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現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
第5層 風神の試練場

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258/269

第213話 見誤った想定

是非、ブックマークか評価を。

私にガソリンをください!!

ダンジョン課の一室に、モニターの光だけが淡く満ちていた。


「対象、動きがありました」

村田がキーボードを叩き、映像を切り替える。

ヴェルクスが占拠した組事務所――向かいのビルから望遠レンズで狙った映像と、上空に飛ばしたドローンからの映像が、並べて画面に映し出された。

窓越しに、室内の人影がかろうじて確認できる。


片方はヴェルクス。

もう片方は、見覚えのない大男だった。

浅黒い肌、鍛え上げられた体躯、腰に何か棒状のものを提げている。


画面の中、ヴェルクスがふと窓の外――上空のドローンへ向けて視線を投げた。

ほんの一瞬。

だが、確かにこちらを見据えていた。


「……気づいてますね、これ」

村田の声が硬くなる。


岸本はしばらく黙った。

その沈黙が、室内の空気をさらに重くした。

「気づいた上で放置している……つまり」


村田が続ける。

「こちらを“敵”として見ていない、ということですね」


岸本は視線を画面に戻し、低く言った。

「あるいは、監視されていること自体を承知の上で、逆に利用しているのかもしれん」


映像の中の大男へ、岸本の目が細くなる。

「……新顔だな」

腕を組んだまま、画面を見据える。


村田が頷く。

「はい。ですが、身元照会にはあまり意味がないかと」

「ヴェルクスと同じ口、ということか」


「神谷さんの証言通りなら、ヴェルクスはアル・テラス出身です。

だとすれば、合流したあの男も同じ経路――向こうから来たと見るのが自然かと」


「JPギルドから奪った転移装置で、か」

岸本が画面を睨んだまま呟く。

「それ以外に、説明のしようがなさそうだな」


「はい。正規の入国手段を洗うだけ無駄足になると思います」


岸本はしばらく黙って映像を眺めていた。


「岸本さん、あの大男、ヴェルクスと同格だったりしませんか?」

「なぜ、そう思う」


「あの態度です。

声は聞こえませんが、ヴェルクスに対して随分と気安く接しているように見えます」


「決めつけるのは危険だが……そう考えておいた方がよさそうだな」

「1人でも厄介なのに……」


「ふぅ、頭が痛い問題だな」

岸本は椅子に深く座り直した。


* * *


会議室に移り、奥野局長へ報告する。


「新たな戦力の合流、か」

奥野が資料に目を落とす。


「はい。素性は不明ですが、只者ではないと見ています」

「対抗手段は?」


「藤堂さんたちが修行中です。

ですが、もともとヴェルクス1人のつもりでの修行でした。それで足りるのか、正直……」


「難しい、か」

「……はい」


奥野が小さく息を吐いた。

「呼び戻すという選択肢はあるか?」

「藤堂さん自身が、今の状態では次に勝てないと判断しての修行です。

中断させれば、本末転倒になりかねません」


「では、それまでの繋ぎが必要だな」


岸本は少し考え、口を開いた。

「1つ、相談したい相手がいます」

「誰だ」

「モルデガルドさんです」


奥野が眉を上げた。

「悪意感知の彼か」

「はい。

向こうは、異世界の能力対策について、こちらより一日の長があります。

何より、ヴェルクスたちも異世界出身です。

専門家の意見を聞かない手はないかと」


奥野はしばらく考え、頷いた。

「いいだろう。手配してくれ」


* * *


モルデガルドの部屋には、相変わらず本が山積みになっていた。

その種類は多岐に渡っており、地質学や量子力学など、専門的な題名の背表紙が並んでいる。


「なるほど、そやつは断罪のヴェルクスじゃろう。

もう1人の大男は、おそらく不動のラオフェンじゃな」

「その……能力をご存じだったりは?」


「知らんのぉ」

「そ、そうですか」


「我々の世界でも、おいそれと能力は言いふらす物じゃないしの。

じゃが、ヴェルクスは絶対の攻撃を、ラオフェンは絶対の防御を謳っておるな」

「攻撃と防御、ですか」


「ああ、やつらは何と言ったか、確か5人組のチームを組んでいたはずじゃ」

「ということは、他にも3人いると?」


「ああ、おるの。

4人がA級賞金首、そして1人S級の賞金首がおったの」

「A級に……S級ですか」


「ああ、アル・テラスでも悪名高いやつらじゃ。

それで、能力を防ぐ方法じゃな。

1つ、心当たりがある」

「本当ですか!?」


「ああ。アル・テラスに、能力を封じることに長けた能力者がおる。

儂も昔、世話になったことがあってな」


「どのような方なのでしょうか?」


岸本が尋ねると、モルデガルドは懐かしむように目を細めた。

「若い頃、儂の映像化能力が暴走しかけたことがあってな。

見境なく過去を映し出しては、周囲を巻き込みかけた。

あの男が来て、儂の能力を一時的に封じてくれたおかげで、事なきを得た」


「それほどの腕前、ということですか」

「うむ。本人は面倒くさがりで滅多に人前に出んが、腕は儂が保証する」


「その方に協力を求めることは可能でしょうか」


「儂の紹介状があれば、無下にはされまい。

とはいえ、あちらも気難しい質でな。

話がまとまるかどうかは、行ってみんとわからん」


「十分です。まずはお繋ぎいただけるだけでも」

岸本が頭を下げる。


「よかろう。手紙を書いてやる」

モルデガルドは机の紙を引き寄せ、ペンを取った。


* * *


紹介状を受け取り、部屋を出たところで、村田はふと足を止めた。


「……そういえば」

隣を歩く岸本が振り返る。

「どうかしたのか?」


「アル・テラスに行くとなると……田所さんも、ラグナにいたな、と」


「……あ」

岸本も同じ間で気づいたらしい。


「わ、忘れていたわけじゃないぞ。

向こうの治安維持を優先していただけだ」

岸本が咳払いをする。


「はい、もちろんそうだと思います」

村田の返事に、わずかな笑いが混じっていた。


「ラグナに残ったのは、まず腕の療養が目的でしたね」

「ああ。それに、こちらのゴタゴタも予想したのだろうな」


「その気遣い、正直かなり甘えていましたね」

「……すっぽり抜け落ちていた、というわけじゃないんだぞ!」


「ええ、わかっていますよ」

村田が、微かに笑いを噛み殺すような声で言った。


「……ごほん。とにかく、今は目の前の問題を片付けるのが先だ」

岸本が咳払いを1つ挟み、表情を引き締め直す。


「……ついでに、回収してくるとしよう」

「賛成です」


岸本は紹介状を懐にしまい、廊下を歩き出した。

窓の外では、東京の空がゆっくりと暮れていく。


新たな戦力への対策と、忘れられかけていた田所の帰還。

どちらも、次の一手として動き出していた。

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