第二十二話 廃都メリーティアにて
「ジークエーバーが率いてる集団か。なら楽でいい、ついてきな」
それだけを残して踵を返す、ミローネのハウンド。相変わらず意味不明なくらい、話が早いババアだな。
「なるほど。誰が乗っているか以前に、そのものがフェルナルドーク家の信用証なのですね、ジークエーバーは」
ノゾミが呟く。質問というよりは、口に出して確認しているといった所だろうけど。でも実は、ビーガードには、ビーガードならではの認証もあったりする。
「まぁ、そういう事だな……加えておそらく、ジークエーバーと、ゼロサムが水面下で交信してたはず」
「ゼロサム? ですの?」
「あぁ……ミローネの相棒のビーガードコアだよ。仮にジークエーバーそっくりの機体を作れても、ビーガードコア同士の通信は誤魔化せないらしいぜ。っと……見えて来たな……」
メリーティア。この街は、元々は砦だったらしい。最初期は軍の駐留拠点として、栄えていったと聞いたことがある。北東と南西の山に挟まれた街だ。
……だが、その外壁はひび割れ、崩れ、応急処置の痕が痛々しく残る。あちこちに残る黒く焦げた跡。外壁の内側に見える家々の屋根も、瓦が吹き飛んだまま放置されているものが多い。
……だが、人の気配がある。門の上には見張りが立ち、外壁の内側では人影が動いていた。活気と呼ぶにはほど遠いが、死んでいない。確かに生きている街だ。
「ここが……かつては花と風車の街と呼ばれた……メリーティア……か」
「えぇ。かつてギガノトサウルス討伐の舞台になった街です。……正確には、討伐されるまでギガノトサウルスに蹂躙され続けた街、ですわ……」
「……ノゾミは通り過ぎただけ、なんだっけか」
「はい。まずはマリンちゃんとの合流を急ぎましたの」
ミローネのハウンドに続いて、門の内側に入る。
まず目に入るのは、破壊された噴水、崩れた石造りの建物、並べられた逆茂木、駐機姿勢の、傷だらけのハウンドが数体。
だが、さらに見れば、道端で、子供達が遊んでいた。割れた石畳の上にチョークのようなもので線を引いて、ケンケンパをしている。その横で片腕のない男が、焚き火で何かを焼いている。……漂ってきた匂いは決して悪くない。
やはりこの街は、死んでいない。
かろうじて崩れていない。といった趣の建物の前で、ミローネは停まった。駐機姿勢に入るジークエーバーやラウド隊を尻目に、駐機姿勢をとらずにコクピットを開け、飛び降りるミローネ。
あぁ、最後に会った時と、全然変わってないな、あのババアは。乗る時も、あのまま飛び乗るんだよ、そうやって誰より早く出撃するんだわ。
見た目も変わってないなぁ、擦り切れや補修跡の目立つ、黒を基調にした軍服。頭の後ろで纏められた白髪、真っすぐに伸びた背筋、深い皺が刻まれた顔に、鋭く獲物を狙うような目つき。
おお怖っ……ワンコの鋭い目つきなんて、あれに比べたら、可愛いもんだわ。
しかし、相変わらずあの軍服か……いや、普段着が軍服なんだよ、あのババア。「あたしは国王直々に、戦場でのフリーハンドが許されてるんだ」……なーんて言ってな、常在戦場を言い訳に、わりと好きにやってるらしいんだが……戦場に放り込めば結果を出すババアだから、あまり強くも言えないらしい。きっと今も好きやってんだろう。
適当な場所にトラックを停めて、降りる。ミローネと目が合う。……予想はしていたが……ぜんっぜん驚いた様子見せないな。
「小僧かい。のんびりしすぎだよ」
「思ったより寝心地良くてなー、ババアも元気そうじゃんよ」
「元気をなくす理由なんてないからね」
「違いない。で、この街をまとめているのは婆さんかい?」
「実務ではね。代表は別に居る、ついてきな」
そう言い残し、ミローネは建物の中に入っていった。
俺たちは軽く顔を見合わせる。特に逡巡する理由も無い、代表者会議の時と同じだ。
「私は代表者に会って来る、ラウド隊は警戒を維持しつつ待機」
「行ってきますわ。皆はトラックで待機です。グラナ、お願いしますわ。皆、良い子で待ってるんですわよー」
「俺は必要? あぁうん、必要ですよねー、はいはい、行きますよ」
「ヨウスケさんある所に、マリンあり、です」
まぁそんな感じで、4人で中に入っていく。
……みんな、かなしいかおしてる。
そう呟いたマミの声が、何故かひどく心に残った。
建物の中は、思ったよりも広かった。かつては役所か何かだったんかね? 今は、作戦室やら居住スペースやら、食堂がごちゃ混ぜになっている感じだ。さらに奥の部屋に行く。
そこには、もう一人男がいた。……あ、俺、こいつ知ってる。
その男は、車椅子に乗っていて左足が膝から無い。年の頃は四十代か。日に焼けた肌に、精悍な顔立ち。だがその顔には、深い疲労の色が浮かんでいる。
「負け犬ギィ……」
「そうさ。こいつがこの街の代表だよ。……私はただ、動いてるだけさね」
ミローネが、男を指して言う。
負け犬ギィ。紛れもない二つ名持ちだ、ひどい二つ名だって? 俺もそう思う。けど、尊敬を込めて負け犬と呼ばれる、撤退戦のプロだ。
勝てる戦いでは出しゃばらない、負けてからが本番の男。撤退戦で何度も味方を救い、味方を逃がした。ギィが居れば負けない。ではなく、ギィが居れば、最悪、負けても生き残れる。そんな男だと聞いた。その『負け犬ギィ』が口を開く。
「ミローネさん、いきなりこんな人数、連れて来られても、わけがわからんのだが、誰だいこいつらは」
「猿芝居はやめな。あんたが情報収集怠ってるわけないだろ」
「はぁ、ったく。……よぉ、こうして落ち着いて話すのは初だな、英雄のあんちゃん、歌姫ちゃん。お初にお目にかかります、フェルナルドーク次期侯爵様。で、そちらのお嬢さんは……先だってこの街を通り過ぎたお嬢さんかな?」
「えぇ。私はノゾミ。クドウ・ノゾミですわ、よろしくおねがいしますの……『ガルム』さん」
「……ふむ。……なるほど……お人が悪い、俺を試しますか、英雄の姉君」
「ふふ」
やばい。わからん。
たぶん、ホームズとモリアーティ的なやりとりがあったんだろうなぁ、くらいにしか、意味が分からん。……まぁいいや。
「なるほど。まぁ、歓迎するよ、ようこそ死にかけの街メリーティアへ……で、ミローネさんよ、アンタまさか」
「そうさ。千載一遇のチャンスだよ、こんな戦力がこの街に来る事、この先もうないよ」
「確かにそれはそうだが、この人らは、この街にゃ縁もゆかりもないぞ」
「縁とかゆかりとか、どうでもいいんだよ、そんな事は」
……これはあれか、訪れた街のトラブル解決的なクエスト発生か……。俺はメンバーを順に見る。
ピザン。こいつはわかりやすい。問題が「外敵」なら、それは我らの役目だと言うだろう。護衛任務中ではあるが、だからこそ逆に、マリンを護衛するという目的の為になら戦うことを厭うまい。
問題はノゾミの方だ。戦う理由が無いとは言わないが、薄いのは間違いない。……まぁ、安全な所に居てもらうという手もあることはある、か。
もっと問題なのはマリンか。……間違いなく、助けられるなら助けたいと言う。下手をすると、ヨウスケさん、お願いです。まで言わせてしまう……それは嫌だ。ダメじゃないが、嫌だ。なら、しょうがないよなぁ……。俺はあーだこーだ言いあってる、ミローネとギィに割り込んで、言った。
「はいはい双方そこまで、まずは説明してくれよ。何が起こってるんだ?」
ケラトサウルス? あぁ、あの角付きか。ギガノトサウルス配下の、準幹部クラスだな。そいつがこの街を狙っているのか。
ギガノトサウルスの敵討ちの態度を隠そうともしてない、と。……はっ、虚飾野郎の手下も、やっぱり虚飾野郎か。
街から逃げられるような連中は、もう逃げたのか……じゃぁ今、残ってるのは? 貧民、孤児、傷病兵、ジモティーの警備兵、……それと、住民を見捨てられなかった、気合入った兵士達か。
ギィ、あんたは? この街が故郷、か……。一応聞くがミローネは……負けてないなら撤退理由が無い、ね、なるほど。いいや、文句なんか無いさ、むしろ心強いね、ミローネの目から見ても、まだ負けてないわけだ。
「なるほど。……なぁ、マリン、悪いけど……」
「ふふ、しょうがないですねぇ、ヨウスケさんは」
「すまんね」
「こちらの台詞ですよー」
マリンはこれで良し、と。で、マリンを攻略すれば、自然と……。
「で、ピザンさんや。マリンがこう言ってるわけだけど?」
「……こうなる予感はしていた……はぁ……」
「まぁまぁ、そう言わずに。外敵だし、フェルナルドーク家にも因縁浅からぬ相手だしさぁ」
「そこは別にかまわん……厄介な奴だ、お前は……気質が善良なだけに手に負えん……」
「あ。それ、バルザン侯爵にも言われた」
「……そうか」
ピザン攻略もおっけー。あとは……。
「で、ギィのおっさんよ、これだけの戦力があれば、勝てるか?」
「はぁ? 何を言ってんだ、英雄さんよ、俺は負け戦の専門で、もうビーガードにも乗れない体だぜ?」
「アンタこそ何言ってんだ、負け戦をよく知ってるってんなら、勝つ方法も知ってるって事だろ。それに、アンタ、操縦技術で戦うタイプじゃねーんだろ」
「……っ」
「どうなんだよオッサン。勝てない、ってんなら、俺らは荷物纏めてずらかるぜ?」
「………………シールドライノ、ジークエーバー、ローレライ……ボア4機…………いける、な」
「よし」
そもそもだ。カケルが、リョウが、アユミが、そしてマリンが命懸けで勝ち取った平和なんだ。
……好きにさせてたまるかよ。




