第八話 英雄と呼ばれた男と、英雄乗機
「この街、辺境なのに治安は良いですけど、油断して変な所に行かないようにしてくださいまし」
……ノゾミがそう言っていた、その、治安が良い理由が、目の前を通り過ぎていく。
何がかっていうと、だ、朝から元気に歌いながら、ランニングする集団が居るわけなんだが……。
「父ちゃん母ちゃんベッドイン」
「とおちゃんかあちゃんベッドイン」
「母ちゃん寝ころびこう言った」
「かあちゃんねころびこういった」
「いいでしょ!」
「いいでしょ!」
「しましょう!」
「しましょう!」
この街の衛兵だろうか。先頭に教官、後ろに旗持ち、その後ろに兵士たちが、同じ歩調、同じペースで走っていくのを見送る。
リーダーの掛け声に兵士が唱和しながら、朝の街をランニングしていたのだが。朝も早よから、良い感じに下品である。
……そして、ノゾミがジト目で俺を見ながら、言った。
「ミリタリーケイデンス……ですわね。……これ、持ち込んだの貴方ですわよね? 何を流行らせているんですの、ヨウスケさん」
「ちゃうんや。こんな流行ると思ってなかったんや」
目をそらしながら応える。いやね、軽い気持ちだったんよ。昔、なんか、見学した兵士の訓練で、ハートマン的鬼軍曹っぽいのが居たから、つい軽い気持ちで教えて……。
いやいやいや! なんでこんなに流行るんだよ! もう4年以上前だぞ!? なんでまだ流行ってんだよ!?
「あのですね。私たちの世界でも、廃れることなく続いている訓練方法なのですわよ? 伝統の二文字だけで説明が付くとでも?」
「……人は歌うことをやめられない生き物なんだなぁ」
「……ミリタリーケイデンスで、その台詞を聞くことになるとは思いませんでした」
「ごめんてマリン。てへペロ」
「可愛いので許します」
「何ですのこのバカップル」
まぁ、そんな感じで、この街、衛兵や兵隊がやたら元気なのである。尚武の街。といったところか? そりゃ治安も良くなるわ。
「英雄が街を救う姿を、目の前で見てたわけですしね」とはノゾミの言だが、なるほどな。
もし次があれば、その時は英雄は居ない。なら誰が街を守る? 彼らだ。アロサウルスの残骸が発見されていないのも、強い要因なんだろう。
「聖堂はあっちですわ。私たちは宿を取りに行きます。後で合流するので、くれぐれも、くれぐれも! 変な場所に行かないように」
「おう。やばいと思ったら、街中でもためらいなくライノを呼ぶさ。うし、行くぞマリン、そろそろ戻ってこーい」
「えへへぇ~、カップルなんて、そんなぁ~」
いや否定しようよマリンさんや。 ……え? ピザンはどうしてるって? この街の太守に会いに行ってるよ。お貴族様は付き合いがあるから大変だねぇ。
とはいえ、配下のラウド隊から二人ほど、ちゃんと護衛をつけてくれたが。
ディックというおっさんと、ダイキっつー青年で、ディックは隊では一番年長の平民だ。まぁ……いわゆる先任軍曹だな。バルザン侯爵の配下でもあったので、俺も顔くらいは覚えている。無精ひげとかで、いかにも適当な不良中年ってな感じを出してるが……ピザン除けばラウド隊の中では一番強い。いわゆる昼行燈ポジだな!
ダイキも平民らしい、彼は過去の英雄から名前をいただいたそうで、普段使いは恐れ多いと、ラウド3を名乗る事の方が多いとか。黒髪黒目の無口な没個性の青年で、あれだ、ギャルゲーの主人公とかに居そう。あと、なんか居合とかしそう。そんな感じ。
「ふん、ふん、ふふん♪……あとにしましょうね?」
「うぃ」
なんか見たことが無い玩具に気を取られた俺の手を、マリンが引っ張る。
なんかマリン、機嫌が良いなぁ。いや、まぁ、でも……気持ちはわかるかもしれん。
「魔王の影に怯えていない街、かぁ」
「です。見てくださいヨウスケさん、平和ですよー」
うん。……うん。
野菜を売るおばちゃんの露店、走り回るガキどもの笑い声、杖をついて歩く、足の悪そうな爺さん、少女を乗せた車椅子を押す少年。あぁ、平和だ。
誰もが当たり前に朝を迎えて、今日も当たり前の一日生きていく。あぁ、あぁ……平和だねぇ。
「へへっ、カケルやリョウや、アユミにも見せてやりたいなぁ。お前らが守った平和だぞ、ってな」
「……もう。ヨウスケさんは。そんなだから……」
ん? 俺今何か変なこと言った? なんでマリンあきれ顔してんだよ。
「よぅ、バングのおっさん。平和を満喫できてるか?」
ド派手な墓を期待していたら裏切られた。英雄って割りにこじんまりしたもんだった。
華美とか豪華なのを嫌ってた、いかにもバングのおっさんらしい、質実剛健とした墓だ。おっさん、似合わねー墓で眠ってんなぁ。とか言ってやるつもりだったのにな。あぁ、でも当然か。バングのおっさんクラスなら副官みたいなのも居たはずだし、好みじゃない墓に仕立てるはずも無いか。
「でもまぁ、一人寂しく、ってわけでもないみてぇだな。あっちで酒でも飲んでるんかね?」
ただ、まぁ、他と明らかに違う部分もある。墓の後ろに建つ、石碑だ。最初に大きく記されている名は、バング・ベオルフ。
その下に、18人の名前が並ぶ。……街を救った英雄――正確には、英雄と18人の勇士。……ま、そりゃそうだわな。
バングのおっさん一人で戦ったわけもない。きっと数々のドラマがあったんだろう。……明らかに女性の名前もあるし。
「あぁ、でも、4年たってるんだっけなぁ。酒も飲み飽きた、ここは退屈だ……。とか言ってそうだな、おっさん」
とにかく、まぁ、お疲れさまでした。と踵を揃え、頭を下げた。……「おう」と、ぶっきらぼうに応える声が聞こえた気がした。
買ってきたコーヒーのボトルを添えて、墓の前で合掌する。なむあみだぶつ、なむあみだぶつ、と。
なんなんだろうな……南無阿弥陀仏って……。
「退屈してる、か。そうだよな、なんなら、もうここに居なさそうだな、おっさん。暇だ、戦いてぇ。とか言ってとっとと生まれ変わって来てそうだわ」
いや、自分で言っておいて何だけど、ありそうだな……そうか、バングのおっさん、たぶんもう、また生まれ変わってきてるのか。
「じゃぁな、おっさん。……出来れば……いや、絶対に敵として出会いたくねーな……もし出くわしたら、お手柔らかに頼むわ。またな」
「あれ? もう良いんですか?」
「よく考えたら、バングのおっさん、もう此処に居ねぇわ。とっとと生まれ変わってるよ、きっと」
墓に背を向ける俺に、マリンが問いかけて来たので、思ってたことをそのまま述べた。マリンは「えぇ……まぁ、ヨウスケさんがそう言うなら?」と少し困惑してたが。
まぁ正直、これは俺の希望的なモンも大きいからな。生まれ変わり、あって欲しいじゃん。……いや、異世界転移があったんだ、転生だってきっとあるさ。
「ところでさマリン、南無阿弥陀仏の意味って知ってる?」
「何ですか藪から棒に!? えっと、ごめんなさい、知りません」
頭の良いマリンでも知らないか……。ノゾミなら知ってるかな? 後で聞いてみよう。……で、後で、宿に戻ってから聞いてみたところ。
「『阿弥陀様に全てお任せします』という意味ですわよ。南無は当て字で、本来はナマスという言葉ですわ。意味は帰依。阿弥陀仏様に帰依いたします。という言葉、転じて『阿弥陀仏にオールイン!』ですわね」
と、そういう意味があるのだと教えてくれた。すげぇなノゾミペディア。
でも、なんなんだろう、この子。……いや、ホントに何なんだこの子。なんで最後ギャンブルっぽいんだ。罰当たるの嫌とか言ってるくせに。
「ちなみにアーメンの意味は『そのように、あれ』つまり、『マジそれな!』ですわ」
とかの明日役に立たない無駄知識も教えてくれた。神様、罰当てるなら軽くしておいてやってつかぁさい。根はいい子なんです。たぶん。
あー、あと、仏様、世界は違うかもしれんけど、手が届くなら、バングのおっさんの事、よろしくお願いします。ついでくらいで良いんで、ノゾミの事も。
「会えない?」
「はい。申し訳ありません。ガイアは英雄乗機、誰でも簡単に会うというわけには……」
まぁ南無阿弥陀仏はおいといて、バングの次はガイアである。ひょっとしたら会話も可能かと思って会いに来たら、これだ。
ガイアは、バングの墓がよく見える場所で、駐機姿勢で眠っている。つまり、バングの墓からも良く見えていた。よく見えているのだ、全身見えているのだが、……起動はしていない。
後付けで建てられたであろう屋根の下で、神官やらが手入れしてるのだろう、装甲は傷だらけでも汚れはまるでなく、今にも動き出しそうなのだが……一度大破まで追い込まれたそうだからなぁ。ビーガードコアは無事らしいが、傷くらいは入ったのかもしれん。
あ、ビーガードコアが何かっていうとだな、まぁ、いわゆるビーガードの心臓部、最重要パーツだ。これが無事である限り、外装がいくら破損してもビーガードは修理できる。機体人格とかも、これに収まっているんだけど……休眠が必要なほどのダメージが、コアにもあったのかもしれんなぁ。
……あるいは、あぁやって、次の契約者を待ってるのかもしれないが……俺が求めるまで、ライノも倉庫の奥で埃被って寝てたそうだし。
にしても、会えない、か……どうするかな。俺の正体、バラすか? ライノを呼べば、証明なんて一発だが……うーん、ここなら、今なら、彼らなら……大丈夫、か? そう考えながら、ガイアを見ると……目が、合った?
「……お前か」
というか、喋った!? 起きたのか! 俺たちを止めていた神官は、目を丸くして固まっている。よし。チャンス。
「おうガイア! 久しぶりだな! なんか色々と大変だったそうじゃないか!」
フレンドリーに堂々と、てくてくとガイアに向かって歩いていく。我に返った神官が「あ、ちょっと!?」と言ってるがもう遅い。もう遅いがザマァ展開ではないので、問題ない。きっと。たぶん。
「呼べ……奴を」
だが、その俺の足も、ガイアが眠そうに発した、その言葉で止まる。聞き返すほどボケちゃない。誰を呼べって? と、問い返すほどマヌケじゃない。
そして――あーだこーだ考えるほど、野暮じゃない。
「わかった。来い、シールドライノ」
地面に犀の横顔の紋章が浮かび、輝く。大地が隆起し、割れて、光の柱が立ち、その中から、見慣れた足が現れ、大地を踏みしめた。一歩、また一歩。やがて全身が現れ――シールドライノは現界を果たす。――まぁ、あれだ、ぶっちゃけ、アニメの、ロボット登場シーンバンクだわな。
で、アニメならシールドライノ登場! で済むんだが……街中で呼びたくない理由が、アレなんだよなぁ、隆起して割れた地面……石畳とか普通に壊れるんだよ……狭い場所だと建物とか巻き込むし……いや、緊急時ならしょうがないけどさぁ……。
なんか、神官は「シ、シールドライノ……ほ、本物っ!? で、では、貴方は、貴方様は、英雄ヨウスケ様……!」とか目を白黒させてる。うーむ、「あ、人違いです」……はたぶん、通用しないよなぁ、さて、どうするかなぁ。……ま、とりあえず、その辺は後だ、後。
「久しいな、ガイア」
「シールドライノ……受け取れ」
ライノはちらりと、俺の方を見た。軽くうなずいて、受け取ってやれ、とつぶやく。
「……確かに、受けとった」
「……頼む」
「それは、私に言うべきことではないな」
「ふん、奴なら、頼まな……くても…………………」
「……眠ったか。……ヨウスケ、また後で」
そう言い残し、ライノは淡く発光して、光の粒になり、崩れ去る。そして、光の粒は大地に吸収されて——消えた。
別に、何かのアイテム的なものをやりとりした様子は無かった。って事は、データ転送か。……アロサウルス戦のデータ、なんだろうな。
ちなみにこれ、ローレライだと水系のエフェクト出たりする。……街中で呼ぶならローレライが一番安定してんだよなぁ。
しかし、寝た、か。やっぱダメージ受けてるんだろうな、ビーガードコアにも。
ビーガードコアは、直径10~15cmの球体で意外に小さく、手のひら大のサイズなので片手で持てない事もない物だ。まぁ、普通は両手で大事に扱うが。知らないで片手で掴んで、整備の親父さんにしこたま怒られた事もあったりした。一見ガラス質で脆そうに見えるが、そんなに柔ではない。少なくとも、落としたくらいじゃ傷一つつかないくらいには頑丈な代物だと聞いた。
で、普通は守りやすい位置、つまり操者席の下にレイアウトされるのだが、例外もあるそうで、操者席の後ろ、首筋のあたりに配置されている機体もある、とか聞いたこともある。
……そんなコアにも、ダメージがあるほどの戦闘? どんだけ激しかったんだ、アロサウルス戦は……いやしかし、男くさい空間だったな。
「なにが……なにが、どうなって……」
いまだに困惑してる神官さん。ディックのおっさんは、あちゃーって顔してるし、ダイキは……おぉ、表情崩してない、中々な胆力のようだ。
さぁて、どう収拾つけようかなぁ……。あ、そうだ。
「逃げるのは無しですよ」
マリンがにこにこしながら言った。……読まれてんなぁ。
感想待ってます。
いやね、「今は時代が違うんだよ、感想とか評価とか、ちゃんと欲しいと言わないと、貰えないぞ」って言われたのよ。
マジで? 今ってそうなん?
あぁ、あと、「作者がどんな人間かがわからないと、コメントや感想しにくいんじゃないの」とも言われたんよね。
ふっつーに気の良いおっさんなので、気軽に感想送ってください。
なんかね、反応ゼロって、思ってたよりきついのねw




