第219話 不動如山《アヴェンジャー》
是非、ブックマークか評価を。
私にガソリンをください!!
受け身も取れないまま、直哉の体が吹き飛ぶ。
ドゴォッ――!!
壁に叩きつけられ、そのままめり込んだ。
砕けた壁材が、音を立てて崩れ落ちる。
「神谷ッ!」
武虎が叫びながら駆け寄ろうとするが、鉄棍がそれを遮るように地を薙ぐ。
「よそ見していいノカ?」
ラオフェンが涼しい顔のまま鉄棍を担ぎ直す。
体を起こした直哉は、痛みよりも困惑の方が大きかった。
(――確かに入った。8発、全部だ。なのに、なんで……)
雷霆八連撃は、これまでで最高の一撃だったはずだ。
「くそ……いってぇ……」
脇腹を押さえながら立ち上がる。
浅くない打撲が、身体強化:剛越しにも鈍く響いていた。
イチカが咄嗟に岩陣を発動しなければ、意識を失っていたかもしれない。
『……確かに直撃していました。
しかしそれと同時に同量のエネルギーがラオフェンから放出されています』
イチカの声が、念話で全員に届いた。
『何らかの反射技を使われた可能性があります』
「反射、だと……?」
直哉が痛む体を起こしながら、忌々しげに呟く。
* * *
「へえ、1度でそこまで見抜くとは、ヤルネ」
ラオフェンが片眉を上げ、鉄棍の先をわずかに持ち上げた。
その一挙動だけで、足元の石畳がミシリと軋む。
「随分と余裕じゃねえか?」
武虎が拳を打ち鳴らしながら、口の端を上げた。
「けど、種も仕掛けもあるってんなら、まだやりようはあるってことだよな」
「勇ましいネ。じゃあ試してみるカ?」
鉄棍が唸りを上げ、武虎の突進を真正面から迎え撃つ。
ガギィンッ――!! ガギィンッ――!!
打ち込むたびに火花が散り、周囲の石畳が蜘蛛の巣状に亀裂を広げていく。
腕に痺れが走るが、武虎はそれでも食らいつくように連打を叩き込み続けた。
「はっ、しぶといなオイ!」
「そりゃあこっちのセリフネ!」
だが、武虎1人で抑えきれる相手ではなかった。
受け止めた拳が弾かれ、体勢を崩しかける。
「うぐっ!」
崩れた隙を、鉄棍が逃さず狙う。
「勝手はやらせない!」
真弓は翼界を纏ったまま、頭上から攻撃に転じた。
魔弾を6発に増やし、四方八方からラオフェンを取り囲むように撃ち放つ。
さらに銃口を切り替え、砕陣弾を連続で叩き込む。
着弾のたびに炸裂音が重なり、まるで爆撃のような弾幕が降り注いだ。
陽平も加勢に入り、側面から武虎を援護する。
直哉も痛む脇腹を叩いて気合を入れ直し、バットを構えて前へ出る。
「くそっ、まだだ……!」
「クリムゾン・インパクトッ!!」
『変幻武器ハルバードモード展開』
バットをハルバード型のエネルギーフィールドが纏う。
砕陣を纏わせた刃が、唸りを上げて振り抜かれた。
ガギンッ――!!
鉄棍がかろうじて受け止め、火花が飛び散る。
4人がかりの猛攻に、ラオフェンの足がじりじりと後退していく。
それでも決定打には届かず、互いの消耗だけが積み重なっていった。
* * *
「うぉぉぉ、燃えろ俺の精・霊・力!」
陽平が精霊顕装により一層の魔素を込める。
水の精霊がかすかに赤く明滅し、陽平の目が赤みを帯びる。
「来た来た来たぁ、この万能感!!
顕装 壱式、難陀!」
掲げた木刀から赤みがかった水蛇が飛びだし、空中でとぐろを巻く。
真弓は上空に留まったまま、魔弾を連射しながら援護に入る。
「アタシにケツ向けるとはいい度胸じゃないの」
着弾音が連続し、ラオフェンの視線が上へ引っ張られた。
直哉はホルダーに手をかけ、イチカに意識を向ける。
「やるぞ」
『合わせます』
地を蹴り、直哉はラオフェンへ真っ向から突っ込む。
両手でバットを振りかぶり、力の限り叩きつける。
「そらぁっ!」
一撃は鉄棍に受け止められる。
だがその瞬間、直哉の意図を汲み取ったイチカが閃光弾を起動、至近距離で弾けた光が視界を白く塗り潰した。
「――なっ!?」
ラオフェンの反応が、初めてわずかに遅れた。
視界を封じられたその一瞬、武虎が懐に飛び込んだ。
「――喰らえ!」
断裂猛襲のオーラを纏った拳が、煙の中から突き刺さる。
その瞬間、同量の衝撃が撥ね返った。
ドゴォッ――!!
反応する間もなく、武虎の体が大きく後方へ吹き飛び、瓦礫の中に叩きつけられた。
「がはっ……!」
煙を払いながら、ラオフェンが鉄棍を構え直す。
「くっ……まさかそんな物まであるカ、びっくりヨ……!」
「くそ、またかよ!」
直哉が畳みかける。
「おぉぉぉ、インパクトッ!」
『変幻武器、モーニングスター展開』
バットに、棘を纏った球体のエネルギーフィールドが姿を現す。
砕陣を纏わせた一撃が、横薙ぎに振り抜かれた。
ゴギィンッ――!!
受け止めた鉄棍の根元から、鈍い音と共に亀裂が走る。
衝撃波だけで、周囲の瓦礫が粉々に弾け飛んだ。
「これは、洒落にならないネ」
ラオフェンが鉄棍に走った亀裂を一瞥し、わずかに顔をしかめた。
「へへっ、少しは効いてんだろ!」
直哉が肩で息をしながら、口の端を上げた。
* * *
浅い傷が刻まれるたび、ラオフェンの攻撃はわずかずつ荒くなっていった。
その隙を、真弓の魔弾と陽平の難陀が逃さず突く。
4方向からの圧力が、じわじわと巨躯を追い詰めていく。
「くっ、これはマズいネ」
ラオフェンは両足を地面に踏みしめ、鉄棍を大上段に構え直した。
武虎の追撃と直哉のモーニングスターが、同時にラオフェンへ叩き込まれる。
「不動如山ッ!」
命中の瞬間、ラオフェンが短く叫ぶと、攻撃と同量の衝撃が撥ね返る。
ドゴォッ――!!
2人まとめて吹き飛び、瓦礫の中に叩きつけられた。
「ぐっ……!」
「がはっ……!」
「大丈夫かっ!」
陽平が駆け寄る。
「くそ、どうすれば……」
体を起こしながら、直哉が唸るように呟く。
『解析が完了しました。発動条件を特定しました。
直哉の雷霆八連撃を弾いた時、藤堂様の攻撃を弾いた時、そして今回。
3度とも、発動の直前にラオフェンは、両足を地面に固定していました。裏を返せば――』
「両足が地面から離れてる時は、使えねえってことか?」
直哉が目を見開いた。
『可能性は高いです。
加えて、あの技は放たれた攻撃と同量の魔素を消費しているものと推測されます。
先ほどの一撃も、消費した魔素量が跳ね上がっていました。
連発できる技ではないはずです』
瓦礫にもたれていた武虎が、痛みを堪えながらニヤリと笑う。
「つまり奴は、ここぞって場面でしか切れねえ札ってことだ。
だったら――宙に浮かせちまえば勝ちってことだな」
「単純明快で嫌いじゃないわ」
真弓が銃を構え直し、不敵に笑った。
陽平も難陀を練り直しながら、不敵に口の端を上げる。
「俺の番ってわけだね」
精霊力の昂ぶりのせいか、声に怯えの欠片もなかった。
正面で、ラオフェンが小さく舌打ちする。
「随分と、観察がするどいネ……」
膝を折りかけていたその巨躯が、それでもゆっくりと立ち上がった。
「狙い丸聞こえヨ。やれるものなら、やってみるカ?」
鉄棍を担ぎ直すその顔から、最初にあった余裕はもう消えていた。
崩れかけた大広間に、静かな緊張が満ちていく。




