表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
第5層 風神の試練場

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

262/270

第217話 見えざる反撃

是非、ブックマークか評価を。

私にガソリンをください!!

大広間の空気が、張り詰めたまま静止していた。

先に均衡を破ったのは、柳太郎だった。


柳太郎の姿が、かき消えた。


「――速っ」

武虎でさえ目で追いきれない初速だった。


気づけば、ヴェルクスの眼前に拳が迫っていた。

避ける間合いは、もう残っていない。


紙一重で首を逸らし、拳の軌道からわずかに逃れる。

頬を掠めた風圧だけで、薄く皮膚が裂けた。


かわしながら、ヴェルクスは指先を軽く折った。

「――断罪(ジャッジメント)

だが、何も起きなかった。


「はっ……今のはヒヤッとしたぜ」

ヴェルクスは息を乱しながらも笑い、体勢を立て直す。

「けど、やっぱり効かねえか」


「知っているなら、無駄な真似はよせ」

柳太郎の声に、感情の起伏はなかった。


拳と拳が交錯する。


ドッ、ガッ!!


1合、2合。

音の連続が、もはや別々の打撃と聞き分けられないほど密になっていく。


「――流転嵐舞(テンペストヴェイル)


柳太郎の周囲だけ、空気の流れが変わった。

ヴェルクスの拳が空を切り、勢いを利用され、体ごと弾き飛ばされる。


「ちっ――」

着地と同時に握り拳を叩きつけるが、柳太郎はすでにそこにいない。

舞幻(ぶとう)の残像だけが、宙に溶けて消えた。


「それはもう見たってんだよ!」

声を上げながら、ヴェルクスは死角へ向けて拳を放つ。

気配が消えた以上、次に現れるとすればそこしかない――そう読んでの一撃だった。


手応えがあった――そう思った瞬間、拳は虚空を裂いた。

「なっ、また!?」

残像だけが、宙に溶けて消える。


柳太郎はその読みすら見切り、舞幻(ぶとう)でさらに位置を変えていたのだ。


「疾っ!!」


声と同時に、身体強化:剛を纏った蹴りが背後から脇腹に突き刺さる。

以前よりも、明らかに重い一撃だった。


蹴りの衝撃で、ヴェルクスの体が大きく宙へ弾き飛ばされる。


ドゴォッ――!!


そのまま崩れた石壁の残骸へ突っ込み、瓦礫が砕け散った。

土煙が舞い上がる。


だが、その中から立ち上がったヴェルクスに、目立った傷はない。

土埃を払いながら、ゆっくりと体を起こす。


(まさか、技の発動速度まで上がってんじゃねえだろうな……こんな短期間で、ありえねえ)


口の端から流れる血を拭い、ヴェルクスが低く問う。

「手前ぇ、何しやがった……?」


「さてな」

柳太郎は静かに答えた。

「だが、ここがお前の死地よ」


「……上等だ」

ヴェルクスが立ち上がり、身体強化:剛を纏う。

足元の床に亀裂が走り、周囲の瓦礫が音を立てて弾け飛んだ。


次の瞬間、両者の姿が同時にかき消えた。


拳と拳、蹴りと蹴り。

交わるたびに衝撃波が広間を叩き、天井から埃が舞い落ちる。

柳太郎の流転嵐舞(テンペストヴェイル)がヴェルクスの拳筋を逸らすが、更にヴェルクスの膝がその隙を縫って腹に突き刺さる。


「――っ」

突き上げる衝撃に、体が浮きかける。

柳太郎はその力に逆らわず、流水(りゅうすい)で自らを後方へ弾き飛ばし、衝撃を受け流した。


「はっ……面白くなってきたぜ!

手前、名前は?」

ヴェルクスが荒い息を吐きながら、口の端を上げた。


「藤堂心眼流迅術 藤堂柳太郎」

柳太郎も乱れた息を整えながら、静かに拳を構え直した。


「ハハハ、いくぜリュウタロウ!!」


* * *


精霊顕装(アクア・レゾナンス)

陽平が腰の壺を掌で撫でながら唱える。

壺から水の粒子が木刀の周囲に集まり、足元に水紋が広がった。

淡い水色の光が陽平の全身を包み、地面から花が開くように魔素が噴き上がる。

背後に、水の精霊の輪郭が淡く浮かんだ。


水操(ミズノ・シラベ)顕装(けんそう)参式 沙羯羅(しゃがら)!」


水蛇が四方から伸び、直哉・武虎・真弓、そして陽平自身の体にも絡みつく。

鱗が溶けて肌を覆い、身体強化の底が一段引き上げられる感覚が4人全員に走った。


強化を受けたその瞬間、武虎と直哉がラオフェンを挟み込むように左右から飛びかかる。


「うおおおおおおっ!!」

武虎が雄叫びを上げ、断裂猛襲(ブレイクアサルト)を全身に纏う。

赤い虎のオーラが膨れ上がり、黒い稲妻が全身を這った。


直哉はバットに砕陣を纏わせる。

イチカは直哉のテンションに合わせ、律印(エフェクター)を発動し、雷属性エフェクトを重ねる。

バチバチバチッ!!

青白い雷光がバットの表面で弾け、走る勢いのまま尾を引いて後方へ長く伸びた。


翼界(よくかい)

真弓が背に光の翼を広げ、頭上へと舞い上がる。

「このクロ筋肉(マッチョ)禿野郎が、テメーんとこは筋肉だらけなのか、あぁ?」

魔弾(デッドリーロック)が上空から複数発、弧を描いて降り注いだ。


顕装(けんそう) 壱式、難陀(なんだ)――行けっ!」

陽平が正面から水の蛇を伸ばし、ラオフェンへ嗾ける。


左右、上、正面。

4方向から同時に、力の奔流がラオフェンへ殺到した。


「4方向から同時とは、洒落たことするネ!」

気合いの声と共に、鉄棍が唸りを上げて振り抜かれる。


ガギィンッ――!!


衝撃波が大広間に広がり、砕けた石片が四方へ飛び散った。

踏み込んだ足が、床にわずかにめり込む。


その一振りで、拳も雷を纏ったバットも、上空からの弾丸も、水の蛇も、すべてを弾き切った。

体に傷一つない。

だが、鉄棍を握る腕には、確かな痺れが残っていた。


ラオフェンの目が、初めて僅かに見開かれる。

「――たしかに、ただの子供じゃないネ」


「はっ……完璧に防ぎやがるかよ」

武虎の口の端が、逆に吊り上がる。

全身に纏う断裂猛襲(ブレイクアサルト)のオーラが、一段と濃く膨れ上がった。


「まだまだ、ここからだ」

バットを握る手に、さらに魔素が込められる。

砕陣のオーラが、雷光と共に噴き上がった。


一方、陽平だけは表情を硬くしていた。

「……まじかよ、あれでも傷一つもって」

弱々しい呟きが、誰にともなく漏れる。


「はん、キモ筋肉(マッチョ)虫の同類がこの程度で終るはずないわよね」

真弓が不敵に笑う。

「派手に行くわよ!」


魔弾(デッドリーロック)の数が2発から4発に増え、真弓の意のままに宙を旋回する。

同時に瞬陣弾がマシンガンのようにばら撒かれ、着弾音の連続が大広間に響いた。


その号砲に合わせ、武虎と直哉、陽平の3人も攻撃を再開する。


「――なるほど、オクタヴィアがアマルガムを使うわけヨ」

ラオフェンが呟く。

その顔から、少しずつ余裕の色が薄れていった。


防御に偏重していたはずのラオフェンが、次第に攻撃の手数を増やし始める。

だが、増やした分だけ、隙もわずかに生まれた。

浅い傷が、その体に少しずつ刻まれていく。


武虎が畳みかける。

断裂猛襲(ブレイクアサルト)を纏った拳を連続で叩き込みながら、振り下ろされる鉄棍は紙一重で受け流す。

捌いた勢いのまま肩を叩き込み、巨躯をわずかに泳がせた。


その一瞬を、直哉は見逃さなかった。

「――時穿つ瞳(クロノス・ハック)


世界が粘性を帯び、水中のようにゆっくりと動き出す。


直哉は全速のままラオフェンへ肉薄する。

だが、間合いに入る寸前――蜻蛉飛び(フリップ・ターン)で宙に足場を生み、勢いそのままに体を反転させた。

まっすぐな突進だけを警戒していた鉄棍が、空を切る。


がら空きになった側面へ、直哉が滑り込んだ。


その変化に、ラオフェンの表情が微かに強張った。

「――なっ!」


瞬閃七連撃(アクセル・バースト)!!」


ズガガガガガガッ――!!

間延びした時間の中、7つの閃光がラオフェンへと突き刺さる。


決まった――そう確信した瞬間、気づけば、直哉の体は宙を舞っていた。


「――っ!?」


受け身も取れないまま、床を何度も転がる。


「やるネ。少しは楽しめそうヨ」

ラオフェンは、涼しい顔のままそこに立っていた。


* * *


対策室のモニターに映る2つの光景を、岸本たちは息をするのも忘れて見つめていた。


「柳太郎さんは……互角、ですね」

村田が呟く。


「ああ。あの人なら心配ない」

奥野は短く頷いたが、すぐにもう一方のモニターへ視線を移した。

「問題は、そっちだ」


画面の中には、ラオフェンに押し込まれる4人の姿があった。

攻めあぐね、防戦に回る場面が目立ち始めている。


「神谷さんたち、大丈夫でしょうか……」

村田の声に、隠しきれない懸念が滲んだ。


岸本は無言のまま、モニター越しに4人の動きを追い続けていた。

その表情から、余裕は消えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ