第九話 託すモノ、託されるモノ(前編)
「ちちしりふともも。アソマ・ヨウスケ。っと」
「……またその言葉ですか、ヨウスケさん」
「偉大な先人の残した言葉だぞ?」
結局あの後、聖堂の豪華な応接室に通されてしまった。ピザン配下の護衛組も普通に一緒に、だ。分断させようという気配は一切感じなかったから、まぁ、大丈夫……か? んで、是非、英雄様の一筆を! とか頼まれたので、色紙的なものに好きな言葉を書いている。日本語で書いているので、こっちの世界の人間には読めないから大丈夫。
マリンは「まったくもう、ヨウスケさんは」って顔をしているが、良いのだ。好きな言葉や座右の銘を、と頼んだのは向こうである。俺は素直に好きな言葉を書いたにすぎぬ。ちなみに、どんな意味が? と問われた時は「人が人として生きるのに不可欠な、美しい物ですよ」と答える事にしている。嘘は一切言っていないのだから、問題ない。
マリンの方は大きく『想』と書き、その下に『ベルガルド聖堂さんへ』と書いてから、キュキュキュッと自分のサインを書いて、余白にデフォルメ人魚がウィンクしてるイラストまで描いてる。うぅむ、流石は売れっ子ジュニアアイドル、手慣れておる。……ローレライ付のサインは、最上級の奴だな。
「ありがとうございます!」
「いえいえ、ただまぁ、しばらくは人目に触れないようにお願いします」
「すいません、私からもお願いします。その、ちょっと色々とありまして」
聖堂の偉い人には、既に「お願い、しばらく秘密にして!」とお願いはしておいた。どうやら『英雄は復活したらしい』という報は、もうあちこちに届いているそうで、真偽を確かめるべく、王都の調査隊も出発したとか。まぁね、普通に写真も通信機もある世界だからね、仕方ないね。ただ、ファックスみたいな電信技術は、あんまり進んでいないから、質の荒い画像が届いている、レベルだと思うけど。
んー、この世界の文明レベル、地球の日本と比べたら、たぶん昭和の中頃くらい……かなぁ? でも、一部では現代日本をはるかに凌駕してたりするよな、ロボ関係の技術とか、その最たるものだと思うし。
で、そのロボ関係だと、シールドライノやローレライに秘匿回線を繋げられそうな、知り合いのビーガードも何体か居るし、そのうち通信が入ってくるかもなぁ。いやまぁ、別に大きなデメリットがあるわけじゃないんだよ、単に俺が騒がれたくないってだけの、ワガママなのかもしれんけど。でも、せめて、ノゾミが拠点にしてる街くらいまでは、ゆっくり調査……という名の観光したいじゃん。
「クドウ・ノゾミ様、到着されましたが、大司教様にお伺いしたいことがあるとかで、少しお待ちくださいとの事です、英雄様方」
「あ、はい、それと、英雄はやめてください」
「私も、その、英雄と呼ばれるのは、ちょっと」
聖堂の偉い人は、白ひげ豊かなお爺ちゃんだった。後でノゾミに聞いた話だと、本来なら、領都クラスの都市の、大聖堂の責任者でもおかしくないそうなんだよな、大司教って立場は。それくらい偉いのに、あえて辺境の聖堂に居るような人格者なんだとか。この辺、運が良かったな。
「人が人として生きる為に必要な、美しい物」……とか言って目をキラキラさせて、俺の書いた色紙を見ている、最初に俺を止めてから、なんやかんや俺ら担当になった兄さんは、助祭だとか。……この街、英雄崇拝が強いのかもしれん。やっぱ、俺の事は秘密にしておくのが良さそうだ。
「マリンは相変わらず、あの字が座右の銘なんだな」
「はい。全ての基本は想う事、です」
「納得しかない」
「ヨウスケさんも、もっとカッコイイの用意しとくべきでは」
「えー。うーん? ……そうだなぁ……Let it be、とか?」
「あー……うーん、良いとは思います、よ?」
「微妙顔じゃんよ。……じゃぁ逆に聞くけど、マリン的おすすめとか、なんかある?」
「わたし的に、ですか? ヨウスケさんなら、『遊』でいいじゃないですか。人が生きる上で、必要な事ですよ?」
「えーと、それ、ほめてる?」
「ほめてます!」
「カッコイイかぁ?」
「カッコイイです!」
マリンがそこまで言うなら、考えてみてもいいかもしれんなぁ。遊、か。まぁ、俺らしいっちゃぁ、俺らしい一文字か。
にしても、さて、これからどうなるんかね? 一泊して通り過ぎるだけの予定だったんだけど、これだけ設備がある街なら、一度ちゃんとライノを診てもらうのも、ありな気がするし。……魔王とガチバトった後そのままだからなぁ。文句を言う奴じゃないけど、不調を隠すような奴でも無いから、本人に聞いてみるのが一番かもな。問題はどこで呼び出すか、か。ガイアから受けとった物の内容も気になるし。
しかし、なんか無いのかね、自然に溶けている状態のライノと会話する手段って。こう、コムリンク的な、腕時計型通信機とかさ。
……昔知り合った、マッドなドクターなら。……いやでも、あんまり会いたくは無いなぁ。割とノリノリで考えてくれそうなのが、逆に怖いっつうか。
「クドウ・ノゾミ様、いらっしゃいました。お通しいたします」
お、やっと来たか。さぁて、どうなる事やら、と。
「あー、なるほど、ディアボロとか中国ゴマとかって奴か。おっちゃん、このロープ、両端を棒の先につけた方が、きっと遊びやすいぜ。もっと軽い素材で、コマ本体を大きくすると見栄えも良いじゃねぇかな……よっと」
「普通に遊べちゃうんですね、ヨウスケさん……」
「いやいや、流石にね、ディアボロは専門外よ。基本技をいくつかできるだけ、と。あぁ、やっぱ小さくて重いとやりにくいわ。これ幾ら? はい、お代」
聖堂での話はその後、なんかマリンに是非、聖堂で歌って欲しいとかって話も出たんだが……とりあえず持ち帰って検討してみます、って事になった。で、今はマリンと一緒に、来るときに気になっていた露店の玩具を冷やかしながら、ノゾミが入っていった商会の前で待っている。ノゾミが護衛っつうか、お供に連れていたワンコも一緒に入っていった。
なんか、パキケファロの頭部とか、アルマジロの魔獣の素材が高く売れるみたいなんで、その辺をノゾミにお任せしたら、そこそこ大きな商会に入っていったのだ。いやさぁ、俺が売りに行くより、確実に良い取引してきそうじゃん? だからお任せしたのよ。ピザンとラウド隊が倒した分も一緒に処分するとか。あと何か、プチリンの納入がどうとか。何だプチリンって。ぷっちんする、プリンか何かか? ちなみに、この世界にはプリンは既にあった。『試行錯誤や創意工夫の繰り返し』なら同じような物は誰かが作り出す、って事だと思う。『天才の閃き』、みたいな物が必要な物は、地球より早く出たり、遅く出たりするから、技術の進歩が変わってくるんだろうな。コンピューターみたいなん無いのもそのせいか? コンピューターか……。
「普通に付き合ってたけど、ライノとかローレライは、いわゆるAIじゃ無いんだろうな」
「また藪から棒になんですか。……まぁ、コンピューターじゃ無いですよね。精霊とか神霊とか、そっち系統の存在なんじゃないでしょうか」
「ビーガードコアは実は、超高密度な量子コンピューターという説はどうでしょう。ふふっ、お待たせしましたわ」
お。出て来た。どう? 売れた? アルマジロは売ったけど、パッキーのハゲ頭は使いたいから、私に売ってくれ? どうぞどうぞ、つうか、パッキー倒したの俺じゃないし、別に……あぁ、まぁ、そうね、取り決めて無かった以上は、全員等分ね、了解。
さて、ライノを呼び出す場所だけど……ノゾミ、こいつなら、何か良い場所知ってるかな?
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