第234話 再来のオクタヴィア
是非、ブックマークか評価を。
私にガソリンをください!!
「こっちです、急ぎましょう!」
椎名の声を合図に、5人の足音が地下道に重なる。
直哉、武虎、陽平、真弓、そして椎名。
先頭を切る椎名の背を追い、他の4人が息を切らしながら続く。
薄暗い通路の先に、やがて微かな明るさが見え始めた。
「あそこ、何か広いですね」
陽平が、走りながら声を上げる。
「……何か、変」
真弓が、珍しく言葉を濁したまま眉根を寄せた。
通路が途切れた先に、広大な空間が広がっていた。
壁際にはずらりと、錆びついた鉄枷や朽ちた尋問椅子、無数の針が並んだ拘束台、歯車仕掛けの奇妙な装置が並んでいる。
どれもかなり年代物らしく、大半が朽ち果てて原形をとどめていない。
表面には厚く埃が積もり、蜘蛛の巣が渡された箇所も少なくなかった。
床や壁は、ところどころ黒く染まっていた。
地面から漏れる青白い魔素の光に照らされ、そのシミが不気味な陰影を浮かび上がらせている。
「なんだよ、ここ」
直哉が、思わず声を漏らした。
武虎も無言のまま拳を握り、陽平は木刀の柄に手をかけたまま視線を巡らせる。
他の3人も、異様な光景に目を奪われて足を緩めた。
カツン、カツン。
奥の暗がりから、靴音が近づいてきた。
ゆっくりと、しかし迷いのない足取りで。
椎名が視線だけで全員を制し、それぞれが得物に手をかける。
「ふふふ、久しぶりね坊やたち」
「お、お前は……!?」
武虎が、目を見開いて身構える。
「まさか、こんなところまで来るなんて。
そんなにアタシが愛おしかったのかしら?」
「そんなわけねえだろ!」
「ここが、お前たちのアジトなのか」
椎名が、油断なくオクタヴィアを見据えたまま問う。
「いいえ。アタシたちのアジトは、もっと奥よ」
「じゃあ、ここは?」
陽平が、周囲を見回しながら聞く。
「ここは昔の道楽貴族が作った、拷問部屋よ」
オクタヴィアが、面倒くさそうに肩をすくめた。
「まったく、拷問なんて、いい趣味しているわよね。気が知れないわ」
「お前が言うなよ」
直哉が、間髪入れずに突っ込む。
「あら、ノリはいいのね。嫌いじゃないわよ、そういうの」
オクタヴィアが、くすくすと喉を鳴らした。
「茶化してる場合か」
武虎が、警戒を解かないまま言う。
オクタヴィアが、拷問椅子の背もたれをこつんと爪で叩く。
「それで、あなたたちは何でこんなとこまで来たのかしら?」
「知らねーよ! お前らが俺を狙うからだろ!!」
直哉が、苛立ちを隠さず声を張った。
「こんなんじゃおちおち冒険もできやしない。だからこっちから来てやったんだよ!!」
「あらあらあら、律儀なのね。わざわざ材料になりに来てくれるなんて」
「材料、だと?」
武虎が、直哉をかばうように半歩前へ出る。
「ええ、そうよ。
そこのバットの坊や、あなたは核になって頂戴。
そしたら、私達、ものすんごい物を作れるのよ」
「なんだよ、それ……」
「それは言う必要はないわよね」
オクタヴィアの視線が、武虎と陽平を順に舐めるように向く。
「それに――あなたと、あなた」
「あなたたちは個人的に興味があるの。
だから悪いけど、実験に付き合ってもらうわよ」
「実験だと? 俺たちを何だと思ってやがる」
武虎が、拳の骨を鳴らしながら睨みつけた。
「かわい子ちゃんの素材よ。光栄に思っていいのよ」
オクタヴィアが、うっとりと目を細める。
「……愚弟のピンチ」
真弓が真剣な声色で、しかしどこか楽し気に呟く。
「姉ちゃん……」
陽平が、その物騒な呟きに思わず横目を向ける。
「怖い怖い。お姉さんの目、そういうの好きよ」
オクタヴィアが、口の端を吊り上げる。
「神谷くん、彼が報告にあった……?」
椎名が、油断なく確認する。
「はい、オクタヴィアです。
他の生物と融合して、強力な力を発揮するんです」
直哉が、警戒を解かないまま頷いた。
「うふふふ、あなたには興味ないけど、まあついでよね」
オクタヴィアが、両手を大きく広げる。
「さあ、始めましょうか。終極融合」
空間の中央に転移門のようなものが浮かび上がった。
ズ、ズズ……と重い唸りとともに、門の奥から巨大な影が這い出してくる。
床がぎしぎしと軋み、その質量に応じて青白い光がひときわ強く瞬いた。
幾つもの魂が押し込められた胸部が、鈍く脈打ちながら呻き続けている。
折り重なった腕や牙が、意思とは関係なくひくひくと蠢いていた。
「ゴォア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛――!!」
幾重にも重なった魂の叫びが、一つの咆哮となって空間を満たす。
壁の鉄枷がガタガタと震え、朽ちた拘束台が音を立てて崩れ落ちた。
鼓膜を突き刺すような音圧に、直哉たちは思わず耳を塞ぐ。
「……きやがったな」
武虎が、忘れもしないその姿に奥歯を噛んだ。
「な……あれが」
椎名だけが、初めて目にする異形に息を呑む。
「この前は制御に失敗しちゃったけど、今回は大丈夫。ちゃーんと調教済みよ」
オクタヴィアが、愉悦を隠さぬ笑みを浮かべる。
「さあ、退屈させないでちょうだい」




