第220話 2つの決着
是非、ブックマークか評価を。
私にガソリンをください!!
テンション上がって長くなっちゃった。
話し的に分けようかなとも思ったけど、たまにはいいよね
* * *
「クロ筋肉禿野郎、アンタの顔も見飽きたわ。
そろそろ終わりにさせてもらう!」
真弓が魔弾の数をさらに増やす。
その数、実に8発。
8発の魔弾が宙を自在に駆け巡り、ラオフェンを四方から追い詰めていく。
その精度と威力は、オクタヴィアと渡り合ったあの頃と比べても、格段に上がっていた。
そんな銃弾の嵐の中を、それでもラオフェンは隙を見つけて武虎へ攻撃を仕掛けた。
鉄棍が大上段から唸りを上げて振り下ろされる。
武虎はそれを両腕で受け止めた。
防いだ足元の石畳が軋み、亀裂の走った地面がそのままクレーター状に沈み込む。
「ぐぅぅぅぅ、まだまだぁ!!」
「しぶといガキね、そろそろ死ぬいいネ!!」
鉄棍と拳が幾度もぶつかり合う。
そのたびに石畳が割れ、破片が舞い上がった。
一進一退の攻防が続く。
ラオフェンの動きに、わずかだが精彩を欠く瞬間が増えていた。だが、決定打には遠い。
「くっ――」
武虎の膝が、一瞬だけ落ちかける。
踏み込みすぎた足に、疲労が根を張っていた。
隙を逃さず、ラオフェンの鉄棍がその頭上へ迫る。
「うおおおおッ!!」
直哉が横合いから雄叫びを上げ、迫る鉄棍を下からかちあげるように弾き飛ばした。
勢いを殺さぬまま、そのままバットを返してラオフェンへ斬り込む。
「いくぞ、トラぁ、続けっ!!」
「おうよ!!」
無意識に飛び出した発破に、武虎が間髪入れず応えた。
しかしその踏みこみには、陰りがみえる。
離れた場所で援護していた真弓も、魔弾のコントロールが甘くなってきている。
陽平も肩で息をしながら、それでも木刀を握る手は下ろさなかった。
(――全員、限界が近い)
直哉は歯を食いしばりながら思った。
(くそ、どうすれば、どうすればこの鉄壁の防御を崩せるんだ!?)
* * *
真弓が上空から砕陣弾を撃ち込み、陽平が顕装壱式 難陀で側面を崩しにかかる。
ラオフェンは鉄棍で砕陣弾を叩き落としながら、もう片方の腕で迫る難陀を強引に叩き潰す。
だが、ラオフェンの動きも精彩を欠いてきた。
息も少しずつ乱れ、次を防ぐ足の踏み替えが、ほんの半歩ずつ遅れていく。
(――抜ける!)
そう確信した瞬間、ぎりぎりで滑り込んだ鉄棍の一薙ぎが、それらをまとめて弾き返した。
直哉は奥歯を噛み締めた。
握るバットが、やけに重く感じる。魔素も体力も、もう底が見えていた。
(イチカ、魔素がもう残り少ない、次の一撃にかけるぞ)
(『わかりました、タイミングはお任せください』)
(頼む!)
「そろそろ、終りにするヨ」
ラオフェンが上段に構えた鉄棍をブンブンと振り回し、改めて大きく構え直す。
「ふおぉぉぉぉ――ッ!!」
腹の底から気合いを吐き出すと、全身から陽炎のように魔素が噴き上がった。
これまでとは比較にならない奔流に、大気そのものが震える。
「くそ、まだこんなに力が残ってやがるのか……!」
武虎が呻くように呟いた。
「嘘でしょ……」
真弓の声にも、隠しきれない動揺が滲む。
陽平も言葉を失ったまま、荒い息をつく。
直哉もまた、全身の毛が逆立つような感覚に襲われていた。
(――化け物か、こいつ)
「そこのトラ男、あなたそろそろ退場するいいネ!!」
ラオフェンが吠えながら武虎へ駆け寄る。
その道中、懐から掴み出した魔石をいくつも投げつけた。
石が着弾した地面が、みるみる砂のように崩れていく。
流砂と化した地面に、武虎の足が沈み込んだ。
「なっ――」
一瞬、視線と重心を持っていかれる。
その隙を、鉄棍が正確に狙って振り抜かれた。
「甘いネ!」
だが、武虎の体は沈みきる前に跳んでいた。
蜻蛉飛びで宙に足場を蹴り、体勢を立て直す。
「――甘いのはテメエだ!」
流砂から抜け出した勢いのまま、拳を叩き込んだ。
直哉もバットを唸らせながら追撃に加わり、目配せをする。
言葉はいらない。何度も積み重ねてきた連携が、その一瞬で意思を通わせる。
「イチカ」
(『いつでも』)
直哉はホルダーに手をかけた。
閃光弾が宙で弾け、視界が白く塗り潰される。
「今だ!」
武虎が地を蹴った。
直哉も同時に踏み込む。
「断裂猛襲ッ!!」
「瞬閃六連撃ッ!!」
赤いオーラに黒い稲妻を走らせる拳と、光を曳く連撃が、閃光の残る視界の中でラオフェンへ殺到する。
これで届く――そう確信できるだけの一撃だった。
「それはもう見たヨ」
ラオフェンの両足が、地面へ深く沈み込んだ。
纏う気配が変わる。
「不動如山ッ!」
纏う気配が変わった瞬間、直哉は反射的に念じた。
(イチカ!)
(『はい』)
命中の瞬間、同量の衝撃が撥ね返った。
ドゴォッ――!!
2人まとめて吹き飛ぶ。
その瞬間、煙幕弾が宙で弾け、灰色の煙が瞬く間に広間を覆った。
煙に紛れたまま、2人は瓦礫の中へ叩きつけられる。
「くっ、煙幕カ!?」
ラオフェンが一瞬顔をしかめる。だが、すぐに鼻を鳴らした。
「こんなもの――識界」
視界を封じられたまま、気配だけを頼りに広間を睨め回す。
その煙を突き破るように、人影が飛び出した。
ラオフェンへ向け、真っ直ぐに斬りかかる。
(目標は吹き飛ばしたばかりネ、なら来るのは殺しても構わないヨ!!)
姿の見えない気配だけを確信の材料に、ラオフェンは鉄棍へ膨大な魔素を注ぎ込んだ。
纏う量が、これまでとは比較にならないほど膨れ上がっていく。
鉄棍が、迫る気配めがけて唸りを上げて振り下ろされた。
* * *
「まずは1人目ネ!」
確信めいた呟きが、ラオフェンの口から漏れた。
だが、振り下ろす寸前、煙の向こうに見えた輪郭が、木刀のそれではなかった。
この体格、この構え、それにバット――。
「なんでこいつネ!?」
このまま振り下ろせば、殺してしまう。
一瞬、迷いが鉄棍を鈍らせた。
その隙を、直哉は見逃さない。
「瞬閃六連撃ッ!!」
バットが、間断なく打ち込まれる。
躊躇の隙間を縫うように、神速の連撃がラオフェンの胴へ突き刺さった。
「ぐぅっ――!?」
巨躯が仰け反る。
「これでぇぇ!」
その隙に紛れるように、直哉の影に隠れていた難陀が迫る。
陽平の声と共に、赤みを帯びた水蛇が飛び出した。
顕装壱式 難陀――水蛇は仰け反ったラオフェンの体に絡みつくと、傍らの直哉ごと巻き込むように締め上げる。
「なに、仲間ごとネ!?」
しかし、巻きつかれていたはずの直哉の体が、ぱっと弾けるように消えた。
「――ダブルだよ、バーカ」
先ほどラオフェンに飛び掛かったのは、イチカの分体生成だ。
吹き飛ばされた瓦礫の中から、直哉がよろめきながら立ち上がる。
その隣で、武虎も瓦礫を押しのけながら体を起こした。
息も絶え絶えに肩を上下させながら、それでも声を絞り出す。
「陽平……頼む、ぜ……!」
陽平が難陀を引き絞り、ラオフェンを吊り上げようとする。
だが、巨躯は踏みとどまった。
両足が石畳へ深く食い込み、抗うように踏ん張る。
「やらせないヨ!」
陽平がさらに力を込める。
ラオフェンも渾身の力で踏ん張ろうとした、その瞬間――腹の奥に鋭い痛みが走った。
「ぐ……さっきの攻撃が……」
先ほど叩き込まれた瞬閃六連撃の一撃が、脳裏をよぎる。
力の入らない一瞬、踏ん張っていた両足が、わずかに浮いた。
「うおおおおおおおッ!!」
雄叫びと共に、陽平が難陀を思い切り引き上げ、空中に飛びあがる。
赤みを帯びた翼を広げ、ラオフェンの体を吊り上げる。
「そろそろ幕引きだぜ、クロ筋肉禿野郎」
真弓が銃口を向ける。
全身を覆っていた身体強化の光が、拳銃へ吸い込まれるように収束していく。
銃口の前で歪な球体となって脈動し、ピシ、ピシピシッと空間がひび割れた。
「魔砲!!」
放たれた光条が、宙に浮いたラオフェンを飲み込む。
「まさか、こんなガキどもに……」
短く漏れたその一言が、最後だった。
轟音と共に、爆発が広間を白く染めた。
熱波が頬を撫で、崩れかけていた天井がさらに崩落する。
土煙が晴れたとき、そこにラオフェンの姿はなかった。
代わりに、淡い光の粒子が渦を巻きながら虚空へ消えていく。
「……終わった、のか?」
武虎が瓦礫の中から体を起こしながら呟いた。
直哉はその場に膝をつき、大きく息を吐いた。
全身が鉛のように重い。
「勝った……勝ったんだよな、これ」
「勝ったヨ」
陽平の声真似に、真弓が呆れたように笑おうとして、そのまま膝から崩れ落ちた。
全魔素を撃ち尽くした反動で、指先まで力が入らない。
「愚弟の分際で、調子に乗りすぎだ」
座り込んだまま、それでも軽口だけは崩さなかった。
その場に座り込んだ陽平が、荒い息のまま空を仰いだ。
「……マジで、死ぬかと思った」
真弓が、崩れた壁の向こう――柳太郎たちが争っているはずの方角へ目を向けた。
「師範のほうは……?」
崩れかけた天井の隙間から、細く差し込む光だけが、静かに舞う土煙を照らしていた。
* * *
時を同じくして――広間の反対側でも、激しい闘いが続いていた。
顎に突き刺さった嵐撃は、それだけでは終わらなかった。
ドガガガガガガガガッ――!!
四方八方から殺到する暴風の拳が、たたみかけるようにヴェルクスの巨体を打ち据える。
受け身も取れないまま、その体が宙を舞い、瓦礫の中へ叩きつけられる。
ドゴォッ――!!
肋骨が軋み、息が詰まる。
瓦礫に埋もれた腕に、思うように力が入らなかった。
(くそ……この技も、前回とは桁違いだ……)
それでも、ヴェルクスは何事もなかったかのように瓦礫を押しのけ、体を起こす。
「ったく、口ほどにもねえな」
強がるように吐き捨て、口の端の血を拭った。
柳太郎は何も言わず、その様子をただ見据えていた。
睨み合ったまま、互いの荒い息遣いだけが場を支配する。
砕けた石畳、倒壊した建物、ひび割れた壁――そのすべてが、ここまでの激闘を物語っていた。
「そろそろ、種切れじゃないのか」
柳太郎が静かに言う。
「はっ、減らず口だけは達者だな」
ヴェルクスが口の端を歪めた。
だが、拳を構え直すまでの間合いに、微かな迷いが滲んでいた。
柳太郎はその迷いを見逃さなかった。
「戦い方に、迷いがあるようだな」
「……あ?」
「あの技を使うか、迷っているんじゃないのか」
ヴェルクスの表情が、一瞬だけ固まった。
(くそ、こいつ――浄罪の制約に気付いてやがるのか)
図星だった。
浄罪を放てば、この均衡は一撃で覆せる。
だが、駅前で放った時の、あの膨大な魔素の消費は体が覚えている。
今日は、あの時よりもかなり力が漲っている感覚がある。
だとすれば、消費もそれ以上だろう。
使えば十中八九、魔素枯渇を起こす。
(――リュウタロウ、テメエだけならまだいい。
だが、囲まれてる状況で無防備を晒すのは……)
一瞬だけ、脳裏にラオフェンの姿がよぎった。
今頃どうしている。
まだ、あのガキどもと渡り合っているのか。
だが、それを表に出す男ではなかった。
「くだらねえ勘繰りだ」
ヴェルクスが笑う。乾いた、作り物の笑いだった。
「そうか、なら、それでいい」
柳太郎は構えを低くした。
「へっ……つくづく、面白くねえ野郎だ」
ヴェルクスは肩を回し、乱れた呼吸を整える。
(――使えば終わる。だが使わなきゃ、勝てるかどうかも分からねえ)
賭けるべきかどうか、迷いはまだ胸の内にあった。
だが、迷ったまま突っ立っている暇はない。
「来いよ、リュウタロウ」
言葉を切ると同時に、2人の足が地を蹴った。
拳と拳が交錯し、乾いた音が幾度も響く。
柳太郎の掌底がヴェルクスの脇腹を捉えた直後、返す蹴りが脇腹に突き刺ささる。
「ぐっ」
構わず踏み込み、再び拳を叩き込む。
ヴェルクスの拳も同時に柳太郎の頬を掠め、鮮血が散った。
「はっ……楽しいよなあ!」
「知らん」
肘が交錯し、骨と骨がぶつかる鈍い音が響いた。
柳太郎の腕に痺れが走る。
ヴェルクスの拳の皮膚も、裂けて血が滲んでいた。
一合ごとに、互いの体力が確実に削られていく。
それでも、どちらも退く気配はなかった。
消耗のさなか、両者の呼吸だけが、次第に荒くなっていった。
* * *
先に動いたのは柳太郎だった。
魔素を練り上げながら、柳太郎は識界を広げていく。
半径50メートルにも及ぶ、広大な範囲だ。
「流転嵐舞」
識界の内側に、風が吹き荒れ始める。
ゴオオオオッ――!!
柳太郎自身を中心に周囲には猛烈な風が渦巻き、その外側、識界の縁までを満たすように、唸りを上げながら暴風が広がっていく。
周囲の瓦礫と土砂が、嵐に巻かれたように渦を巻き始めた。
砕けた石片が浮き上がり、風の中で不規則に舞う。
「流水」
そんな嵐の中、足裏に気流を纏わせ、予備動作なくヴェルクスとの間合いを一気に詰める。
「今更、目くらましか!」
ヴェルクスが吐き捨てながら、荒れ狂うガレキの中、構わず踏み込む。
拳と拳、肘と膝が幾度も交錯した。
だが、暴風の中でも技量は互角。
何合打ち合っても、決定打には届かない。
(――このままでは埒が明かない)
柳太郎は攻撃を続けながら、風を操り、死角から瓦礫を混ぜて撃ち出した。
拳と拳の合間を縫うように、頭ほどもある瓦礫がヴェルクスの肩や腕を次々と打ち据える。
「はっ、これしきで!」
ヴェルクスは怯まず間合いを詰める。
柳太郎が踏み込み、拳を繰り出す。
同時に、逆方向から風で打ち出した、人の背丈ほどもある瓦礫が迫った。
「止まるかよぉ!」
ヴェルクスは瓦礫を意に介さず踏み込み、柳太郎の拳を紙一重でかわす。
瓦礫が肩を強かに打つ。
「リュウタロウッ!!」
怯まず、そのまま拳を振り抜いた。
柳太郎はそれを避けきれず、まともに受け、体が宙高く打ち上げられた。
「ぐはッ!」
「終わりだぁ!」
ヴェルクスが哮るように嗤い、両の掌に魔素を込め始める。
掌の中で膨れ上がった魔素の塊が、今にも弾け飛ばんと暴れ、周囲の空気がビシビシと軋んだ。
だが――
「転身」
打ち上げられた体が、風に舞う瓦礫の一つと瞬時に入れ替わる。
「なにっ――」
反応が、決定的に遅れた。
気づいたときには、ヴェルクスのすぐ側に柳太郎が立っていた。
「嵐撃!」
風を渦巻かせた拳が、まっすぐに突き出される。
その一撃を受け、ヴェルクスの体が吹き飛び、四方八方から嵐にもみくちゃにされるように打撃が突き刺さる。
受け身も取れないまま、ヴェルクスの体が宙で跳ね回った。
「がはっ――!」
(――クソが、俺がこんなもんで!)
四方から殴りつけられる感覚は、単なる暴風のそれではなかった。
骨まで響く、明確な「拳」の質量だった。
「転身」
もみくちゃになって宙を舞うヴェルクスのすぐ側、風に舞う瓦礫へ、柳太郎の体が入れ替わる。
体勢を立て直す間も与えず、渦巻く拳を突き出す。
「嵐撃!!」
もみくちゃにされている最中に、渦巻く拳がもう一撃、深く突き刺さる。
勢いを増した衝撃が、ヴェルクスの体を再び暴風の中心へ叩き込んだ。
「がっ……ぐうっ……!」
四方八方から殴りつける感覚が、間断なく襲いかかる。
(ば……かな……こんな、ことが……)
上も下も、もはや分からない。
歯を食いしばりながらも、意識だけは辛うじて繋ぎとめていた。
「まだ……終わって、たまるか……」
3度目の転身。
もみくちゃになったままのヴェルクスのすぐ側、風に舞う瓦礫へ、柳太郎の体が入れ替わる。
「嵐・撃!!!」
叩き込まれた衝撃が、ヴェルクスの体を真下へ押し潰すように地面へ叩きつけた。
ドゴォンッ――!!
巨体がめり込み、石畳が大きく陥没してクレーターを穿つ。
だが、それだけでは終わらない。
嵐撃の余波がそのまま追い打ちとなり、四方八方から暴風の拳が容赦なく打ち据える。
ビキビキビキッ――!!
クレーターの縁に幾つもの亀裂が走り、地割れがさらに広がっていった。
轟音が収まったとき、ヴェルクスの体はすでにリエントリー光に包まれていた。




