第十六話 武勇伝・後編 暴君王と、封印された犀
で、なんだっけ? あぁ、魔王のヘイトを稼いでから、か。
ステゴザウルス型ディーガードは知ってるか? そうそう、背中に『放熱板兼磁界発生装置の板』並べて、尻尾から口まで直線にして、超々高速で棘を口腔から撃ち出す、魔王軍の大火力遠距離攻撃機体だな。
ディーガードは、どうやっても人間やビーガードコアでは動かせない。という制約を、破壊された残骸から、動かせる『部品』のレベルまで解体して、別の道具として組み立てるという力技で突破した博士が居てなぁ。それで魔王を狙撃したんだ。
いや口で言うのは簡単だけど、苦労したんだぜ? 重いパーツをえっちらおっちら運んで組み立てて、必要な電力を得るために、本来象型ビーガードに使われるような大型の魔力式発電炉を幾つも用意して、狙撃機のエースが撃ってもなお命中率悪いから、ギリギリまで近づかなきゃならんし。なのにチャージにそれなりの時間かかるし。その上そこまでやって、なんとか用意できた2機が1発ずつ撃ったら、2発目は無理。だもんよ。
まぁ結論から言おう。二発とも当たった。だが、それでも魔王は倒せなかった。
そう、狙撃では倒せなかったんだ。だけど、そこに畳みかけるように、GアウレリオンとノクスファルクXの合体技、DブレイクGXが決まったんだ。
カケルが「喰らえ魔王! Dブレイク!」、リョウが「……グランドクロス」 ってな。盛り上がるシーンだったぜー。
勝ったッ! と誰もが確信してたと思う。いや、正確には、これで終わってくれと祈ってた、かな。
でも魔王は、伊達や酔狂で魔王やってなかったんだなぁ……。
「小さき者ども……なるほど。小さいから弱い。弱いから脆い。だが、小さいからこそ、群れる、そして集団となれば折れぬ。見事だ、褒めてやる」
「くっ、くくくっ、面白い、面白いぞ。小さき者どもよ。褒美だ、我が最恐の技を見せてやる。貴様らが何処まで足掻けるか見てやろう……いや」
「貴様らの足掻きを見せてみろ! 俺はそれが見たい!……絶滅砲チクシュルーブ、起動」
もうな、上を下への大騒ぎだよ。
「瘴気急激に増大! 魔王機の魔力発電炉が臨界稼働している! 魔王の咢内に超々高エネルギー反応! 広範囲殲滅級魔導砲と予測!」
って、観測班が切羽詰まった声で叫ぶんだ、もちろん俺は巻き込まれないようにさっさと退散……するつもりだったんだよなぁ……。
「撤退だ! 総員撤退! 急げ! 魔王の最後っ屁に巻き込まれるぞ! 下がれ! 下がれー!」
なんて、通信も引っ切り無しに撤退呼びかけるし。でもな、魔王の方を見たらさ、魔王の目の前で、逃げ遅れてる機体がいてさぁ……。
「なにやってんだカケル! リョウ! 下がれ! 逃げろ! おい! まさか……動けない……のか?」
「……おそらく、魔王の武装起動の影響だヨウスケ。魔王の魔力発電炉が、急速に周囲の大気中のマナを取り込んでいる……あの二機は高性能すぎて、低濃度のマナの中では満足に動けんのだろう。ましてや大技にエネルギーを使い切った直後だ」
「……あぁ、くそ…………はぁ~……そんじゃ、しゃぁねぇか! ライノ。あれ使うぞ! 魔力発電炉臨界稼働! ジェネレーター出力最大! シールドエネルギー反転! 封印展開……すまん、ライノ」
「いや。お前の判断は正しい」
「そっか。……よし、じゃぁ、盾の犀が、封印されし犀になるとしますかね! 四足走行モード! 反転力場最大展開! 魔王に全力のツッコミ入れたるぞ!!」
「了解だヨウスケ!!」
……ってな。これが魔王封印の真相だよ。本当に万が一の時の切り札……いや、鬼札だったんだよ。使うつもりはサラサラ無かった。
最初はなー、ドクターレムの爺さん……マッドな博士に「盾のエネルギー反転させたら、攻撃になったりしない?」って聞いてみたら、「面白そうな思考だね」って、ノリノリで力場反転装置を組み上げて、実験してみてくれたりしてなぁ。
「盾と言いつつ実態は力場だからか、反力場になったのかね、これは。観測方法が無いから絶対とは言えないが……『無場』と言うか『ゼロフィールド』とでも呼ぼうか。何もない状態か、あるいはマイナス状態の空間を作っているのだと予想は出来るのだが。
亜空間展開とはまた別の現象が起きているようだね……停滞空間……いや、虚数空間とでも呼んでおこうか、そんなモノを展開しているのだと予想は出来るのだが、正直に言おう、まだ理解できてない、時間が欲しい。が、今は忙しいからね……しかし、非常に興味深い」
「攻撃に使えるか、か。封印のように使えなくはないと思うが……自分を巻き込む危険が大きすぎるね、おすすめは出来ない」
あれは、そういう力だよ。攻撃とか武器とか技じゃねーんだ。
「諦めずに牙を、いや、角を突き立ててくるか小さき者よ。それでこそだ、褒めてやる、お前らはこの俺の認識を更新させたぞ……だが」
「もはや防げぬぞ、思い上がるな小さき者よ!」
「それがどうした! 思い知れこの暴君野郎!」
……で、めちゃくちゃ眩しくなって、すげぇ衝突音がして、俺の話はこれでおしまい、だ。次の瞬間、ハッと目覚めたら荒涼とした大地に、シールドライノに乗った俺と、倒されたティラノサウルス・レックスの残骸さ。
同じこと? もうしねーよ、安心しな。というか、やろうとしてもライノが絶対に許してくれねーさ。ははっ。
「そうして下さいまし」とノゾミが言った。あれ? なんか空気が重いというか、真面目な雰囲気?
「魔王と共に眠る英雄と、彼の為に歌う少女。……『慟哭の山』の謂れとしては、ズレてると感じてたのでは?」
「私のはあくまで伝聞ですが……居たのですわよ、聞く者の魂を揺さぶるような声で、悲痛な叫びをあげる少女が」
「なんで、どうして、いやだ、ヨウスケさん、ヨウスケさん。……誰が言ったのか、誰が言わせたのか、わかりますわよね?」
「あ、あはは、えーと、てへペロ♪」
ちらりと視線を送ったマリンは……あ、別に怒ったり悲しんでたりしてないな、ばれちゃったかぁ、しょうがないな。って顔だ、あれ。
今は変に悲しんでないなら、まぁいいか。……いやいや、この「まぁいいか」がいかんのか。
「今ここで約束出来ますわよねぇ、ヨウスケさん。あの力は、もう二度と使わない、って」
「はい。もう二度と致しません」
「よろしいですわ。それと」
ノゾミはソファから降りて、床に膝をつき、背筋を伸ばして正座を……って、おいおい。
「私の弟、工藤遼の命を救って頂いたことに、心より感謝いたします。ありがとうございました」
指先を揃えてきっちりと、俺の目を見て、深々と綺麗な座礼をしてみせた。
「やめてくれやめてくれやめてくれ! 俺は当然の事を、いや当然の事にしたらまずいのか!? あぁ、とりあえず、それはやめてくれ!」
「わかりましたわ。……ただ、私だけじゃなく、カケル君も、リョウも、あなたに何の礼も言えなかったことを悔やんでました。でも」
「でも?」
「それでもやっぱり、もし約束を破って同じことをしたら、針を千本……いえ、ハリセンボンを丸呑みにしてもらいます」
「微妙に現実的なのが嫌だな!?」
「ちなみにハリセンボンを丸呑みにして死亡した事例はあります。人間では無くて鮫ですが。……約束、守れますわね?」
「はい。誓って二度と、あの力は使いません」
そう言うしか無いじゃんよ。というか、もう使わないさ、言われなくても。
……実は、虚数空間の事で、一つだけ覚えてる事がある。
この場所で見たもの聞こえたもの感じた事は、覚えていてはいけない。そんな強烈な記憶だけがある。
ライノですら「正直に言おう。ヨウスケ、私はあの場所が恐ろしい。ただそれだけを覚えている」と言ったんだ。
あの場所は……おいそれと人が入っていい場所じゃ、無い。




