第九話 託すモノ、託されるモノ(後編)
「……というわけでさぁ、ライノを呼び出せそうな場所、心当たりある?」
「んー……たとえば、亜空間コンテナボックスの中で呼び出したら、どうなりますの?」
「試した事ないな。『呼び出せない』なら良いけど、変に呼び出せてコンテナボックスが壊れたら、損害がでかすぎる」
「でしたら、兵士の練兵場とかが定番ですが……目立ちたくないなら、街の外に出るしかないのでは?」
「やっぱそうなるか……。じゃぁ、適当に昼飯食べたら、ちっと行ってくるわ。マリンは……」
「お供しますよ?」
「私もご一緒しますわ。少し気になりますし」
そういう事になった。悪いね、ディックさん。え、気にしないで良い? むしろ楽な仕事だからありがたい? というか、オススメの飯屋がある?
少しお値段高めだけども、経費で落とせるから行きましょう? あー、じゃぁ、それで。……やっぱ昼行燈タイプだわ、このおっさん。食えねぇ奴じゃなくて、食える奴だから余計に厄介なタイプだな……まぁ、味方なら頼りになるか。
実際、ディックのオススメ飯屋はなかなに美味かった。……それでも、なかなか、のレベルなんだよな。野営メシでも一般飯屋に負けないクオリティの飯出してくるグラナって本当にすげぇんだな……いただきます、ごちそうさま、はこれからもちゃんと言おっと。
「というわけで、ジョン・フォン・ノイマンの様な人が出ないと、コンピューターは、私たちの世界のようには発展しないのですわ」
「うん、なるほど。……マリンはわかった?」
「え? あ、はい、一応は」
「んじゃー、それでいいや。……必要になったら教えて?」
「もー。しょうがないですねぇ、ヨウスケさんは」
「……何ですのこの、ダメンズとウォーカーみたいなのは」
昼飯喰って、街の外まで行く道すがら、ノゾミからコンピューターの事を聞いたのだが、半分くらいしかわからんかった。現代地球のコンピューターは『ノイマン型』と言える存在であり、アインシュタインをして、「自分より頭が良い」と言わせしめた、ノイマンって人みたいな天才が必要なのは、かろうじて理解したが。
しかし失礼な。俺はダメンズじゃねーぞ。まぁ、ヒモ生活に憧れは無い。と言ったら嘘にはなるかもしれんが。
……いや、やっぱ無いわ。一週間で飽きるわヒモ生活なんざ。いやいや、それ以前に、居心地悪すぎて続けられんか。そう考えるとスゲェな世の中のヒモ男。尊敬は微塵もしないが。
ワンコ? 最初から話についていくのをあきらめてたのか、鋭い目で周囲を見ていたよ。……ホントになぁ、見た目はりりしいからな、ワンコ。鋭い目つきの犬の獣人少女、メイド服、腰の左右に大振りのダガー、喋るとアホの子、懐くと可愛い。属性過多じゃねぇのか、ワンコ。
「さて、この辺で良いかな?」
「どうかしら、ワンコ?」
「くんくんくん……怪しい匂いは無いですおじょー様!」
しゅた! と右手を上げて宣言するワンコ。元気があってよろしい。
というわけで、街道から外れて、森の中を歩くことしばしの場所。少し開けた場所があったので、そこにライノとローレライを呼び出すことにする。
よっしゃ、本日二回目の登場シーンバンクと行きますか!
「素に銀と鉄。礎に石と……えー……あぁ、やっぱめんどいわ。抑止の輪より来たれ、シールドライノ!」
「……めんどくさいんじゃなくて、覚えていなかったのでは?」
「ぷっ……くくっ、き、来て、ローレライ」
よし。マリンには受けた。ならば良し。
俺とマリンの言葉で、周囲の空気が……その辺の描写はもう良いか。とにかくライノとローレライが現界する。
そもそも異空間から召喚してるんじゃないんだよな、これ。ライノは『自然に溶けている』って言ってたし。
以前知り合ったマッドな博士が言うには、「次元と次元の隙間を利用していると予想できる、亜空間コンテナの理屈に近い。というより、過去の技術者が、彼らの召喚をヒントに亜空間コンテナボックスを作ったのでは?」とか言ってたけど。
「……なんだその、抑止の輪というのは」
「……抑止する、輪……オイルフェンスみたいなの?」
ライノとローレライには突っ込まれた。ライノにはたぶん世界の安全装置? と答えておいた。
……あながち間違いじゃない気がしてるんだよな、魔王とセラフィックビーガードの関係見てると、さ。
さぁて、とりあえず今は今の事を、ライノに相談だ。
「なるほど、メンテナンスは急務ではない、と」
「うむ。実弾を補充できればいいが、無くても大丈夫……というよりは、今は先に進む方を優先した方が良いと判断する」
「王都からの調査団か?」
「あぁ。知らなければ知らなかったですむ。が、王都に呼ばれたのを無視する、となると話は変わる」
「くわえて言うなら、それは本当に王直属なのか? 宮廷貴族の独断じゃないか? まであるしな」
呼び出したライノに乗り込んで、密談中である。マリンもローレライに乗っている。
ノゾミは外で拗ねている。いやまぁ、仕方ないやんけ。ライノが「まずはヨウスケにだけ話す」とか言うんだから。
その後、俺がノゾミに話すかどうかは、俺が決めて良いんだとさ。へへっ、信頼が重いねぇ。
「ローレライの方は大丈夫なんか?」
《こちらローレライ。私は平気。ちゃんと整備受けてたし、ライノほどじゃないけど、自己回復もある。そもそも、ほとんど戦闘してない。歌ったりしたくらい》
《マリンです。ローレライは、スピアランチャーくらいしか実弾兵装無いですしね。一発も撃ってないので補給もいりません》
「OK、じゃぁ先を急ごう。で、ライノさんや、ガイアから受けとったものだけど……」
ライノとローレライは、両方とも自己回復能力持ちだが、性能に差があるんだよ。ライノはAで、ローレライはCくらいらしい。
ちなみにジークエーバーにもCクラスの回復能力があるとか。これ、アークビーガードの中では格別に高い回復能力らしい。
「それか……ローレライ、マリン、すまないが通信を切るぞ。デリケートな部分もあるのでな」
《ローレライ了解》
「あれ? 結構重い話? 単なる戦闘データじゃないの?」
「いや、戦闘データだ。ただ、一切のマスクが無い」
「えーと?」
「……ガイアの出力上限と出力上昇率、関節可動域、装甲の薄い部分、死角、特殊兵装、すべてありのままの、アロサウルス戦データだ」
「……そいつは……」
「以前、ガイアと戦うな、一割勝てるかどうかだと言ったな? このデータがあれば、七割勝てる。……操者が一般兵レベルなら、完封も狙える」
――ガイア。あいつ。随分と重い物を託してくれるじゃねぇか。……はっ! 上等だ!
「ライノ。アロサウルスがまだ生きてる確率は?」
「生きてるだけなら33%といったところか。戦闘可能な状態で生きている、となると確率は約11%」
「よし、備えるぞ。間がある時にデータの解析を頼む。ピザンやノゾミにも、ガイアのデータにマスクをして渡せるようにしてくれ」
「了解した。……ヨウスケ。お前が私の操者で良かった」
「おいおいライノさんや、それは死亡フラグだぜ?」
「だから今のうちに言った」
「なるほど。俺もお前が相棒で良かったと思ってるよ」そう答えると、ライノのジェネレーターがほんの少しうなりを上げた。
ははっ、照れてるんかね、こいつ。
モニターには、ローレライから降りて、ノゾミと何やら話してる、マリンの姿が映っている。
なにを話しているのやら、マリンは笑っている。楽しそうに、笑っている。
――なぁに、一度は魔王からすら守ったんだ。お前と俺なら、何からでも守り切れるさ。
そうだろう? シールドライノ。




