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現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
第5層 風神の試練場

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第215話 地上への帰還

是非、ブックマークか評価を。

私にガソリンをください!!

嵐渦の空を吹き荒れていた暴風が、いつの間にか元の激しさへと戻っていた。

風鳴(かぜなり)がいた頃の、あの狂ったような突風は、もう吹いていない。


修行を始めてから、ちょうど1週間が経とうとしていた。


浮島の岩肌には、この1週間の跡がそこかしこに残っている。

魔石で均した寝床、幾度となく殴りつけた岩壁の凹み、そして4人分の泥と汗の染み込んだ道着。


「今日で、修行の第一段階は終わりだ」

柳太郎が汗を拭いながら言う。

「経絡拡張、身体強化の同時制御、どちらも土台はできた」


「土台、ですか」

直哉が息を整えながら聞き返す。


「ああ。完成にはまだ遠い。

だが、続けても伸び方は緩やかになる頃合いだ」


「そういえば、身体強化:剛の維持時間……」

陽平が思い出したように言う。

「最初は1時間ぐらいだったのが、今は2時間近く保てるようになりました」


「悪くない数字だ」

柳太郎が頷く。

「経絡が広がった証拠だな」


真弓も銃を軽く回しながら口を開いた。

「私の魔砲(デッドリー・ボム)も、心なしか制御しやすくなった気がする。

撃った後の反動が、前より短く済んでる」


「誓約型でも、経絡が広がれば扱いは変わる。

悪いことじゃない」


「思えば、大変な1週間でしたね」

陽平が伸びをしながら言う。

「霧魚だ風蟲だ、そのうえ風鳴だなんて、正直生きた心地がしませんでした」


「だがその分、得るものも大きかったはずだ」

柳太郎が静かに言った。

「加護まで手に入れたのは、望外だったがな」


「言葉だけじゃ実感薄いか。試してみるといい」

柳太郎が、無数の拳跡が刻まれた岩壁の一角を指した。


武虎が拳に砕陣を纏わせ、迷わず振り抜いた。


ドゴォッ!!


岩が弾け飛び、これまでの跡よりも一回り大きなクレーターが穿たれる。


「……マジか」

武虎自身、自分の拳を見つめて呆然とした。

「同じ砕陣のはずなんだけどよ」


「威力が上がったわけじゃない。同じ威力を、より少ない消費で出せるようになった。

その余剰を上乗せしているだけだ」

柳太郎が説明する。

「つまり、まだ余力を残した状態で、この威力ということだ」


直哉も自分のバットに砕陣を纏わせ、隣の岩壁を打った。


ゴンッ――


以前とは明らかに違う重い音と共に、大きな亀裂が走る。


「……えげつな」

陽平が乾いた声を漏らした。


「よっしゃ、この威力なら――」

武虎が拳を打ち鳴らしながら、直哉の方を向いた。

「神谷、ちょっくら模擬戦やらねえか?」


「おいおいトラ。俺も強くなってるんだぜ、今度はそう簡単にやられねえぞ」

直哉もバットをグルグル回し、構えを取り始める。


「やめなさい」

柳太郎の声が飛んだ。

「その威力で本気同士がぶつかれば、浮島ごと消し飛ぶぞ」


「……あ」

武虎の拳が、ぴたりと止まった。


陽平が半笑いで言う。

「トラさん、テンション上がりすぎ」

「うっせ、気持ちはわかるだろ!?」


真弓が呆れたように肩をすくめた。

「気持ちはわかるけど、ここで死んだら世話ないでしょ」


武虎が地面に座り込む。

「正直、まだやれる気がするけどな」

「その気概は買う。

だが、根を詰めすぎるのも良くない」


柳太郎自身、この1週間で並行して鍛え続けていた。

道場主として、若い4人に稽古をつけながら、自身の技も磨いていた。

拳の一振りに、以前より無駄がなくなっている。


「……多少は、取り戻せた気がするな」

柳太郎が呟く。


その呟きに、駅前でのヴェルクスとの一戦がよぎった。


* * *


「一旦、地上に戻る」

柳太郎の言葉に、陽平が首を傾げた。

「修行、まだ終わってないですよね」


「終わってはいない。

だが、様子を見ておきたい」

「様子、ですか」


武虎の表情が曇った。

「親父、また前みたいに無茶する気じゃねえだろうな」


「案ずるな。今日はあくまで様子見だ」

柳太郎は短く言い切った。


「ヴェルクスの動きだ。

向こうで何か進展があったのか、それともこちらの状況を掴んで身動きが取れないのか……確認しておきたい」


「わかりました」

直哉が立ち上がった。

「じゃあ、第1層の入り口まで転移しましょうか」


「頼む」

柳太郎が応じ、道着についた埃を軽く払った。


直哉が転移門(ゲート)を展開した。

イチカの声が響く。

『第1層入り口付近、記録座標を呼び出します』


淡い光が5人を包み、視界が切り替わった。


* * *


転移した先は、第1層の奥まった通路だった。


「いやあー、久しぶりの外だな」

武虎が伸びをしながら歩き出す。


だが、その足がすぐに止まった。

「……誰もいねえな」


本来なら、探索者の何人かとすれ違ってもおかしくない時間帯だった。

それが、誰の気配もない。


壁に貼られた1枚の紙に、直哉たちは目を留めた。

『第1・第2層 立入自粛のお願い』

簡素な貼り紙が、無言でそこにあった。


「避難勧告か……」

柳太郎が呟く。

「よほどのことがあったと見える」


誰もそれ以上口を開かなかった。

足音だけが、通路の壁に小さく反響していく。

普段なら賑わっているはずの通路が、しんと静まり返っている。


出口の光が近づくにつれ、外の喧噪が少しずつ聞こえ始めた。

だが、何かがおかしい。

広場特有の雑踏の音が、ほとんどしない。


「……静かすぎねえか」

武虎が眉をひそめる。


直哉も同じ違和感を覚えていた。

1週間前にここを潜った時は、昼時の人混みでもっと騒がしかったはずだ。


出口をくぐった瞬間、5人は足を止めた。

陽の光が目を刺し、一瞬だけ視界が白く飛んだ。


広場には、人っ子一人いなかった。

少し離れた路地の陰から、こちらを窺うような視線だけが点在している。

近くの屋台は、幌が畳まれたまま放置されていた。


その空白の中心に、2つの人影が立っていた。


1人は見覚えのある男。

壁にもたれるように腰を下ろし、値踏みするような目をこちらへ向けている。

もう1人は、浅黒い肌をした大男だった。腰には使い込まれた鉄棍。


柳太郎の表情が、一瞬で引き締まった。

「……ほう」


「……嘘だろ」

直哉が息を呑む。


「なんで、ここが……」

陽平の声が、かすかに震えていた。


真弓は無言のまま、腰の銃に手を添える。

誰も動かなかった。動けなかった。


広場を吹き抜ける風だけが、やけに冷たく感じられた。


ヴェルクスが、ゆっくりと立ち上がり、口の端を上げた。


「――待ってたぜ」


低い笑い混じりの声が、静まり返った広場に響いた。

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