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現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
奪われた龍脈

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第231話 迫る刻限

是非、ブックマークか評価を。

私にガソリンをください!!

崩れ落ちた督戦隊を尻目に、椎名が言った。

「さあ、早く行きましょう」


まだ阿鼻叫喚の残る闘技場を抜け、人気の少ない裏路地へと入る。

歩を緩めぬまま、直哉が口を開いた。

「椎名さん、道案内が……このまま進んでも大丈夫なんですか?」

「ええ、道は頭に入っているので大丈夫です。

それより顔が効かなくなったことのほうがまずい。

ですが、先ほどの騒ぎで奴等に気づかれたかもしれません。

時間をおかないほうがよいでしょう」


「動き、バレたかもしれない、ってことですか?」

柳太郎が頷く。

「あれだけの騒ぎだ、伝わっていないと考える方が楽観的すぎる」


「一度、引くって手もあるんじゃないですか」

陽平が、恐る恐る手を挙げた。

「態勢を立て直してから、とか」


「その分、向こうにも準備の時間をやることになる」

椎名が首を振る。

「向こうが構える前に、こっちから叩く。それしかない」


「それに、この靄みたいなの、さっきはありませんでしたよね?」

水沢があたりをキョロキョロしながら言う。


「確かになんだろうこれ、地面から染み出してるような……」

『魔素が地面から染み出しているようです。

このような現象は通常ありえません』

「これって、ラグナから見えた変な光に関係あるのかな……?」

『これだけの量があれば、空気を屈折させ、オーロラのような現象を引き起こす可能性があります。

十分考えられます』


「地面から魔素が染み出す、なんか転移門の時を思い出すよな。

いい予感がしねえぜ……」

「敵に時間を与えないほうがよさそうですね」


柳太郎が、一同を見渡した。

「異論のある者は?」


誰も、口を開かなかった。


「岸本さんへの連絡は?」

直哉が問うと、水沢が首を振った。

「中継の範囲外です。今は、繋がりません」


「ならば、現場で判断するしかあるまい、急ぐぞ」


一同は無言で頷き合い、路地を抜けて大通りへと足を向けた。


裏路地を抜け、視界が開けた瞬間、直哉は息を呑んだ。


街全体が、薄い靄に包まれている。

朝靄にしては、色がおかしい。

淡く発光するような膜が、路地の隅々にまで這っていた。

行き交う人々も、初めての経験なのか困惑を隠せずにいる。

ざわざわとした声が漏れる中、誰もが落ち着かない様子で周囲を見回していた。


「……もうこんなに?

そこかしこから出てるじゃん」

『先ほどより発生スピードが3.6%ほど早くなっています。

発生源は、おそらく――』


「オールドマーケットの、真下」

直哉が呟くと、椎名がこちらを見た。


「何かが、起きてる」

椎名が、靄の向こうを睨むように見据える。

「理由はわからないが――急ぎましょう」


一同は無言で頷き合い、駆け出した。


* * *


椎名たちの案内で、人気の消えた路地を抜けていく。


すれ違う者たちは、堅気の顔つきではなかった。

それでも誰もが目を伏せ、慣れた足取りで物陰へと消えていく。

オールドマーケットで生き延びてきた者ほど、この手の気配には敏感だ。

理由を確かめようとする者は、1人もいない。


やがて辿り着いたのは、古びた石造りの排水溝だった。

錆びた鉄格子が、半ば外れたまま口を開けている。


「ここが、地下通路への入り口です」

椎名が、鉄格子を押し開けながら言った。


一同は身を屈め、次々と暗がりへ足を踏み入れる。

村松が取り出した携行灯が、じんわりと橙色の光を放ち始めた。


地下は、想像していたよりも広かった。

石積みの壁が両側に続き、足元には淀んだ水が薄く張っている。

歩を進めるたび、水音が壁に反響し、幾重にも重なって返ってきた。


奥へ進むほど、壁の隙間から漏れる淡い光が強くなっていく。

ライトを消しても、足元が見えるほどだった。


「……嫌な予感がするな」

指川が、光の滲む方向を見据える。


「奇遇ね」

最上が、乾いた声で応じた。

「私も」


「地面が、微かに震えてないか?」

武虎が、足の裏で確かめるように呟く。


直哉も屈み込み、石畳に手を当てた。

かすかな振動が、絶え間なく伝わってくる。


「気のせいじゃ、なさそうだな」

柳太郎の声にも、わずかな険が滲んだ。


不意に、奥の暗がりで何かが跳ねるような水音が響いた。


「――ッ」

真弓が即座に銃口を向ける。

だが、暗闇の先を横切ったのは、ただの小さな鼠だった。


「……けっ」

真弓が、銃口を下ろしながら小さく息を吐く。


しばらく進むと、通路が大きく開けた。

下水道のような広い空間に、四方から別々の道が伸びている。


「4つ、か」

柳太郎が、腕を組んで唸った。


「椎名さん、これは?」

直哉が問うと、椎名が地図から顔を上げた。

「この4つの通路の1つが、奴らの拠点に繋がっているはずです。

くそっ、道案内が生きていれば!!」


「なあ、さっきから雰囲気やばくないか?

足元の水も光ってる気がする」


足元に目をやると、確かにかすかに光っているように見える。


「イチカ、これも魔素の現象なのか?」

『はい、これも魔素による現象ですが、通常ではありえません。

大地から異常なエネルギーが噴き出していると分析します』


「親父、悠長に調べてる暇はなさそうだぜ。

4手に別れよう!」

武虎が、苛立たしげに言う。


「ぐむむむむ……」

柳太郎が唸る。

「藤堂さん、こいつらは俺の目から見ても、それなりのモンだ。

大丈夫だろう」

五十嵐が判断を促すように補足する。


「わかった、割り振りを決めるぞ」

柳太郎が頷いた。


椎名が、地図の上に指で線を引いていく。

「1班――五十嵐さん、単独で」


「おう」

五十嵐が、拳を軽く握った。

「俺は一人で平気だ。むしろ、身軽な方がいい」


「本当に、大丈夫か?

A級3人にS級1人、って話だぞ」

柳太郎が念を押す。


「わかってる。

だが数で来られても、俺は身動きが鈍るだけだ。

1人の方が、性に合ってる」

五十嵐が、口の端を上げた。


「2班――藤堂柳太郎さん、それと村松」

「承知した」

柳太郎が短く応じ、村松が黙って頷く。


「3班――篠崎さん、最上さん、指川さん、水沢」

「了解」

篠崎が、軽く手を挙げた。

「まあ、この面子なら心配ないだろ」

「油断はしないけどね」

最上が、すぐに付け加える。


「4班――神谷さん、藤堂武虎さん、清閑寺陽平さん、清閑寺真弓さん、それと私で」


真弓が、4つの通路を順に見やる。

「連絡、取れなくなったら?」


「その時は、各自の判断で動け」

柳太郎が答えた。

「無理に合流しようとするな。

今は、先を急ぐ方が大事だ」


椎名が、それぞれの班へ短く頷きかける。

「無事に、奥で合流しましょう」


直哉は、四方に伸びる通路を見渡した。

奥から漏れる光は、さっきよりも心なしか強い。


「イチカ、みんなの位置は把握できるか?」

『通信範囲内であれば可能です。ただし、地下深くに入るほど精度は落ちます』

「頼りにしてる」

『はい、異変があれば、直ちにお伝えします』


「――行くぞ」

柳太郎の声に、それぞれが頷き、4つの道へと分かれていった。

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