第十四話 命の洗濯と日常の価値と
ノゾミが言うにはな、マリンちゃんが護衛と令嬢と共にやってきて、歌って、護衛と令嬢と共に去る。そこに、英雄ヨウスケの姿は無い。十分に目くらましにはなりません? ってな。
シールドライノさんは目立つ機体ですし、聖堂関係者には口止め済なら、英雄復活は誤報じゃないのか? そう思わせるくらいにはなりますわよ?
そう考えたら、歌うだけ歌って午後にはこの街を発つ。ありだと思いませんこと? それに『マリンちゃんだけ』なら、知っても今ならアロサウルスは見逃す可能性が高いですわ。だってどう考えても、魔王の残骸の方が優先順位高いですもの。……あぁ、本当ですわね、狡猾すぎて読みやすいというのは。おほほ。
……だってよ。ちなみに音源は、ノゾミのノートPCがあるそうだ。いつ使えなくなるかわからないから、大事に使ってますわ。と言っていた。
バルバット? 「言動を思い返すと、アロサウルスとは敵対してる可能性がありますわ、少なくとも、嫌ってはいそうですわね。接触のタイミングと方法を考えても、私達を狙うというより……警戒を促しに来た。という方が腑に落ちません? コウモリを名乗ったのも、敵でもあるが味方にもなる、というアピールではないでしょうか。……ただし、それら全てが演技だという警戒は当然しておくべきですが」だそうで。
他にも「コウモリ型の恐竜? リョウほど詳しくはないですが、「世界一短い名前の恐竜、イー」がコウモリに酷似してたとか? 姿形だけですが」とか、「私はむしろ、ビーガードとディーガードの中間で、彼だけが唯一の「シーガード」。とかの方が面白そうに感じますわね、設定的には」とか言ってたな。「バルバットの狙い? さぁ、そこまでは……そういうのを読むのは、むしろあなたの方が得意そうですけどね」とも言われた。なんでやねん。
「歌うだけ歌ってトンズラ作戦。ねぇ……アロサウルスの野郎に限定したとしても……痛い目にあってるんだから、狡猾な思考を半歩ずらしてくるくらいはしそうだがなぁ……ふむ」
少し考えてみる。……そして結論は、狙わないな、だった。何故って、現時点では、ピザン達に守られてるローレライを落とすのは至難すぎる。
何せ『浮いている』からなぁ、ローレライは。空中に逃げられたら、追うのが難しい。プテラノドン型ディーガード? 2、3機じゃ相手にならねーよ、仮にも魔王討伐英雄機だぜローレライは。それに飛行型は、強いけど脆いし。ラウド隊だって、近距離が強いとはいえ、遠距離攻撃武器が無いわけないだろうしな。……それでも、10機くらい数を揃えれば何とかなるかもだが。けどそれだけの数の飛行型ディーガードは、移動するだけで目立つ。まぁ、それ以前に、それだけの数が揃えられるかも疑問だが。
……ありうるとしたら人質を取る戦略だろうけど、何を人質にするのが有効か、アロサウルスからはわからんだろう。……実際は、そこらの誰かでも、マリンには十分な人質にはなるが、人はどうしても基準を自分で考える。アロサウルスからしてみりゃ、そこらの誰かが人質になるとは思うまい。
それに……もしそこを見抜いて人質作戦をされても……ピザン、あいつは、『苦渋の決断』が出来るタイプだよな、どう見ても。『マリンの安全』は揺らぐまいよ。
あとは警戒するなら、狙撃か。とてつもない破壊力を持った、遠距離戦が得意なディーガードも居たには居たが……やはり、難しいだろうなぁ。あいつも、目立つし。
今は屈辱に耐えて、まずは魔王機の残骸を狙う。か……確かにそれが一番ありそうだ。
魔王か……あのクソ強い魔王の残骸を利用して、アロサウルスのクソ野郎がパワーアップ……最悪で最低のシナリオだな、それは……。
「えい」
「おぅわっ!?」
マリンっ、おまっ、背中に氷をっ!? 何をっ……あー……そっか。怖い顔でもしてたんかね、俺。
「ふふ。大丈夫ですよ、ヨウスケさん。この世界の人たちだって、そんなに弱くないです」
「ひぃ……ひぃ……ったく。……ま、そうだな。魔王はともかく、幹部くらいなら何とかする、か」
実際、バングのおっさん達はアロサウルスを撃破寸前まで大破させたし、武人気取りの虚飾ヤロー……図体だけは魔王よりデカかった、ギガノトザウルスは、俺たちが強欲ウワバミ野郎のティタノボアを討伐してる間に、この世界の連中だけで討伐された。
……ギガノトサウルス戦は、多くの兵と四人の二つ名持ちが落とされた、激しい戦いではあったそうだ。が、勝ちは勝ちだ。
『猪武者バルザン侯爵』『神速の貴公子ロザリオ』は引退に追い込まれ、『傭兵王バギン』『鬼子母神エイラ』が戦死したそうだが……というか、マリンが氷を持って構えてるので、この思考もやめにしよう。
……というか、その氷、どこから出した? 机上のアイスペールに手を伸ばした様子は無かったぞ? 「……まさか、魔法、か?」と声が漏れた。
「ふふっ、そうです。驚きました? 練習したんですよー、なんせ四年も放置されてましたので!」
「うぐっ……悪かったと思ってるよ……いやでも、驚いた。俺らにも使えたんだな、魔法」
「たぶんヨウスケさんも使えますよ、シールドライノさんと縁を繋いでるから、地属性が使いやすいのでは?」
「ふぅむ。いやでも、スペル覚えるのめんどくさいなぁ。滲み出す混濁の紋章、不遜なる狂気の器……とかさぁ。闇より出でて闇より黒く、くらい短いなら覚えられるけど」
「なんでジャンプ限定なんですか。私も頑張って覚えようとして……実はいらないことに気が付きました」
「いらない?」
「異世界言語スキルです。……世界に対して、魔法を行使したいという要求とか、行使するという宣言のつもりで発言すれば……」
「あぁ、なるほど、火の礫を作って発射する、という言葉が、そのままファイアボルトの呪文になる、と……」
「です。なので、意識の切り替えというか、頭の中に魔法の回路を作るというか、そんな訓練の方が重要ですね」
「……ノゾミとか、興味津々で研究してそう」
「してますわよ?」
お。電話終わったか。というか、やっぱしてたんか、魔法の研究も。……おかしいな。俺、コイツと出会ってから、まだそんなに時間経ってないのに、なんかやたら高い解像度で、コイツの事理解できてる感じがするぞ。いやまぁ、その理由はなんとなくわかるんだよなぁ。
「ノイマン型コンピューターの話はしましたわよね? 魔法使いは、それだと予想してます。脳内に別個の記憶領域を作って、用途に合わせて別のプログラムに入れ替え、データを参照して、CPUからの命令で……まぁつまり、入力・出力・記憶・演算・制御を脳内で分割して行って、呪文を介して世界に干渉し、体外で魔力を現象に変換させるわけですわね。これを単独の目的に限定して、魔力を注ぐだけで火をつけたり、明かりにしたりするのが、魔道具です。……たぶん」
これだよ、これ。なんというか、思考というか、嗜好がオンナノコしてねーんだよ、コイツ。新幹線とか戦闘機とか、戦艦とか語らせたら止まらねーんじゃないかな。ホントに止まらなかったら面倒臭いから試したりはしねーけど。
「アイスたべる~」
「ほらほら、マミ、アイスはいいけど、ちゃんと体を拭いてからだよ!」
「ちゃんと拭いた!」
「こら! ワンコ! 下着だけで行くんじゃないよ! ヨウスケも居るんだからね!」
「……これ使ってもいいのかしら」
「ココ、アンタにお化粧はまだ早いよ! 素材で勝負しな!」
おっと。脱衣所が騒がしくなってきたな。チビ共風呂上がったのか。つうかグラナ、マジオカン。
……ノゾミ、こいつの真の恐ろしさって、実は「人運の良さ」にあるんじゃねーだろうか。それとも「人を見る目」が良いのか? あるいは両方か。
ともあれ、チビ共来るなら、難しい話はここまでだな。……いや別に、そう決めていたわけじゃないが、なんとなく、な。
「カァーッ! 効くねぇ~!」
「ぺろぺろもぐもぐ」
「……けぷー」
「ワンコ、人前でゲップは、はしたないですわ」
「くぅん……ごめんなさい」
「ふん、ふふん♪ 狐の尻尾はつやつやふさふさ~♪」
女の子率高けーなおい。まぁ、チビ共とオカンとノゾミだから、居心地悪いわけじゃねーけども。
護衛の連中? リビング的な部屋の前室の護衛部屋みたいな所から、一歩も入って来ねーよ。いや襲撃でもあれば来るんだろうけど。
「野営に比べれば天国ですよ、豪華な夕食も出るし、シャワーもあるし」とディックは言っていたが。後で飲み物でも差し入れるか。酒はまずいよな?
「ヨースケ、聞いてもいい?」
「お? 何だワンコ、サッカーの技か?」
「それも興味あるけど、魔王の事聞きたい。魔王との戦いってどんなのだったの?」
「あぁ、それは私も興味ありますわ。私はリョウから聞いてますけど、また別の視点の話も聞きたいです」
「私も興味あるわ! だってヨウスケ、ぜんぜん英雄に見えないもの! 本当に魔王と戦ったの?」
「魔王と戦ったのはマジだよ。ただまぁ、英雄なんて本当に結果論だ」
「もぐもぐ……もぐ?」
「マミも興味津々な目で見るじゃんよ……そんな、面白い話でもないぞ?」
「聞きたい。……だめ?」
「あー……なんかスナック菓子でも持ってきますね?」
そう言ってマリンが席を立つ。
マリンの奴、ヨウスケさんが子供にせがまれたら、断れないでしょうねぇ。とか思ってやがるな?
その通りだよこんちくしょう。




