第二十四話 人の想い。街の記憶。
「決行は早い方が良い。って事で、決戦は明日だ」
「いや、拙速を尊びすぎだろそれは!」
ギィの言葉に即言葉を返す。
んな急に言われて動ける奴居ないっつーの! いや居たわ。ミローネなら戦えるわたぶん。
「良いツッコミだ、流石は英雄殿……まぁ流石に冗談だ。明日一日をまるまる準備に使って、決戦は明後日かねぇ」
「英雄の条件にツッコミの鋭さが必要みたいな言い方すんな。……明後日でも早くないか?」
「デカトカゲ共の動きが活発だったんだよ。ギィもあたしも、今週か来週が山と見てたんだ」
俺の疑問には、ミローネが答えた。なるほど、今にも襲われそうだった、と。
「仕掛けられるよりは仕掛けたい、対応するより対応させたい……か」
「猪坊主の言う通りさね。城壁がかなり痛んでいる、イニシアチブは重要さ」
「って事で……明日の昼頃までは適当に遊んでてくれ、英雄さん方。とりあえず俺は、他の連中に話をしてくる。フェルナルドーク次期侯爵、ご一緒していただけますかい?」
「あたしも適当に動くよ。……トレビシュタット、傷痍兵の指導がありゃ、孤児でも運用できるだろ」
子供たちを戦わせるのか。という意見もあるとは思うが……今更、か。ココもワンコもマミも子供で、マリンも子供だった。
なにより……戦わなければ生き残れないなら、戦うべきだ――生き残らないと、明日は来ない。
「……よし、マリン、ノゾミ、総督代理のお墨付きだ、適当に遊ぶぞ!」
「はいっ」
「かしこまりですわ!」
俺は建物の外に出る。メリーティアの空はまだ昼過ぎだというのに、どこか翳っていて……。いや、日が落ちるのが早いのか、山に挟まれた地形のせいだな。……あるいはただ単に、この街の空気が、そう見せているだけなのかもしれないけれど。
「ヨウスケさん、ノゾミさん、何して遊びます?」
「そーだなー、おままごと、なんてどうだ?」
「いいと思います!」
「賛成ですわ!」
三人で顔を見合わせて、ニヤリと笑ってやった。
「この街に残ってるのは、逃げられなかった連中ばかりだ。貧民や孤児、傷病兵。……動ける者は、ミローネやギィに付いて、戦う準備で手一杯だし、ラウド隊もそっち側。……なら、誰がやるんだ?」
「私達、ですね!」
「いつやるの?」
「今でしょ! ですわ!」
「グラナも居るしな。彼女の飯は、なんつーか、人を元気にするパワーがある。……マリンに歌も歌ってもらうか! あれにもパワーがある」
「買い被りですよー」
「買い被ってなんかないさ」
マリンは照れたように笑って、それから、笑顔のまま、目に本気を宿して言った。
「わかりました、歌いま……いえ、皆で歌いましょう!」
「私のヴァイオリンも披露しますわよー……先生には上手いと褒められましたのよ! ……譜面通りに弾くのは上手い、と」
ノゾミは、ふふん、と鼻を鳴らして言って……オチがついた。いやまぁ、しかし、おヴァイオリンですか、流石はお嬢様。
「グラナにはノゾミから話してくれ。チビ共にも手伝わせよう、アイツらこういうのは張り切るぞ、きっと」
「かしこまりですわー、ではまずはグラナを……あら?」
輸送トラックの方を見ると、すでにグラナが野外炊飯機に火を起こしていた。その周りに、いつの間にか街の子供たちが集まっている。……オカンなめてた、もう始めとる……。
「くっ、グラナ、さすがですわね……」
「あの人、そういう人っぽいしなぁ……でも良いんか? グラナが勝手にやってるんだろ、あれ」
「グラナを雇い入れる時の条件でしたのよ。衣食住に関してのフリーハンドを与えることが……」
「まぁ……結果オーライ、か」
俺たちは顔を見合わせて、それから、自然と笑った。
「おー、チビ共も飯の支度を手伝ってるんか」
俺が声をかけると、一番近くにいたワンコが元気に答える。
「ごはん! ごはんたいせつだぞ! ごはんたべると元気になるぞ!」
「そうだな。ごはんは大切だ。腹が減っては戦は出来ぬ、と言うしな」
「おいしーのつくる。ふんす」
「おぉ。マミが本気だ」
「……怖い人居ない? 大丈夫?」
「あぁ、今は居ない、大丈夫だ、ココ」
……この三匹、本当に仲が良いな。ノゾミの人選が良かったんだろう。
メニューは、炊き出しのド定番、オーク肉の豚汁だ。……いや、オーク汁? あんまし美味そうに聞こえないから、やっぱオーク肉の豚汁、かな。
俺とマリンとノゾミも参加して、炊き出しをはじめた。待ってろガキども、美味いメシ食わせちゃるぞ。……グラナがな!
「……すごい事になってるな」
ピザンが建物から出てきて、焚き火の周りを見て目を細めている。すでに二十人近い子供たちが集まっている。みんな、痩せている。服もぼろぼろだ。……けど、目は生きている。
「おうピザンさんや、あんたも手伝ってくれるんか?」
「……いや。戦闘の準備がある、使う予定の無い街門を瓦礫で埋める事になった。それに、服の事は仕立て屋に任せろ、と言うしな」
「そうか。……ラウド隊の分はとりわけておく、お前の分もな」
「……わかった。ラウド隊に伝える。余裕があれば人間も回す。……任せた」
「おう。こっちこそ、任せた」
ピザンはボア隊の方へ歩いていく。……あいつ、俺の善性がどうとか言ってたけど、あいつも結構なもんだよな。
今やグラナが管理してるのは、『ラウド隊含めた全員分の食料』なのに、そのことに関しては一切触れてこないんでやんの。
「ヨウスケ、ちょっといいかい?」
グラナが俺を呼ぶ声がした。見れば彼女は、焚き火の横で大きな鍋をかき混ぜながら、俺を見ていた。
「思っていたより人数が多いんだよ。食材、少し足りなくなるかもしれない」
「わかった、ミローネにでも聞いてみる。回収できそうな物資もあるかもしれない。……ノゾミ、こっちは任せていいか?」
「いいですわよ、ノゾミちゃんにお任せですわ。……あ、ミローネさんならさっき外壁の方に行ったみたいですわ」
「サンキュー。じゃぁ、ちょっと行ってくる」
廃虚ではない、廃墟のような街を行くと、外壁の上に、ミローネはいた。
じっと外の景色を見ている。……いや、見ているというより睨んでいるな。あの目は、獲物を探している目だ。
継ぎ接ぎだらけのハウンドの右手には、ドリルアーム、左手にはグラップル/クラッシャーアーム。
周囲には、慣らし運転というか、新兵装の実験台にされたであろう、ディーガードの残骸……
「おうババア、精が出るねぇ……調子はどうだい?」
「小僧かい。ドリルアーム、これは良いね。ディーガードの装甲を貫ける。的に当てれば破壊できるから、決戦の時は新兵に回そう。グラップルアームも、ディーガードのパワーに負けてない、十分に使える。……エンジンブレーカーアームは癖が強すぎるね、これはあたしが使うよ」
「そっかー……で、物資回収したいんだけど、この街に、食料や資材が残ってそうな場所はあるかい?」
「ギィとあたしが居て、残ってると思うのかい」
ミローネは壁から降りて俺の前に立った。相変わらず背筋がピンと伸びている。
悔しいがカッコイイんだよなぁ、このババアは……この歳でこの姿勢は、ちょっと尊敬するわ。
「やっぱ望み薄か」
「ケラトの奴も小賢しいからね。食糧庫や工廠を焼きに来たのさ……ただ、東地区の教会の地下貯蔵庫には、それなりにあるかもしれない。食料がどれだけ残ってるかはわからないけどね」
「なんでそこは無事に……あぁ、ディーガードにゃ、神の家って思考が無いからか」
「そういう事だね。だから、私達も最後の希望として、あえて放置していたのさ、上の教会は焼けてるからね.。……貯蔵庫の鍵も、ここにある、持っていきな。……神父のやつは死ぬ間際まで、この鍵を握りしめていてねぇ」
「良い人だったんだな」
「逆さ。業突く張りな奴だったよ。まぁ、せいぜい生きてるあたしらが役に立ててやろうじゃないか」
ミローネは淡々と言って、持っていきな。と、鍵を投げ渡してきた。このババア、そういう奴なんだよな、本当に、いやマジで。
負けても死なないギィと、最後まで勝ち筋を残すミローネの相性が良かったから、この街は生き残れたんだろうなぁ……。
「わかった。東の教会だな……ライノとローレライで行く」
「そうしな小僧。その二機なら、雑魚は手を出せない。……あぁ、一つ言っておくよ」
「なんだ?」
「この街の連中は、あんたらに期待してる。……いや、期待というよりすがってる。特に、子供たちがね」
「あぁ、まぁ……慣れてる」
「わかってるならいい。……あんたらは、この街にとって最後の希望なんだよ。重いだろうが、気張りな」
「ごめんだね。気楽に行くさ」
ミローネは、ふっ、と笑う。「あぁ、小僧はそれでいいのかもねぇ」というミローネの言葉を、変に頼もしく感じた。
……このババアも、そんな風に笑うんか。




