第二十三話 負け犬と呼ばれた男、その本質と本気。
「そういう訳だ、ノゾミ、悪いが安全な場所で……」
「ストップですわ。……ヨウスケさん、私は自信家ではあるかもしれませんが、愚か者ではありませんの」
そう言って、ノゾミは踵を返し、そして――
「ついて来て下さいな。見てもらいたいものがあります。……この期に及んで出し惜しみは無し! ですわ」
そう言って、外に歩いていく。
……あれか。ノゾミちゃんのビックリドッキリメカ、大放出してくれるんかね。
ノゾミの後を追って外に出ていく。勿論、皆に声をかけるのは忘れない。
「行こうぜ。……たぶん、面白いモノが見られるぞ」
「……これは?」
「ヘリウムガス式有線観測気球ですの。ドローンは無理です、あれは制御技術がないと、単なるクァッドコプタ―でしかありません。安定性を考えたら、まだラジコンヘリの方がマシですのよ。けど、本質である『上空からの監視』は大いに有効なのですわ」
「なるほど。で、こいつは?」
「サーマルカメラですの。この世界、ナイトヴィジョン……暗視カメラが最初からあるから、発展しなかったのでしょうか? これはこれで別の役に立つのですわ。……まぁ、まだ試作段階で、性能はだいぶ低いですが……けど、『異常』を発見する役には立ちますのよ。マミのラクーンスナイパーカスタムで運用する予定でしたの」
「これは……肉だな」
「オーク肉ですの。マミが……『おじょー様、おなかへってるの、つらいから、みんなに』と言いますのよ……良い子だと思いませんこと!?」
「あぁうん、良い子だな……これは?」
「組み立て式トレビシュタットですの。この世界、投石機はバリバリ現役なようですけど、対ディーガードにはあまり使われてませんわよね?……私には有効な戦術思い浮かびませんが、ギィさんやミローネさん、ヨウスケさんなら、何か思い浮かぶのでは、と」
「あたしの戦場はもっと狭いからね、思い浮かばないよ。ギィと小僧はどうだい?」
「コールタールはどうだ? 視覚と嗅覚を潰せないか? 奴らなら種別によっちゃ、手でガードしたり、手で拭うことも出来ん。土建屋を漁れば出てくるだろう」
「おー、流石は負け犬ギィ! あぁ、なら塗料も有効かな?……最悪は単なる色付きの水でも、何だこれは!? で足を止めるくらいの効果はあるぜ、きっと」
「ほらー! 早速色々と思いついてますの!」
「まぁまぁ……で、これは……ドリル?」
「ハウンドの換装用の腕ですの。ドリルアーム、エンジンブレーカーアーム、グラップル/クラッシャーアームですわ。……作業用ですわね、本来は。」
「使えるね」
「喜べノゾミ、自在のミローネが、使える判定出したぞ」
「……喜んでいいのでしょうか?」
「おっとぉ、こいつは……」
「ライノさんの本来の背面武装ですわね。折り畳み式ポールウェポン。多目的ランチャーは空なんでしょう? 一応持っていくとよろしいのでは?」
「回収して持ってきてくれたのか……使いこなす自信は無いが、うん、まぁ、使い道考えてみるわ」
「で、こいつか……」
「プレス鋼板の低床バックボーンフレーム、走破性の高い17インチホール、 高耐久4ストロークエンジン、自動遠心クラッチの小型二輪車ですの! 宗一郎おじさまに敬意を表して、『コグマ』と名付けましたのよ!」
「スーパーカブじゃねーか! なに作ってんだお前は!」
「私、常々疑問でしたの。なんで異世界に行くと皆、銃とか蒸気機関とか車とか飛行機とかばかり作るのか、と。もっとあるでしょう、日本が世界に、いえ、異世界にでも誇れる製品が!」
「普通の人は自動遠心クラッチの仕組みなんて知らねーんだよ! 俺も知らん!」
「まぁ実際に制作したのは、王国国営工廠の民生品部門の方たちですが。寸法図とか構造図とかパーツリストとか写真とかプリントアウトして渡して、丸投げしましたのよ。『地球では一億台以上売れましたの。ミシンが作れるなら、再現できますわよね?』と言ったら、喰いつきすごかったですわ。……特にドワーフの方たちが……」
「あー……あいつらならなぁ……何だこりゃ!? 面白れぇ! 俺が作る! とか言ってたろ?」
「言ってましたわ。ドイツ人的な質実剛健さと、日本人的な引き算と構造の美学があって、儒教国的な長期的視野もありますの……勝てないですわね、あれには。半年くらいかかるかと思っていたら、3か月で試作品作ってきましたのよ? しかもちゃんと、ローカライズして」
「ジークエーバーとか見てるとなぁ、すげぇと思うよ。古い機体なのにバリバリ現役だもん」
「ちなみに私の出した条件は『なるべく安く売れ』『命名権は渡さない』『売る相手は選ぶな、欲しがったら帝国人にも売れ』だけですの。まぁ、数パーセントのマージンは向こうから出してきましたが」
「おぉ良心的」
「世のため人のため、ですのよ。この道具については、宗一郎おじさまの理念をおろそかになんか出来ませんわ」
「あー……盛り上がってるところ、悪いんだが」
おっとしまった、異世界あるあるで盛り上がってしまった。……いや、異世界ないない、か?
……あぁ、そうか、こいつなら、ギィのおっさんも……。
「ソイツ、そのコグマとやらなら、左足が無い俺でも転がせるって事か?」
「えぇ。積載量も抜群ですので、後ろに通信機くらいは楽に積めますわ」
「そうか……」
ニヤリと笑ったギィの顔は、さっきまでの疲れた中年男のそれじゃなく、戦う男の顔だった。
やっぱ二つ名持ちにまでなるだけの事はあるんだな、このおっさんは。
「大雑把に言えば、侵攻ルートを限定させる、囮を置く、だな」
ギィが……ギィ・リビエール総督代理が考えた作戦は、シンプルな物だった、いいね。シンプルな方がやりやすい。
ちなみに、この街の本当の総督は逃げたそうだ。……後で問責にかけてやるとか、そりゃぁ良い笑顔でミローネが言っていた。
「そして、その囮が最大戦力だ、こっちの最大戦力を、向こうの最大戦力にぶつける。わかりやすいだろう?」
「私……ジークエーバーと、シールドライノか?」
「俺たちを正門前に堂々と置いて、ケラトサウルスを釣り出す、ねぇ……そう上手くいくか?」
ピザンと俺の疑問に、ギィは、わかってる。と言わんばかりに即座に答えを返した。
「いくさ。『ギガノトサウルスの仇』とも言えるジークエーバーと、『魔王様の仇』とも言えるシールドライノだぜ? わかりやすく例えると――ヤクザの親分をぶっ殺したシールドライノと、若頭をぶっ殺したジークエーバーが、堂々と姿を現してる。しかも、正門前と言う、まさにギガノトサウルスがぶっ殺された場所で、だ。舎弟頭のケラトサウルスは無視できるはずもない。……無視したら、配下に対しての示しがつかなくなる」
「けどよ、リョウが言うには「ケラトサウルスは実は結構曲者なんじゃないかな。実際には、アロサウルスと同じ時代の恐竜なんですよ」って言ってたぜ? さっきの例えに乗ると……昔気質のヤクザな兄貴に憧れてるが、本人はインテリヤクザ。なんじゃねぇの?」
「そこでノゾミさん達だ。フェリシアとホーショーは高所……この建物の屋上で監視任務、ソーヤとユキカゼは直衛。ラウド隊は、基本ノゾミ嬢の指示で動いてもらう。非戦闘員も全員、ここに避難だ。ローレライは、居れば相手の飛行能力持ちを担当だが……まず居ないだろうから、空中からの一方的な圧殺が役目になる」
「目の届かない所はどうするんだい」
ミローネの質問に、ギィはにやりと笑う。……ひゅぅ、負け犬なんて笑い方じゃないぜ、あれは。
「メインは俺とアンタだ、ミローネ。俺があのコグマで走って、戦力が必要な場所を適宜指示する。この街でまだ稼働可能なビーガードも俺が指揮権をもらう……場合によってはローレライやラウド隊にも動いてもらいたい」
「ふん。一番危険な役目だね」
「不服か?」
「いいや。上等さ」
「え、えっと、危なくないんですか? コグマってあれ、生身じゃないですか」
「優しいね、歌姫さんは。けど安心しな、俺は負け犬だぜ? ……危険の匂いを嗅ぎつける事に関しちゃ、こん中でも俺が一番だよ」
「最悪のパターンを知っておきたい」
ピザンの質問に、またもギィは淀みなく答える。すげぇなー、これが本物の戦術家って奴かー……。
「最悪のパターンは、ケラトの野郎が尻尾撒いて逃げ出す事ですね。……これをやられると、この街を放棄するという国の指針が現実味を帯びる。二番目は……ケラトの野郎が開き直って、正門に全戦力を集中する、かな」
ギィはそう言って、俺たちを見回す。なるほどなー。
「なら決行は早い方が良いな……ピザン、後でお前用の煽り文句考えておこうな」
「……む」
「なぁに、ちゃんと威風堂々としたの考えて……お? どうしたんよ、ギィのおっさん、ミローネも」
なんかこっち見てニヤニヤしくさってからに。
「あぁ、いや、流石は英雄殿だと思ってな。そう、決行は早い方が良いんだ、奴が退くに退けない状況を作り出したいからな。面子が大事な連中は大変だよなぁ」
「ふん。相変わらず小賢しい小僧だよ。けどまぁ、嫌いじゃないよ」
なんだよ。ンなのちょっと考えればわかるだろ。
……わかるよな?




