第十二話 もう居ない狂戦士と、託された者たち
《各機のダウンロードが終了。仮想サーバー閉鎖します》
「お。各機受け取ったみたいだな。このデータは、俺がガイアから受けとったアロサウルス戦のデータなんだが。ライノが言うには、一割以上の確率でくたばってない可能性もあるそうだからな。考えすぎだ。と笑われるかもしれないけども」
《マリンです……良いじゃないですか、一緒に笑われましょうよ。警戒しすぎは、私たちが笑われるだけで済みます。でも、警戒が足りなかった時は、誰かが傷つきます。……私は、その方が嫌です》
《ノゾミですわ。一割は超一流バッターのホームラン率より高いんですのよ? 備えない? ありえませんわ。それがリスク管理というものですの。笑われる? うふふ、安いコストですわ》
《ピザンだ。そもそも、これは我々の仕事だろう。そして万が一の時の為に、軍はある。……情報提供には感謝する》
「……あー……まぁ、その通りだよな。備えあれば嬉しいな。って奴だよな」
《ヨウスケさん、その慣用句は――》
「マリン、これ、ボケだから。流石にわかってるからね? 憂いなし、って」
《くす》
笑うなローレライ! とは今回は言わん。笑わせるための発言だからな。
で、俺も他の連中と同じ動画を見ているんだが……あらためて見るとスゲェな、ガイアの攻撃力は。最初のベアクローの一撃で、アロサウルスの顔面を半分近く抉り取ってんじゃんか。 その後は……意図的に攻撃をアロサウルスの左半身に集中させているのか、これ……最悪を想定しながら戦っているな。……なんだ? 一瞬ガイアの腕がブレたぞ? ……あれがガイアの特殊武装か?
《流石だなバング殿は……一見すると豪快な、しかしよく見れば、実にクレバーな戦い方をする……》
《うむ……》
ピザンは素直に感心してるな。重苦しい頷きはジークエーバーか。マリンとノゾミは、言葉も無い。って所か? アロサウルスが背を向けて逃げ出し、アンキロサウルス型ディーガードがガイアの目の前に立ち塞がった所で、動画は終わる。
その後は、予想されるアロサウルスの被害状況やら、予想されるアロサウルスのセンサー破損状況やらが表示されている画面が表示されて……。
そして、ライノが、いつも通りの口調で告げる。
「この後の動画は、バングが最後まで戦い抜くだけだ。最後の言葉は「さて……次は……」だった……最後までの動画はジークエーバーに送信する、扱いは任せるぞ」
《……ピザン・ド・フェルナルドークの名に誓おう。決しておろそかには扱わないと》
あぁ――少し心が和らいだ。バングのおっさん、『死ぬつもりで戦った』わけじゃねぇんだ。
ちゃんと、次も、まだ戦う気でいたけど、くたばっちまっただけだったんだ。
『悔しいがしょうがねぇ。俺の番だっただけだ』そんな声が聞こえた気がした。
「で、だ。アロサウルスの野郎がくたばってないと仮定すると、潜伏先は……」
《おそらくは、慟哭の山を越えて帝国領、だろう》
「ピザンの言う通りだろーなー……ちっとアロサウルスの立場で考えれば予想はつく」
逃げ出して、まず向かうのは魔王様の元。ところが魔王様は、俺と一緒に封印されて、もう居ない。自分以外の幹部級ディーガードは、帝国領に居る馬鹿でかい竜脚類だけ。まずはとにかく傷を癒やしたい。となれば、その竜脚類の傍に潜むのが一番安全、と。
《正直に言おう、今すぐどうこうは出来ん。あえて言うなら、ノゾミ嬢だけなら、身分を隠せば帝国領に入れる可能性はある。が、他は難しい。そして、ノゾミ嬢が帝国領に行くというなら、私は止める。正体がばれた時が危険すぎる》
《ノゾミです。ご安心を。私はそれほど愚かではありませんわ。まぁ、商会として人を送って、交易の方向位は探りますけど》
《……外敵の排除は我々の役目だ。協力は感謝するが……ノゾミ嬢もだが、ヨウスケ、お前が首を突っ込む事は無いのだぞ?》
まぁそう言うよな、立場があるもんな、ピザンには。
まぁそう言うなよ、立場もあるんだろうけどさ、ピザンにも。
「突っ込まなくても狙われるだろ、首。陰湿でねちっこいんだ、あの野郎は。……俺が生きてると知ったら、おそらく真っ先に狙ってくる」
《マリンです。私も狙われますよね、首。召喚勇者本人ですし。ローレライも居ますし》
《私も狙われますわねぇ。リョウの姉で異世界からの召喚者。討伐英雄の超がつくほどの関係者ですもの》
「加えてノゾミの場合は、やらかし具合もすごいからな? 『放置していたら勝手にどんどん敵軍が強化されていくユニット』。なんて、シミュレーションゲームなら真っ先に取り除きたいだろ」
《てへペロ》
「って事で、アロサウルス討伐は……まずは、この街の太守さんに、警戒を呼びかける所から、かな」
《放置!? 放置ですの!? ヨウスケさんも私に厳しい!》
はっはっはっ。仕方あるまい。なんかこう、違うんだよ。マリンのあざとさと、ノゾミのあざとさって、こう、上手く言語化出来んけど、違うんだよ。
いやノゾミも可愛いよ? 美少女だよ? けど、こう、マリンは正統派美少女アイドルだけど、ノゾミは正統風美少女バラドルというか……違うんだよなぁ。
《ピザンだ。太守殿には私から話を持っていく。……この動画があれば、下手な言葉よりわかりやすく、危険を伝えられるだろう》
「その辺はピザンに任せるしかないからなぁ。太守様がどんな人か、俺、知らんし」
《ふむ。……辺境、国境近くの城塞都市の太守だぞ。王に直接任命された、我ら武門貴族の側の方だ。……と言えば伝わりやすいか?》
「OK伝わった」
つまり有能な脳筋か、脳筋の皮をかぶった腹黒だな! わかりやすい!
《ノゾミです。私はさし当たって、昨晩名刺をもらった、帝国の商会の人間に連絡を取ってみますわ。勿論、十分に注意をしながら、ですが》
「あぁ、バルバットとかいう、あの怪しいおっさんか」
《……あの時は人名だからスルーしてしまいましたが、改めて、言語理解スキルを通して、彼の名前を聞いて下さいな。バルバット・ノクティリオ》
「……コウモリ!? おいおい……おい、ちょっと……まさか」
《受け取った名刺を見ていて、反応があった時には、私も驚きました。言語理解スキルが反応しているという事は、意味が込められた名称という事ですわよね? ノクティリオだけならまだ偶然もあるでしょうけど、バットもコウモリ……吉にも凶にもなる名前、しかも放置は悪手になりかねない。……厄介な相手ですわ。念のため、ピザンさんにも情報は回しておきます。残念ながら写真はありませんわ》
シートに深く座りなおす、「なんか問題は増える一方だな、くそ」と、つい言葉が漏れた。しかも、すぐに対処出来るようなもんじゃなく、様子を見るしかない問題ばかりと来た。あぁ、面倒臭ぇ……。投げ出してぇ……。
が、マリンの「面倒ですね、いっそ全部投げ出して、トンズラはどうでしょう、ヨウスケさん!」という言葉で引き戻される。いかんいかん、俺の悪い癖が出るとこだった。逃げ出せたり、回避できる問題を避けて通るんだよなぁ、俺。
いや基本的にはそれで良いんだろうけど、後で苦労するってわかっている問題でも、つい逃げるんだわ。……それで後悔した事も、何度もあるのにねぇ。困った奴だよ、俺って奴はまったく。
……しかしまぁ、読まれてんね。そんなにわかりやすいんか、俺は。なら、このままわかりやすく、本音で行きますか!
「あぁ、いいな。こう、ビーチで優雅に、ジョニー・ビー・グッドでも聞きながら、とか」
《温泉でゆっくりしてから、カラオケパーティーとかも捨てがたいですねぇ》
《バカンス……観光……ホビー・レジャー用ビーガード!?》
「ぶれないねノゾミは。でも良いんじゃね? ビーガードの平和利用、大いにありだと思うぞ」
《こちらローレライ。カラオケとかいうのなら、私も歌う。歌いたい。歌わせて》
「シールドライノだが、それもいいのではないか? 戦士にも休息は必要なものだ」
うむ。賛同意見多数。民主主義的に俺の意見は認可されたようだ、ならば――。
「うっし、じゃぁゆっくり骨休めする前に、骨折れない程度にくたびれますかね!」




