↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣衛機伝ビーガード ~キッズアニメ世界に巻き込まれ転移した俺が、魔王ごと封印のち目覚めたら、続編か劇場版の疑いについて~  作者: 伊藤 珪


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
32/36

第二十八話 メリーティア防衛戦 2 (群像劇)

 

 ノゾミは背の高い建物上――元々は何かの軍事施設だったらしい――その場所を改造した観測所から、街を見下ろしていた。

 

「マミ、右翼の敵密度が上がってません? 鳳翔にサーマルで確認させて」

《こちら鳳翔、見えてます。十、二十……ざっと三十超。遮蔽物が多いから正確な数の観測は無理ですが、反応多数。ノゾミ様、第二波が来ます》

「結構ですわ。ラウド隊、B3地区へ。正面から叩き潰して下さい。ただし深追いは無用ですわよ、囮の可能性があります」

《ラウド1、デニス了解》

 

 ヘリウム気球から吊り下げた有線カメラの映像が、ノゾミの手元の小型モニタに映し出される。切り替えたサーマルカメラは、試作段階故に解像度が低く、画面は粗い。フレームレートだって低いが、それでも熱源の分布と動きを読むには十分だった。

 

「……なるほど。ケラトサウルス、あなた、意外と几帳面なのね」

 

 敵の配置には意図的な偏りがあった。右翼に圧力をかけながら、左翼の裏手——運河沿いの廃倉庫群に、熱源の塊が二つ。予備戦力だ。数を減らしたように見せかけて、実は温存している。

 

「ギィさん、聞こえます?」

《あぁ、聞こえてるぜ。どうしたノゾミ嬢》

「左翼の裏、運河沿いの倉庫群。予備戦力が小隊規模で待機してますわ。おそらく、こちらの戦力が右翼に引き付けられたところで、運河側から伏兵を叩き込む算段ですの」

《そっちに来たか。わかった、報告感謝する》

 

 ノゾミの唇の端が、自然と吊り上がる。

 

《こちらミローネだよ。あたしが行くかい?》

「いいえ。ミローネさんはそのまま、正面の対応をお願いしますわ。……わたくし、少々『いたずら』好きですの」

《……こちらギィ、廃倉庫は無人、痛みが激しくて建て替え必須だ。好きにやんな、お嬢》

「ありがとうございますわ! ではマミ、魔導式爆発ボルト、準備なさい。目標は運河沿いの倉庫群、敵予備戦力。……建物ごと吹き飛ばしますわよー!」

《うん。……おじょーさま、たのしそう》

「えぇ、楽しいですわ、とても!」

 

 この世界に、爆発というものは、全く無い。……というわけではない。魔法による爆破はある。物理法則でも、粉塵爆発は起こるし、可燃性ガスに着火すれば、当然爆発する。

 ――隠されてすらいない水素ボンベや燃料タンクが、今はまだ、沈黙して佇んでいた。

 

 

 

 ギィ・リビエールは、コグマの上で笑っていた。

 

 小排気量二輪車で、戦場を駆け回る。この数年で一番の高揚感だった。左足はない。ビーガードにも乗れない。それでも、この小型二輪車は彼の脚となり、風を切り街の血管を走り抜ける。

 

「おらおらおら! どけどけぇ!」

 

 そもそも彼はこの街の出身だ、この街は、彼の庭なのだ。

 道を知っているどころではない。いざという時は道になるような、人様の家の庭先ですら知っているレベルなのだ。

 瓦礫の山を跳ね越え、崩れた塀の間を縫う。後ろから迫る小型ディーガードの爪を置き去りにする。スピードはある、小回りは利くそして——

 

「ティエラ、任せた!」

 

 コグマの通り抜けた路地を、ハウンドがふさぐ。ハウンドの右手には換装パーツ、ドリルアーム。激しい唸りをあげて回転するドリルは、敵ディーガードの正面に突き刺さり、そのままの勢いで胸部装甲をぶち抜いた。巨大な機械トカゲがバランスを崩し、残骸と化して瓦礫の山に倒れる。

 

「はっはぁ! ざまぁカンカンお尻ペンペンだ!」

 

《おい負け犬! こちら東区画エリック、敵の突破を許しちまった! 小型7、中型が1匹、居住区方面へ!》

「わかった! ラウド隊に救援……いや、いらねぇわ、ミローネが向かった。そこら辺にいる警備兵どもに『下がれ』と伝えとけ。野次馬だけ残れ!」

 

 無線越しに怒鳴り返しながら、ギィはコグマのハンドルを切る。曲がり角、車体を倒すようにして曲がる。路面の瓦礫をタイヤが拾い、後ろに飛沫のように散らす。

 

「あーくそ、煙草が吸いてぇなぁ……」

 

 ぼやきながらも、頭の中は冷静だった。敵の数、味方の配置、建物の強度。もし火災が発生したら、その延焼方向は、その際の避難民の移動経路。すべてが一枚の地図として脳裏に浮かんでいる。

 

――俺は、負け犬だ。どういう時に負けるかを知っている。つまり、どういう時に勝つのかもわかる。

 

「ノゾミ嬢! 運河沿い、いつでもいいぞ!」

《待ってましたわ! 鳳翔、無人である確認は出来てますわね? ではマミ、撃ちなさい!》

 

 数秒後、轟音が響く。倉庫群が文字通り吹き飛んだ。ラクーンスナイパーカスタムの一撃を受けた燃料タンクが爆発し、次いで、水素ボンベに引火、爆発。積み上げられた資材とともに敵予備戦力を粉砕する。

 

「……わーぉ」

《汚ねぇ花火ですわー!》

「ははっ」

 

 思いがけず笑いが出た。悪くない、悪くないぞ。むしろ、ありがたいぜ。

 敵の動きが、明らかに鈍った。予備戦力の喪失は、ケラトサウルスの計算を狂わせる。想定外の打撃は、指揮官の判断を遅らせる。

 まして今は、ケラトサウルスはジークエーバーと決戦の真っ最中だ。さて、猪武者との勝負中に、どれだけ対応できるかな?

 

「よし、ここだ。……フェリシア、全回線に通信開け!

《はい。開きました、どうぞ》

「こちらギィ! 全機傾注! 敵は今、混乱してる。ここで押し返すぞ! 正面はシールドライノとジークエーバーに任せろ! 左右からラウド隊と街のビーガードどもが挟撃! 俺は中央を走って指示を出す! 歌姫ちゃんはフリーハンド! プラッティは……まぁ、好きにやれ! 全員ついて来い! 勝つぞ! 死んでる暇なんか無ぇからな!!」

『『『おおおおおッ!』』』

 

鬨の声が、街を揺らした。

 

 

 

ノゾミは、モニタの前で小さく息を吐いた。

 

「ほんと、誰よ、あの人を『負け犬』なんて呼んだのは」

 

コグマで戦場を縦横無尽に駆け回り、その軌跡で、味方の動きを勝利に導く。……まるで、名指揮者のタクトのよう。

 

「あれは勝ち犬よね。……コグマに乗っているから勝ち熊かしら?」

 

誰にも聞こえない声で、そう呟いた。

それでもまだ、戦況は、予断を許さない。

 

 

 

 ラウド隊隊長のデニスは、己の機体の上で冷や汗をかきながら戦況図を睨んでいた。

 

「メリー小隊が左翼から回り込まれている? ティア小隊は前線維持中か、じゃぁ、警備兵隊を――」

《隊長、警備兵隊は既に突貫中ですぜ》

「えぇ!? じゃ、じゃぁ……」

 

 デニスの乗るボアは、フェルナルドーク家の特務獣衛機、暴力的前衛量産機としては、世界屈指。装甲は厚く、なにより信頼性がとても高い。新米指揮官であるデニスにとって、頼りになる相棒だった。

 

「ディック! 頼む!」

《アイアイサー、キャプテン。つうか、もう突っ込んじまってるけどな!》

「えぇ!? す、すまん!」

《はいそこ、隊長が簡単に謝ったら駄目ですぜ。俺に指示飛ばしたトコまでは合格点だったのになぁ》

「うぐ……お、お喋りするな、口よりも手を動かせ!」

《イエッサー》

 

 デニスは歯噛みした。彼の部隊には古参の軍曹が一人いる。百戦錬磨の猛者で、戦場の嗅覚はデニスより遥かに鋭い。

 だが彼は平民で、自分は貴族。実力に見合わない地位だと、今でも思う。実際に……きっと、彼が隊を率いた方が良い結果になるだろう。

 

《こちらラウド3、ラウド2が敵中に突入、メリー小隊から、敵を引き剥がしました》

「そうか、ラウド3、ラウド4、ラウド2と共同で敵を撃破せよ!」

 

 だが、それは許されない。軍とは『そういうもの』だからだ。ならば……自分が、成長するしかない。

 

「ディック、聞こえるか」

《へいへい、なんです隊長。今忙しいんですが』

「次からは先に一言くれ。……心臓に悪い」

《はっはっは! すまねぇ、隊長。けどな、戦場じゃ「許可を待つ」なんて悠長な事やってたら、死んじまう事もあるんですぜ。覚えたでしょう?》

「……あぁ、痛い程にな」

 

通信を切ってデニスは深く息を吐いた。軍曹の言う通りだ。自分はまだ、現場の感覚を掴みきれていない。

 

「だが……」

 

デニスは前を見た。正面ではシールドライノとジークエーバーが敵の主力を引き受けている。その背中は、遠目に見ても圧倒的だった。

 

「あれが、英雄か」

 

自分もいつかあんな風に戦えるだろうか。いや、戦わなければならない。今はこの街を守るために。そして、まだ、その先もある。

 

「ラウド隊、全機! 菱形陣形! 前へ出る!」

 

『『『おうッ!』』』

 

 デニスは操縦桿を握り直した。新米隊長でも、前に進むことだけならできる。

 前へ。一歩前へ。それを繰り返していく。それが成長という物だと、信じて。

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。