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現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
第3層“転” ゴブリン王

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第73話 ゴブリン王討伐 ― 戦略会議

是非、ブックマークか評価を。

私にガソリンをください!!

「では、当日の作戦と部隊編成について説明します」


壇上の職員がそう告げると、スクリーンの映像が切り替わった。

先ほどまでのドローン映像ではなく、今度は簡易的な地図と図解だ。


草原フィールドの俯瞰図。

第3層入口から、ゴブリンのゲル集落までのルートが太い線で示されている。


「まず、前提としてお伝えします」


職員はマイクを握り直し、会場を見渡した。


「今までのゴブリン王との戦いでは、どのような地形でもゴブリン王は戦力を小出しにする戦いを行っています。

そのため、今回の戦いでも、そのような行動を取ることが予想されます。

戦闘を有利に進めるため、こちらから仕掛ける形で、3回から5回の大規模戦闘を発生させることを考えています」


ざわ、と小さな反応が起きる。

驚きというより、「やっぱりそうか」という空気に近い。


「敵は約6,000体。こちらは探索者約300名、魔素能力者12名。

単純な戦力比だけで言えば、皆さん1人あたり20体以上のゴブリンを倒せる実力があります。

ですので――戦力的には、こちらが非常に優勢です」


職員はうなずき、スクリーンの地図を指し示した。


「問題は、戦い方です。

敵は草原にゲルを展開し、騎兵戦力を多数保有しています。

こちらがまとまって動けば、敵も大軍でぶつかってくるでしょう。

そうなれば、いくら皆さんが強くても、被害は避けられません」


スクリーンに、新たな図が表示される。

円形に広がるゲル集落、その周囲を取り巻くように矢印が描かれていた。


「そこで、今回の作戦の基本方針は――」


一拍置いて、職員ははっきりと言った。

「分散して戦い、各個撃破する。

敵の大軍を、こちらの都合のいい規模にまで“削ってから”王を叩きます」


「各個撃破、ね……」

「まあ、正面から6,000体と殴り合うバカはいないわな」

前列のベテラン探索者たちが、納得したようにうなずく。


(分散して戦うなら、こっちが有利……)

直哉は、さっきの説明を思い出す。


(『はい。探索者は少人数での戦闘に慣れており、連携も柔軟です。

逆に、ゴブリンは規模が大きくなるほど、統制が難しくなります』)

(つまり、バラしてしまえば、ただの数の多い雑魚集団ってことか)


「作戦の全体像を説明します」


「まず、第3層入口からゴブリンのゲルまでは、約1日の距離があります。

ゴブリン王討伐は、長期戦になる可能性を前提とします。

物資はダンジョン課がバイクと荷台で運搬し、皆さんには戦闘に集中していただきます」


「物資運搬は、職員がやるのか」

「バイク部隊か。去年よりは楽そうだな」

「いや、長期戦って言ったぞ。楽じゃねえだろ」

小さな笑いと、現実的なため息が混じる。


「第1段階。

まず、偵察と前哨戦です」


スクリーンに、いくつかの矢印が追加される。

入口からゲル集落に向かって伸びるルートの途中に、丸印がいくつも描かれていた。


「探索者の皆さんには、複数の小隊に分かれて進軍していただきます。

1小隊あたり、だいたい25名。

12部隊編成し、それぞれに魔素能力者の方に入っていただきます。

各部隊は時間差をつけて草原に展開してください」


「25人ぐらいか。

6から7パーティーぐらいだな」

「その規模なら、ゴブリン1,000体くらいまでなら、なんとかなるか」

「いや、1,000体はキツいだろ」

そんな声があちこちから聞こえる。


職員は続けた。


「先ほども申し上げた通り、一度の戦闘で想定している敵の規模は、1,500体前後です。

300名で6,000体と一度に戦うのではなく、

300名対1,500体の戦いを、3~5回に分けて行うイメージを持ってください」


(300名対1500体を、何回も……)

直哉は、頭の中で数字を並べる。


(『1回の戦闘で、1人あたり平均4~5体倒せば、十分に成立する計算です』)

(それなら、確かに現実的だな)


「第1段階では、敵の外縁部を削ります。

ゲルから離れた場所で哨戒している部隊、狩りに出ている小規模な群れ、

あるいは、ウルフを連れた騎兵の1部隊などを、こちらから狙って叩きます」


スクリーンに、ゲルから少し離れた位置に小さなゴブリンのアイコンが表示され、それに向かって矢印が伸びる。


「この段階では、決してゲル本体には近づかないでください。

敵の本隊を刺激しすぎると、こちらの準備が整う前に大軍で押し寄せてきます」


「つまり、釣りすぎるなってことか」

「外側から、じわじわ削る感じだな」


「そうです」

職員はうなずいた。


「敵を一つの塊として相手にするのではなく、

複数の小さな塊に分けて、それぞれを確実に潰していく。

これが、今回の基本戦略です」


* * *


「第2段階。

敵の戦力がある程度削れた段階で、本隊をゲル近くまで進めます」


地図上で、第3層入口からゲルの手前まで、太い矢印が伸びる。


「ここで重要になるのが、陣地構築と補給線の確保です。

草原は見通しが良い反面、遮蔽物が少なく、防御に向きません。

そこで、皆さんには――」


スクリーンに、新たな図が表示される。

簡易バリケード、土嚢のアイコンが並ぶ。


「半固定陣地を、段階的に構築していただきます」


「陣地?」

「ダンジョンで陣地戦って、あんまり聞かないな」

「去年は洞窟だったからな。

あれはあれで、通路を塞いだりしてたけど」


職員は説明を続ける。


「歴史上、草原で騎兵を相手にする場合、歩兵側は“止まる場所”を用意することが重要とされてきました。

例えば、百年戦争におけるアジャンクールの戦いでは、イングランド軍が長弓兵と歩兵を泥濘地に配置し、フランス騎兵の突撃を無効化しました」


「アジャンクールって、あれか。

騎士が泥にはまってボコられたやつ」


「そうです。

今回、皆さんに泥沼を作ってくれとは言いませんが――」

会場に、少し笑いが起きる。


「バイク部隊が運ぶ資材と、皆さんの力を使って、“ゴブリン騎兵が突撃しづらい地形”を人工的に作り出します」

スクリーンに、バイクと荷台のアイコンが表示される。

その周囲に、土嚢や簡易柵、杭のイラストが並ぶ。


「なるほど……」

「真正面から突っ込ませないってことか」


「そうです。

騎兵は、速度と質量が武器です。

それを活かせない状況に追い込めば、ただの“乗り物に乗ったゴブリン”に過ぎません」


(……そういう発想か)

直哉は、スクリーンを見つめながら思う。


「魔素能力者の皆さんには、敵に魔素能力者がいた場合、積極的に倒していただきます」

スクリーンに、「魔素班」と書かれた枠が表示される。


* * *


「第3段階。

敵の戦力が十分に削れ、こちらの陣地と補給線が安定した段階で――」


スクリーンに、赤い丸が表示される。

ゲル集落の中心、豪華なゲルの位置だ。


「ゴブリン王のいるゲルを目標とした、決戦を行います」


会場の空気が、少しだけ重くなる。

さっきまでの戦術的な話とは違う、もっと原始的な「ボス戦」の匂いが漂う。


「決戦部隊は、精鋭約100名+魔素能力者全員を予定しています。

残りの探索者の方々には、

- 周辺のゴブリンの足止め

- 補給線と陣地の防衛

を担当していただきます」


「100人で王を叩くのか」

「去年よりは多いな」

「でも、その分、周りの雑魚も多いだろうな」


職員はうなずいた。


「去年の洞窟型と違い、今回は王の間に至るまでの“一本道”が存在しません。

ゲルの配置も、敵の動きも、“平面上での多方向戦闘”になります」


スクリーンに、ゲル集落の簡易図が表示される。

中心の王のゲル、その周囲に側近のゲル、さらに外側に一般ゴブリンのゲルが並ぶ。


「そこで、決戦部隊は――

“槍の穂先”のような錐行陣形で突入します」


中央に細長い三角形が描かれ、その両側に小さな三角形が並ぶ。


「真ん中が王の直撃コースってことか」

「左右が、その護衛と側面の雑魚処理担当だな」


「もちろん、これはあくまで“理想形”です。

実際の戦場では、敵の動きや予想外の要素によって、陣形は崩れ、予定通りには進まないでしょう」


職員は、そこで一度言葉を切った。


「だからこそ――

皆さん一人ひとりの判断と連携が、何より重要になります」


会場の空気が、少しだけ引き締まる。


「繰り返しますが、戦力的には、こちらが有利です。

皆さんの実力と、これまでの戦闘データから見て、6,000体という数字は、決して不可能な相手ではありません」


スクリーンに、「探索者1人あたり:20体以上討伐可能」という文字が表示される。


「ただし――」

職員の声が、少しだけ低くなる。

「油断すれば、普通に負けます」


一瞬、笑いが起きかけて、止まった。

冗談ではないと、全員が理解したからだ。


「去年の作戦でも、

- 連携ミス

- 過信

- 疲労の蓄積

などが原因で、本来なら避けられたはずの負傷や撤退が発生しました」


スクリーンに、去年の戦闘ログの一部が表示される。

「連絡途絶」「孤立」「包囲」といった文字が並ぶ。


「今回は、

- 小隊単位での行動徹底

- 撤退ラインの明確化

など、運用面でも改善を図っています」


(撤退ライン……)

(『一定以上の損耗が発生した場合、

その小隊は“必ず下がる”というルールです。

これを徹底しないと、局所的な全滅が起こります』)

(なるほど……)


* * *


「最後に、皆さんにお願いがあります」


職員はマイクから少し口を離し、自分の言葉を選ぶように、ゆっくりと話し始めた。


「これは、毎年恒例のイベントです。

ゴブリン王討伐という、大きな“稼ぎ場”であり、皆さんにとっては、腕を試す機会でもあります」


会場のあちこちで、わずかな笑いと期待の気配が混じる。


「歴史上、数で勝っていながら敗北した軍隊は、いくらでもあります。

逆に、数で劣りながら勝利した例も、いくらでもあります」


「今回の戦いが、どちらの例になるかは、これからの2週間と、当日の皆さんの動き次第です」


職員は、深く一礼した。


「以上が、現時点での作戦概要です。

この後、各小隊ごとの編成と、担当エリア、役割分担について、個別に説明を行います」


照明が少し明るくなり、ざわめきが戻ってくる。


「小隊編成表は、ロビーとオンラインで確認できます。

自分の名前と所属小隊を必ず確認し、後ほど行われる小隊ごとの打ち合わせに参加してください」


マイクが切られ、壇上の職員たちが入れ替わる。

別の職員が、編成表の説明を始める準備をしている。


(……いよいよ、って感じだな)

直哉は、背もたれから体を起こした。


(『直哉の名前も、編成表に載っているはずです』)

(だよな。どこに入れられるんだろ)


周囲では、探索者たちが立ち上がり始めていた。

友人同士で集まる者、スマホを取り出して編成表を確認する者、

黙ってロビーへ向かう者。


「おい、見たか? 俺ら、前衛小隊だってよ」

「マジかよ。

どうせなら、王の突入班がよかったな」

「いやいや、去年は王の突入部隊が貧乏くじ引いたらしいぜ。

外側でウルフ狩ってるほうが、まだマシだ」


そんな会話が、あちこちから聞こえてくる。


直哉も、スマホを取り出した。 ダンジョン課からの通知が来ている。 「ゴブリン王討伐イベント:小隊編成のお知らせ」。


(どこだ……)

画面をスクロールしながら、自分の名前を探す。


(『ありました。“第7小隊・前衛班”です』)

(第7小隊……前衛か)

胸の奥が、少しだけ熱くなる。


「お、いたいた。

お前、第7小隊だろ?」


声をかけられて振り向くと、見慣れた顔が立っていた。


「……あ、どうも」

「同じ小隊だ。よろしくな」

にやりと笑うその男は、どこかで見たことのある、砦戦の参加者だった。


(……ああ、あの時の)

(『顔認識一致。砦戦で同じ戦場にいた探索者です』)

(やっぱりか)


「じゃあ、このあと第7小隊のブリーフィングがあるからよ。

置いてかれんなよ?」

「うっす!」

直哉は、思わず大きな声で返事をしていた。


講堂の出口に向かう人の流れに混ざりながら、俺はもう一度だけ、スクリーンに目を向けた。

そこには、「ゴブリン王討伐作戦」と大きく表示され、その下に、「開始まで残り13日」とカウントダウンが表示されていた。

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