【閑話】第13話 崩壊
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帝国の弱体化は、
属国たちにとって“解放の合図”だった。
最初に動いたのはレイヴァン公国。
続いてアズラ王国、グラナート連邦、シルヴァ自治領――
大陸のあらゆる属国が、
次々に帝国への反旗を翻した。
「帝国はもはや我らを守れぬ」
「魔石を奪うだけの存在だ」
「帝国の時代は終わった」
反乱は瞬く間に広がり、
帝国軍は各地で敗北を重ねた。
魔導兵器は動かず、
魔導騎士は力を失い、
魔導兵は魔法を発動できない。
帝国軍は、
もはや“ただの軍隊”に過ぎなかった。
そして属国たちは、
帝国の領土を切り取り、
独立国家として再編されていく。
帝国の地図は、
5年の間に見る影もなく変わった。
* * *
帝都オルティアの朝は、かつてなら魔導灯の柔らかな光に満ちていた。
だが今は違う。
中央大通りの灯りは半分以上が消え、残った灯りも弱々しく瞬いているだけだった。
「……また消えたな」
「昨日までついてたのに。もう街の半分が真っ暗だ」
2人の男が、薄暗い通りを見上げながら肩をすくめる。
「魔石が枯れたって噂、本当なんだろうな」
「噂どころか、魔導炉が止まった工房がいくつもあるらしいぞ」
「じゃあ……魔物が出てきたら?」
「逃げるしかねぇよ。帝国軍はもう守ってくれねぇ」
そんな会話を背に、通りを歩く人々の足取りは重かった。
大通りを抜けると、かつて賑わっていた市場跡が広がる。
店の半分以上が閉まり、残った店も品物はほとんどない。
「おばちゃん、パンは?」
「もう焼けないよ。魔導炉が動かないんだもの」
「じゃあ……肉は?」
「冷蔵庫が止まって全部腐ったよ。ごめんねぇ」
少年はうつむき、母親の袖を握る。
「……ねえ、どうしてこんなことになったの?」
「……さぁね。大人たちが欲張りすぎたんだよ」
母親はそう言いながら、遠くにそびえる中央魔導塔を見つめた。
塔の周囲だけ、空気が揺らいで見える。
市場を抜けると、裏路地に入る。
焚き火を囲む3人の男が、低い声で話していた。
「聞いたか? 南の属国軍が国境を越えたらしい」
「北の連中も動いてるってよ。帝国の領土を切り取る気だ」
「……もう帝国は終わりだな」
「皇帝はどうしてるんだ?」
「病で倒れたって話だ。もう政務どころじゃないらしい」
「じゃあ、誰が国を動かしてるんだよ」
「誰も動かしてねぇよ。上層部は逃げ出したって噂だ」
「逃げた……?」
「俺たちを置いてな」
男たちは苦笑し、そして黙り込んだ。
裏路地の空気は、寒さよりも重苦しさの方が勝っていた。
* * *
帝都オルティア。
かつて魔導文明の中心だったその街は、
今や瓦礫と闇に覆われていた。
魔導灯は消え、
魔導車は動かず、
魔導炉は沈黙し、
魔物が街道を徘徊する。
帝国議会は崩壊し、
皇帝は病に倒れ、
軍務省は機能を失い、
魔導院は混乱に沈んだ。
そして――
ついに帝国は解体された。
属国連合軍が帝都を包囲し、
帝国上層部は全員拘束された。
その中には、
ガルゼン・ローヴァの姿もあった。
* * *
ガルゼンは処刑台に立ち、
痩せた顔に静かな笑みを浮かべた。
「……諸君。
帝国は滅んだ。
魔素は枯れ、魔石は尽き、属国は離反した。
だが――それがどうした?」
市民たちがざわめく。
ガルゼンは淡々と続ける。
「帝国の衰退など、取るに足らん。
我々が目指していたのは“この世界の覇権”ではない。
無限の世界の征服だ。」
処刑官が剣を構えるが、
ガルゼンは気にも留めない。
「転移門は、まだ動いている。
今はひとつの異世界としか繋がっていない。
だが、エルド・フェルミナの門を再現できれば……
好きな世界へ、好きなだけ侵攻できるのだ!」
市民たちは息を呑む。
「無限の資源。
無限の魔素。
無限の領土。
帝国は、いずれ“世界”ではなく“世界群”を支配する存在となるはずだった。」
ガルゼンは静かに笑った。
「そのために必要な魔素の枯渇など、
些末な犠牲にすぎん。」
処刑官が一歩前に出る。
「ガルゼン・ローヴァ、黙れ――」
「私は真実を語っているだけだ。」
ガルゼンは空を見上げた。
「門は……まだ動いている。
龍脈と繋がり、世界の根を掴み、
やがて――新たな世界への道を開く。」
市民たちは震えた。
「……異世界を……侵略するつもりだったのか……?」
「帝国のために……?」
「いや……自分の野望のためだ……」
ガルゼンは最後まで微笑んでいた。
「私は帝国を滅ぼしたのではない。
帝国を“次の段階”へ進めようとしただけだ。
私が死んでも……門は止まらん。
異世界は……いずれ帝国のものとなる。」
剣が振り下ろされる瞬間まで、
ガルゼンは語り続けた。
「世界は……まだ終わらん。
これから始まるのだ!」
そして、言葉は途切れた。
だが、
その狂気に満ちた確信だけは、
帝都の空に深く残り続けた。




