第二十一話 獣衛機と二つ名と、その影
「♪丘を越え行こうよー、口笛ー吹きつーつー」
「♪空はすーみー青空ー牧場をさーしてー」
チビ共がまたトラックのキャビン内で、おうたの練習である、元気があって大変よろしい。もう戦闘訓練は良いのかって? 次の街が近いので、再び護衛交代したんだよ。
『フェルナルドーク家のジークエーバーに率いられたボア隊』、の示威力は凄いから、順当な判断だろう。……チビ共はまだ、名前を付けたばかりの相棒と一緒に居たがったが、我慢してもらった。
ジークエーバーって、王国のアークビーガードの中じゃかなりの上位機種なんだよ、だから、王国じゃぁかなり名の通った機体だそうな。
「純ドワーフ製」らしいからな、ジークエーバーって。もうそれだけで高性能っぽいよな? フェルナルドーク家の領地に隣接する、ドワーフ自治区の王から、過去の当主が友情の証に、と贈られたんだってよ。んで、ボアはジークエーバーからリバースエンジニアリングした量産機なんだとさ。
ボアでも暴力的前衛としちゃ、かなりの上位機体だそうだ。けど、ボアは設計思想が古いから、新しい機体のウルサに負けるとか言ってたが。だが逆を言えば、設計思想が古いのに今だにトップレベル。とも言えるな。
ウルサが何かって? 「ガイアからリバースエンジニアリングした、熊型ビーガード」だよ。……ガイア自体が何処から来たのかは聞いてなかったな、そういえば。
で、3位は「ハウンドを徹底的にリファインした狼型のヴァルグ」、4位は僅差で「リンクスを徹底的にリファインした豹型のパルド」って言われてるな。
これに帝国の機体、虎型ビーガードのティグリス、その廉価版のディルティグリス、牛型ビーガードのミノタウロス、その廉価版のリドゥミノタウロス。エルフの森のゴリラ型ビーガードのコング。あたりが絡んでくると、もはや複雑怪奇になるそうだ。
ハッキリしないな、って? そりゃぁな、帝国機やエルフ機なんて見た事無いもんよ。……あぁ、いや、ディルティグリスは見た事あったな。
「傭兵王バギン、か」
「どうしたんです? 二つ名持ちの獣衛機操者ですわよね? ギガノトサウルス戦で戦死したとかいう」
俺のつぶやきをノゾミが拾った。……流石と言おうか、ちゃんと有名操者は調べてあるのな。
「いや、あの男も死んだって話だけど、バングのおっさん以上に、死んだってのが信じられないな、と」
「そうですか……実際、どんな人だったんですの?」
そんな感じの事を言って誤魔化したら、バギンの兄さんの人となり聞かれた。
なんで誤魔化すのかって? 前衛ビーガードの強さがどうとかの話題、ノゾミに振ったの想像してみ? 絶対にめんどくさいぞ?
にしても、バギンの兄さんかぁ……。
「傭兵王バギン。実際、強かったよ。したたか、と言った方が良いかな。褐色肌と幅広の曲刀が妙に似合う色男でなぁ。たぶん上位階級の出身だな、あれは。妙な気品もあったし、作法とかにも詳しかったし。帝国から流れて来た傭兵で、皇帝から下賜された……事になってるけど、実はかっぱらってきた! とか言って、ディルティグリスを乗り回していたな」
「ディルティグリス、ですか」
「ヨウスケヨウスケ! 二つ名持ちって、そんなに強いの? 他にも会った事あるの?」
おぉ、ナイスだココ! ノゾミがビーガードの話題に入る前に質問して来た!
ココの質問に答える形で、話題をそっちに振る。おう、強かったぞ、と言うより、強くないと二つ名で呼ばれないからなぁ。と。
で、俺が会った二つ名持ちなー。
まずは『猪武者バルザン侯爵』かねぇ。ピザンの親父さんだな、どんな人かっつーと、年食って冗談が言えるようになったピザン。って感じの人だな。
同じく貴族の、『神速の貴公子ロザリオ』。公爵家の嫡男でな、名前の通り、とにかく速い。先んずれば全てを制す、って戦い方をする二枚目だったよ。速度が足りない! とかは言ってなかったが。性格も良くて、皆に尊敬されてたなぁ。……女性人気もあったなぁ。ケッ。
次も貴族の、『剣聖イングス』。物静かで紳士な爺さんだったな、戦場でも平時でも。むちゃくちゃ強いはずなんだけど、目立たないんだよなぁ。……あれだ、スポーツとかの、本当の好プレーは好プレーに見えない、って奴だと思うんだが。
元平民の『疾奏のソルロ』。一言で言えば変人、だなぁ……機内でユーロビートっぽい音楽ガンガンかけて戦う、ノッてる時ほど強いっていう変人。無駄に洗練された無駄のない無駄な動きで戦場を縦横無尽に暴れてた。……現場では、二つ名より爆音野郎って呼ばれる方が多かったけど。
次は、平民だけどたぶん、もう貴族にされてるんじゃねぇかな、『灰狼シン』。狼の獣人で、なんというか、普通の兄貴。真っ当で普通に強い。で、個人も強いけど……隊を率いても強いというか、そっちが本質だな、あれは。チームで狩りをする狼の、頼れる兄貴分。って評価が似合うんじゃねぇかな。
貴族……だと思うんだが、聞いたことなかったな、『自在のミローネ』。強い、というか、上手い、というか。……あらゆるビーガードを乗りこなし、戦場を選ばない。なんて言われて……お?
……隊列が止まったな……前方で何かあったのか?
《ピザンよりノゾミ嬢へ。戦闘の痕跡を発見した。この先の街、メリーティア住人の手によるものだと思われるが、一応確認する》
「ノゾミよりピザンさんへ、了解しましたわ」
街の近くに戦闘痕がある、という事は、街自体は生きてはいる、という事か。
でも……これだけ近くにならないと、戦闘痕を発見出来なかったって、結構ヤバくないか?
「ヨースケ! ヨースケの知ってる中で、さいきょーって誰?」
「おっと、今度はワンコの質問か。最強ねぇ、強さにも色々あるが、アウレリオンみたいな特殊な例を除いたら……やっぱ、狂戦士バングだな」
あんましフェアじゃない評価ではあるけどな。なんでって、ガイアはS級下位ビーガードだもんよ。スローンビーガードって、アークビーガードとは一線を画す機体だし。
実際俺も、乗ってるのがシールドライノじゃなければ……スピノザウルスに喰われて死んでたろうな……。
ただなー……バングのおっさんだからなー……ウルサに乗せても、普通に剣聖の爺さんを殴り倒しそうではあるんだよなぁ……。
《ピザンよりノゾミ嬢へ、特に不審な点の無い、通常の戦闘痕だと判断した。前進を再開する》
「こちらノゾミ、了解しましたわ」
おっと、前進再開、と。……まぁあれだな、
「で、単純に戦闘の強さ、だけならそんな感じだけど……戦場での強さって、戦闘だけじゃねーからな、その点ではもう一人居たぜ、とんでもなく強いババアがさ。その――」
「そこの一団、停まりな、この先にあるのはメリーティアの街だよ。所属と階級、目的を言ってもらおうか」
「ゲッ……噂をすれば影にも程があるだろ……?」
「……なんだ、見たことあると思ったら、ジークエーバーかい。……バルザンは引退したんだったね、じゃぁ乗ってるのは坊主か」
ポンコツ一歩手前にベコベコに凹んだ装甲と、継ぎ接ぎしたであろう、バラバラのカラーリングの手足のハウンド。
歪んだ外部拡声器がひび割れた音で、操者の声を響かせる。
……ひび割れててもわかる、この声。溜息一つついて、チビ共に話しかける。
「あれだよ。あれが今俺が言おうとしていた、俺の思う最強のうちの一人……あらゆるビーガードを乗りこなし、どんな戦場でも戦い、生き残るババア――『自在のミローネ』だ」
「……怖い人?」
おぉ。ココの耳がへにょりと伏せてる。可哀想だし、怖くない、と言いたいところだが……。
「怖い。しかも厳しい。……ただ、理不尽じゃぁない。良い子にしてれば大丈夫さ」
「ぴぃぅ……良い子にしてるわ」
可哀想だけどなー……子供には優しい、ってタイプじゃないからな。むしろ、子供だからこそ厳しく、ってタイプのババアだ。
しっかし、まさかこんな場所で再会するとはな……けど、まぁ、あのババアが居るって事は、メリーティアは健在だな。




