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現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
奪われた龍脈

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第232話 狩りの支度

是非、ブックマークか評価を。

私にガソリンをください!!

オールドマーケット地下、最奥。

天井は目もくらむほど高く、闇に溶けて輪郭さえ見えない。

かつてどれほどの人数を集めていたのか、見当もつかないほどの広さだった。


この場所は、その昔、とあるカルト集団が祭事に使っていた広間だという。

奥にそびえる巨像だけが、当時の名残だ。

顔は削り取られ、何を象った神像だったのかは、もはや誰にもわからない。


その巨像を背に、祭壇が据えられている。

並べられているのは、疑似核16個。

地面から伸びた幾本ものパイプが祭壇に繋がれ、龍脈から引き込んだ魔素を絶えず供給していた。

魔素が通るたび、パイプが淡く光り、時折、漏れた魔素が空気に溶けて消えていった。


「で、セイラス。どっちから来るネ?」

ラオフェンが、地図を覗き込みながら言った。


灰色のローブを纏った痩身の男が、目を閉じたまま地図の上に指先を走らせる。

「あちらさんも気付いたようだな、相当急いでいる。

4方向に分かれた」

「探りを入れる様子もないの?

よほど時間が惜しいのかしらね」


「それと、地上も少々騒がしい」

セイラスが、地図の隅を指先で叩いた。

「アンバー・カンパニーが、様子を窺いに人をよこし始めている」


「舐められてるネ。

これ、放っておくカ?」

ラオフェンが、片眉だけを上げる。


「今はな。眼中にもない連中だ。

だが、長引けば厄介になる」


「長髪の野郎はどっちネ?」

「東側だ。おまけが1人ついているようだ」


ラオフェンの目が、わずかに細くなった。

古傷でも思い出すように、鉄棍を握る手に力がこもる。

「ボス、いいよナ、ワタシ東いくヨ!」


影の奥で、小さく頷く気配があった。

「好きにしろ」


「なら、アタシは坊やたちと遊ぼうかしら」

オクタヴィアがヒールを鳴らしながら、地図の前に進み出る。

「西だな」

セイラスが、短く応じる。


「背の低い、気の強そうな坊やと、人懐っこい顔の坊や……

まだ名前も知らないけれど、実験台にできると思うと、たまらないわね」

オクタヴィアが、舌なめずりをする。

「前は途中で邪魔が入って、最後まで採点できなかったのよねぇ。

今度こそ、じっくり見せてもらうわ」


「趣味の悪い女ネ」

ラオフェンが、うんざりしたように肩をすくめる。

「趣味じゃないわ、探求心よ」

オクタヴィアが、心外だとばかりに眉を上げた。


「俺は北に向かう」

セイラスが、地図から顔を上げずに言った。

「ボス、もう1つのは、魔素の気配が強大だ。おそらく奴らの本命だな」

「なるほどな、そこは俺が処理しよう」

ボスの返事に、迷いはなかった。


「いいか、転移のガキは必ず捕まえろ。増幅機能として使えるはずだ」

影の奥から放たれる気配に、刃のような鋭さが混じった。

「他のは、まあ好きにしていいが、捕まえられるなら捕まえておけ。

ヴェルクスを解放するのに役立つかもしれん」


「――ヴェルクスの、仇ネ」

ラオフェンが、腰の鉄棍を握り直すと、浅黒い肌の下で筋が浮き上がった。

「ワタシが、1番に叩き潰してやるヨ」


その一言に、部屋の空気がわずかに張り詰めた。


「随分と、熱くなっているじゃない」

オクタヴィアが、目を細める。

「アタシだって、愉快な気分じゃないのよ。

仲間を1人やられて、平気でいられるほど、できた人間じゃないもの」


「気持ちはわかるが、頭に血を上らせすぎるな」

セイラスが、淡々と言った。

「相手はヴェルクスを捕らえた連中だ。

油断すれば、次はお前の番になる」

淡々とした口調とは裏腹に、地図を押さえる指先には、いつもよりわずかに力がこもっていた。


「わかってるヨ」

ラオフェンが、鉄棍の先を軽く床に打ちつけた。

硬質な音が、地下道に短く響く。


ボスが、影の中からゆっくりと3人を見渡した。

「お前ら、念のため疑似核を4つずつ持っていっとけ」

祭壇の疑似核を指さす。

上に並べられた疑似核が、それぞれ淡い光を明滅させながら、静かに脈打っていた。


「充填率は?」

「70%だ。まあ使えないことはない」


オクタヴィアが、白衣の裾を翻す。

「随分気前いいですわね、ええ、使わせてもらいますわ」

「使わずに済むなら、それに越したことはない」

ボスが、静かに応じた。

「よし、では狩るぞ」


やがて3人が、無言のまま疑似核を4つずつ取り、懐や得物へと仕舞い込んでいく。


「行くヨ」

ラオフェンが、先に踵を返す。

鉄棍を肩に担ぎ、東の通路へと大股で歩き出すと、重い足音が次第に遠ざかっていった。


「じゃあね、ボス。土産話、期待していて」

オクタヴィアが、粘つく足取りのまま西へと消えていくと、衣擦れの音だけが、しばらく尾を引いた。


セイラスだけが、しばらくその場に残った。

「北へ、行ってくる」

迷いのない足取りで、ローブの裾を翻し、静かに北の通路へと歩き出す。


祭場に、ボスだけが残り、地の底から響く、かすかな地鳴りに耳を澄ませていた。

3人が去った後の卓上には、ヴェルクスの名が記された印だけが消されないまま残っていたが、ボスはそれに触れようとはしなかった。


「あと、10日か、ようやくだな……」


計画は、あと10日で始動する。

それまでは、誰にも――何者にも、邪魔させはしない。

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