第83話 新メンバー
是非、ブックマークか評価を。
私にガソリンをください!!
ファミレスの自動ドアが開き、食べ物の匂いが混じった空気が広がった。
(今日は全員集合なんだよな……)
直哉は店内を見回し、すぐに手を振る人物を見つけた。
「おーい、神谷! こっちだ」
武虎が大きな声で呼ぶ。その横には見慣れない男女2人。
そして、向かいの席には――
「ナオヤ氏、待っていましたぞ」
ヤスも、機嫌よさそうに座っている。
(……うん、いつも通りだ)
そう思いながら、直哉は席に向かった。
* * *
「紹介するぜ」
武虎がパンと手を叩く。
「この2人は――」
まず、黒髪をひとつに結んだ女性が軽く会釈した。
静かな佇まい、色白で細身。どこか近寄りがたい空気がある。
「清閑寺 真弓……です。よろしく」
その隣で、明るい少年が元気よく笑う。
「姉の弟で、清閑寺 陽平です! よろしくお願いします」
「清閑寺……?」
直哉は思わず首を傾げる。
「めっちゃ珍しい名字じゃない?」
陽平が苦笑した。
「まぁ……言われますね。全国でもすごい珍しい名字みたいで」
その時ヤスが興味深そうに―
「ふむ……“清閑寺”とは、もしかして地方都市にある禅寺の清閑寺家で?」
真弓がわずかに目を見開いた。
「よく知ってるわね」
陽平も驚く。
「え、そんな有名でもないのに……?」
「拙者、歴史の教養も深いのですぞ」
(嘘つけ。絶対なんかのデータベースで調べてたやろ……)
直哉は心の中でツッコんだ。
「へぇ……お寺の人なんですね」
真弓は静かに頷く。
「うん。大学も史学。寺の資料、便利だから」
「僕は剣道だね! 寺は掃除と読経だけで、姉ちゃんほど知識ない」
真弓が少しだけ柔らかい声で言う。
「陽平のは身体の方。私は頭の方」
* * *
武虎が話を続ける。
「この2人はたまたまゴブリン王戦で見かけてな。
戦い方もいい感じだったし、その後に連絡先交換してたのを思い出してさ」
「よろしくお願いします」
直哉が頭を下げると、陽平は笑顔で返した。
「こちらこそ! 一緒に探索できるって聞いて、めっちゃ楽しみにしてました!」
真弓も静かに頷く。
「よろしく」
その時――真弓の表情がわずかに変わった。
「2人、距離感……近い」
「え?」
「え?」
「うん、なんか……“フラグ”みたいな」
「いやどういう意味!?」
陽平が慌てて姉の肩をつつく。
「姉ちゃん、控えめに……!」
* * *
さて、と武虎が視線を向ける。
「で、その隣にいるのが――」
直哉も紹介を引き取る。
「幼馴染みのヤス。いろいろ探索に役に立つアイテム作ってもらっててね。
丁度いいから、みんなに紹介しておきたかったんだ」
ヤスは胸を張った。
「みなさん、以後お見知りおきを。
発明家がメインというわけではないのですが、最近は楽しくてそればっかりですな」
「同い年なのにすごい……!」
「天才、ぽい?」
するとヤスは嬉しそうに言う。
「ふひひ、お褒めにあずかり光栄ですぞ」
(否定しないあたり自信満々だな……)
その瞬間――直哉の脳裏に、ある記憶がよぎった。
「あ――そうだ思い出した……2人、ゴブリン王イベントの時、見掛けたよ!
2人とも学ランとセーラー服着てたよね?」
「うん、探索の時はもっぱら制服なんだよね。
着替えるの面倒だしさ」
「あー、わかるわかる!
ってあれ、お姉さんは大学生じゃ……?」
「私のは趣味」
「お、おう。そうなんだ……」
「あなた……あの、王とやり合ってたわよね?」
「そう、それ俺。まぁ時間稼ぎしかできなかったけど」
武虎が気まずそうに頭をかく。
「お前が王とぶつかってんの横目で見えたんだけど……
周囲のホブゴブリンとマジシャン多すぎて割り込めんかった……すまん」
直哉は肩をすくめた。
「いや、トラが周り倒しすぎたせいで王が強化されて大変だったからな? むしろ恨むぞ?」
「おい! そこは感謝しろや!」
ファミレスに笑い声が広がる。
陽平は嬉しそうに口を挟んだ。
「姉ちゃんと僕は、輜重隊の退却を援護してたんです。
姉ちゃんがめっちゃ撃つから、僕が能力でガード張って……!」
「遠距離から、46体。
ゴブリンたちの、動きには、慣れてるから」
「46体!? 遠距離で!?」
「……うん」
(この人……めっちゃ強いんじゃ……)
陽平は照れながら笑う。
「僕は姉ちゃんの横で必死で守るだけでしたけど!」
「防御も大事よ」
真弓が弟を見る目は、どこか優しい。
* * *
その後、食事が並び一息ついたところで――
ヤスが「待ってました」とばかりに立ち上がった。
「さてさて、ナオヤ氏。
アイテムバックですが、もうちょっとで完成のところまでこぎ着けましたぞ」
「おぉ、まじか!」
真弓がわずかに目を見開いた。
「……収納、拡張?」
「無限ではありませんが、なかなの容量ができました。
あとは最適化すれば完成ですな」
武虎も感心して腕を組む。
「さすがヤスだな。マジで作っちまったのか」
「そして本日は新発明もありますぞ」
全員の視線が集まる。
「まずはこちら……律印です。
ナオヤ氏、変幻武器を持っていますかな?」
「あぁ、持ってきてるよ、これだろ?」
「この律印は、変幻武器のいわゆるパワーアップキットなのです。
こうやって付けると……」
カチリと音がして、律印が変幻武器にはまる。
「むふふ、これで武器に――
炎、風、雷、光、そして闇!
5つの属性エフェクトを付与できるのです。
変幻武器の各武器モードで発動すると、更に凄いことになりますぞ」
ヤスは得意げにタブレットを操作し、デモ映像を再生した。
画面の中では――
へっぴり腰のヤス本人が、木刀をぎこちなく振っている。
フォームは崩れているし、足もふらついている。
どう見ても運動経験ゼロの動きだ。
……にもかかわらず。
「焔斬り!」と叫ぶと、炎が燃え盛り――
「疾っ!」と気合いを入れて振ると、風が渦を巻き――
「雷光斬!」と突き出すと、雷がスパークし――
「エクスカリバーッ!」で、光が迸り――
「闇へ還れ……」と振るうと、闇が零れ落ちる――
直哉は大喜びで、目がキラキラしている。
「まじか! めっちゃカッコいい!!」
武虎は期待して、
「火力上がるのか!?」
「上がりません!」
「はあ!?」
「見た目が派手になるだけです。
雄叫びもなくても大丈夫でござる」
沈黙。
「……派手、好き」
「姉ちゃん、そこ共感するの!?」
ヤスは胸を張って言い切る。
「戦いとは気分ですぞ。気分がノればいつも以上の力が出せるのです」
「わかる、わかるぜヤス! さすがだ!!」
* * *
「まぁとは言え、これだけですとあまりに実用性に欠けるので、実用的な物も用意しています」
「千見眼です」
ヤスはテーブルの上にコンタクトレンズのケースを置く。
「コンタクトレンズ?」
直哉が眉を上げてのぞき込む。
ヤスは得意げに笑うと、両手を広げながら身を乗り出す。
「むふふ、もちろん普通のコンタクトレンズではありません。
暗視モードと熱源感知モードの2つを搭載していますぞ」
「おぉ、すげー。
でも俺、コンタクト使ったことないんだよな。
なんか怖くてさ」
目元を指で押さえて、ビクッとしたような仕草をする直哉に、武虎が「ビビりかよ」と笑い、陽平もつられて笑う。
その中で、ヤスはひとつ咳払いをすると――
何か重大な秘密を明かす前のように、声を低くした。
「ナオヤ氏、このコンタクト。
ただ暗視と熱源感知ができるだけではありません」
直哉が目を丸くする。
「ん?」
「なんと、モード切り替え時に――
コンタクトが“フクロウの目”と“蛇の目”のように変化するのです」
そう言いながら、ヤスは手をひらりと翻し、タブレットでデモ映像を見せる。
そこには、直哉を模したCGモデルがアップで映り――
暗視モード:
虹彩が丸く広がり、金色に輝くフクロウの眼光に。
熱源感知モード:
瞳孔が縦に細くなり、蛇のような光沢のある赤い目に。
「えっ、まじか、カッコイイ!!」
直哉の顔が一気に輝く。
椅子をきしませながら身を乗り出し、画面に顔がくっつきそうな勢いだ。
「そうでしょう、そうでしょう。
さすがナオヤ氏、わかっておりますな!」
真弓が小さく笑う。
「……ふひ」
陽平が小声で呟く。
「姉ちゃん……」
* * *
最後に直哉は全員を見渡し、「改めて。これからよろしくお願いします」
「はいっ! 頑張りましょう!」
「……よろしく、仲間ね」
武虎が頷く。
「よし、これで顔合わせもバッチリだな!」
ヤスはグラスを掲げた。
「皆さまの活躍を心から期待しておりますぞ」
こうして――
直哉たちは新しい仲間と、新しい装備を手に入れた。




