↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
奪われた龍脈

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

282/297

第236話 合身

是非、ブックマークか評価を。

私にガソリンをください!!

「見せてあげる」


オクタヴィアが囁くように言うと、ブーメランパンツの脇に指をかけた。

躊躇なく引き抜かれたのは、4つの封印核だ。


「ちょ、待て、どこから出した!?」

直哉が思わず声を裏返す。


「パンツからって、うそでしょ……」

真弓が半歩後ずさり、ジト目を向けた。


「つーか、しまう場所そこしかねえのかよ……」


「うふふ、乙女の秘密よ」


オクタヴィアが悪びれもせず、掌の上で封印核をあやすように弄ぶ。

掌からフワリと浮き上がったそれは、脈打つたびに紫がかった光を明滅させていた。


「……いやいやいや、乙女ってさぁ」

陽平が半笑いで呟いたが、誰も答えなかった。


「調整が間に合って、本当によかったわ。

これを見せるのは――あなたたちが、は・じ・め・て・よ」


言葉に合わせ、4つの封印核が等間隔にオクタヴィアの周囲へ浮かぶ。


「な、なんの真似だ?」

武虎が拳を構え直し、距離を測った。


オクタヴィアがくすりと肩を揺らす。

「さあ、ショータイムよ」


彼女が目を閉じ、両手を胸の前で合わせた。

浮遊していた4つの封印核が、示し合わせたようにゆっくりと軌道を変える。

そのままオクタヴィアとアマルガムを結ぶ位置で、ぴたりと静止した。


超越合身(トランス・アマルガム)


囁くような呟きとともに、4つの封印核が同時に輝きを増した。

表面に亀裂が走る。


ドクン――


これまでの比ではない量の魔素が、亀裂から溢れ出した。

紫と黒が混ざり合った瘴気じみたそれが、渦を巻きながら奔流となってオクタヴィアとアマルガムの間へ注ぎ込まれていく。


「うっ……」


陽平が思わず腕で顔を庇う。

肌を刺すような圧に、5人の足が自然と後ろへ滑った。

焼け焦げたような、それでいて生臭い匂いが鼻を突く。


パキパキッ――


アマルガムの継ぎ目という継ぎ目が軋む。

そして体が、べりべりと剥がれていく。

次々と分かれ、十数もの肉片となった。


肉片は、オクタヴィアの周りをゆっくりと漂い始める。


ヒュンッ、ヒュンッ――


やがて彼女を中心に、高速の回転が始まった。

速度が頂点に達する。


カッ!!


瘴気じみた魔素が、辺りを白く照らす。

そして肉片の全てが、オクタヴィアへと殺到する。


グチャグチャッ――


粘つく音とともに、オクタヴィアの影が見る間に膨れ上がっていく。


竜の鱗がその輪郭を覆う。

鎧のごとく、硬質な装甲へと変わっていった。


両肩から背にかけて、巨人の腕が隆起する。


腰の付け根から、ゴキブリの脚が6本、節を鳴らして生え広がった。


右腕が瞬く間に紫の甲殻に覆われる。

オドントダクティルスの、短く鋭い腕へと造り変わっていった。


「まじ、かよ……」


武虎が、掠れた声を漏らす。

誰も動けなかった。

目を離せば、ヤられる――そんな確信めいた恐怖が、5人の足を縫い止めていた。


そして――


胸の中で叫び続けていた無数の魂が、悲鳴を上げながら左腕へと吸い寄せられていく。

魂同士が絡み合い、渦を巻く。

やがて黒く粘つく塊となって、左腕全体を覆い尽くした。

啜り泣くような、笑うような、無数の声が入り混じったざわめきが、腕の内側から漏れ続けている。


膨れ上がったその胸――かつて魂が封じられていた場所に、亀裂が走った。


めり――


肉を割る音とともに、その奥からオクタヴィアの顔がそのまま生えてくる。


「うふふ、完成」


4メートル超の継ぎ接ぎの巨体に、オクタヴィアの顔だけが違和感なく収まっている。

オクタヴィア自身の声で、意思で、その化け物を内側から統べていた。


4つの封印核は、オクタヴィアの巨体を巡るようにゆるりと浮遊を続けている。

紫がかった光が明滅するたび、細い糸を引くように魔素がアマルガムへと絶えず吸い込まれていった。


「充填率は残り50%ってとこかしら。

思ったより残ったわね。……まあ、いいわ」

オクタヴィアが、周囲を漂う封印核を横目に一瞥した。


「な……」

椎名が息を呑む。


「くっ、この圧迫感……」

武虎が拳を握る手に、じわりと汗が滲んだ。


その沈黙を破るように、左腕――無数の魂が溶け合った塊が、どろりとヘドロ状に形を崩した。


ヒィィンッ――


甲高い、幾つもの声が重なった悲鳴のようなものが響いた。

粘つく質量を伴った腕全体が、鞭のようにしなって振るわれる。


「来るぞ!!」


直哉が叫んだ。


黒いヘドロのような魂の塊が、空間ごと薙ぎ払う。


ズシャァァンッ――


重量感のある水音とともに、地面が大きく抉れた。

5人は咄嗟に散開する。


抉れた跡には、ところどころ真っ黒なヘドロがべったりと張りつき、酸のように、石畳を溶かしていく。


ジュゥゥ――


飛び散った破片が、真弓の頬をかすめて裂いた。


「い、っづ……」

真弓が頬を押さえながらも、銃を構え直した。


「あら、いい反応ね。……採点するなら85点ってところかしら」


オクタヴィアが5人をひとりずつ眺め回し、満足げに目を細める。


「うふふふ、その目、いいわぁ。食べちゃいたい。

すぐに死なないでね」


その一言に、5人の背筋が凍った。

これまでとは、明らかに次元が違う――誰もがそれを肌で理解していた。


「上等だ……やってやるよ」

武虎が、震える拳をもう一度握り直す。


* * *


「よし、トラ行くぞ」

時穿つ瞳(クロノス・ハック)を発動させながら、直哉が油断なく前へ出た。


「私も、まだやれます」

椎名が静かに構えを取る。


「フォローは任せて」

陽平が木刀を握り、水の膜を練り上げた。


「舐めんなよ、キモ筋肉(マッチョ)虫……!」

真弓が引き金に指をかける。


オクタヴィアの巨体が地を蹴り、猛スピードで間合いを詰めてくる。


武虎の拳が、ゴキブリ脚の一撃を受け止める。

骨が軋み、腕全体に痺れが走った。


直哉はバットを盾のように構え、辛うじて巨人の腕を逸らす。

石畳が蜘蛛の巣状にひび割れ、踏み込むたびに破片が跳ねた。


「陽平っ!」

「任せて!」


陽平が難陀(なんだ)を、地を這うようにして斬りかかる。

ゴキブリ脚の一本が足を取られ、巨体がわずかに傾いだ。


「そこだッ!!」


直哉が蜻蛉飛び(フリップ・ターン)で懐へ潜り込み、砕陣を叩き込んだ。


パキンッ――


竜の鱗が数枚、乾いた音を立てて弾け飛ぶ。


「甘いのよ、それじゃあ」

装甲の下から新たな鱗がすぐさま盛り上がり、傷はほんの数瞬で塞がっていく。


「まだだっ!!」


武虎が追い打ちをかけるように、断裂猛襲(ブレイクアサルト)の連撃を叩き込み続ける。

しかしオクタヴィアは両腕でそれを防ぎながら、6本のゴキブリ脚をまるで槍のように突き立ててくる。


「ぐぅぅぅ……!」


武虎が身をよじって切っ先を躱す。

体勢を崩された分だけ、次の拳の重みが鈍った。

掻い潜りながら攻撃を続けても、鱗を削るだけで、決定打には遠く及ばない。


「キモ筋肉(マッチョ)虫さんよ、そっちばっか集中してていいのか!?」


真弓が翼界(よくかい)で宙を駆け、頭上から砕陣弾を縦断爆撃のように連射する。

狙いは援護――奴の防御を、上から強引にこじ開けるためだった。


「あぶない、わねっ!」


オクタヴィアがオドントダクティルスの衝撃波で迎撃する。


ズゴォォォン!!


複数の砕陣弾と衝撃波が空中でぶつかり合い、爆発を起こした。

爆風が拷問部屋の埃を巻き上げ、視界が一瞬白く濁る。

その隙に、オクタヴィアはゴキブリ脚で地面を蹴り、素早く距離を取った。


「逃がすかよ!!」


直哉と武虎が、それに追いすがるように蜻蛉飛び(フリップ・ターン)で左右から挟み込む。

息を合わせずとも、狙いは同じだった――挟んで、逃げ場を潰す。


「あらあら、せっかちさんね」


オクタヴィアが、魂に塗れた左腕を大きく振るう。

ヘドロのような魂の壁が、彼女自身を包み込むように立ち上がった。


「くっ!!」


弾かれるように、2人は蜻蛉飛び(フリップ・ターン)で方向転換し、それを躱す。

壁に触れかけた靴底が、じゅわりと嫌な音を立てて焼けた。


それでも、確かな爪痕はあった。


竜の鱗の隙間から覗く肌に、幾筋もの裂傷が走っている。

完全に塞がりきらない傷口から、ドロドロと体液が流れている。


しかし、周囲を漂う4つの封印核が紫の光を明滅させると、細い糸を引くようにオクタヴィアへと魔素を注ぎ込み続ける。

裂けた肌が、見る間に盛り上がって塞がっていった。


「うふふふ、本当に楽しい」

口の端に滲んだ血を舌で舐め取ったときには、もうその傷さえ跡形もない。


5人の息は、かなり上がってきている。

武虎の腕はまだ痺れが抜けず、真弓の頬には血の筋が乾いて残っている。

陽平の木刀を握る手にも、椎名の足取りにも、隠しきれない疲労が滲んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。