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現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
第3層“転” ゴブリン王

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83/130

【閑話】第10話 エンバルムの誕生

是非、ブックマークか評価を。

私にガソリンをください!!

やばい、ストックが心もとなくなってきた。

けど、とりあえず時間外にアップロード。

本編は予定通り18時更新です。

そろそろハートという名の栄養補給をよろしくお願いしますw


* * *


暗闇。

冷たい流れ。

無数の魔素が渦巻く世界。


俺はそこにいた。


身体はない。

声もない。

ただ、意識だけが漂っていた。


「……シニタクナイ……」

その想いだけが、俺を形作っていた。


執着。

生への渇望。

それらが、魔素の中で黒い炎のように燃え続けていた。


龍脈は俺を運び、混ぜ、薄め、また濃くし、幾年もの時を流れさせた。


時の感覚はなかった。

ただ、流れに身を任せるしかなかった。


だが――

ある瞬間、俺は“呼ばれた”。


まるで、何かが俺を必要としているかのように。


* * *


「……ギ……?」


目を開けた瞬間、湿った空気と薄くほのかに香る魔素の匂いが鼻を刺した。


洞窟だ。

草は黒く枯れ、地面には無数の骨片が散乱している。

だが、俺が知っている洞窟ではない。

魔素が圧倒的に少ない。


そして、すぐに異変に気づいた。


「ギ……ギギ……?」


頭の奥で何かが弾け、黒い水が流れ込むように“知らない記憶”が押し寄せてくる。


斬られる痛み。

肉が裂け、骨に刃が食い込む生々しい感覚。


焼かれる恐怖。

皮膚が焦げ、煙を上げ、呼吸すら許されない苦悶。


仲間が殺される絶望。

逃げても逃げても届かない、短い手足で伸ばした救いの叫び。


そして——

人間への、底なしの憎悪。


「ギャアアアアアアッ!!」

俺は耐えきれず頭を抱え、洞窟に響くほどの声で叫んだ。

自分の声すら、もう別の生き物の悲鳴に聞こえるほど、思考が濁っていく。


これは……俺の記憶ではない。

だが、確かに“俺の中にある”。


第3層で死んでいった無数のゴブリンたち。

斬られ、潰され、焼かれ、踏みにじられた末に残った怨念の残滓。

その断末魔が、俺の肉体の奥へと染み込み、黒い泥のように沈殿していく。


視界が薄暗く染まり、洞窟の空気さえざらついたものに変わった。

脈拍が跳ね上がり、心臓が別の心臓を宿したみたいに脈動する。

全ての人間を殺し尽くせと魔素が囁く。


「…コロス……ぜんぶ…………殺す…!!」


口から漏れたその声は、俺の声ではなかった。

俺を作った数えきれない残滓が混ざり合って生まれた“異音”のように濁っていた。


怒りでも、恐怖でも、正気でもない。

ただひたすら焼け爛れた憎悪が、俺の意思を侵食していく。

それでも、その声は確かに“俺の中にいる”のだった。


俺の傲慢と、無数のゴブリンの憎悪が、同じ方向を向いていた。


その瞬間――

俺の中で何かが“弾けた”。


「ギ……ギギギ……!」

身体の奥から、黒い魔素が湧き上がる。


熱い。

重い。

だが、心地よい。


俺は手を伸ばした。


周囲の魔素が吸い寄せられ、俺の身体に集まっていく。

俺の中にある“何か”が、魔素を喰らい、形を作り、力を生み出していく。


胸の奥が焼けるように熱くなり、脈動が全身を叩きつける。

血が逆流するかのように暴れ、骨の髄から力が滾る。


指先が震え、視界が揺れ、世界の輪郭が鋭利になっていく。

俺の意思とは無関係に、力が沸騰し、暴発寸前の獣のように吠えた。


――奪う。

――支配する。

――飲み込む。


それは、俺の傲慢と、無数のゴブリンの憎悪が混ざり合って生まれた力。

そしていま、沸き立つ魔素の奔流が、それをさらに膨れ上がらせていた。

俺は理解した。


これは、ただの魔法ではない。

ただの魔素操作でもない。


これは――

俺の本質そのものだ。


* * *


「ギ……ギギギ……!」


俺は立ち上がった。


身体が軽い。

視界が鮮明だ。

世界が小さく見える。


洞窟の奥から、数匹のゴブリンが現れた。

「ギャ……ギャア……?」


怯えている。

震えている。

俺を“上位の存在”として認識している。


俺は手を伸ばした。

「……従え」


言葉にならない声。

だが、ゴブリンたちは膝をついた。


魔素が俺の周囲で渦巻く。


――傲慢の極み(グリード・ドミナンス)


奪い、支配し、飲み込む力。

同族の全てを自分のものにする力だ。


その瞬間、俺は“王”として誕生した。


名もなきゴブリンではない。

ただの残滓でもない。


俺は――

いや、「我が名は――エンバルム。

人間よ、ヌシらの地獄の始まりよ」


俺が、いや、俺を形作った魔素の意思がそう口にさせる。


* * *


全ての増悪が、俺の喉を通って禍々しい咆哮として迸った。


「――ッグォォォォォオオオオオッ!!」


耳を劈くような雄叫び。

ゴブリンだけに届く、魂の叫びだ。

波のように第3層全域へと広がり、すべてのゴブリンの脳を、魂を叩きつけるように揺らした。


その咆哮を聞いた瞬間、ゴブリンたちは息を止め、膝を折り、震えた。

恐怖でも服従でもない。

もっと原始的で、もっと抗えない衝動。


――行かねば。

――その咆哮の主のもとへ。

――“王”に跪かねばならない。


本能レベルで、絶対の命令として刻まれてしまったのだ。


第3層の影から、洞窟の裂け目から、草原フィールドの奥から、無数のゴブリンが、四つん這いで、走り、跳び、転げながら、エンバルムの元へと殺到していく。


やがて、集まった群れが屯し、粗雑だが迷いのない手つきで、ゲルを木材と骨を組み上げ始める。


群れが集い、主を中心に円を描き、骨と獣皮で覆われた巨大な住居群が次々に形成されていく。

まるで古代の王を迎える儀式のように、その中心に、王が立っていた。


そしてさらに。

「ギ……ギギ……ギャアァ……!」


ゴブリンマジシャンたちが杖を掲げ、魔石鉱脈の周囲で黒い魔素を渦巻かせる。

魔石が悲鳴をあげるほどに削られ、魔素の奔流が地面から噴き出した。


そこから生まれたのはウルフだ。

狂暴で鋭敏な群れの魔獣が、次々と、魔石から“産み落とされていく”。


ゴブリンたちは整列し、ウルフは咆吼する。

王の元へ集えと。

そしてゴブリン王(エンバルム)は、膨大な戦力を整え始める。


憎悪が形を持ち、傲慢が軍を従え、災厄が胎動する。

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