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現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
奪われた龍脈

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第230話 裏切りの筋書き

是非、ブックマークか評価を。

私にガソリンをください!!

旧オルティア帝国領の廃墟に広がるオールドマーケットは、3つの勢力が存在している。


表通りと関所を握り、金の力で市場を回す「アンバー・カンパニー」。

裏路地と闘技場を支配し、恐怖で統制する武闘派「アイアンファング」。

そして地下水路の隅々まで把握し、情報と抜け道を売る「シャドウウェブ」。


三つどもえの均衡は、互いが互いを必要とする脆さの上に、かろうじて成り立っている。


アイアンファングの拠点の奥――油と血の匂いが染みついた一室に、主だった幹部たちが集まっていた。


「おい、カストロスの野郎はどうした?」

頭目が、居並ぶ顔を見渡しながら言った。

「へい、あいつは闘技場の見回りに出てやす」

「そうか。他は揃ってるな?」

「「「はい」」」


「いいか。これから1週間ばかり、よそ者がこの街に居座る。12人だったか」

頭目が続ける。

「グラナート連邦の辺境から来た連中だが、えらく強えやつらだ」


幹部の一人が、身を乗り出した。

「いったい、何をしに?」

「エーテル・ネクサスを潰すんだとよ」


「へへへ、お頭、そんな……」

「ああ、俺もできるとは思っちゃいねえ。だがな、万一ってこともある」

頭目が、傍らへ目をやる。

「なぁ、レオ?」


「はい」

レオが、静かに頷いた。

「交渉に来た者も、かなりの使い手でした。B級はあるかと」


「ってことだ」

頭目が、口の端を歪める。

「金もたんまりもらってる。

うまくいきゃ、エーテル・ネクサスの野郎どもがいなくなる――JPギルドの連中には、指一本触れるな。

末端まで、今日中に徹底させろ。

わかったな」


「……頭目がそこまで言うとは、一体何を見たんですかい?」

幹部の一人が、恐る恐る尋ねる。


「殺気の欠片も出さなかった。それが、逆に怖かったんだよ」

頭目が、拳を握り、開いた。

「あの若造――笑って座ってただけだ、なのに俺の背中は、ずっと汗をかいてた。

30年、修羅場をくぐってきたこの俺がだぞ」


「頭目が、そこまで……」

別の幹部が、息を呑む。


「肝に銘じておきます」

レオが、静かに頭を下げた。

「カストロスへの伝達は、私が引き受けましょう」


「おう、頼んだぞ」

頭目が頷き、話は終わった。


* * *


その夜、レオは伝令の紙を手にしたまま、しばらく動かなかった。


(カストロス……あいつは組織にとって毒だ)


功名心だけで無茶を仕掛ける幹部の顔が、脳裏に浮かぶ。

放っておけば、いずれ組織そのものを危うくする。

ならば――この機に、消えてもらった方がいい。


レオは使いを呼ばず、自らカストロスの部屋へ足を運んだ。

誰もいない室内、机の引き出しの書類にそっと紛れ込ませる。


「お前は、頭目の命令に従えなかった。

俺たちの縄張りで、余所者にデカい顔をされるのが許せなかった――そういうことだろう、なあカストロス」


(もしJPギルドの奴らが仕留め損ねたなら、その時は自分の手で始末をつければいい)


紙の端に指を這わせ、レオは口の端だけで笑った。


* * *


裏路地に入ると、空気が変わった。


先を歩く道案内が、一度だけ振り返る。

「ここからはアイアンファングのテリトリーだ。まじで離れないでくれよ。

やつらはイカれた奴が多くてよ、ちょっとした行き違いで死体ができちまう」

「離れたら、保証はできねぇってことだな」

武虎が、念を押すように言った。

道案内は、無言で頷いた。


表通りはアンバー・カンパニーの徴税吏が、商人たちから銀貨を巻き上げていく喧騒に満ちていたが、路地の先には、荒事の匂いがべったりと張り付いている。

壁の紙には「傭兵求ム 腕に覚えのある者」「闘技場、本日興行」と汚い字で殴り書きされていた。


「なるほどな」

篠崎が、貼り紙を眺めながら呟く。

「金と情報がアンバーとシャドウウェブなら、荒事は全部ここに集まるってわけか」


案内に従い、入り組んだ裏路地を進んでいく。

その筋の風体をした者たちから、時折視線を感じた。

だが、向けられるのは値踏みするような視線だけで、殺気は感じられない。

末端まで、一応の教育は行き届いているようだった。


「こっからは闘技場の脇を進んでいく。特に人が多いとこだからな、気を付けてくれ」

道案内が、先に立って歩き出す。


ひときわ大きな建物が、視界に飛び込んできた。

ドーム型の建物で、中は広く、喧騒に包まれている。

建物の外縁には怪しい出店が立ち並び、よく分からない食べ物や盗品らしき品が売られていた。


中央のリングでは、上半身裸の男たちが取っ組み合っていた。

周囲には縄が張られ、揃いの腕章をつけた見張りが、はみ出しそうになる観客を淡々と押し戻している。

壁一面の木札には対戦表と倍率が記され、腕章の男たちが台帳片手に賭け金をさばいていた。


「賭け事も、ちゃんと商売になってるんだな」

武虎が、感心したように目を細めた。


不意に、頭上の物干し竿から影が落ちた。


「――伏せろ!!」

篠崎の声が飛ぶと同時に、鉤爪が空を裂く。


「へ?」

道案内が、間の抜けた声を漏らした直後、鉤爪がその体を薙いだ。


直哉たちは咄嗟に跳び退った。

一瞬前まで直哉が立っていた場所の石畳に、三本の裂傷が刻まれている。


囲むように、路地の四方から男たちが湧いて出た。

目の充血した男たちは、足取りがふらつき、口の端から涎を垂らしている。


『禁制の魔素中毒性薬の反応です、身体のリミッターを外し、常識外の力を発揮します。

注意してください』

イチカの声が警告を鳴らす。


「おいおい、話がついてたんじゃないのかよ……」

武虎が、舌打ちした。


後方で鉤爪を提げた男が、口の端を歪める。

頬に古い刀傷。値踏みするような目で、こちらを見定めていた。


「はん、俺のヤサに勝手に上がりこむなんざ、おもしれえやつらだな」


男の視線が、事切れた道案内へ流れる。

「……見た顔だな。裏切りか? いや、まさかな」

興味を失ったように、すぐ目を逸らした。


「まあいい。とりあえず半分殺して、あとは金にしてやる」


「行けェ!」

号令とともに、男たちが獣のような咆哮を上げて突っ込んできた。


1人が、武虎に掴みかかる。

骨が軋むほどの馬鹿力だったが、武虎は難なく手首を捻り上げ、当て身で沈めた。


その間にも、周囲の観客たちは慣れた様子で壁際まで下がっていく。

逃げ惑うでもなく、むしろ身を乗り出し、野次馬らしく囃し立て始めた。


「おうおうおう、突然の試合だ。あの連中は……」

胴元の男が、声を張り上げながら賭けの木札に手を伸ばす。

横から、誰かが紙を差し出した。


「ん? 客なのか。まあいい」

胴元は紙にちらりと目をやっただけで、すぐに声を張り上げる。

「謎の12人対カストロス督戦隊だ、さあ、賭けろ賭けろ!」


「客、だと……?」

カストロスの胸に、一抹の疑問がよぎる。

だが、止まるつもりはなかった。


身体強化を発動し、構えを取る。


督戦隊と呼ばれる手下たちも、それぞれが身体強化を発動している。

その1人が雄叫びを上げながら、村松へ拳を振り下ろした。


村松は、半歩下がってこれをかわす。

拳の軌道の先で、石畳がドガッと音を立てて陥没し、亀裂が四方へ走った。

その破壊力に、野次馬たちが歓声を上げる。


椎名が、攻撃をかわす村松の動きを一瞥する。

単調な、力任せの一撃だった。


「村松、水沢」

「はい」


村松が1人の懐へ滑り込み、当て身で沈める。

ほぼ同時に、水沢が背後から迫っていた男の膝裏を蹴り崩す。

椎名はその隙間を縫うように抜け、目の前の男2人を流れるように昏倒させる。

3人分の動きが、まるで1つの技のように繋がっていった。


督戦隊の男たちが、殴られ、蹴られ、あるいは投げ飛ばされ、次々と地に沈んでいく。

鈍い打撃音と、石畳に叩きつけられる音が、絶え間なく響いた。


「くそ、なんだこいつら――ッ!?」

カストロスが吠え、地面を蹴って踏み込もうとする。

だが、膝から下に力が入らない。


(んだと!?)

疑問を言葉にする間もなく、体が大きく傾いだ。


(あれ……なんで、目の前に地面が)

そこまで思ったところで、カストロスの意識は途切れた。


騒がしかった闘技場が、水を打ったように静まり返る。

椎名たちは、息一つ乱さず、崩れ落ちた男たちを見下ろしていた。


静寂を破ったのは、悲鳴じみた怒号だった。


「うそだろ、督戦隊が一瞬で……!」

「有り金全部、突っ込んだのに!」

「噓だと言ってくれよぉぉ!」


木札に群がっていた客の、8割が督戦隊に賭けていた。

その全員が、頭を抱えてその場にくずおれる。


胴元は、阿鼻叫喚の客たちを尻目に、慣れた手つきで対戦表へ「督戦隊 敗北」と書き加える。

「はいはい、残念でした。次だ次、次の勝負に賭けな」

抗議の声を軽くいなしながら、淡々と精算を始めた。


* * *


オールドマーケット地下、エーテル・ネクサスの拠点。

薄暗い広間に、4人が顔を揃えていた。


「まだ魔素集まらないネ!?」

ラオフェンが、苛立たしげに鉄棍で床を打つ。


壁際では、灰色のローブを纏った男――セイラスが、目を閉じたまま微動だにしない。


不意に、その瞼が開いた。

「ボス。アイアンファングの縄張り付近で、正体不明の一団が騒ぎを起こしています。

その中に、ターゲットの男もいました」


ラオフェンの顔が、ぱっと輝いた。

「向こうから来たのカ!?」

鉄棍を握る手に、力がこもる。

「長髪の男ハ?」


「1人いるな、道着を着ている」


「ククク、ヴェルクスやったのそいつネ。

ボス、いいよナ?」


ボスは、影の奥でしばし黙り込んだ。


「……オクタヴィア、疑似核を今すぐ外せ」


「あら?」

オクタヴィアが、粘りつくような笑みを浮かべる。

「まだ7割というところですが……わかりましたわ」


「……殺す……殺す殺す殺す……殺しつくしてやるネ」

ラオフェンが、鉄棍を肩に担ぎながら、低く唸るように笑った。

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