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現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
奪われた龍脈

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第237話 捨て身の一手

是非、ブックマークか評価を。

私にガソリンをください!!

オクタヴィアの右腕がキリキリと音を立てて折りたたまれる。


「みんな、気をつけろ、衝撃波がくるぞ!」


「毎度同じじゃつまらない、ねえそうでしょう?」

オクタヴィアは衝撃波の迎撃にそなえた、直哉の光輝く左目を見ながら言う。


「いったい何のこと――」


前に突き出した右手の肘部分を、穢れた魂に塗れた左腕で掴む。

すると、魂がうぞうぞを動き、右腕に移っていき、ついには右腕を覆い隠す。


「うふふふ、止められるかしらね。

怨濤スクリーム!!」


ピチュンッ――


右腕を覆っていた黒い塊が、内側から弾けるように波打つ。

甲殻の隙間から、瘴気混じりの衝撃波がヘドロごと押し出された。


ウァァァ……オオオオオオオッ――


紫と黒が渦を巻いた奔流が、呻き声そのものとなって迫ってくる。

表面では無数の魂が絡み合ったまま呻き、啜り泣くような叫喚が波の輪郭ごと震わせていた。

通り過ぎた床が、じゅわりと嫌な音を立てて溶けていく。


直哉は奥歯を噛み締め、意識を鋭く研ぎ澄ませた。


(『3、2、1――今です!』)

時穿つ瞳(クロノス・ハック)・ゼロ!」


識界が広がり、衝撃波が空中で凍りついたように止まる。

だが、それだけでは終わらなかった。

衝撃波は霧散したが、絡みついていた塊は未練がましく蠢き、次々とまるで散弾のように弾け飛んだ。


「なんだと……!」

椎名が息を呑む。

衝撃波の勢いそのままに、粘りつく魂の破片が四方八方へ飛び散り、迫ってくる。


力は水の如し(ブレイク)……ッ!」


椎名が識界しきかいを大きく広げ、飛び散る欠片ひとつひとつのベクトルを、休む間もなく逸らし続ける。

1点を弾くだけならまだしも、同時に10以上――こめかみに血管が浮き、膝が崩れる。


「くっ……!」


最後の一片を、椎名は地面へ叩き落とすようにして逸らしきる。

そのまま片膝をつきかけ、武虎が肩で支えた。


「大丈夫か!?」

「……私よりオクタヴィアを!!」


膝に手をついた椎名を庇うように、真弓が翼界(よくかい)で割り込んで砕陣弾を連射する。

だが盾になれたのは数瞬だけだった。

ゴキブリ脚の一本が地を蹴って跳躍し、宙を飛ぶ真弓めがけて突き出される。


「っ――ちょ」


躱しきれず、脇を掠めた衝撃で真弓の体が石畳を転がった。

陽平が駆け寄って助け起こすが、その隙に武虎の背中へ巨人の腕が振り下ろされる。


「うおっ……!」


とっさに纏った断裂猛襲(ブレイクアサルト)の赤いオーラが、巨人の腕の表面を抉るように消し飛ばす。

それでも消しきれなかった質量が、武虎の体ごと吹き飛ばした。


1人が倒れれば、次の1人にしわ寄せが行く。

均衡は、じわじわと崩れ始めていた。


「うふふふふ、いつまで持つのかしらね」


オクタヴィアが、涼しい顔でこちらを見下ろす。

先ほどの猛攻が嘘のように、傷らしい傷が見当たらない。

周囲を漂う4つの封印核が、絶えず紫の光を明滅させ、細い糸のように魔素を送り続けているせいだ。


「負けてたまるかよ……ッ!」


武虎が吼えると同時に、赤い獣のオーラが全身を包み込む。

拳にも脚にも、触れた端から消し飛ばす断裂猛襲(ブレイクアサルト)の輝きが纏わりついていた。


「あら、まだ来るの?」


オクタヴィアが嗤いながら、巨人の両腕と6本のゴキブリ脚を同時に振るう。

壁のような質量と、槍のような脚が四方から殺到した。


「――そんなもん、当たるかよ!」


武虎が蜻蛉飛び(フリップ・ターン)で間合いを外し、離れたと思った次の瞬間には懐へ潜り込む。

赤いオーラを纏った拳が、鱗を消し飛ばす。


「しつこい、わねぇ……ッ!」


「今度はこっちだ!」

直哉が反対側から斬り込み、巨人の腕を蜻蛉飛び(フリップ・ターン)で掻い潜る。


「援護します!」

陽平の難陀(なんだ)がゴキブリ脚の一本を薙ぎ払い、体勢を崩す。


「キモ筋肉(マッチョ)虫が、余所見してんじゃないわよ!!」

真弓が翼界(よくかい)から砕陣弾を連射し、別角度から鱗を削る。


「そこ……ッ!」


椎名は1歩離れた位置に構えたまま、自らも隙を見て1撃を差し込む。

だがそれ以上に、力は水の如し(ブレイク)で自身と2人へ向かう致命の一撃だけを絶えず逸らし続けていた。


武虎、直哉、そして椎名自身――接近戦を仕掛ける3人のうち、誰か1人でも倒れれば、それで終わりだった。


「トラ、右だ!」

「おうっ、わかってる!」


武虎が半歩だけ逸れた軌道で拳を叩き込む。

竜の鱗が弾け飛ぶが、瞬きの間に新しい鱗が盛り上がって傷を塞ぐ。


「陽平っ、援護!」

「はい……!」


難陀(なんだ)が地を這い、ゴキブリ脚を薙ぐ。

体勢を崩したオクタヴィアへ、武虎の拳が唸りを上げて突き刺さった。


「そこだ!!」


体勢が崩れた一瞬を逃さず、直哉が地を蹴った。

狙うは鱗でも本体でもない――オクタヴィアと封印核を結ぶ、糸のように細い魔素のラインだ。

振り抜いたバットの先端が、その一線を正確に断ち切ろうと食い込む。


ズバンッ――


その瞬間だった。


紫の光が、ふっと色を変えた。

明滅のリズムが乱れ、一拍だけ、光そのものが静止する。


(『今の信号……』)


イチカの声が、戸惑っているようだった。

解析が言葉に追いついていないような、珍しい感じだ。


「イチカ?」


「……うろちょろ、うろちょろと、鬱陶しいわ!」


オクタヴィアが苛立ちを滲ませ、穢れた魂に塗れた左腕を大きく振るう。

黒く粘ついた魂が弧を描くように弾け飛び、辺り一帯へばら撒かれた。


「散れッ!!」


直哉の声と同時に、5人が四方へ飛び退く。

避けきれなかった魂の欠片が石畳を叩き、じゅわりと嫌な音を立てて溶かしていった。


(『直哉、封印核の波形が、一瞬だけ変わりました。

あれは……意思の残滓が、反応した証拠です』)


「意思って……つまり?」

(『SUシリーズの、封印核の封印を解けるかもしれません。

……封印さえ解ければ、彼らがオクタヴィアに従うことは、もうないはずです』)


「何がなんだか、よくわからないけど、やれるのかイチカ?」

(『はい、お任せください』)


「わかった、頼む!」

(『分体生成(アバター)!』)


直哉の隣に、もう一人の直哉が現れる。

輪郭が淡く発光し、瞳の奥だけが違う色をしていた。


「みんな、俺に考えがある!

もう一度だ、次こそ奴を追いつめる!!」


* * *


「行くぞ、俺はやれるやれるんだぁ……!」


陽平が腰の壺を強く握り込み、底に残った魔素まで絞り出すように水の精霊へ流し込む。

水操(ミズノ・シラベ)の水色の光に、じわりと赤黒い脈が這い上がっていく。


精霊の目に赤い光が灯り、陽平自身の瞳にも赤みが差す。

「うぉぉぉ、滾るぜぇぇ!!」


「行くぞ、みんな!!」


直哉の掛け声に、5人の顔つきが変わる。

武虎が断裂猛襲(ブレイクアサルト)の拳を構え、地を蹴ってオクタヴィアへ突っ込む。

真弓が翼界(よくかい)で舞い上がりながら砕陣弾に狙いを定め、赤く染まった陽平の難陀(なんだ)がオクタヴィアめがけて奔り出す。

椎名も力は水の如し(ブレイク)を放つべく意識を研ぎ澄ませ、後を追うように駆けた。


そんな5人から1歩後についていくように、直哉(アバター)も地を蹴り、蜻蛉飛び(フリップ・ターン)で宙を跳ぶ。


「うふふ、いいわぁ、あなたたちのその諦めない目。

ぽっきりと圧し折って、絶望に染めてあ・げ・る」


言葉と同時に、オクタヴィアの巨体からどす黒い魔素が噴き上がった。

竜の鱗の下、血管のような紋様が紫に発光し、輪郭そのものが一回り膨れ上がる。


「もっと、もっと来なさいよぉ!」

その咆哮に呼応するように、周囲を漂う4つの封印核が一斉に輝きを増した。

紫の光が糸を超えて太い帯となり、オクタヴィアの巨体へ雪崩れ込んでいく。


「みんな怯むなッ!!」

直哉の声に、6人が同時に踏み込んだ。


「オラオラオラァッ!!」

武虎の赤いオーラを纏った拳が、唸りを上げて竜の鱗へ突き刺さる。

着弾のたびに鱗が乾いた音を立てて弾け飛び、休む間もなく次の拳が叩き込まれた。


「くそが、呆れるぐらい頑丈ね!」

真弓は宙で身を翻しながら砕陣弾を連射する。

着弾のたびに爆炎が弾け、巨体の隙という隙へ撃ち込まれていった。


赤く染まった陽平の難陀(なんだ)が、意思を持つ鞭のようにしなる。

ゴキブリ脚を次々と絡め取っては、力任せに引き千切っていった。


椎名は力は水の如し(ブレイク)で研ぎ澄ませた一撃を、巨腕の継ぎ目めがけて放つ。

狙い違わぬその一打に、オクタヴィアの巨体から軋むような悲鳴が漏れた。


「ぐぅぅぅ、往生際が悪い、わねぇ!!」

苛立ちを滲ませたオクタヴィアが、巨人の両腕と残ったゴキブリ脚を同時に振るう。

武虎が拳で受け止め、真弓が宙で身を捻って躱す。

陽平の難陀(なんだ)が搦め捕られかけた脚を強引に引き剥がし、椎名が力は水の如し(ブレイク)で軌道をわずかに逸らした。


かすった衝撃だけで、4人の体に浅い傷が刻まれる。

それでも、決定打には遠く及ばなかった。


「しぶといわね……!」

苛立ったオクタヴィアの視線が、ふと止まる。

その先に映ったのは――一歩遅れて追いすがる、直哉(アバター)だった。


「うふふ、まずは1匹ッ!!」

嗤いとともに、巨人の腕が唸りを上げ、直哉(アバター)へ向けて振り下ろされた。


「うぉぉぉぉ!!」

直哉(アバター)は、あえてバットを構え、真正面からその一撃を迎え撃った。

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