第228話 エーテル・ネクサス
是非、ブックマークか評価を。
私にガソリンをください!!
行政施設の一室に、9人が集まっていた。
壁際には、青白い光を纏った転移門が鎮座している。
「揃いましたね」
岸本が、一人ひとりに小さな鞄を手渡していく。
「これに、約1か月分の食糧、着替えなどの物資が入っています」
柳太郎が、渡された鞄をしばらく眺めてから、静かに頷いた。
その様子を見て、五十嵐が軽く肩を回す。
「へえ、準備がいいのは助かるな」
「えっ、こんな小さいのに!?」
陽平が、受け取った鞄を軽く振りながら声を上げた。
手のひらに収まるほどの大きさしかない。
「はい。収納バッグは、以前と比べて大分バージョンアップしています」
岸本が続ける。
「容量もそうですし、大きなものも収容可能になっています」
「大きなもの?」
真弓が首を傾げる。
「テント一式でも、丸ごと入りますよ」
岸本が事もなげに答えると、真弓が目を丸くした。
「あー、それ、この前ヤスが自慢してましたよ」
直哉が思い出したように言う。
「入り口に簡易的な転移機能を仕込んで、座標がどうこうって」
「へー、そうなんだ」
武虎が、自分の鞄をひっくり返しながら呟いた。
陽平が、直哉の得物に取り付けられたエフェクターに、見慣れないものがついているのを目ざとく見つけた。
「あ、もしかしてそれも?」
指さしながら、身を乗り出す。
「ああ、これももらった」
直哉が苦笑しながら答える。
「パワーアップキットでさ、エフェクターがすんごくなるんだよ」
「なんだよ、すんごくって」
武虎が眉を寄せる。
「へへへ、それは秘密だ」
「相変わらず、仲がいいこって」
武虎が、呆れたように肩をすくめた。
最上も、自分の鞄を軽く持ち上げて重さを確かめている。
「本当に、これだけで1か月分なのね」
指川も、物珍しそうに鞄を眺めながら、ベルトへ提げた。
軽い笑いが起きる中、岸本が資料を閉じた。
「では、皆さん、お気をつけて。
転移先はJPギルドの倉庫です。
向こう側で椎名さんたちが待っていますので、合流してください」
柳太郎が頷き、一同を見渡す。
「よし、行くぞ」
五十嵐、篠崎、最上、指川も、それぞれ小さく頷いた。
真弓が、転移門へ向き直りながら小さく息を吐く。
柳太郎を先頭に、9人が転移門をくぐった。
一瞬、体が浮くような感覚があり、視界が白く染まる。
次の瞬間には、埃っぽい空気とひんやりとした薄暗さに包まれていた。
* * *
積み上げられた木箱の合間を縫うようにして進み、倉庫の出口へ出る。
その先に、椎名・村松・水沢の3人が待っていた。
「よう、無事に着いたか」
椎名が、率直な調子で声をかけてくる。
「はい、おかげさまで」
直哉が頭を下げた。
「ここが、JPギルドの倉庫か……」
五十嵐が、積まれた木箱を物珍しそうに見回した。
「見た目は、普通の倉庫だな」
「中身は普通じゃないんですけどね」
陽平が、勝手知った様子で笑う。
「よく分かってるじゃねえか」
椎名が、木箱の一つを軽く叩きながら苦笑いを浮かべた。
「拠点の位置は、ある程度絞り込めている。
詳しいことは、移動しながら話そう」
椎名が踵を返し、歩き出す。
一同は椎名たちに続き、JPギルドへ向かった。
道すがら、椎名が拠点周辺の地形や見張りの配置について、説明していく。
武虎や五十嵐が、時折質問を挟んだ。
柳太郎と指川は、その情報を頭に叩き込むように、黙って耳を傾けている。
「オールドマーケットには、盗賊やごろつき、脛に傷を持った連中が大勢います」
椎名が、表情を引き締めて続けた。
「それと大きな勢力が3つ、ですね。
だが、今回の標的、エーテル・ネクサスは、そのどれにも属してはいませんでした」
「エーテル・ネクサス?」
柳太郎が、低く呟いた。
「ヴェルクスたちが所属している組織――いや、チームですね。その名前です」
「属していないのに、放っておかれてるのか?」
五十嵐が尋ねる。
「それどころか、3つの組織全部から、アンタッチャブル扱いされてる」
椎名が答える。
「ええ、そうです。
奴らの拠点の位置は、大体掴めました。
人数は残り4人。元々5人だけの組織だったようですね」
「たった5人で、それぞれの組織から一目置かれているのか」
柳太郎が、腕を組んで唸った。
「3つの組織もですが、浮浪者連中とも、それなりの付き合いがあるようです」
椎名が続ける。
「拠点は、そいつらが監視しており、なかなか厄介なところです」
「なら、その辺りは現地で見極めるしかなさそうね」
最上が呟くと、指川も小さく頷いた。
「慎重に行こう。焦る場面じゃない」
ひとしきり情報のすり合わせが終わると、陽平が話しかける。
「そういえば、田所さんは元気にしてます?」
「ああ、相変わらずだ。君たちのことばかり気にしてたよ」
椎名が、口の端をわずかに緩めた。
「あの人らしいですね」
直哉が笑う。
真弓も、小さく頷いた。
「ギルド着いたら、土産話、ね」
雑談を交わしながら歩くうちに、JPギルドの建物が見えてきた。




