第三十二話 メリーティア防衛戦 6 (群像劇)
対峙する両者、高まる緊張感。次にしかけるのは、どちらからか――
が、その時、横合いから、ごつい武器が飛んできて、雰囲気をぶち壊す。
ジークエーバーに集中していたケラノサウルス、その横っ面に、斧槍がぶちあたったのだ。
「ぐはァ!?」
「おっと、すまん! 投げ捨てたのがたまたま当たった! 邪魔したな!」
「ヨウスケ!?」
「悪いなピザン! 角付きもメンゴな!
「きき、貴様、俺の戦いに——」
「いやいや、偶然偶然! それにまー、そもそも戦争は一人でやるもんじゃねーだろ?」
ヨウスケはそう言いながらシールドライノを操り、事前にケラトサウルスの背後に飛ばしていた、円形盾状の力場を引き戻す。がづん! と盛大な音がした。
ケラトサウルスからしていれば、後頭部をいきなり殴られたわけで……。小賢しい、実に小賢しい。だが……確かに有効だった。
「ぬぐァァ!? 貴様! 貴様ァ! 邪魔をするなァ!!」
「邪魔? ……戦争だぜ? 邪魔とか言ってる時点で、お前、負けてんだよ」
ヨウスケの声は、飄々としていた。その態度、その言葉が、ケラトサウルスの神経を逆撫でする。
「黙れェ!」
ケラトサウルスがシールドライノに突進する。だが、その一撃は空を切った。盛大な勢いで転倒するケラトサウルス。
その足元には、ピラミッド型に展開させた力場。ケラトサウルスは、これを踏んだのだ。
「ほら、また。怒ると動きが単純になるんだよなー、お前」
「貴様貴様貴様キサマァ——!」
「ピザン」
飄々とした声音から一転、冷静な声でピザンの名を呼ぶヨウスケ。
「あぁ」
ピザンはジークエーバーに、低く身を伏せさせた。ブースターに炎が灯る。水平に構えられた大剣は、ピタリと停止し――
「——ジーク、行くぞ!」
「あぁ、征け! 我が主よ!」
大剣を牙と為し、ジークエーバーは突撃する。獲物に向けられ微動だにせぬ大剣の先端は、もはや槍のそれ。一直線に、ケラトサウルスの脇腹を狙う。
「ぬぅ——!?」
ケラトサウルスは、なんとか、辛うじて身を翻す。だが、牙はその装甲を深く裂いた。
「ぐッ……貴様……キサマら!」
「浅いな……我が父ならば……」
「いいやピザン、先代に引けを取らぬよ」
「……そうか」
ピザンは、冷静に呟いた。だが内心では手応えを感じていた。この一撃で、ケラトサウルスの動きは確実に鈍る。
卑怯? 言いたければ言え。ピザンは思う、覚悟は、とう出来ていると――根や茎が健全であれば、花なぞ、また咲くものだ、と。
「では、もう一度だ、ジーク」
「あぁ、何度でも、何度でもな」
その背後では、シールドライノが再びケラトサウルスにちょっかいをかけている。
場をぶち壊す、空気を無視する、予想外の事をしでかす、だが、ヨウスケは決して不真面目に戦っているわけではない。
ヨウスケは自分を知っている。ギィの様な戦略眼も、ノゾミの様な知識も、ミローネのような戦才も、自分には無い。あるのは小賢しさと、小器用さ、それと、現場判断力。だからそれを使う、それを使って戦いぬく。
円形盾の力場を振り回し、時に跳ね、時に転がり、とにかく落ち着きがない。敵を落ち着かせない。
「くそ! くそが! てめぇら! 何してやがる! 囲め! 全員でタコ殴りにしろ!」
「おっとぉ、二本もご大層な角持ってて、一本角の犀に数の暴力かぁ?」
「黙れガキが! 野郎ども! 全員でかかれ!」
ライノのコクピットで、ヨウスケはニヤリと笑う。釣れた、と。
ヨウスケには、ピザンのような貴族として、だの、軍人として、だのといった信念も無い。
あるのは、「そりゃてめぇらの都合だろう、俺らが、知るか!」という、怒りを含んだ反骨心と義侠心。
「さぁ、あとはこの、街の正門前での、決戦だけだぜライノ! 万が一? あっても、ノゾミとマリンが塞いでくれるさ!」
「ふ。はは。ははは! 応よ、ヨウスケ!」
「おや珍しい。ライノさんがご機嫌だぁ!」
「たまにはな!」
力場をもう一つ生成し、左右の円形盾形力場を振り回す。まるでヨーヨーのトリックプレイのように。
弧を描いて飛びまわる力場が、ディーガードを寄せ付けない、寄ってこないなら、シールドライノの方が踏み込む。
ストリングが絡みあう心配も無い、稀に射撃を委任されたシールドライノが、肩のエネルギーキャノンで砲撃。
砲撃直後に弧を描いた力場が、ラプトルを吹き飛ばす。パキケファロがその硬い頭で力場ヨーヨーの出足を抑えても、ライノがその胴体を砲撃する。
ピザンのような人機一体ではない。二つの意思が、絡み合い、お互いの仕事を、一つの機体で同時に行うのだ。
本人の認識はおいておくとして……その暴れっぷりは、「英雄と呼ばれてもしゃーねーんじゃないの?」というものだった。
「ピザン、左」
「わかっている」
「ピザン、おそらく、次に前が空いたら、行ける」
「わかった」
左からの襲撃をいなし、大剣で持って斬り伏せる。
ピザンは舌を巻く。これがヨウスケの本気、本領か。ミローネ殿と似ているが、違う。奴は、ヨウスケはもっと自由だ。いや、自由と言うより。
「……奔放な奴だ」
「お? それは初めて言われたな」
前が空いた。ジークエーバーが再び突撃を仕掛ける。狙いは、ケラトサウルスの左前脚。
ガイアが、バングがアロサウルス戦でやっていた、低い体勢からの伸びあがる斬撃を真似する。
ジークエーバーの大剣が……鉄猪の牙が、鉄蜥蜴の脚関節部を捉えた。
「ぐおおおッ!?」
「今だ、トドメを——」
ケラトサウルスが、悲鳴のような、苦痛の声を上げる。その巨体が、傾いだ。
好機と見たピザンが、止めを刺そうとしたその時。
「待て、ピザン」
ヨウスケの声が、ピザンを制した。
「……何故だ」
「あいつ、まだ終わってねー。ありゃ、演技だな」
「演技……?」
「俺ならそうする、死んだふりして、反撃の機会を窺う。せめてコイツだけは、ってな。……お前、そういうのひっかかりそうじゃん」
「うぐ」
「演技じゃなくても、焦る事は無いしな。というか、止めろよジークエーバー、お前の役目だろ」
「うぐ」
「仕留めるのを急ぐ段階じゃ無ぇのよ、もう。……詰みだぜ、ケラトサウルス」
ピザンとジークエーバーは息を呑む。
そう。そうなのだ。ケラトサウルス配下のディーガードは、その大きく数を減らした。……この防衛戦の勝敗は、既に決した。
奴らは残党。減った数を補充するあてはない。最初から、時間は味方だった。その時間を作り出すための決戦だった。
そして、その段階はもう過ぎた。今はもう、後はもう、この、正門前での戦闘がどう決着するかだけ。
正門からラウド隊が出て来る。
ラウド隊に続いて、ボロボロの姿になってなお、意気軒高な街のビーガード達が出て来る。
ローレライが城壁の上に浮いている。
しれっと、ミローネのハウンドが、ケラトサウルスの撤退ルートの上に佇んでいる。
ノゾミの姿は無い、きっと、どこかで警戒を続けているのだろう。
既に、ケラトサウルスが撤退したとしても、逃げ切れる可能性はおそろしく低いだろう状況。
「……ちっ、眼の良いガキだぜ」
「それで生き延びたようなもんだからなー」
ケラトサウルスが、傾いだ体勢からゆっくりと立ち上がる。その動きには、先ほどまでの苦痛はなかった。
だが、今更、手負いのケラトサウルスが一機で、何を成せるというのか。答えは明白、何も成せない。
「あぁ、結局俺ぁ、中途半端だったな……何もかもが……」
「そうだな」
ヨウスケは慮らない。死ななくても良い人が死んだ。傷つく必要のない人が傷ついた。情を挟む余地なぞ、無い。
「……魔王軍がギガノトサウルス配下、ケラトサウルス。仁義、通させてもらうぜ」
「勝手にしろ」
まだしも、人間同士の決闘であったなら。騎士や貴族の、誇りや意地をかけた戦いであったのなら。……ケラトサウルスにも、勝ち筋があったのかもしれない。
だが、これは、人間と魔王軍の戦い。どちらが生き残るかの生存競争。
正々堂々と一対一、そんなものは、最初から無い、無かったのだ。ケラトサウルスはまんまと釣られたのだ。
そして、シールドライノとジークエーバーを同時に相手をしての、勝ち筋など、無い。
決着は、あっけなかった。戦争の決着なんて、そんなもの。
ケラトサウルスのジークエーバーに対しての渾身の突撃は、魔王の攻撃すら受け止めたシールドライノの三重力場に食い止められる。
そして――ジークエーバーの大剣に斬り落とされたケラトサウルスの首が、メリーティアの正門前に転がった。
その首を見つめて、ヨウスケは思う。
ケラトサウルスが何を思い、何を求めたのか。予想は出来ても、知るすべはない。
ギガノトサウルスを慕ったのも、仇討ちを望んだのも、ディーガードは力こそ全ての思考も、敗者は踏み越え前に進むという言葉も、全てが本音だった。……そんな予想は出来る。だが、所詮は予想で、もはや確かめる術は無い。確かめる意味も無い。
奴は敵で、自分の都合でこの街を追い詰めた。だから倒した。それが全て。
「よし! 総員! 最後の仕事だ! 残党狩りの時間だよ! 深追いしすぎて死ぬんじゃないよ!」
「「「「おおおおッ!」」」」
ミローネの激に、街の人々が湧きたつ。流石はババアだね、切り替えが早い。ヨウスケはそう思い、自身もミローネに倣い切り替える。
「よっしゃい! ノゾミ! 指示頼む! 少しでも残党の数減らしておくぞ!」
「ノゾミちゃんにお任せですわー! マリンちゃん、東へ! 小型多数、山の中に逃げていきます! ヨウスケさんは西! 手負いの大型が混ざってますわ!」
その日、メリーティアは勝った。




