第一話 アメイジング・グレイス
「Amazing grace. How sweet the sound.That saved a wretch like me……」
マリンの歌声が、夜空に吸い込まれていく。
綺麗な歌声だな……素直に、そう思う。
「I once was lost, but now I am found.Was blind, but now I see……」
野盗退治して、襲われた村に凱旋! 盗賊退治のヒーローは美女にモテモテ!
……そんなわきゃ、ねーよな。比較的小さな被害で済んだのは確かだろう。けど、確かに出たのだ、小さな被害は。
明るいうちに壊された家や門を片付け、犠牲になった人達を小さな教会に集めて……日が暮れて、続きは明日という事なった。
犠牲者は3名出た。村の門番をしていたおっさん、娘を守ろうとした父親、野盗を止めようとした牧師の爺さんの3人だ。
「Twas grace that taught my heart to fear.And grace my fears relieved……」
牧師が亡くなって、祈りの言葉を唱えられる人が居なくなって。
なら、せめて、祈りの歌を。そう言って、マリンが歌っている。歌声を、捧げている。
「How precious did that grace appear,The hour I first believed……」
村の人たちは、一緒に教会に向かって祈りを捧げている。
ピザンと愉快な仲間たちは、昼間は楽な仕事だったから、と、夜警を買って出てくれている。
「なむあみだぶつ……なむあみだぶつ……」
俺の祈りなんて、どれほど効果があるか知らんが、無いよりマシだろ、と、祈る。
祈りの言葉なんて、これしか知らんのよ。この世界の神様、勘弁してつかーさい。
ちなみに、ミンチよりひでぇや。になってる野盗どもは、あのまま放置している。一応、両手を合わせて南無って言っておいた。
南無ってなんだろうな。なんか意味のある言葉なんじゃろか。南が無い、阿弥陀仏。……どういう意味だ?
にしても……明日には片付けなきゃなぁ、あいつらも……壊れたビーガードを放置するのはもったいねー。
共食い修理すりゃ、2機くらいは稼働状態に行けるかもしれんし、そうしたら、この村を守る戦力にも……。
「……もうちっと綺麗にやりゃ良かったか」
「綺麗? 何がですか?」
いつの間にか歌い終えたマリンが、傍に居た。村人たちは、こちらに軽く頭を下げ、去っていく。
マリンに視線を移す。……背、伸びたなぁ。――4年、かぁ……長いよな、4年……。
「いやまぁ、綺麗な歌声だと思ってな。にしても、よく知ってたなぁ、あんな英語の歌」
「昔、配信で歌ったんです。パブリックドメインなので、結構歌う人居ましたよ?」
あー、歌ってみた。って奴か。知らんわけでもないけど、そっちはあんま見なかったからなぁ。
スポーツとかホビーのトリックプレイばっか見てたもんな、俺。あとムフフな奴とか。
「へぇ、なるほどな。うん、いい歌だったよ。さすが売れっ子ジュニアアイドル」
「えへー。元、ですけどねっ。それに、もうジュニアって年でもないです!」
「はいはい可愛い可愛い、美少女美少女」
「もー! ヨウスケさん! もー!」
「ほらほら、牛になる前に寝ようなー、明日もやる事あるんだし」
「もー!」
「俺も寝るなー、じゃ、おやすみぐんなーい」
「もー! ……おやすみなさい、また明日ですっ!」
駐機姿勢のライノの傍に張ったテントに潜り込む。無事な家は村人優先だからな、仕方ない。
けどまぁ、俺が知る限り、この世界で二番目に安全な寝床だからな、コイツの傍は。そこは安心安全だ。一番? ライノの中だよ。ただし寝心地は良くないが。
マリンはローレライに入り込んだ。……水中戦前提のローレライのコクピットって、すげぇ居住性が高いらしい。正直羨ましい。
にしても……単に記憶力が良いだけじゃないよな、あんなに滑らかに歌えるのは。……歌っていたのかな、あの場所で。
――そんな事を考えながら寝たのが良くなかったのか、昔の夢を見た。
あの時の、夢だ。
俺がこの世界に来た時の――。
「おぉ、本当に現れたぞ!」
「伝説の通りだ! あぁ、勇者様! どうかこの世界をお救い下さい!」
そこは、いかにもな作りの石造りの広間で。
偉そうなヒゲジジイや、偉そうなヒゲおっさんやらが居て、俺はまだ新品同然の、通ってた高校の学生服で。
そして、俺の前には、ど―見ても小学生な2人の少年と、2人の少女が居て。
あー……これ、巻き込まれ転移ってやつ? というか、あれ、あの外周に並んでるの、人型ロボ? 獣モチーフ入ってる?
……キッズアニメの世界っぽいかなー? あー、そう考えると、ありそうありそう、あーゆーロボの玩具、ありそう。
「静まれ! 勇者殿達が困惑しておるではないか。宰相、勇者殿に説明を」
「畏まりました。……勇者殿、まずは説明をお聞きください」
一番偉そうなヒゲジジイに指図されて、これまた偉そうなヒゲオヤジが語りだす。
なるほど、魔王が現れし時、勇者もまた現れると。で、伝説の機体に乗れるのは勇者だけ、と。
やんちゃ坊主っぽい子の名前が日向カケル? うん、君が主人公やね。
その幼馴染の女の子が、司島アユミ? あぁ、カケルとアユミね、うん。君がヒロインと。
で、クールっぽい子が工藤リョウと。工藤財閥の御曹司? あぁ、ライバルポジだね、わかるわかる。
……あ、この最後の子は知ってる。人気急上昇中のジュニアアイドルだわ。海神マリンちゃんね、なるほどなるほど。
俺? 俺は普通高校に通うごく一般的な16歳男子。
強いて違うところをあげるとすれば、トイとかホビーが大好きってとこかナー。名前は遊間ヨウスケ。
というかね、これって――。
「完璧にキッズアニメの世界やんけ!」
突っ込みながら俺は目覚めた。
「わ、びっくり」
目覚めると、狭いテントの中で、目の前に狸っぽい子が居た。
というか、メイド服に身を包んだちょいぽちゃロリっ子狸娘が、ぜんぜん驚いて無さそうに佇んでいた。
「えいゆー様、おきた? おきたら、朝ごはん食べに行こ? ほら、はやく、はやくー、朝ごはん逃げちゃうー」
狸っ子は俺の腕を掴んで、ぐいぐい引っ張る。あ、意外と力強い!
ちょっ、待ってっ、男には男の生理現象というものが!!
「ヨウスケさん? もう起きてます? なんか、来客が――誰ですか! この泥棒狸!!」
待って、マリン待って! 俺もよくわかってないから!!




