第229話 潜入、オールドマーケット
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私にガソリンをください!!
翌朝、JPギルドの一室に、9人と椎名・村松・水沢、そして田所が顔を揃えていた。
「今日は、この10日ほどの調査結果を、まとめて報告します」
椎名が、地図を広げながら切り出す。
「10日……そんなに前から動いてたんですね」
直哉が身を乗り出す。
「ええ、たまたま田所さんがオールドマーケットの噂を別口で聞いていて、それで調査が早く終りましたよ」
村松が付け加えた。
「それと、オールドマーケットへの移動中、技術班の橋本さんに中継器を設置してもらいました。
なので、携帯も繋がるようになっています。
ただ範囲はとても小さいので、地図のラインから逸れると使えなくなります」
水沢が言う。
「おぉ、すごい、携帯も使えるんスね!!」
直哉が、思わずポケットからスマホを取り出した。
「でもこっちでは、ネットはないですよ?」
田所が、横から素っ気なく茶々を入れる。
「あ、そっか……」
直哉の顔から、みるみる高揚が引いていった。
「ゴホンッ! 神谷さん、遊びに行くんじゃないんですよ?」
椎名が、わざとらしく咳払いする。
「わかってますよ、つい」
直哉は、慌ててスマホをポケットに戻した。
「それで、肝心のオールドマーケットですが、道中にちょっとお伝えした通り、3つの勢力が争っている状況です。
が、その3大勢力それぞれの幹部と、直接話をつけてきました」
椎名が続ける。
「金を払い、一定期間だけ騒ぎを黙認してもらう約束も、すでに取り付けてあります」
「幹部に、直接会いに行ったんですか」
陽平が目を丸くする。
「危険は承知の上です。ですが、あの地区で無用な衝突を増やすより、よほど確実だと判断しました」
水沢が、いつになく長い言葉で答えた。
田所が、資料を捲りながら、小さくため息をつく。
「正直、報告書で金額を見たときは、目眩がしましたよ……。ですが」
気を取り直すように顔を上げた。
「JPギルドの事業は、おかげさまで利益を上げています。これも、必要経費と割り切ることにしました」
「田所さん、いくら払ったんスか?」
陽平が興味津々に尋ねる。
「それは……聞かない方がいいと思います」
田所が、力なく笑った。
柳太郎が、腕を組んで頷く。
「よくやってくれた。礼を言う」
「私たちの仕事ですから」
椎名が、表情を変えずに答えた。
五十嵐が、感心したように口笛を吹いた。
「幹部と直談判とはな。命がけの交渉じゃねえか」
「慣れています」
村松が、短く返した。
篠崎が、腕組みしたまま笑う。
「頼もしい限りだ。おかげで、こっちは戦うことだけ考えりゃいい」
「あら、いつも通りってこと? 篠崎さん、考えるの苦手だもんね」
最上が、にやにやしながらからかった。
指川が、口の端を上げた。
「金で買えるのは、時間だけだ。せいぜい、有効に使わせてもらうさ」
「動きやすくなった」
真弓が言う。
「ああ。少なくとも、期間中は邪魔は入らない」
椎名が、地図の一点を指で叩いた。
「ただし、エーテル・ネクサス自身の目までは、誤魔化せない」
「幹部連中から、向こうの情報も少し聞き出せました」
椎名が続ける。
「オクタヴィアとラオフェンは、最近もこの辺りに姿を見せてるそうです。あの2人は、まだいい」
「まだいい、っていうと?」
直哉が聞き返す。
「戦い方も強さも、皆さんからの情報である程度掴めている相手だ。厄介なのは、ボスともう1人だ」
椎名が声を落とす。
「姿を見た者がいない。噂すらまともに出回ってない」
話を聞きながら、直哉は頭の中で情報を整理する。
(ボス、ヴェルクス、オクタヴィア、ラオフェン、謎の人物。ここまでで5人)
(ヴェルクスは、リエントリーエリアで拘束済みだったよな)
(つまり今、向こうに残ってるのは4人ってわけか)
(イチカ、今の情報で合ってるか?)
(『はい。ヴェルクスの身柄は政府施設で拘束中と確認済みです。
エーテル・ネクサスの現有戦力は、ボス・オクタヴィア・ラオフェン・謎の人物の4名と推定されます』)
(オクタヴィアともラオフェンとも、直接やり合ったからな。だいたいの手の内は分かってる)
(『はい。両者とも過去の交戦記録から、能力・戦闘傾向を分析済みです。
一方、ボスと謎の人物に関しては、外見・能力ともに情報がありません』)
未知数、か。
直哉は小さく息を吐いた。
「オクタヴィアとラオフェンか」
直哉が呟いた。
「前は隙をついて何とかなったけど、次もそう上手くいくかどうか」
「だな」
武虎が拳を軽く鳴らす。
「そもそもオクタヴィアからは逃げただけだし、ラオフェンも目潰しで隙をついただけだ。
もう、それも向こうにバレてるだろうしな……」
柳太郎が、腕を組んだまま口を開いた。
「向こうも油断はすまい。厳しい戦いになりそうだな」
「オールドマーケットの中では、できるだけ目立たないようにお願いします」
椎名が、全員を見渡しながら言う。
「連中には話をつけていますが、どこにでも、はねっかえりというのはいるものです」
「大丈夫だ、任せとけ。目立たないようにするからよ」
篠崎が、軽く笑いながら胸を叩いた。
椎名は、五十嵐・篠崎・武虎の3人を順に見やり――なぜか、一抹の不安がよぎるのを感じた。
「……本当に、お願いしますよ」
* * *
「よし、飛ぶぞ」
直哉は、皆と距離を詰めながら声をかけた。
「イチカ、ゴルタの座標は」
『記録済みです。以前訪れた際の座標を使用します』
9人に、椎名・村松・水沢を加えた12人。
視界が白く染まり――次の瞬間には、寂れた街並みの中に立っていた。
「ここが、ゴルタか」
柳太郎が、周囲を見回す。
「ここから先は、進むんデスで向かいます」
椎名が、収納バッグから椅子型の魔道具を次々と取り出していく。
12台のホバーが連結され、隊列を組んで街道を離れた。
土煙を巻き上げながら、一行は荒野を突き進んでいく。
* * *
移動の途中、何度か野盗に襲われたが、すべて一蹴する。
むしろ、気絶した野盗たちを道の端に押しやる方が時間がかかったぐらいだ。
道中は町に寄らず、野営をして過ごす。
そんな強行軍を続けること3日、やがて、地平線の先に、灰色の街並みが見えてくる。
「あれが、オールドマーケットです」
椎名が、速度を落としながら言った。
「昼間の方が、かえって目立ちません。堂々と、歩いて入りましょう」
一行はホバーを降り、収納バッグへ仕舞い込むと、徒歩でオールドマーケットへ足を踏み入れた。
椎名を先頭に、迷いのない足取りで路地を抜けていく。
やがて辿り着いたのは、周囲に紛れた、なんの変哲もない一軒の建物だった。
「ここが、私たちが確保した拠点です」
中に入ると、村松が、すでに小型のドローンを準備していた。
「これで、上空から拠点の様子をお見せします」
水沢が操作すると、モニターに映像が映し出される。
高高度から見下ろした市街地の一角――薄汚れた建物の中庭に、見張りらしい人影が動いているのが、はっきりと見て取れた。
「……あれが」
直哉は、画面を見つめたまま、小さく息を呑んだ。
静まり返った建物の奥に、残り4人が潜んでいる。
「今日のところは、これで十分だ」
柳太郎が、モニターから目を離さずに言った。
「――作戦を詰めるぞ」




