第十九話 講師・遊間ヨウスケによる戦闘指南学科編。あと、飯と歌。
「うーさーぎーおーいし、かーのやーまー」
「……うさぎ、おいしいよね」
「違うのマミちゃん。そうじゃないの」
さて、そんなこんなで現在我々は、旅の空の下である。ベルガルドを発って二日目だ。
で、『歌』というものに興味を持った三匹のちびっ子に、マリンが歌の手ほどきしたりしてる。俺は輸送トラックを運転中だ。
目立たずに速度優先。という事で、護衛はピザンと愉快な仲間達に任せて、ノゾミ隊は機体をコンテナに収納し、輸送トラックの乗務員スペースでくつろいでいる。……7人も乗ってるので、ぶっちゃけ多少狭い。俺以外は全員小柄な女性と子供なので収まってはいるが。
隊列はA級猪型が先頭に、後続B級4機の猪型。間に輸送トラックが一台なので、傍目にはごく普通の軍事行動に見えるだろう。
ジークエーバーなんか、明らかに貴族所有のビーガードだからな。野党の類は狙ってはこないだろうし。というか、ベルガルドの連中が訓練ついでに周辺の野盗だの魔獣だの狩りまくってるから、 ベルガルド周辺は辺境にあるまじき平和っぷりだそうだが。
……本来は鉄道が通っていたんだがなぁ、復旧は思うように進んでいないそうだ。作業員の安全確保が難しい、直してもまた壊される恐れがある、って状況じゃ仕方ない、か。
ちなみにこの世界、鉄道の軌道は地球より広い。鉄道の、というより、文明そのものが『ビーガードを効率よく運用する』のを前提に作られてるからな。
「やーい、雑魚雑魚ー!」
「うーん。そこはもっと、おちょくるように、や~い、ざぁこ、ざぁ~こ♪ かな」
「ざぁ~こ、こんなちっちゃな女の子にからかわれて、悔しくないの~?」
「そうそう。私はあなたを全力で馬鹿にしてます、という態度は一切隠さなくていいんだ、この場合は。じゃぁ逆に隠そうとしても漏れちゃってる、ってパターンは?」
「えー? ……うーん……ぷっ、ふふっ、あ、ごめんなさぁい! おじさんがあまりにも必死なものだから、つい! ……とか?」
「おぉ。そうそう、そんな感じ。見下してます、って態度は共通なー。で、敵が激昂して向かってきたら?」
「きゃ~! こわ~い! 変態おじさんに襲われるぅ~! 助けてワンコ~!」
「いいね、飲み込みが早い。お前は位置取りが重要になる、まして魔法行使するとなれば、邪魔されないことが重要だ」
「にひひぃ~♪ は~いっ」
何してるのか、って? ココにメスガキムーブのレッスンだよ、約束したからな、あの夜に。昨日はワンコにフェイントのかけ方とか教えたし、明日はマミに……遊間式遁術でも教えるか? 胡椒玉……はワンコが居るからダメか。煙幕玉の作り方とかかなー。
まぁ今はココか。ヘイトコントロールは重要だからな、特にコイツの機体フォクシアは、打たれ強いわけでも、機動性があるわけでもない。
っても、コイツ飲み込み早いっつーか、わりと天然で小悪魔なトコあるし、人間相手ならもう結構いけるんじゃねーかな。
魔獣とかのヘイトコントロールも、たぶん天然でもそこそこイケると思う。ココ、こいつ、『強そうに見えない』っていう才能があるっぽいし。
それ才能なの? ってか? 俺は才能だと思うぜ。
「そろそろ日が暮れてきましたわねー。次に休憩できるスペースがあったら、そこで野営でしょうか?」
「あいよー」
「……ヨウスケさん、さらっと輸送トラック運転してますけど、お喋りしてても普通に安定してますわね……ほんと、どれだけ小器用なんですか」
「いやいや。これに関しては、頑張って覚えたんだぜー」
たぶんな、意地になってたんだよなー、あの頃の俺は。……絶対に全員、無事に日本に帰しちゃる! 絶対にだ! って。だから色々出来るようになったっていうか。
まぁ、車の運転楽しー! って気持ちがあった事は否定せんが。お。良さげなスペース発見。さぁて、今日の夕食は何かな~。
「♪ 遠い空には 星ひとつ 帰るあてない 旅の空 だけど隣に 君がいる ただそれだけで 歩けるさ」
「♪ 風が吹いたら 歌おうか 雨が降ったら 休もうか 道の先まだ 見えないけれど 明日はきっと 晴れるから」
ちびっ子達が「うたー!」とか言って騒いでるもんだから、俺も下手なギター抱えて歌わされる羽目になった。そしたら、ディックのおっさんが、いいですねぇ、歌は兵士の嗜みですぜ? とか言い出して、ベースもってきやがってなー。現在歌唱中ってわけよ。
……ふっつーに上手いなこのおっさん。……なんか若いころはモテてたとか言いそう。というか、今でもモテてそう。……おのれ……。
にしても、それなりの時間一緒に居るからか、チビ共とピザン隊の距離もだいぶ近くなってるなぁ……そのうち一緒に歌いだしそうだ。
「飯と歌の力は偉大だ」
「別々に食事を作るのは非効率的ですわ! グラナとピザン隊の炊事当番が、まとめて食事を作る事にしましょう!」って、ノゾミがそう言いだしてなぁ……。
止められないし、止める理由も無いしで、哀れピザンと愉快な仲間たちの胃袋は、グラナに掴まれてしまいましたとさ。……いや、すげぇよグラナの作る飯。ピザンとダイキの口の端が曲がったとこ初めて見たからな。そんなに長い付き合いでもないけどさぁ。
まぁでも、仕方ないよな、実際、絶品だったし、あのミネストローネ。あとあれは何だろうな。洋風餃子って感じのやつが出てたんだけど。
それはそれとして、してやったり顔のノゾミの顔がちょっとムカついたので、「そういえばチビ共のビーガードコアの名前は?」と言ってやった。
「思い浮かびませんのー! いえ、思い浮かびはするんですの! でも、決められませんの! なんか、こう、コレジャナイ感が! ヨウスケさんそういうの得意そうですわよね? 何か、何かありませんの!?」
「ええいまとわりつくな。言ったろうが、これに関してはお前が決めてやるべきだ、って!」
「せめてヒントをー!」
「あぁもうしゃぁねぇな、そんじゃ、助け舟を……マリン、出してやりな」
「え? わ、私ですか?」
「俺より相応しいよ、これに関しては」
俺のは小手先口先の技術だもんな、想いってものを大切にしてる点では、マリンの方が圧倒的だ。
「え、えーと……ノゾミさん、そういう時は原点に立ち返ると良いと思いますよ?」
「原点ですの?」
「はい。あの子たちにどうなって欲しいのか、とかですね。なんか、ノゾミさん見てると……かっこ良さとか、強さにとらわれてる気がします」
「あっ……」
「別に、あの子達に勇ましく戦ってほしいわけじゃないですよね?」
「あぁっ! そうよ! そうだわ! 原点はそこじゃないのよ!」
ほらな。ノゾミの化けの皮剥がすくらいの説得力叩き込んでるだろ、マリンの奴。
ノゾミの奴は再び思考に没頭し始めて……あぁ、これもコイツの弱点かもな、思考に没頭すると、周りが見えなくなりやすい質かもしれん。……マリンに指示して、ノゾミの脇腹をつっつかせてみる。と、「のっぴょぉ!?」とか言って言って飛び上がりやがった。
あぁ、こりゃ弱点だ、やっぱ似てても違うなー、リョウなんかは「残念。僕はそれほど甘くは無いですよ」とか言って、つっつこうとした手を握る位はしたけど。ま、今後は注意して見ておこう。
……いやそれにしても叫び声よ。もう少し、なんとかならんのか……。と思っていた所に、ディックに話しかけられる。
「どーですヨウスケさん、俺のベースと、セッションと行きませんかい?」
「いやぁ、知ってる曲かぶらないっしょ、どう考えても」
「はは、実はさっきの歌、教えてもらえないかと思いましてねぇ、今夜の月夜みたいに、でしたっけ?」
「ちょっと違うっつーか、頭痛が痛いみたいになってるぞ……それが狙いかー、まぁいいや、教えるほど器用じゃないから、聞いて覚えてくれー」
焚火に歌、か。……たまには良いかもな、こんな夜も。
よーし、じゃぁ、遠き山に日は落ちて。でもチビ共に教えてやるかな!




