第二十七話 メリーティア防衛戦 1
元は純白だった装甲は汚れ、凹み、一部は脱落していた。
敵はまるで、水が湧くように、巣から這い出る蟻のように、次々と迫り来る。
それでも守った、背後の門を守る、それが彼らの使命だったから。
百の敵を粉砕し、百の敵をはじき返し、百の敵を食い止めて。
戦って戦って戦って、そのビーガードは、最後まで、背後の門を守った。
確かに守った。守り切ったのだ。守り抜いたのだ。
――だが街は、他の場所から侵入を許した敵によって、炎に包まれた。
汚れた白い装甲に、炎の赤が照り返る。
犀型スローンビーガード、守護要塞機パラディオン。
両腕と角に搭載された力場発生装置で、味方を守る守護獣衛機。
その名は、ある王国の崩壊と共に失われた。
「あー……朝か……?」
「あぁ、もうすぐ夜明けだ。おはようヨウスケ」
「うーい……おはようライノ……奴らは?」
「動きは無いな」
ふーぃ……念のためにって思って、ライノの中で寝たけど……やっぱ寝心地はよく無ぇなー。にしてもなー、今の夢……じゃねぇよな、きっと。
……ライノ、前に言ってたもんなぁ、マリンとローレライには、なんか繋がりがあるから、マリンの思考がローレライに通じたりする事があるって。
つーこたぁ、逆もあるんかね……さっきの夢の街は……ライノの記憶かなんかが俺に流れて来たのか……? パラディオン、ねぇ……。
「なぁライノ」
「なんだ」
「お前、白かった事ある?」
「……あぁ」
「そっか。……えっと、何だっけ、出会った時の事だけど。ならば呼べ、我が名はシールドライノ。……とかお前言ったよな」
「言ったな。……お前は、おうよ、助けてくださいシールドライノ。と答えたんだったか」
「あぁ、言ったな。……よし、じゃぁこれからも助けてくれよな、シールドライノ。この街、守るぞ」
「……あぁ、そうだな……了解だ、ヨウスケ」
「っし、じゃぁまずは! ……用足しに行ってくるわ」
「ふ。しまらないな」
ライノから降りて背伸びをする。夜明け前の冷たい空気を肺いっぱいに吸うと、喉の奥が少しひりついた。
東の空が少し明るい払暁前、紫色の世界。だが、もう起きだして動いている連中が居る。あるいは、夜通し警戒していた連中だろうか。
俺の姿を見た彼らは、びしっとした敬礼をしてきた。俺は敬礼ではなく、会釈を返す。
なんかなー、やった事だけ見たらヒーロームーブだったからか、尊敬っぽいのされちゃってるんよなぁ、俺。
小汚い簡易便所で用を足し、戻る途中で、グラナに声をかけられた。
「おはようヨウスケ、朝食用意できてるよ。簡単なものだけどね」
「おはようグラナ、おぉ、ありがたくいただくぜ!」
受け渡されたのは、紙袋。ほんのりと香るソースの匂い。……カツサンドか!
早速紙袋を開けてパクつく。食える時に食っておく、戦士の基本だからね! あと、コクピットで物を食うと、ライノがうるさいからね!
「おぉ、うまっ、うまっ」
「あはは。相変わらずうまそうに食ってくれるねぇ。作り甲斐があるってもんだ。ほれ、お茶だよ」
「んぐぐ、さんきゅー、うまぁ」
「ヨウスケ」
「んぁ?」
「あたしゃ戦いはわからんからね、これだけ言っておくよ。……ぶちのめしちまいな!」
「おう!」
さて、やるか!
グラナに軽く手を振り、ライノの元に戻る。ライノに乗り込み、ライノと会話する。
「いくぞシールドライノ。機体各部チェック」
「操者アソマ・ヨウスケの搭乗を確認、機体各部問題なし」
「魔導式発電炉動作状況を報告せよ」
「通常出力で作動中。問題なし」
「力場ジェネレーター出力確認」
「右腕シールド問題なし、左腕シールド問題なし、衝角問題なし」
「最終確認、異常ありや?」
「最終点検、異常を認めず」
「操者命令、シールドライノ出撃」
「了解、シールドライノ出撃する」
ちなみにこれ、急いでたら普通にすっとばす。というか、そもそもあんましやらないけどな。
じゃぁ何でやったのかって? 気合を入れるルーティーンみたいなもん、かな。
正門までの移動中に、夜が明けた。紫色の世界は駆逐され、街を風が通り抜ける。花壇が壊されても、花は咲く。
風に揺れる可愛らしい花に、なんだか声援をもらったような気分になった。
正門は既に開け放たれている。街の外に立つ、赤茶色の鎧武者、猪型アークビーガード、ジークエーバー。
俺は黙ってその横に立つ、正門前に並んで立つ、灰色の犀の獣衛機と、赤茶色の猪の獣衛機。
視線を感じる。前からも、後ろからも。振り向きはしない、あとはただ、決めた心を貫くのみ、だ。
「♪高き山々に 天より垂るる 銀の髪なる清き水 女神の杯 恵みを満たし 国を潤す祝福よ」
「♪幾筋の川よ 御髪となりて 海へと続く その髪を 我ら愛しく櫛けずり 水門築き 堤で固め」
背後から、街の防災放送から歌が流れて来た。なるほど、これが合図か。これ、国歌なんだよ。この国……ティリクート王国国歌。
やるねぇ、ギィ。これは守る方は気合入るし、ディーガード共にゃぁ挑発的だろうな。
「♪女神よ 我らを見守り給え 我らは御髪を 乱さぬ者ぞ 我らの日々を 我らの子等を 清き水とともに 守り抜かん」
街の住民が一緒に歌い始めた。最初は兵士や警備兵、傷病兵や大人たち、やがて子供たちも加わって、大きな一つの塊になる。
俺はピザンに通信を飛ばす。外部拡声器を最大音量でオンだ、俺らも歌うぞ、と。ピザンからの返信を待たず、俺も歌う。
「♪もし大嵐が 山を越え 怒れる水が 野を満たすとも 我らは共に 立ち向かう 一人ではない 皆で立つ!」
「♪もし外つ国の 剣が来て 我らが平穏 奪うのならば 我らは剣を 手に取ろう 愛する者を 守るため!」
俺が外部拡声器をオンで歌い始めると、すぐに気が付いた者から順に、ビーガード乗り達が一緒に歌いだす。
感じるぜ、動揺してるだろ、クソメカトカゲども。ピザンも、ラウド隊の連中も、ノゾミの一党も、ミローネですら一緒に歌いだした。マリン? 聞くまでも無く当然だろ!?
「♪女神よ 我らに祝福を 我らは御髪を 守る者 川は流れて 湖は満ちる 我らの子らにぞ 明日は来る!」
さぁ、来いよ、ケラトザウルス。さっきから感じてるんだよ、てめぇの殺気を。もうビンビンなんだろ? なぁ?
それとも出てきやすくしてやるか? ほら、ピザンさんよ、言ってやりな!
「……どうした? ギガノトサウルスの敵討ちがしたいのだろう? 場は整えてやったぞ? それともまだ不足か?」
良し。口下手なピザンだからな、芝居がかった口調は無理だと判断して、「淡々と語れ」ってアドバイスは正解だったようだ。
……ちょっち棒読み臭いが、まぁ、場の空気的に、これくらいなら大丈夫だろ。
「ギガノトサウルスは虚飾ではあったが、それでも虚飾を貫いて果てたぞ? 死を恐れずに最後まで戦った。……まぁ、覚悟とは、そういう物ではないのだがな」
「黙れ」
よっし、釣れた! フィーッシュ!
「黙れ。貴様が、貴様らが、兄貴を、ギガノの兄貴を語るんじゃねぇ!」
「わかった。もはや問答は無用、言葉は不要なのだな。ならば――来い。我が名はピザン。フェルナルドーク侯爵家が嫡男、ピザンである。我が父バルザンより受け継ぎしこの鋼鉄の猪、貴様らのごとき残党の、烏合の衆に破れると思うな!」
「――っ! ……野郎ども、行くぞ。このケラトサウルス――仁義、通させてもらう」
「っし、じゃぁ手筈通りだ、ケラトは任せたぜピザン、ジークエーバー。俺とライノは、まず雑魚狩りに専念する」
《了解だ。行くぞジーク》
《くくっ、あぁ、千載一遇、だ……感謝するぞ、ヨウスケ……》
「……あれ? ジークエーバーさん?」
《かまわないのだろう? なぁ、この期に及べば、この場においては、儂ももう、感情で動いてかまわぬのだろう?》
《仕事を完遂できるのならば構わん》
ピザンさんも何言っちゃってるのー!? あー、でも、そっか、なるほど……。
「ジークエーバーからしてみれば、汚名返上のチャンスだからな、ヨウスケ」
「典型的な武人の性格してるからなぁ、ジークエーバーの奴。バルザンを引退させた責任とか感じてても、おかしくはなかったか……」
「そういう事だろうな……溜め込んでいたのか、あやつ」
「まぁ、いいか。感情で判断を誤るような事にゃならんだろ、ピザンが乗ってれば」
「そうだな。……さて、おしゃべりはここまでだ、来るぞヨウスケ」
「あいよ! ライノ、肩部エネルギーキャノンの砲撃を委任する! ポールウェポン展開、まずは数を減らすぞ!」
「了解だヨウスケ、適宜エネルギーキャノンで砲撃する」
真っ先に突っ込んできたのはパキケファロ、斧槍を思いっきりぶん回して、ハゲ頭に直撃させた。
はっ、硬いな、確かに硬いが……水平に展開させた円形盾の上に飛び乗り、更にジャンプ。振り上げた斧槍を垂直に振り下ろす!
ライノの重さとパワーを十二分に乗せた一撃、受け止められるなら、受け止めてみろ!
「うっわ、こうなるのか……まぁいいや、次!」
ライノの重さとパワーをありったけ乗せた一撃を、パッキーのハゲ頭は防いでみせた。
そのクソ硬い頭で防いでは見せた。が、ガッキメギョォォンッ!! って音とともに、ぶっとい首ごと、頭が胴体にめり込んだ。たとえ機械でも、ちとグロい。
着地と同時に左手に円形盾を発生させて、ラプトル系の噛みつきを防ぐ、右手の斧槍を水平に振るい、逆から回り込んできたラプトルを断つ!
あ、くそ! 重い! 上半身が流れる……!
「ヨウスケ、斧槍はやはりお前には向いてない。無理だと思ったらいつでも投げ捨てろ」
「了解。両腰の片手斧に切り替える準備だけ頼む!」
そこで、防災放送からよく聞いた音楽が流れて来た。ははっ、こいつは――ノゾミの奴だな、このクラシックの名曲は!
ワーグナーの「ワルキューレの騎行」。いいぜ、俺たちが奴らの黙示録だ! 地獄に叩き返してやろうじゃねぇか!




