第218話 哮る獣
是非、ブックマークか評価を。
私にガソリンをください!!
「退屈させんじゃねえぞ、もっと来いッ!!」
哮るような哄笑と共に、拳の雨が降り注ぐ。まるで獲物に飛びかかる獣そのものの動きだった。
柳太郎は半歩も引かず、その連打を捌き続けた。
受け流すたび、二の腕に鈍い痺れが積もっていく。
このまま受け続けるのは、得策ではないな。
流水で間合いを外へ滑らせ、崩れたヴェルクスの脇腹へ掌底を突き込んだ。
ドッ!!
「がっ!?」
巨体が仰け反る。だが崩れた体勢のまま、下から蹴り上げが伸びた。
バゴンッ!!
蹴りをまともに受け、柳太郎の体が宙へ跳ね上げられるように吹き飛び、石柱に突っ込む。
石柱が音を立てて崩れ落ちる。
「――ッ」
柳太郎が土煙の中から飛び出す。
だが、それより早く、ヴェルクスが仕掛けた。
拳と拳、蹴りと肘。
一合ごとに衝撃波が広間の空気を叩き、砕けた石片が四方へ飛び散る。
ズドッ!!
かわしきれなかった蹴りが脇腹に突き刺さり、柳太郎の息が一瞬詰まった。
「はっ……やるじゃねえか!」
「ぐっ……貴様もな、だが負けるわけにはいかん!」
息を乱しながらも、柳太郎はそう返した。
柳太郎の指先が、わずかに軌道を変える。
ヴェルクスの拳が空を裂き、頬を掠めるだけに終わった。
その隙を、逃さない。
低く踏み込んだ勢いのまま、掌底が顎先を跳ね上げる。
ガッ!!
顎を打たれ仰け反った拍子に、がら空きになった胴へ間髪入れず叩き込む。
「嵐撃」
四方八方から暴風の拳が殺到し、ヴェルクスの体が宙へ弾け飛んだ。
体勢を立て直す間もなく、2発、3発と連続で衝撃が突き刺さる。
まるで嵐の中心に放り込まれたように、巨体は制御を失ったまま空中で何度も跳ね回った。
最後の一撃で、崩れた瓦礫の山へと叩き落とされる。
ドガァッ!!
「ぐぅっ!?」
巨体が瓦礫に埋もれ、砂煙が広間を覆った。
くぐもった哄笑だけが、瓦礫の下から漏れ聞こえる。
* * *
「くはっ……たまんねぇなァ……そうだろう、リュウタロウ!」
笑いながらも顔をしかめ、ヴェルクスが砂煙の中からゆっくりと立ち上がる。
口の端から流れる血を拭い、それでも笑っていた。
「存外、しぶといな」
柳太郎が静かに言う。声に驕りはない。
純粋な観察の言葉だった。
「そりゃこっちのセリフだ」
ヴェルクスが喉の奥で笑い、両手に魔素を凝縮させる。
命を懸けた遊びほど愉しいものはねえ、とでも言いたげな目だった。
掌の中心が、圧を孕んでチリチリと鳴った。
「食らいやがれッ!」
放たれた圧縮魔素の弾が、唸りを上げて突き進む。
ドンッ、ドンッ、ドンッ!!
着弾のたびに石柱が根元から折れ、天井の一部が崩れ落ちた。
柳太郎はそのすべてを流水で躱し、間合いを一気に詰める。
「大した力だが、見せすぎたな」
「―ハンデだよハンデッ!」
拳と拳が交錯し、衝撃波が広間全体を揺らした。
崩れかけていた天井が、その振動でとうとう崩落する。
ゴゴゴゴゴッ――!!
巨大な瓦礫が降り注ぎ、2人はそれぞれ跳んでかわした。
* * *
柳太郎が舞幻で残像を残し、死角へ回り込む。
そのはずだった。
「そっちかよッ!」
だが、拳は死角へ向けて真っ直ぐに振られていた。
理屈ではない。ただの勘が、幻影の裏を正確に見抜いていた。
ドグシャッ!!
避けきれず、柳太郎の肩に拳がめり込む。
「がっ!?」
衝撃だけで体が浮き、大きく後方へ吹き飛ばされた。
「死ねぇぇぇッ!!」
勝機を逃さず、ヴェルクスが地を蹴って追撃に踏み込んだ。
吹き飛ばされる勢いを殺さぬまま、柳太郎は背に意識を集中させる。
「翼界」
光の翼が広がり、後方へ流されていた体がそのまま真上へ跳ね上がった。
伸ばされた拳が、わずかに届かず空を切る。
「……は? 手前、空まで飛べんのかよッ!」
追いすがろうとした足が、途中で止まった。
翼を持たぬ体では、そこから先には届かない。
「舐めた真似しやがって……ッ、ハハハッ、面白ぇじゃねえかッ!」
哮り交じりの哄笑と共に、両の掌へ魔素が凝縮していく。
圧縮魔素の弾が連続で放たれた。
ダダダダダダッ!!
密度は先ほどまでの比ではない。もはや弾幕と呼べる量だった。
「くっ」
翼界で飛びながら、流転嵐舞で己を包む気流そのものを操る。
急制動、急加速。不規則に速度を変えては、柳太郎は紙一重でその隙間を縫った。
1発でも急所に受ければ、ただでは済まない。
それでも、掻い潜るたびに着実に高度を落としていく。
翼界と流転嵐舞を重ねがけしたまま、着地の勢いそのままに猛烈な速度でヴェルクスへ肉薄した。
「なッ!?」
まだ体に馴染んでいないその速さに、ヴェルクスの体勢がわずかに崩れる。
柳太郎はその隙を逃さず、懐へ飛び込み拳を叩き込んだ。
(――間に合わねえ!)
崩れた体勢のまま、ヴェルクスは吠えるように渾身の拳を振り抜く。
「くそったれがぁぁぁッ!!」
ズバッ!!
爪先が柳太郎の頬を抉り、鮮血が散った。
「――ッ」
それでも、柳太郎の拳は止まらない。
「嵐撃!!」
ドゴッ!!
ヴェルクスの顎に、嵐を凝縮した拳がまともに突き刺さった。




