾミに頼ろう。貴族連中ざまぁみさらせじゃい」
《ヨウスケさん!? そんな、簡単に!?》
簡単でいいのよ。簡単とは、つまりシンプルだ。シンプルに、いじわる貴族よりは同郷のノゾミの方が信用できる。ってだけの事さ。
「油断はするなよ」
わかってるさ、ライノ。
「見せびらかして来ましたか?」
「おう。ライノも喜んでいたよ。ご自慢の角の造形とか気に入ってた」
「ローレライはなんか微妙そうで……私、もっとセクシー。とか言ってました」
「それは仕方ない。玩具ってのはつまり、子供向けだからな。あまり性的な方向に造形するわけには――」
「ストップですわ! で、結論は出まして?」
まぁ見抜いてくるよな、相談してた事くらい。
有能さを隠そうとしないのは、ある意味では誠実だ。と、ライノも言ってたし。此処は素直に――。
「頼るよ。よろしく、ノゾミお嬢様。――かしずいた方がいいか?」
「よろしくお願いします、ノゾミさん。――私もかしずいた方が?」
「うふふ、英雄をかしずかせるなんて恐れ多いです。ノゾミ、と呼び捨てでお願いしますわ」
ノゾミが手を差し出してくる……あぁ、握手か。やっぱイイトコのお嬢様なんだなぁ。
たぶん、外国の人とかと交流したりしてたんだな、このコミュニケーション能力は。
「それと、サンキューな」
「? 何に対しての感謝ですの?」
「この村に支援とかしてくれてるだろ? それに、コンテナ輸送機で損壊ビーガード回収とか行ってくれてるみたいだし」
「なんでわかって――あぁ、ローレライの能力ですか。……ふふっ、本当にお人好しなんですわね、ヨウスケさん。べ、別に貴方の為じゃないんですからね! って奴ですわ」
「まぁそれはそう。で、出発は明日か明後日かな?」
「作業が順調に終われば明日、終わらなければ明後日ですわね」
「りょーかい。じゃ、ちょっと遊びに行ってくるわ」
「遊び? 何を――」
「ヨウスケさん、お供します!」
ピザンと愉快な仲間達や、ノゾミの配下が仕事してる中、俺は夕暮れまで遊んだ。
村の子供たちが暗い顔してるのが嫌だったからな。缶蹴り、あやとり、ハンカチ落とし、だるまさんがころんだ。鬼ごっこ。
こっちに持ち込んだけん玉やヨーヨーなんかも、職人にコピーさせたりした奴を放出したりした。
この世界、旋盤とか普通にある。まぁビーガードとか、普通にボールベアリング使われてるもんな。
こんな村でさえ、けん玉どころかヨーヨーだって、木工職人がいりゃコピーできるだろう。
なーんか技術の進歩が歪なんだよなぁ、この世界。……蒸気機関どころか、内燃機関やデファレンシャルギアだってあるのに、銃が無い。
銃というより、火薬か。大砲も無い、爆弾も無い。ビーガードの火砲も、エネルギーとか魔法を打ち出すとか、バネや圧縮空気を使ってる。
銃か……ノゾミ、火薬の概念を持ち込んだりしてないだろうな……。ま、それはさておき。
「ストリングプレイ、スパイダーベイビー!」
「わー!」
「どうやるの!? 兄ちゃん、それどうやるの!?」
うははは、どうじゃ! 村を救った英雄がモテモテじゃい!
鼻たらしたガキどもにだけどな!
「疲れた」
「お疲れ様です、ヨウスケさん」
朝から遊んで、子供らと昼飯食って、またまたたっぷり遊んで、親に連れ帰られるガキどもに手を振った後の黄昏時。朝食をいただいた時の席に座っている。夕食に誘われたからだ。
朝食すげーうまかったし、昼のサンドウィッチもすげーうまかったので、ちょっと期待してる。あの女性ドワーフが炊事とか担当のようだ……と、きたきた!
「あいよ、おまっとさん! 今日の夕食は野菜ゴロゴロシチューと、猪肉の生姜焼きだよ!」
「おー! うまそー! ……えっと、おねいさんのお名前は?」
「あっはっはっ! お姉さんって年じゃ無いよあたしゃ。グラナ、ってんだ。よろしくな、英雄さん!」
「マリンです。よろしくお願いします、グラナさん」
「英雄はやめて下さいよ、俺はヨウスケ、普通の男っス」
「あっはっはっ! いいね! 普通の男か! 普通なもんかい! 良い男だよアンタ! ……見てたよ、子供たちと遊んでる姿」
「あー……あれは、まぁ、だって嫌じゃないっスか、子供たちのあんな顔」
「嫌か。そうかいそうかい。ほんっと良い男だ、アンタ。さぁ食べな! おかわりもたっぷりあるよ! さぁさぁさぁ!」
ずんぐりむっくり体型、顎鬚三つ編み、そしてこの口調に、サッパリした性格。実にドワーフの女性だ。
ドワーフ連中は付き合いやすくていい。なにしろわかりやすく、気の良い連中ばかりだから。
……酒が入ってるドワーフは除くが。
「そうです! ヨウスケさんは良い男なんです! グラナさん、さすがドワーフですね! 良い目利きです!」
「マリン、いいから。いいから座って。グラナさんも、流石にノゾミが来る前に料理に手を付けられないから、落ち着いて」
「お待たせしましたわ。……あら、すっかり仲良しですのね、グラナと」
「あぁお嬢! いいね! この子良い男だよ!気に入ったよあたしゃ! ほら席に着きな! 料理が冷めちまう」
「ふむふむ。グラナの目でも合格点なのですね。では冷めないうちに、いただきますですわ!」
「いただきまーす!」
「いただきます」
とりあえず食う。うまかぁ……。というかね。すげぇうまいのよ。やべぇ。箸が止まらねぇ! ンマーイ!
シチューおかわりいい? あ、大盛でお願いします。生姜焼きもある? じゃそれも。あ、ごはんも。大盛で。
「……食いすぎた」
「……私も」
「うふふ。かかりましたわね? グラナの料理を食べたら最後、もう私からは逃れられませんわ」
「……くそう。否定できねぇ」
「……私も」
食後のお茶タイムである。グラナは食器を下げて洗い物に行った。
しかし、マリンが食いすぎるとか、はじめて見た。やべぇな。マジで胃袋掴まれたかもしんねぇ……この攻撃は予想外だったわ。
あぁ、でも、あれは聞いとかないとな……。
「ところでヨウスケさん。こっちの世界に来て、銃とかには手を出さなかったんですの? 異世界転移じゃ定番ですわよね?」
おっと、向こうから話を振って来たか、なら丁度いい。
「あー……それどころじゃなかったからな。それにほら、銃ってのは、誰でも人を殺せる兵器だろう?」
「ふむふむ。……まぁ、作らなくて正解でしたわね。正確には、作っても無駄でしたわ」
「無駄? それってどういう……」
「この世界、硝酸カリウムが酸素を解放する速度が、極端に遅いみたいですの」
「? ……えーと?」
「激しく燃焼はしても、爆発には至らない……って事ですか?」
「マリンちゃん、正解です。あぁ、硝酸カリウム自体は普通に使われてますわよ? 肥料にも使いますし、保存処理にも使います」
ヤバい。小学4年から学校に行ってない女の子に、科学知識で負けてるぞ、俺。
とはいえ、口出ししてボロが出るのも嫌なので、聞き役に徹しておこう。
「けど、爆発はしないんですね」
「えぇ。爆発に必要な反応速度が、妙に鈍いんですの」
ふむ? ……ってー事は、つまり、それって。少しためらいながら、その言葉を口に出す。
「世界が――世界そのものが、銃を嫌っている?」
「私も恣意的なものを感じました。ですので、他の酸化剤は試してすらいません。……罰が当たると、嫌ですもの」
土木目的で使うつもりだったのですけどね……嫌われてまで使おうとは思いません。ノゾミはそう言って、お茶を飲んだ。
罰が当たる、か……そうか、そうだな。……だが、まぁ、うん。
「まぁいいさ、それならそれで、対応するだけだし」
「ふふっ、その割り切り方、好きですわ」
「む。私の方がもっと好きです!」
食後のお茶も美味かった。良いじゃないか、俺らには、火薬が無くて困る事はそんなに無い。
グラナの料理の方が、火薬よりヤバい。それで良い。




