第88話 穿門鬼《せんもんき》
是非、ブックマークか評価を。
私にガソリンをください!!
雄叫びを上げながら、直哉は武虎の背を追う。
先行する武虎に向おうとしている穿門鬼目掛け、直哉は一気に加速する。
――身体強化:剛。
全身から魔素が激しく迸り、筋肉の一つ一つが限界を越えて活動する。
地面を蹴った瞬間、直哉の視界が跳ね上がった。
「っ……!」
跳躍。
常人離れした高さで、直哉の身体は宙を舞い、武虎の頭上を越える。
視界の先には、穿門鬼だ。
穿門鬼は、細見で筋肉質の餓鬼だ。
鳥のような逆関節の足で、両手は肘から先が禍々しい剣へと変質している。
――来る。
直哉がそう判断した瞬間、穿門鬼は咆哮と共に両腕の剣を振り上げた。
左右から同時に迫る、斬撃。
空気そのものを切り裂くような速度と質量。
「――甘い!」
空中で、直哉は口角を吊り上げる。
「2本の剣で有利とか思うなよ!
俺はな、
――(イチカ、いくぞ!)
3本だ!!」
(『了解。分体生成展開します』)
次の瞬間、直哉の肩甲骨あたりから魔素でつくられた腕が生えてくる。
腕が、増えた。
合計4本。
直哉の腕は、いつものようにバットを握る。
そしてアバターの2本の腕には、それぞれバール。
四腕の構え。
異形に対して、異形で応える。
「――光よ!!」
叫びと同時に、直哉は律印を起動する。
次の瞬間、眩い光が炸裂した。
バットは、まるでビームサーベルのように白銀の光をまとう。
その様子に、穿門鬼も身構える様子をみせる。
「三・刀・流だ!!」
叫び返しながら、直哉は踏み込んだ。
厨二病補正なのか、いつもよりも動きが軽い。
視界が澄み、敵の挙動がはっきりと見える。
穿門鬼の両腕の剣を、バールで弾く。
金属音が重なり、火花が散る。
「っしゃあ!」
* * *
――違和感。
次の瞬間、穿門鬼の動きが変わった。
さっきの力任せで直線的な斬撃とは違う。
1歩、跳ぶ。
2歩目で半回転し、床を蹴った反動を殺さず、そのまま刃を振り下ろしてくる。
「……っ?」
直哉は反射的にバールを重ねるが、剣は正面から来ない。
斜め上から、舞うように。
まるで――踊っている。
穿門鬼はその相貌に似合わぬ軽やかさで、跳躍と回転を繰り返しながら刃を振るってくる。
一撃ごとに着地点を変え、間合いをずらし、直哉の視線を揺さぶる。
「っ、なんだこいつ……!」
金属音。火花。
バールで弾くが、完全には止めきれない。
次の刃が、想定より一瞬早く、横から迫る。
直哉は半歩遅れてバットを振り上げ、かろうじて受け止めた。
「チッ……リズムが……!」
(『落ち着いて対処してください。
動きは変則的ですが、スピードはそれほどではありません』)
穿門鬼は止まらない。
跳ねる。回る。斬る。
大地を蹴った反動が、そのまま次の攻撃に繋がり、一瞬ごとに位置が変わる。
直哉は一度、深く息を吸った。
「……なるほどな」
直哉は肩の力を抜く。
相手の刃ではなく、重心を見る。
床を蹴る瞬間。
跳躍の頂点。
着地の、ほんの刹那。
「そこだ!」
穿門鬼が跳び上がった瞬間、直哉は一歩、前に出た。
分体生成の片腕が、バールで着地点を叩く。
――ガンッ!
着地の脚がわずかにぶれる。
「もらい!」
直哉はその隙を見逃さない。
跳躍から繋がるはずだった斬撃を、バットで真正面から打ち払う。
白銀の光が弧を描き、剣を弾き飛ばす。
穿門鬼は即座に回転し、体勢を立て直そうとする。
だが――遅い。
「ルミナス・スラッシュ!!」
実際には、ただの全力スイングだ。
しかし、律印が生み出した光のエフェクトが、バットの軌跡になり、まるで空間を引き裂くような演出を加える。
直哉の一撃は、穿門鬼を真正面から叩き抜いた。
――ドンッ!!
鈍く、しかし確かな衝撃音。
穿門鬼の体が宙に浮き、吹き飛ばされる。
* * *
「よっしゃああ!!」
だが、勝利を確信するには早すぎた。
瓦礫を跳ね飛ばしながら、穿門鬼が立ち上がる。
その口から、怒りと憎悪を混ぜたような雄たけびが放たれた。
「――――ッ!!」
次の瞬間、異変が起きる。
両腕だけではない。
穿門鬼の両足が、音を立てて変形を始めた。
骨格が歪み、筋肉が裂け、やがて――
脚部までもが、巨大な剣へと変わる。
「……四刀流、だと?」
直哉が呟いた瞬間、穿門鬼が雄たけびを上げ、逆関節の足を大きく伸ばし、後方へと跳躍した。
「……っ!」
直哉は思わず息を呑む。
距離が一気に開き、緊張の空白が生まれる。
空中で穿門鬼は両腕と両脚を振り回し、剣閃を次々と放つ。
斬撃が弧を描き、直哉へと襲いかかる。
『変幻武器モーニングスターモード展開、砕陣発動』
イチカの声が脳内に響き、モーニングスターが唸りを上げ、赤いオーラが渦を巻く。
「ぬおおお、飛ぶ斬撃、かよ!」
直哉は迫る剣閃にモーニングスターを振り抜く。
刃と棘がぶつかり合い、一瞬拮抗する。
だが、砕陣を纏ったモーニングスターは力強く剣閃を打ち砕き、火花と衝撃音を撒き散らした。
「だっしゃあ!」
直哉は次々と襲いかかる剣閃を迎え撃ち、砕きながら少しずつ慣れていく。
(『次は左下から! その後、右肩上!』)
「わかった!」
直哉は身体をひねり、蜻蛉飛びで軌道を変え、剣閃を紙一重でかわす。
そして、迎え撃つモーニングスターで次の斬撃を粉砕する。
着地した穿門鬼は、緩急をつけて直哉へと迫ってきた。
軽やかに跳躍したかと思えば、強く踏みしめて回転、そして剣閃を織り交ぜる。
その動きは舞踏のように滑らかでありながら、殺意を孕んだ暴風そのものだった。
「……速ぇ!」
直哉はバットで正面の斬撃を弾き、バールを交差させて横からの刃を受け止める。
だが、かわしても次の剣閃が飛んでくる。攻撃の嵐は止まらず、防御を削り続けた。
左右の腕の剣、左右の足の剣。
四肢の刃を器用に、しかし振り回すように叩きつけてくる。
その連撃は暴風の渦に似て、直哉を巻き込み、押し潰そうとする。
「っ……くそ!」
直哉は必死に抵抗し、バットで正面の斬撃を弾き、バールを交差させて横からの刃を受け止める。
だが、かわしても次の剣閃が飛んでくる。攻撃の嵐は止まらず、防御を削り続けた。
(『後ろ、かわした剣閃が戻ってきます!』)
イチカの声が脳内に響く。
直哉はその指示に従い、蜻蛉飛びで軌道を変え、後ろからの斬撃を紙一重でかわす。
剣閃が髪をかすめ、風圧が頬を切った。
「助かった……!」
* * *
避け続ける直哉に対し、穿門鬼の動きは荒々しくなり、苛立ちが攻撃に現れる。
剣閃は乱雑に飛び散り、暴風のように戦場を覆う。
直哉は汗を飛ばしながらも、必死にその嵐を切り裂く。
「くそっ……しつけぇ!」
「ギュォォォオオー!!」
穿門鬼は独楽のようにその場で高速回転を始め、四肢の剣が円を描きながら四方八方へ斬撃を飛ばす。
斬撃の嵐が暴風のように直哉を包み込み、かわしても次の剣閃が飛んでくる。
「……巻き込まれる!」
直哉は必死に防御を続け、バットで弾き、バールで受け止める。
「……負けるかよ!」
直哉は剣閃の嵐を紙一重でかわしながら、敵との距離を詰めていく。
そして、直哉が間合いに入った瞬間――。
不意を突くように、鋭いくちばしが伸び、直哉の顔面を狙った。
「やっぱりそのくちばしに何かあると思ったぜ!」
『時穿つ瞳発動』
イチカの声が脳内に響き、直哉の左目に幾何学模様が浮かび上がる。
世界が粘性を帯び、水中のように鈍く流れ始めた。
穿門鬼のくちばしが突き出される軌道も、時間が遅延したことで鮮明に見える。
直哉は身体をひねり、紙一重で必殺の一撃をかわす。
「――光よぉぉぉぉぉっ!!」
律印が起動し、直哉の武器に白銀の輝きが奔る。
グレートソードモードの刃が光を纏い、白い軌跡が戦場に線を引く。
「これで終わらせる……瞬閃六連撃ッ!!」
分体生成で追加された2本の腕も攻撃に加わり、直哉の4連撃と合わせて、合計6連撃が放たれる。
ズガガガガァァァァァンッ!!
神速の6連撃が穿門鬼を切り裂き、轟音と衝撃波が戦場を揺らす。
斬撃の嵐は途切れ――次の瞬間、穿門鬼は光に包まれて崩れ落ちた。




