表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
第3層“結” 4層への道

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/130

第84話 地獄門

是非、ブックマークか評価を。

私にガソリンをください!!

昼下がりの草の匂いが、乾いた風にのって流れてくる。

第3層の草原フィールドを、俺たち4人は歩いていた。

前に俺と武虎、少し下がって清閑寺(せいがんじ)姉弟――陽平と真弓が続く。

厳密に決めていないのに、自然とこういう並びになるのは、たぶん性格と得意分野のせいだ。


清閑寺姉弟は、息が合っている。

動きも射程も、互いを補うように噛み合っていて、見ていて安心できる。

この4人なら、――地獄門もクリアできるんじゃないか、そう思えた。


「おーい、神谷。

いい加減、それやめようぜ」

前を行く武虎が肩越しに振り返る。


俺はバットをわざと肩に担ぐ。

カチ。

律印(エフェクター)が淡く光り、闇がバットの表面から零れ落ちる。

「ふはははは、トラよ。そんなに我の闇に飲み込まれるのが怖いのか」


数秒の沈黙。風だけが草を撫でる音。

「……」


「おい、それ何回目だ?」


「いや、だってかっこいいじゃん! この雷とかも――」

言い終わる前に、背後から抑えた声が飛ぶ。


「……敵」

パス、パス――と乾いた発射音が2つ。

真弓の銃口から魔素弾が放たれ、遠くでゴブリンの悲鳴がひとつ、砂に吸い込まれるみたいに掻き消えた。


俺は肩をすくめる。

「ほら、出てくるゴブリン、真弓さんが全部サーチ&デストロイしちゃうじゃん。

こう、手持無沙汰も相まってさ」


「相まってさ、じゃねぇよ」

武虎が短く吐き捨てる。

「そろそろボスエリアだ。気合い入れろ」


「悪い。……そうだな」

咳払いひとつ。

手汗を拭って、バットを握り直す。


* * *


歩いているうちに、空気が変わった。

草の背丈が目に見えて低くなる。


丘を上ると視界が開け――一気に胸が冷える。


前方に、抉り取られたようなくぼ地。その底に、巨大な地獄門が鎮座していた。

門の側、立ち木の影のように並んだ4体――餓鬼四門衆(がき・しもんしゅう)

誰も動かない。

けれど、視線を逸らすことが許されない存在感がある。

挿絵(By みてみん)

無意識に、呼吸が浅くなる。

バットのグリップが、少し硬く感じた。


「――よし。もう一度、復習だ」

武虎が立ち止まり、振り返る。

「前回の話、頼む」


視線を受けた陽平は、わずかに頷いてから口を開く。

「結論から言うと……1体も倒せず、撤退しました」


「ここからでも感じると思うけど、あの4体は全部、魔素使いだ。

主ゴブリンより、はるかに上、かな」


指差す先、黒く焦げたような肌の奴が目に入る。

陽平が続ける。


「あいつが――あの黒く焦げたやつ。

動き出すと全身が燃える。

触っても、殴っても、もちろん殴られても燃える。

それから、耐久がかなり高い。

何度かいい攻撃を当てたけど、ほとんど効いた感じがなかった」


「近づくほど、不利」

真弓が短く添える。


陽平は隣へと指を滑らせた。

「その隣、小さくて両腕が剣のやつ。

とにかく速くて、踊るみたいに攻撃してくる。

力も強いし、広めの剣閃を飛ばしてくる」


「剣閃……かっこいいな」

「神谷、お前、ほんとそういうの好きだよな」


少し軽くなった雰囲気に陽平は笑いながら、

「逆側の、のっぽで細いのは――戦闘が始まるとハリネズミみたいに全身から針を出して、体当たりしてくる。

かわしたと思ったら、そのまま針も飛ばしてくる。

刺さると抜けにくくて、そこから魔素がどんどん漏れて、かなり消費させられたよ」


「うわ、地味に嫌だな……」

思わず顔がしかめっ面になる。


陽平の目が、最後の1体で止まる。

「一番まずいのが、腹が膨れてるやつ。

あいつは前に出ない。

その辺をずっとうろちょろするんだけど、歩いた場所が穢れる。

穢れが溜まると、そこから毒ガスが出続ける」


陽平はその時を思い出したのか、顔を顰めながら、

「最終的に、くぼ地全体が毒で満ちて……退散するしかなかった」


「最優先でやる」

真弓の声は迷いがない。


「うん、あいつは倒さないと、地形が詰む」

陽平が続ける。

「でも、他の3体が邪魔をする」


「身体能力は?」

武虎が腕を組む。


「一番高いのは、両腕が剣のやつだね。

緩急がきつくて、正面からだと剛で捌くのがやっとだった。

黒いのと細長いのは、そこまでじゃなかったかな。

通常の身体強化なら、こっちがやや有利。

ただ――攻撃を当てた時に、きっちりお返しが来る……」


「うーん、厄介だな。……トラ、どう思う?」


武虎は短く考えてから答える。

「できれば近づきたくないのは、黒いのとノッポの奴。

チビと腹デカは近距離でサクッとやりたいな」


「遠距離、陽平はいけるな?」

「うん。それに俺は水が得意だから、黒いのは何とかできると思う」


「じゃあ、私はノッポのね」

真弓が銃身をわずかに上げる。

狙いは既に定まっているみたいだ。


「そしたら、トラ。俺は――剣をやらせてくれよ」


武虎がちらとこちらを見る。

「いいのか? 接近戦は、あいつが一番強いみたいだぜ」


「だからだよ。

それに、毒は……トラなら消せるだろ?」

「まぁな」


武虎はふと思い出したように、地獄門へ視線を送った。

「そういや――ここから攻撃したら、どうなる?」


「動かない間は、バリア。攻撃、全部無効」

真弓は即答する。


俺は反射的に聞き返した。

「……遠距離でも?」

「試した。無効」


「なるほど」

武虎が深く息を吐く。

理不尽、という言葉が喉の奥まで出かかったが、飲み込んだ。


「なんでなんだろうな」

「わからない。ダンジョンの不思議パゥワー」


そこで、一度区切るように武虎が言った。

「よし。一休みしてからいくか!

――神谷、あれ頼む」


「あいよ。何がいい?」

「……アレ?」


俺は頷き、ホルダーからかつ丼を模したストラップを取り出す。


変換装置(カツドン・メーカー)

説明しよう。この装置に魔石を使うと、食べものが出るのだ!」


「おぉ、すごい!」

陽平が素直に身を乗り出す。

「……やるわね」


「じゃあ俺はカレーで」

武虎の即答は迷いがなかった。


「カツドンで!」

陽平は元気がいい。


「おしるこ、ね」


俺は申し訳なさそうに首を振る。

「おしるこは出ない……。カツドン、カレー、親子丼だけなんだ」


「ちっ」

「今度、ヤスにメニュー増やせるか頼んでみるよ」


魔石を装填し、起動。

装置はかすかな唸り声をあげ、ほどなくして、甘辛いタレの匂いとスパイスの香り、卵のやわらかな蒸気が風に混ざった。

湯気に腹が反応する。

緊張で縮んでいた胃が、仕事を思い出したみたいに鳴いた。


「いただきます」


短い食事。

無駄話は少なく、噛む音とスプーンの触れる音だけが続く。


食べ終え、片づける。

バットのバランスをもう一度確かめ、深呼吸――肺が広がる。

視界の色が一段、鮮やかになる。


武虎が前に出た。

陽平が腰に下げた瓢箪に触れ、真弓が安全装置を外す音がした。


「よし――いくぞ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ